三つ編みで何が悪い   作:雷月皆無

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第4話 喫茶店で昼餉を

 とある四月の昼下がり。喫茶店で三人の少年少女は遅めの昼食を摂っていた。

 深皿に盛られているのは、ツヤツヤの白ご飯とやや粘性を帯びたルー。白と茶のコントラストはあまり見栄えが良いとは言えないが、日本人としては見慣れたもの。

 複雑に配合された香辛料の香りが食欲をそそるその料理の名はカレー。印度から英国、そして日本へと地球を半周以上して伝わったが故の弊害なのか、それとも日本人特有の自分達好みに改造する悪癖か、何はともあれ元のそれとはかけ離れてしまった料理の一つである。

「……今日は入学式だったけど、そーくんはどうしたの?」

 対面に座っている二人に対し口を開いたのは、黒髪を二つ結びの三つ編みにした少女、月明(つきあけ)光葉(みつば)

「いつもみたいにやらかしただけよ」

 ツインテールの少女、津辺(つべ)愛香(あいか)は口の中のカレーを嚥下してあっけらかんと言い放つと、再びカレーを食べ始める。

 そんな彼女の隣で、湯気を上げる料理に目も暮れずに項垂れているのは観束(みつか)総二(そうじ)。ツインテールを愛する普通の高校生だ。

 三人がいるここ喫茶『アドレシェンツァ』は総二の母親が経営している店で、自慢の特製ブレンド珈琲を求めて店にやってくる固定客もいるほど。

 個人経営の宿命とでもいうべきか、今日のように気分次第でドアに「Close」の札が下がることもある。

 だからランチタイムにもかかわらず、小洒落た店内には三人の他に客はいない。それどころか店主の姿も見えないのはそんな訳によるものだ。

「……なんであんなこと書いちまったんだ」

 珈琲とカレーの匂いが漂う中、今日やってしまったことを思い出し、総二は呟いていた。

「もしよかったら、聞かせて」

 何が起きたのか見当がつかない光葉は総二に問うた。総二と愛香は今日が高校生活の初日。つまりは一年生で、光葉は二年生。所謂、先輩後輩なのだが彼彼女らの間には気安さしかない。

「実は……」

 光葉の気遣うような声に顔を上げた総二はぽつりぽつりと、今日あったことを語り始める。

 曰く、生徒会長の美しいツインテールに魅了された。そのせいで部活動の希望アンケートに気づかなかった。担任の「後ろから集めてくださいね」という声で我に返り、慌てて空欄に書き込んだのは……ツインテール部なる存在しない部活動。そのことを担任に問われ、テンパりながらツインテールが好きだとクラスメイトの前で暴露し、高校生活初日に自爆しながら墓穴を掘り抜いたこと。

