この素晴らしい世界に傭兵を! TSR   作:ボルテス

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我が名はボルテス!我が家の全ての家事を担う者にして、家畜と呼ばれし者……!
…どうも、我が家随一の家畜こと、作者のボルテスです。

先日やっと夏休みに入りまして、毎日『あれ?今日って休みなんだよな…』と首を捻りながら、死んだ目で淡々と家事をこなしております。

私の近況報告はこのぐらいにしておき、まずは以前から私の作品を読んで頂いた方々に心よりお詫びを。

一応、活動報告には、『この素晴らしい世界に傭兵を!についてのお知らせとお詫び』というタイトルで投稿していたのですが、ご覧になっていない方もいるかと思いますのでこの場をお借りして、お詫びを申し上げます。

今回、リメイクという形で再投稿させて頂きましたが、大まかな設定は変えずに行こうと思っています。
できるだけ、新しいイベントなども入れようかと検討していますが、もしあまり変わらなかったらすいません。

『それでも良いよ』と、言って下さるエリス教徒のような寛大なお心を持つ読者の皆様は、読んで頂くと作者が喜びます。

 なお感想批判は、お手柔らかにお願い致します。





ーーーその世界はどこか歪だった。

ソ連は崩壊せず、中国は南北に分断され、世界中のあちこちに争いの火種が絶えず、現在の科学水準の遥かに先を行く『ブラック・テクノロジー』と呼ばれる、存在しないはずの技術があった。

そしてここにも、運命を歪められ、本来ならただの引き篭もりのゲームオタクになるはずだった男が一人……。


第一章 戦場から来た男
プロローグ このブラック稼業にさよならを!


『9029。仕事よ』

 今日の昼食は、外で何か美味い物でも食おうとジャージに着替えて外出しようとしていた時の事。

 

 俺の仕事用の携帯にかかって来たのは、何とも間の悪い一本の電話だった。 

「…場所は?」

 

『アイリスグローバル社。本社跡地よ。資料は貴方のパソコンに送ったわ。目を通しておきなさい。作戦開始予定時刻は一二四五時(十二時四十五分)。今回は迎えの車は出ないわ。そこから十分ぐらいで着くんだから、歩いて現場に向かって。…場所は分かるわね?』

 

「確かここら辺で、一番大きいビルでしたよね。…120秒で準備します」

 言って、俺は携帯をスピーカーに切り替える。

 

 この部屋には防音対策が施されているため、誰かに会話を聞かれる心配もなく。

 携帯の通話回線も高度な暗号化技術により保護されているので、会話の内容を傍受される事もない。

 

 乱雑に積み上げられたダンボールの山を横切り、部屋の隅にあるロッカーを開く。

 その中から一丁のスナイパーライフルを取り出すと、各部に異常がないか素早く確認。

 

 そして、ライフルをギターケースに偽造したライフル用のケースの中に収めてロックをかけた。 

 そのまま俺は、パソコンを置いてあるデスクに向かう。

 

 その一番上の引き出しから小型のケースと小型のヘッドセット型の無線機を取り出し、それぞれジャージの左右のポケットの中に入れる。

 

『昨晩遅くに、日本に着いたばかりなのに悪いわね…』

 申し訳なさそうな声を聞きながら、俺はパソコンを起動させ、送られてきた資料に目を通しながら。

 

「…気にしないでいいですよ。テロ屋どもが俺の事情を考慮してくれるわけないですし……。あまり時間もないでしょうから、もう切りますよ」

 

『…ええ、頼むわよ』

「イエス・マム!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミンミンと耳障りなセミの鳴き声を聞きながら、マンションを出る。

 そこで俺が目にした物は、道路を挟んだ反対側の歩道で、両親と手を繋ぎニコニコとしながら歩く小さな男の子の姿。

 

 俺はそれを見て複雑な気分になる。

 なぜかというと、俺には小さい頃の記憶がなく、親の顔すら覚えていないからだ。

 

 ……っていかん。気持ちを切り替えないと。

 ミスでもしたら、大目玉を食らってしまう。

 

 視線を親子達から外して、腕時計を見ると、時刻はちょうど十二時を過ぎたところだった。

 今日は土曜日なので、俺の前方から楽しそうに談笑しながら帰る学生達が近づいて来る。

 

