この素晴らしい世界に傭兵を! TSR   作:ボルテス

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恐ろしいアゴ。刃物のように長く鋭く、人を刺し殺せるアゴ。
それを有する者の名前を口にするのも恐ろしい。
だから、誰もが彼の事をこう呼んだ。

ーーーアゴの人と。


十二話 この恐ろしいアゴに一撃を!

「極楽……クスリ……心臓の鼓動……楽に………」

 

「…だ、大丈夫かアクア。 いい加減、その不穏な単語を呟くのは止めてくれ。 今のお前が言うとしゃれにならないんだよ…」

 

 ぽに男を警察に引き渡した後、俺達はクエスト完了の報告をするため、ギルドへと向かっていた。

 ぽに男を捕まえた報酬は三十万エリス。

 

 何でも、被害女性達から早く捕まえて欲しいとの希望もあり、それなりに高額の報酬が掛けられていたそうな。

 

 そのぽに男に、新たなトラウマを植え付けられたらしいアクアは、俺の服の裾を摑み、死んだ目をして自殺をほのめかす単語を小声で呟いている。

 

 だが、アクアに新たなトラウマができた以外は、特に問題もなくクエストを完了できた。

 さっさと飯を食って馬小屋に帰り、少しでも睡眠時間を確保しようと、俺が考えていた時の事。

「……女神様? 女神様じゃないですかっ! どうしたんですか、こんな所で? もしかして、お忍びで遊びに来られたんですか?」

 

 突然、俺達の後方から声がかかった。

 俺はその声に後ろを振り向き、思わず硬直する。

 …な、何でコイツがこんな所に……!

 

 俺達に声を掛けてきたのは、戦士風の美少女と盗賊風の美少女を引き連れた、見覚えのあるハンサムな男。

 ーーーそう、なぜかロト神みたいな格好をしたアゴ殺人鬼がそこにいた。

「…あ、アゴ殺人鬼……!」

「何!? こ、この男が…!」

「アゴの人ですね…!」

 

 アクアを連れて俺達は、警戒するようにジリジリと後ろへ下がる。

「あ、アゴ殺人鬼…? ま、待ってくれ。 僕は君達に何かするつもりはない。 アクア様と少し話がしたいだけなんだ!」

 俺は服の裾を摑んでいるアクアに、小声で囁く。

「…お前アゴ殺人鬼と知り合いだったんだろ? この状況を何とかしてくれよ。 お前一応は、女神だろ」

「…女神?」

 

 アクアは首を傾げ、死んだ魚のような目で俺を見てくる。

「…違うのかよ?」

 俺に言われるまで、自分が女神だという事を忘れていたらしいアクアがハッとした表情で。

 

「……そうよ、女神よ私は! この状況を見るに、私にアゴの人をどうにかして欲しいわけね! 任せなさいな!」

「ふ、不用意に近づくな! アゴに殺されるぞ!!」

 

 アゴ殺人鬼に近づこうとするアクアに思わず警告する。

 ヤツのアゴは急に鋭くなったので、油断は禁物だ。

 

 …いや、あの世界のアゴ殺人鬼とは別人だという事は、頭では分かっているのだが。 

 アゴ殺人鬼のイメージが強過ぎて、体が勝手に警戒をしてしまう。

 

「問題ないわ。 ちゃんと間合いには気をつけるから大丈夫よ!」

 アゴの人呼ばわりされたアゴ殺人鬼は、困惑したような声色で。

「あ、アゴに殺される? め、女神様! 僕ですよ! あなたに魔剣グラムを頂いた御剣響夜です!」

 ミツルギは魔剣グラムとやらをアクアの前に差し出した。

 …あれが魔剣グラムか。

 となると、グルグルが生み出した世界で見た、ミツルギの鋭いアゴは魔剣グラムだったのだろうか…。

 

「……あー。 いたわね、そんな名前の人も。 まあ、お役所仕事だから、ある程度は忘れても仕方ないわよね!」

 て、適当だな、おい。そんなんでいいのか、女神として。

 女神って、アクアみたいなヤツばっかじゃないだろうな…。

 俺が女神に対する印象を下方修正していると、ミツルギは改まった態度になり。

「…お久しぶりですアクア様。 あなたに選ばれた勇者にふさわしいようにと、日々努力していますよ。 職業はソードマスター。レベルは37にまで上がりました。 …ところで、アクア様の隣の人は……」

 

「私の1032番助手のカズマよ!」

「誰が助手だ、誰が。 お前はどこぞの大学教授か」

 俺は自分とアクアがこの世界に来る事になった経緯や、これまでの出来事を手短にミツルギに説明した。

「…何て事だ。 下心から女神様をこの世界に引き込んで、しかも馬小屋で生活させてる!? その上、今回のクエストでは痴漢をおびき寄せる餌にした!?」

 