 途中まで、うんうんと頷きながら話を聞いていた光葉だったが、ツインテール部のくだりで「うん?」と首を傾げ、日本人離れした蒼い目を瞬かせた。

「…………聞き間違い?もう一回言って」

「ツインテール部、ってなんなんだよおおお俺!」

 ヤケクソ気味に総二は叫んだ。言うまでもなく通常営業ならお叱りの言葉が飛んでくるところだ。

「ほんと、ツインテール部はないわよねえ」

 呆れ顔で総二に追撃をかける愛香。

「焦ってたんだよ……無意識だったんだ、そんなつもりは全然なかったんだよ!!」

「あたしとしては、無意識に出てくるレベルで刷り込まれてるってほうがやばい気がするけど。あんたのツインテール馬鹿っぷりは」

「……でも。ツインテール馬鹿だからこそ、そーくんだと思う」

「あー、確かに。ツインテール馬鹿じゃないそーじなんて考えられないわね」

 愛香は光葉に同意する。ツインテールが好きじゃない総二なんて考えられないから出た、二人の心からの言葉だ。

「オメーら慰めてんのか貶めてんのかどっちなんだよ!!」

「え……貶めるなんて、そんなこと。もしかして、嫌いになった?」 

 ひどく驚いた顔をして自分の三つ編みを手に取る光葉。

「何言ってんだ、ツインテールは大好きに決まってるだろ!!」

「はいはい、そんなこと知ってるわよ」

 自分のツインテールの房を摘み、総二の目の前で揺らす愛香。

 総二の目が、揺れるツインテールを追う。

「それにしたって、先生も声に出して言わなくってもいいだろうに……」

「思わず声に出すくらい奇天烈なことが書いてあったんだから仕方ないでしょ」

「悪かったな……!!」

 今後の高校生活を思い憂鬱になる総二を余所に、愛香はいつの間にか一皿目のカレーを平らげていた。

「あ、おかわり頂戴」

「いや、それ俺のなんだけど……」

 全く手の付けられていない総二のカレーに手を伸ばし、許可なくかっぱらう。

 カレーをかっ込む愛香を横目に、総二は光葉に話しかける。

「間違って書いたことはどうしようもないとして、友達が困ってたんだからフォローしてくれてもいいと思わないか?」

「友達……友達、かあ」

 ため息をついた光葉は、食事の手を止めた愛香を見る。

 愛香も愛香で唇を尖らせて不機嫌な様子だ。

「そもそもの話、アンケートはただの希望調査なんだから、『あっ、この部活いいな』と思ったのを書けば良かったんだと思う。そーくんはツインテールのことで頭いっぱいになってて、部活のプレゼンとかまともに覚えてるかは分からないけど、どこも頑張ってたんだよ。あと、この学校にどれだけの部活動と同好会があるか知ってる?」

「う…………」

「それを踏まえても、自分がどうしてもやりたいことがあるから、同好会の申請を出すの。そうそう、部活と同好会の数は”部活の手引き”か何か貰った資料のどこかに載ってる筈だから気が向いたら調べてみて」

「その上で俺は……ツインテール部って意味不明なものを書いたことになるわけか」

「うん。あ!だけどさっきのは、そーくんのことを否定してる訳じゃないから。いつも肯定してるから」

「言いたいことは全部言われたけど、そういうコトよ。カレーもう食べないなら貰っていい?」

 早くも二皿目のカレーを完食した愛香が当然とばかりにお代わりを要求する。

「うん、いい」

 光葉ももこれ以上食べる気はないのか、半分ほど空いた皿を滑らせる。

「……まだ食うのかよ。直接見てない光葉は知らないだろうけど、あの時は頭真っ白だったんだぞ!!」

「少なくともあたしは、一般的じゃないツインテールなんて髪型の名前を咄嗟に出しはしないって、胸を張って言えるわ」

「説得力がねえよ、張ったところで起伏なんてねぐだぉッッッ」

総二の顔面に、愛香の細くもしなやかな筋肉がついて鍛え上げられた腕から打たれた裏拳がヒット。無論のこと手加減はしているが、痛いものは痛い。

 愛香が気にしている貧乳という身体的コンプレックスを総二がからかい、それでもって暴力を振るわれる。この現代的ではない前時代的なコミュニケーションは、一種の様式美だとも言える。

 そんな暴行現場を見て光葉が思うのは、「二人とも仲がいいなぁ」という頭のネジが一本どころか十数本まとめて抜け落ちたような感想である。幼い頃よりこんなものを見ている彼女にとっては、これも日常の一部だ。喧嘩するほど仲がいい二人は、光葉にとって比喩でもなく親の顔より見た光景に相違ない。身も蓋もない言い方をするのであれば、総二と愛香への盲目的な愛で目が曇りまくっているのだ。

「くうっ、俺にもっとアドリブ力があれば……」

 殴られた箇所を抑えながら、総二はぼやく。

「……でも、そーくんのツインテール好き好きオーラって、隠そうとして隠せるようなものじゃないと思う。現に今も見てるし」

「まあ、あれよ、ポジティブに考えたらどう。数か月くらいしてから意図せず自分の趣味嗜好がバレるのに比べたら、高校初日の今日にあんたのツインテール馬鹿っぷりが白日の下に晒されてるほうがまだ傷は浅いって考えれば。……ごちそうさま」

 手を合わせた愛香の前に並んだ皿は見事なまでに空。おそるべき健啖ぶりである。彼女の摂った栄養分は一体どこに消えているのか。どこに出しても恥ずかしい立派なAカップに栄養が回っていないのは確かである。