「平和だなぁ……」

 俺はそんな学生達の姿を見て思わず呟いていた。

 背中のギターケースを背負い直しながら、談笑し合う学生達とすれ違い、自分の荷物の中身を思いだして憂鬱になる。

 

 …俺はいわゆる傭兵だ。

 日本は平和そのものだが、世界中には火種がいくらでもある。

 地域紛争に内戦、民族紛争にクーデター。

 

 中国は南北に別れて未だに睨み合いを続け、最近はソ連の動きも胡散臭い物を感じる。

 まるで、裏で誰かが操っているような勢いだ。

 

 つい先日も、某国が衛星の打ち上げ実験と称して、核ミサイルの発射実験を行っており、現在各国の首脳達が制裁措置を検討している事だろう。

 

 ……俺は日本に来るきっかけとなった数日前の出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー数日前、アメリカ合衆国某所ーー

 

 俺はアメリカ政府と契約している極秘の傭兵部隊に所属していた。

 まあ、傭兵部隊といっても、表向きはPMC(民間軍事会社)として要人警護や新兵器のテストをしている事の方が多いのだが。

 しかし、サムおじさん(アメリカ合衆国政府)からの命令があった際には、中々動かせない米軍の代わりに最前線で戦ったり、警察の装備では太刀打ちできない凶悪事件やテロ事件に対処したりと大忙しだった。

 

 サムおじさんは大体無茶ばかり言うので、何度も死にかけたし、怪我もたくさんした。

 その分、給料は割と良かったのだが、これではいくら命があっても足りない。

 そう考えた俺は、そろそろ金も貯まってきたし、長期の休暇の度に一々日本に遊びに行くのも面倒だ。

 

  なので、日本に移住して、ゲームや漫画三昧の日々を過ごしたいなと、辞職願いを書こうとしていたところをいきなり上司に呼び出された。

 

  俺は何かやらかしたかと、心当たりがあり過ぎる自分を振り返る。

  新人の女性隊員の胸ばかり見ていたからだろうか。

 

  それとも、年上のお姉さんに賭け事でイカサマをして勝ち、罰ゲームと称して、負けるたびに恥ずかしそうに服を一枚ずつ脱ぐ姿を眺めていたからか。

 

  あるいは、後輩にレクチャーする内につい熱くなってしまった風を装い、わざと密着したのがバレたのだろうか。

 そんな事に頭を悩ませながら歩いていると、いつの間にか上司の部屋の前まで来ていた。

 

 俺はため息を一つ吐くとドアをノックし、凛とした声で。

「佐藤和真軍曹、参りました!」

「入れ」

 

 怒られると嫌だなと思いつつも部屋に入り、上司の机の前まで行って、背筋を伸ばして直立不動の体勢で敬礼する。

「ああ、いいからそういうの……」

 

 俺は面倒臭さそうに言った上司の言葉に、敬礼を止めて休めの姿勢をとり、口を開いた。

「…それで、何のご用でしょうか」

 

「ペンタゴン(アメリカ国防総省)から要請があった。日本の防衛省が日米合同の対テロ組織を作ったからお前、こちらからの出向要員の記念すべき第一号として日本に行ってくれないか」

 

「嫌です」

 俺が即答すると、上司は聞いてもいないのに事情を説明しだした。

 

 …いや、あんた人の話聞けよ。嫌だって言っただろうが。

 そんなんだから奥さんに逃げられたんだよ。

 一応、俺を拾ってくれた恩人なのだが、人の話を聞かないのが欠点だ。

 

 上司の話によると、日本のある政治家が最近頻発するテロ事件や某国の挑発行為を見て、このままでは国民の安全が脅かされるとか言い出したらしい。

 

 まあその通りなのだが、そのお偉いさんは何の対策も考えていなかったらしく、その場にいた人間に丸投げしたのだとか。

 上司の話を整理するとこうだ。

 

 大まかに言うと、国民の生活を脅かす火種が大きくなる前に、国内で早い段階に外科的手段を用いて、迅速に処理する組織を作りたいと。

 

