三つ編みで何が悪い   作:雷月皆無

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第1章 ツインテールな侵略者
第1話 三つ編みと僕


 僕は三つ編みが好きだ。いや、愛しているといっても過言ではないだろう。

 いつから好きかと問われれば、それこそ「生まれた時から」としか言いようがないし、それ以外に僕がこの世に生を受けた理由(わけ)を語る術はない。これは決して生物における雄と雌の生殖活動を馬鹿にしている訳でもなければ、赤子がキャベツ畑から生まれたりコウノトリが運んでくるといった真実から目を逸らした面白可笑しい創作話もとい、母親父親の語る一時の誤魔化しにしかならないお伽噺でお茶を濁している訳ではない。純然たる事実として、僕の親は人間であると言えるし、キャベツ畑やコウノトリ的な生まれであることは否定できない。馬鹿にしているとしか思えないだろうが、実例がある以上これが事実なのだとして受け入れて貰う他ない。

 そう、有体に言って僕は知性を持つ生命体であると言うことはできるが、人間であると胸を張って言える存在ではない。今はそれだけを覚えていてくれればいいだろう。

 そもそも、何をもって人間であるかという議論は尽きないことではある。見た目が人間のそれであり、精神性が人間とは思えないものなら、その人物は人間であるのだろうか。逆に見た目が人外のそれであっても精神性が人間ならばそれは人間なのかどうか。僕の持論としては、両者ともに人間ではないという結論を出さざるを得ない。極めて暴論だが、その生物の外見が最初の印象として脳裏に焼き付く。人間により近い見た目であれば警戒感は薄れるのは言うまでもない。突然巨大な毒虫やグレイ型宇宙人が話しかけて来たらそれに応じるだろうか、否だ。人間は異端、つまりは理解できないものを忌避し、排除しようとする。いくら外見が人間的でも、僕のように全ての事象を三つ編み中心に考えている者がいるとしよう。そんな者を同じ人間として見ることができるだろうか。もし出来る者がいるのなら、その者の在り様は既に人間を逸脱しているのかもしれない。

 知性を持つ生命体という括りで見れば先程挙げた両者は同じ括りになるだろう。しかし両者は在り様が違うからこそ区別される。言葉こそ通じるが、思考方法がまるで違えばそれは別種の知性を持つ生命体だ。

 

 そろそろ話を本題に戻そう。

 三つ編みとは、髪を三つの毛束に分けて編み込んだ比較的一般的な髪型の一種だ。

 老若男女問わず、この髪型が似合う人物は少なくない。

 非常に大雑把に一言で纏めようとするならばそれだけで事足りるのだが、実際に三つ編みにしようと思えば中々に奥が深い。

 まず髪を編み込むという性質上、ある程度髪の長さが必要になる。

 自分の髪を編む場合は慣れない内は歪んでしまったりと、やや難易度が高め。

 だけども、先程上げた三つ編み特有の短所が気にならなくなるほどに魅力的な髪型であることは間違いない。

 最もオーソドックスなのは後頭部での一つ結び、もしくは二つ結び。これらが最も三つ編みしていることに疑問を抱くことは有り得ないだろう。何故なら一目見ればすぐに分かる三つ編み。言い逃れできない程に三つ編みしているのだ。そんな人物の髪型を三つ編みでないと言うことが出来るだろうか。いや、ない。

 他にもアクセントとして、三つ編み以外の髪型にプラスアルファして小さな三つ編みを作るのも悪くはない。

 だけどもそれは、三つ編みであって三つ編みではない。主菜から、主菜を彩る付け合わせに落ちたと言えば分かりやすいだろうか。具体例を挙げるとすれば、三つ編みを取り入れたハーフアップ、ストレートロングの一部のみを三つ編みにしたもの、三つ編みをシニヨンにしたもの。いずれの髪型も分かりやすく三つ編みが引き立て役となってそれらの髪型の美しさを引きたてる役となっているのが理解できるだろう。

 それ程までに三つ編みはバリエーション豊かで、他の髪型に埋没してしまう。

 髪型はその人にとって唯一無二のもの。

 だから本人も自信をもってその髪型にしていることは想像に難くない。

 多くの人が無意識の内に三つ編みを踏み台にして、自身の髪型を引き立てていると考えるのは邪推が過ぎるだろうか。

 そう思うくらい、世の中に純粋な三つ編みは少ない。

 僕は悔しかった。

 まるで世界が三つ編みを蔑ろにし、否定しているようで。

 ツインテールやポニーテールのようにシンプルながら、他の髪型が混じる余地の少ない完成された髪型と違って何故三つ編みは……と慟哭したこともあった。

 だけどやっぱり僕は三つ編みのことが好き好きでたまらなくて……、だから偶然出会った彼女に心奪われた。

 ゆるく一つ結びにしたふわふわの三つ編みをした彼女は、僕の理想そのものだった。

 陳腐な言い方になってしまうが、あれこそ運命だったのだと今になって思う。

 彼女と出会わなければ、僕はもうこの世にはいなかっただろう。

 今となってはもう、僕が彼女に抱いていた気持ち、彼女が僕に抱いていた気持ちを知る術はない。

 彼女がいるのは遥か遠い場所。出会うことは最早叶わないだろう。

 だからこそもう一度逢いたいと考えてしまう、銀髪に蒼い目をした彼女に。

 

 ……どうにも僕は不必要なことまで語ってしまうきらいがあるようだ。柄にもなく弱音を吐いてしまうなんて、大分僕も参っているみたいだ。こんな下らない話に長々と付き合って疲れてきただろう。だから、そろそろ切り上げるとしよう。

 僕は三つ編みが好きだ、その気持ちに嘘偽りはない。

 僕にとって三つ編みは全てだ、存在意義と言ってもいい。

 心には彼女の三つ編みが焼き付いている、忘れることはない。

 どうせ碌な最期を迎えることはないだろう。

 だから心のまま、思うが儘に生きることにしよう。

 この折れ掛けた刃でどこまでやれるかは不明ではあるけれど。

 勝ち目がなくとも戦い、足掻く。

 この身が朽ち果てるまでその日まで。

 そう誓いを立てて間もなく。

 

 僕は再び運命と邂逅することになる――――。




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