「なんの慰めにもならなねえよ。あとオメーは呑気にカレーを二人前と半分平らげてんじゃねー、食いすぎだろ」

 

 光葉が珈琲を淹れに席を立ち、総二と愛香の二人が取り留めのない会話を続ける中、突如として奇妙な悪寒に襲われた総二は店の奥に視線を向けた。

「……?」

 いたのは一人の女性客。テーブルにはカップがあるから客であるのは間違いない筈だ。

 ちらちらと総二たちの方を見ているのは気のせいではないだろう。ツインテールと叫んだり、顔面を殴られたりと騒いでいたのだ。気にならないと言った方が嘘になる。

「ちょっと、そーじ……また」

「あ」

 自然と総二は愛香のツインテールを手に取り、手の平の上を滑らせてその感触を楽しんでいた。本人の意識の外で行なわれた、無意識下の行動である。

 見咎めた愛香は呆れた表情でため息をこぼすも、拒絶する様子は見られない。

「悪い。子供の頃からの癖なのか、どうにも落ち着くんだよ。ツインテール触ってるとさ」

 心底名残惜しそうにしながら、ツインテールを机の上に戻す総二。

 そんな幼馴染の姿にまたため息を吐く愛香。こんなやり取りも数えきれない程にした。総二はツインテールを生き甲斐にしているということは、愛香と光葉には既知だ。だがそれ以外には、そうではない。

「ほんと、あんたのせいであたしも肩身が狭くなりそう」

「俺のせい?」

「へ、変に勘繰られたらどう、せ、責任取るつもりよ。そのうちにツインテールって何か知れ渡るだろうし……そうなったら、あんたの一番近くにいるあたしがさ……その、さ……誤解」

「……誤解を受ける?何を今更。はい珈琲、あんまり美味しくないかもだけど」

 お盆に三つのカップと一つのグラスを載せて戻ってきた光葉は、若干のジト目を愛香に向けながら席に着く。

 光葉の視線に込められている言外の意味を理解している愛香はうぐ、と呻くような声を漏らした。

「サンキュ。それじゃあなんだ、別の髪型にするっていうのか?」

 珈琲を受け取った総二が尋ねる。話の流れからして、そうとしか考えられなかったから。

「い……いやよ!何で、誰かになんか言われたくらいで髪型変えないといけないの。あたしはこれが気に入ってるんだから!」

「いや……なんでそんなに必死なんだよ」

「な、なんだっていいでしょ!…………ッ!!」

 焦る心を落ち着けようとカップに口をつけるも珈琲の熱さに口内をやられ、思わず涙目になってしまう。ごめん、という言葉とともに前方から差し出されたグラスをひったくるように取り、愛香はグラスの中の氷水を一気飲みした。

「こんなに乱れるなんて思わなかった」

 涙目な愛香を見ながら光葉は嘯いた。もとより、こうなることは想定済だったのだろう。そうでなくては、最初から氷水を持ってきたりはしないのだから。

 いつも通りに見えるがどうにも違和感が拭えない、愛香と光葉の間に何かあったのだろうか。今日はそれが特に顕著に思える。総二はツインテール以外のことには疎い、片一方は今はツインテールではないが、だが二人とも幼馴染なのである。言葉に出さずとも伝わることもあるが、言葉にしなければ伝わらないことの方が多い。だから今まで聞かずにいたことを聞かねばならないと、そう愚考した。

 意を決したかのように真面目な顔をつくった総二はいまだ涙目な愛香を横目で見た。

 聞こうか聞くまいか迷ってたんだけど、と前置きした総二は光葉の目と髪を見ながら問うた。

「どうして……ツインテールをやめたんだ?」




嗚呼、本当にどうしようもない。何故こんな小説以下のチラシの裏にでも書いておけばいいような文章を投稿しようと思ったのか理解に苦しむ。頭がどうかしているとしか思えない。そもそも偉大な原作様をなぞっているだけなのにこんなにも筆が遅いのは一体全体どういうことなのか。プロットだけ作っても意味ないだろうに。次でやっと異世界痴女だよ多分。
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