 それなら、自衛隊の一部を対テロ部隊という名目で試験運用してはどうか。

 と、いう意見が出たが、万が一テロリストが国内に侵入してもソレを処理したのが自衛隊だという事が露見すると、国民の自衛隊へのイメージが悪くなるという意見が出たらしい。

 

 …まあ、その気持ちもわかる。

 日本のニュースでも自衛官が女性の自宅に侵入したり、人を殺したりと色々事件を起こしている。

 

 彼らだって人間だ。魔が差すこともある。

 だが、イメージは大切だ。

 一度悪いイメージがつくと払拭するのも大変だろう。

 

 俺が顔も知らぬ広報担当の人の苦労を想像している間にも、上司の話は続いた。

 なんでも中々いい意見が出なかったらしく、その会議は夜遅くまで続いたそうだ。

 

「それで、どっかのバカが『自衛隊がダメなら、傭兵とか使えばいいんじゃね』とか言い出したらしく…」

 

「…周りの人間は止めなかったんですか? 」

 いくらなんでも、そんな子供みたいな発想を大人が認める訳が……。

 

「…それが、ドジッ子で有名な、とある政治家の秘書がお茶と間違えてウーロンハイを配ったらしく…。既に酔いつぶれていた政治家達が『『『それだ!!』』』と、満場一致で可決された」

 

「舐めんな」

 ふざけんな。

『それだ!!』じゃねーよ。その秘書と政治家達をクビにしろよ。

 

 その内とんでもないミスしそうだから。

 上司は呆れたような顔をする俺を見つめ。

 

「もちろん、その組織の存在は巧妙な情報操作と情報統制により存在を隠蔽され。その仕事内容は、要人警護から政府が危険だと判断した人間の暗殺やテロリストの排除まで盛りだくさんだぞ」

 

 うわあ、嫌だなあ…。これから俺はのんびり暮らす予定なのに。 

「…ちなみに裏切ったり、逃げ出したりすると、もれなく事故死するらしいから気をつけろよ」

 

 …何その職場。ブラック過ぎるだろ…。

「…いい職場ですね」

 上司は俺の皮肉をサラリと受け流すと、真剣な表情で。

 

「話を戻すが、日本に出向要員として出向いてくれないか。実を言うとだな、流石に傭兵だけでは必要な数の人員を揃えられない。なので主に自国の予備役を使うそうだ」

 

 ちなみに予備役とは、予備自衛官の事だ。

 予備自衛官には、自衛隊を退官した人間がなる事が多い。

 つまり、一線を退いたベテラン達だ。

 俺が黙っていると、上司は更に続けた。

 

「そこでお前の出番だ。…日本語を話せる者が少なくてな。日本語が話せるお前なら、後に送る予定の人間と現地の人間同士のコミュニケーションの補助もできるだろう。現場の人間同士のコミュニケーションは円滑な方がいいからな」

 

 …なるほど、そういう理由か。このおっさんにしてはまともだな…。

 だがーーー

 

「俺、この仕事辞めるつもりだったんですが…」

「そうか、辞めるのなら仕方がないな…。残念だが他の人間を行かせるか…」

 

 サラリと言った俺を見て、上司は残念そうに息を吐くが俺の意思は変わらない。 

 この危険な稼業から足を洗って、これからはのんびり過ごすのだ。

 

 今更、危険な事はーーー

「ちなみに、向こうの指揮官は金髪碧眼の巨乳の美…」

「行かせてください」

 

 俺はもちろん即答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が日本に来た経緯を思い出していると、現場に到着した。

 何だか死亡フラグみたいだが、アニメや漫画じゃあるまいし、今日は安全な仕事だ。

 そうそう死ぬ事もないだろう。

 

 場所は、とある廃ビルの屋上。

 まあ、廃ビルと言っても数ヶ月前に倒産した大企業の物だったらしく中は綺麗だ。

 

 俺の視線の先には海が広がっており、船着場には大型の貨物船が停まっている。

 潮風を肌で感じながら、ギターケースを開き、愛用のスナイパーライフルを取り出す。

 

 ライフルに異常がないのを確認すると、床に伏せ、ボルトアクション式のレバーを引いて薬室に初弾を送り込む。

 

 そうして、暫くジッと待っていると、スコープ越しに見えた目標がコンテナの間を警戒しながら、人質を連れてゆっくりと歩いて来た。

 

「あれか…」

 とてもテロリストには見えない、爽やか系のイケメンだ。

 イケメンは、中学生ぐらいの人質の女の子の額に拳銃を突きつけている。

 

 目標は一名。国内に不法入国したテロリストだ。

 資料の写真にも目を通したし、あの男で間違いない。

 人質の心のケアの問題もあるし、仲間のテロリストの情報を吐かせるためにも殺すなとの命令だ。

 

 そして、男から十メートル程離れたコンテナの近くには、俺が狙撃した後にテロリストと人質を確保するため、サブマシンガンで武装した制圧部隊が待機している。

 

 狙撃準備を終え、俺は一度制圧部隊の現場指揮官に無線を入れようと耳に付けた無線機に手を伸ばす。

 だが、俺が無線を繋ぐよりも先に、現場指揮官の男の方から無線が入った。

 

『9029。狙撃準備はいいか?』 

「ああ、問題ない。いつでも狙い撃てる」

 ちなみに9029とは、俺のコードネームだ。

 

 前の部隊での、俺の認識番号が『iー9029』だということで安易にもそう決められたのだ。

『それなら良いんだ。突入のタイミングはこちらで合わせる。幸運を』

 

「あんたもな」

『ああ』

 指揮官の男は短く答えると、無線を切った。

 …よし、狙い撃つか。

 

 イケメン死すべしと心の中で呪いながら、温度と湿度、空気抵抗。

 それに地球の自転により発生するコリオリ力なども考慮に入れて計算し、瞬時に照準誤差を修正する。

 

 そして、俺は一度小さく息を吐くと、イケメンのテロリストの男に照準を合わせ、

「その綺麗な顔を吹き飛ばしてやるぜ…!」

 

 世界一の殺し屋みたいなセリフを吐いて、引き金を引いた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本での初仕事を無事成功させ、ライフルをしまおうとした時の事。

 俺はライフルのフレームに僅かな歪みを発見し、急遽ライフルを本格的なメンテナンスに出す事にした。

 

 俺を見て、何故か微妙な表情を浮かべる新しい仲間の男にライフルを手渡した後。

 俺は美味そうな物が食える飲食店を求めて街へと向かった。

 

 そのまま見慣れぬ街を彷徨い、美味そうな物が食えそうな飲食店を探すが、土地勘がないので、どこにどんな店があるのかすら分からない。

 スマホを持って来れば良かった…。

 

 俺はそう後悔するが、プライベート用の携帯は、まだ日本の携帯電話会社と契約していないので、例え持って来ていても通信ができないので使えはしないのだが。

 

「きゃっ!」

 今日にでも、携帯ショップに行こうかと考えていた俺は、曲がり角から出て来た女子高生に気づかずに正面からぶつかってしまった。

 

 歳は同じぐらいだろう。半袖の制服を着た黒髪ロングの快活そうな美少女だ。 

 スレンダーな体型に、片手にちょうど収まりそうな、程よい大きさの胸。

 

 腰はモデルのようにキュッとくびれ、若干日焼けはしているものの、肌にはシミ一つない。

 そして、その腰まで届く長く美しい黒髪はひと目見ただけで、手入れが行き届いている事が伺えた。

 

  …ん? この子どこかで……。

 というか、何だか懐かしい感じがするんだが……。

 不思議と懐かしささえ感じるこの子とは、どこかで会った気がするのだが、思い出せないからきっと俺の気のせいだろう。

 

 俺は地面にペタンと尻もちを着いている女の子に手を差し出しながら。

「悪い。ちょっと考え事してて。…立てるか?」

 

「…ええ、大丈夫です」

 その子は俺の手を取って、立ち上がり、大丈夫だと言ってくれたが、地面にはその子の物であろう花束が散乱している。

 俺は慌てて拾うが、いくつかが折れてダメになっていた。

 

 俺はその子に軽く頭を下げ。

「悪い、弁償するよ。ぶつかったのは俺の不注意が原因なのに、弁償しないってのは流石に気分が悪いからな」

 

「別にちょっと折れたぐらいで、気にしなくてもいいのに。 お兄さんって、今どき珍しいタイプですよ?」

 俺の言葉に少し目を丸くしたあと、クスリと笑う女の子。

 

 それに気をよくした俺はちょっと気取った口調で。

「そうか? でも俺は、美人には誠実だからな。 …それでは、花屋までご案内をしますよ。お嬢様」

 

 俺は執事のような態度をとると、そのまま胸に手を当て、優雅に一礼する。

「じゃあ、エスコートをお願いしますね。執事さん」

 

 そんな俺を見て、その子はクスクスと控えめに笑いながら言ってきた。

「お任せ下さい、お嬢様」

 

 俺は先頭に立ち、その女の子を引き連れ、一流の執事になった気分で花屋へと向かい…。

「…それで、お嬢様。花屋はどちらにあるのでしょうか?」

 

 女の子の方を振り向いて言った俺は、あんまり執事ぽくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は小さな花屋。

 店員さんが花を包む間、暇になったので、俺はちょっと気になっていた事を女の子に聞く事にした。

 

「花を買うって事は、墓参りにでも行くつもりだったのか?」  

 

「……今日は、小さい頃に亡くなった幼馴染みの男の子の命日なんです。幼稚園の時の話なんですが、『大きくなったら結婚しようね』なんて約束もしてて……」

 

 物憂げな表情で言ったその子の横顔に、俺は暫し見惚れる。

 …不謹慎だが、こんな美少女に死んだ今でも何かしら想って貰えるその幼馴染の男の子に、嫉妬すら覚えた。

 

 俺はそんな自分を恥じると、いつもより小さな声で。 

「もしかして、その男の子の事が好きだったのか?」

「…今はもうわかんないです」

 

 静かに言って、儚げに微笑むその子を眺めていると何とも言えない気分になる。

 俺達がお互いに沈黙し合っていると、店員のお姉さんが綺麗にラッピングした花束を持ってきた。

 

 モヤモヤとした気分のまま、店員さんから花束を受け取って代金を支払い、花屋を出る。

 湿っぽい話をして、何だか妙な空気になったので、俺は話題を変える事にした。

 

「…なあ、ちょっと聞きたいんだが、この辺で飯の美味しい店を教えてくれないか?」

 

「えーとですね…。ここを真っ直ぐ行って、交差点を右に曲がって少し歩いた所にオシャレなお店がありますよ。値段もお手頃でオススメなんです」

 

 その子は顎に手を当て、少し考え込むと身振り手振りを交えて教えてくれた。 

「いや、助かったよ。この辺は来たの初めてだから」

 

 その子はジッと俺の顔を見つめ。

「…そう言えば、何となくですけど。お兄さんは私の幼馴染の男の子に雰囲気が似てますね…」

 

 何だろう、新手のナンパだろうか。

「もしかして、それは逆ナンなのか? 今の俺は、悲しい事にオールフリーだから問題ないぞ」

 

「違いますよー。私、彼氏いますし」

 その子は言って、パタパタと手を振り、小悪魔的な笑みを浮かべた。

 

「そうか、そりゃ残念だ」

 軽い口調で言った俺を見て、女の子が吹き出した。

 俺も思わずそれに釣られて笑い声を上げる。

 

 そうして、二人して笑いながら歩いていると、いつの間にか交差点の前まで差し掛かり、墓参りに向かうというその女の子とはここで別れる事になった。 

 

 女の子が俺にペコリと頭を下げる。

「じゃあ、私はこれで。ありがとうございました、お兄さん!」

 

「ああ、こちらこそ。いい店を教えてくれてありがとう」

 俺は手を振り、交差点へと向かうその子の後ろ姿を見送る。

 

 その子は、そのまま交差点を渡ろうとするが、タイミングが悪く信号が青から赤になったため、その場で立ち止まり、再び信号が変わるのを待っている。

 

 そして、俺がなぜ、まだ女の子の姿を見ているのかというと、どこかであった気がするからだ。 

 もう少しで思い出せそうなのだが……。

 

 交差点の信号待ちをしているその子は、交差点の向こうに知り合いの姿を見つけたのか小さく手を振っている。

 

 俺がその子の視線を追い、交差点の向こう側を見ると、目付きの悪い不良ぽい男が、女の子に少し頬を染めながら手を振り返していた。

 

 あの男があの子の彼氏だろうか。

 照れながらも手を振っている姿を見るに、多分悪いヤツではないのだろう。

 

 やがて信号が青に変わり、女の子が歩き出す。

 その姿を見た俺が思い出すのを諦め、教えられた店に向かおうとしたその時の事だった。

 

  突然、俺達がやって来た方向の車道から、エンジンの轟音を轟かせ、一台の暴走トラックが猛スピードで交差点を渡る女の子を目がけて突っ込んできた。

 あと数秒であの子は、『あの子だった物』になってしまうのだろう。

 

 考えるよりも先に動くように訓練されていたせいか、俺は恐怖で動けなくなっていたその子を後ろから突き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐藤和真さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」

 

  俺は真っ白な部屋の中で、唐突にそんな事を告げられた。

  …あれ、おかしい。なんで俺死んでんの。

  いや、トラックに轢かれたせいなのはわかるけど。

 

  アレか、意味もなく回想とかしたせいか。

  何が『今日は安全な仕事だ。そうそう死ぬこともないだろう(笑)』だよ。

 

  その結果がこれだよ。あの時の自分を引っ叩いてやりたい。   

 一度深呼吸して、ようやく落ち着いた俺は、目の前の美少女に静かに尋ねた。 

 

「…あの、俺が突き飛ばした女の子は、生きてますか?」

「軽い怪我はしましたが、生きていますよ」

 …良かった。あの子が死ぬよりは、俺が死んだ方がいいに決まっている。

 

「他に質問はありますか? 電気ショックで死んだ佐藤和真さん」

「……は?」

 

 この子は今なんて言った。トラックじゃなくて電気ショックで死んだ!?

 呆然とする俺を見て、美少女が補足する。

 

「女の子を突き飛ばした後。あなたはトラックにぶつかる寸前に、何とかギリギリで回避しましたが、無茶な体勢だったせいか電柱で頭を強打しました」

 

「…その口ぶりだと、まだその時は死んでなかったんですよね」

 だったらなんで、俺は死んだんだ?

 内心首を傾げる俺に、美少女はゆっくりと口を開き。

 

「…ええ、そうです。あなたは近くの病院に搬送され、怪我を治療された後。目を覚ますまで適当な病室に寝かされていたところを、依頼された末期のガン患者と間違われ、人を安楽死させる事で有名な闇医師に電気ショックで直接脳を焼かれ、そのまま帰らぬ人に……」

 

 ……………。

 

「………はあああああ!? 闇医者だああああああ? ふざけんなあああああああーーーっっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然キレた俺がようやく落ち着いた頃。

 アクアと名乗った美少女が俺を見て、ビクビクとしながらも説明を始めた。

 

「え、ええっと…。わ、私の名前はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ。若くして死んだあなたには、二つの選択肢があります」

 

 アクアが俺に提示した選択肢とは、何もない天国的な所で死んだ先人達と永遠にひなたぼっこでもして過ごすか。

 それとも記憶と体はそのままで、異世界に転生して新たな人生を歩むかという、ある意味究極の二択だった。

 

 話が上手過ぎて胡散臭いと俺が言うと、アクアは詳細を語った。

 こことは違う異世界が魔王軍に人の数を減らされてピンチだと。

 

 そして、その殺された人達は、もうあんな死に方をしたくないと生まれ変わるのを拒否するのだとか。

 

 このままだと、その世界の人類が滅んでしまうと危惧した神々は、日本で若くして死んだ者を送り込んではどうかという話になったらしい。

 

 でも送られてすぐ死なれても困るから、記憶と体はそのままで、一つだけ好きな物を持っていける権利をあげているとの事。

 

 …つまり、チート級の装備や特殊能力をやるから、記憶と体はそのままで転生して、ちょっと魔王城まで乗り込んで魔王をぶっ殺してこいと。

 

「一つ聞きたいんですが、俺、異世界語とか話せないんですけど大丈夫なんですかね? 流石に言葉が通じないとキツイいんですが…」

 

「あなたの脳に負荷を掛けて、一瞬で習得できます。…運が悪いとパーになりますが」

  …おい、パーが何だって?  でも俺は一回死んでるし、まあいいか…。

 

 俺はアクアから受け取った、中二病患者が作ったようなカタログを眺めながら尋ねる。

「異世界に持って行く『もの』って何でもいいんですか?」

 

「ええ、『物』なら何でもいいですよ」

 …なるほど、『もの』なら何でもいいのか。

 先程から混乱したり、キレたりと忙しく、よく見ていなかったが、このアクアと名乗った女神はとびきりの美少女だ。

 

 なら、俺が選ぶ『もの』はーーー

 俺はアクアを指差し。

「じゃあ、あなたで」 

「では、魔法陣の中央から出ないように......」

 

 そこまで言って、アクアはハタと動きを止める。

「…今、何と言ったのですか?」

 アクアが俺に聞き返したその時だった。

 

「承りましたアクア様。では、今後のアクア様のお仕事はこのわたくしが引き継ぎますので」

 何もない所から突然、羽の生えた天使みたいな女性が現れた。

 

「……えっ」

 呆然と呟くアクアと俺の足元に、青く光る魔法陣が現れる。

 おお、魔法陣のデザイン凝ってるなあ…。

 

「え、え、嘘でしょ? いやいやいや、おかしいから! 無効でしょ!? 無効よね!や、やり直し! やり直しを要求するわっ!」

 涙目で無茶苦茶に慌てふためき、そう要求するアクアに、天使は実に良い笑顔で。

 

「ダメですよ、アクア様。仮にも女神であるあなたの言葉は絶対です。ですので、その要求は飲めません。仮とはいえ神の言葉は重いのです。発言の撤回など認められませんよ」

 

「い、今、仮って言った! 私、本物の女神様なのに二回も仮って言った! 謝ってよ! 女神な私に謝ってよ!!」

 ぎゃあぎゃあと大声で謝罪を要求するアクア。

 だが、天使はそんなアクアには構わず。

 

「行ってらっしゃいませアクア。後の事はこのわたくしにお任せを。無事魔王を倒された暁には、気が向いたら迎えの者を送ります」 

  …あんた、実はこいつの後釜狙ってたんじゃないだろうな。

 

「ねえ待って! 今、私のこと呼び捨てにしなかった!? それに、気が向いたらって何!? 凄く不安になるんですけど!!」

 

 突然現れた腹黒そうな天使は大声で喚くアクアを尻目に、俺に柔らかな笑みを浮かべ。

「佐藤和真さん。あなたが魔王を倒した暁には、どんな願いでも一つだけ叶えて差し上げましょう」

 

 つまりそれは、異世界での生活に飽きたら、日本に帰って美少女とあんなことやそんなことをしながら、のんびりとしたゲーム三昧の日々を送る事もできるってことか!

 

 …あと、ついでに俺を殺した闇医者とやらの頭を、二千メートル先から吹き飛ばしてやろう。

 俺は泣いてすがるアクアを指差し、タメ口で。

 

「おい、アクアとか言ったな。あんたは俺が持っていく『者』に指定されたんだ。これからは色々とご奉仕して、俺を楽しませてくれよ!」

 

「いやあああー! こんなセクハラ変態男と異世界行きだなんて、いやあああああ!」

 

「さあ、勇者よ! 願わくば、数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。…さあ、旅立ちなさい!」

 

「アンタ、今度会ったら覚えてなさいよおおおおおっーーー!」

 厳かに天使が告げる中。

 

 俺は天使に向かって、ヤケクソ気味に叫ぶアクアと共に明るい光に包まれた……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次話の投稿は、だいぶ先になるかと思います。
今回は突然の削除に対してのお詫びをせねばと、プロローグだけでも早く投稿しました。

といいますのも、次話としてお知らせを投稿するつもりでしたが、本文が千文字以上でないと投稿できないとの事。

なら、もう作品ごと削除してしまおうと、削除に同意するという項目をクリックした直後に、作品の目次に活動報告へ誘導する一文を添えるというアイデアを思い付きました。

マヌケな奴めと罵ってくれて結構ですが、まだプロローグだけしか書き直せていないので、次話投稿まで暫くお待ち下さい。
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