 いきり立つミツルギが俺の胸ぐらを摑もうとする。

 だが、俺は摑まれる前に後方に飛び、間合いを取った。

「ちょっと、ケンカはいくない! 私としては結構楽しい毎日を送ってるし、カズマに連れて来られた事は、もう気にしてないから! それに魔王を倒せば帰れるわけだし!」

 

 すると、ミツルギは一度目を伏せた後、憐れむような視線をアクアに向け。

「…アクア様。 お優しいのは結構ですが、今のあなたの待遇は不当ですよ。 僕のパーティーに入りませんか? …そうだ! クルセイダーとアークウィザードの君達も一緒にどうかな? 僕と一緒に来てくれれば、もちろん馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備も買い揃えてあげよう」

 

 ミツルギは名案だとばかりに、俺以外のパーティーメンバー達を見ながら、笑いかけた。

 だが、アクア達はその発言に引き気味に、ミツルギのアゴを見ながら、コソコソと話している。

「…今の発言を聞きましたか。きっと、仲間になったところをアゴでグサリとするに違いありませんよ」

 

「たぶん、連れの女の子達をアゴで刺して洗脳したのよ。きっとマインドなんたらよ……」

 

「…なぜだろう。洗脳とか、私好みのシチュエーションのはずなのに、あいつにされると思うと何だか身体に震えが…。私は普段は攻めるより、受ける方が好きなはずなのだが、何だかあの男のアゴを思いっきり殴りたくなってきた」

 お、お前ら、さっきからアゴの事しか話してねえだろ……。

 しかし、魔剣持ちのチータが何を言ってるのだろう。

 …ん? 魔剣持ちのチータ?

 その単語から俺は名案を思いついた。

 ミツルギを鍛えて、俺の代わりに魔王を倒してもらえばいいんじゃなかろうか!

 

 …ハンサムなのが気に入らないが、まあいい。

 サムおじさんの命令で、反政府勢力の戦闘員を鍛え上げ、独裁政権を打倒した前例もあるし、今回もきっと上手く行くはずだ。

 

 そのためには、ミツルギより俺の方が強いと教えてやらねばならない。

 そうと決まればーーー

「おい、ミツルギ。決闘(デュエル)しようぜ」

 

「…受けて立つよ。 アクア様を君のような男に任せておけないからね」

 ……だが、その前に、どうしても確認しなければならない事がある。

 

 俺はミツルギにおずおずと尋ねた。

「なら、決まりだな。 …その前に聞きたいんだけど、お前つぶあんとこしあんならどっちが好き?」

 

「…? つぶあんの方が好きだけど、それがどうかしたのかい?」

 グルグルの作り出した世界では、ミツルギはつぶあんというキーワードを聞いただけで、アゴで刺し殺そうとした。

 

 …つまり、完全な別人だ。

 よ、よかったああああああっーーー!!

 いつぞやの悪夢が正夢になるんじゃないのかと本気で心配したが、杞憂だったようだ。

 

「…いや、こっちの話だから、気にしないでくれ…。 それじゃあ、ここじゃなんだから移動するぞ」

「ああ、分かったよ」

 

「ねえ、別にここでもいいんじゃない?」

 それまで、俺達の話を黙って聞いていたアクアが疑問の声を上げた。

 

 確かに、俺達がいるこの道にはあまり人もおらず、この場で決闘しても問題はない。

 しかし、だ。

「それはダメだ。どっちが負けても格好悪いところを女の子に見せる事になるだろ。 男の子にはプライドってもんがあるんだよ。 だから、お前らはここで待ってろよ」

 

「そう言う物なのかしら…? まあいいわ。カズマ、アゴには気をつけなさいよ」

「おう」

 

 アクアに短く答えた俺を見て、ダクネスが心配そうな表情で口を開く。 

「…その、カズマ。本当に大丈夫なのか。 相手は上級職のソードマスターだぞ」

 

 それを聞いためぐみんが、さも当然のようにダクネスに言った。  

「大丈夫ですよ。 ダクネスは知らないでしょうが、カズマは魔王軍幹部に匹敵する実力の持ち主です。そう簡単には負けませんよ」

 ……無い胸を張りながら。 

「…今、カズマが何を考えたのか当ててあげましょうか」

「……めぐみんって、大きいお友達に人気が出そうなスレンダーな身体してるよなーって思ってました」

 

 一応褒めたのだが、めぐみんは俺の言葉がお気に召さなかったのか、俺の首を締めようと掴みかかってくる。

 めぐみんの魔の手から逃れようとする俺を見て、ダクネスが不安そうにぽつりと言った。

「とてもそんな風には見えないのだが…。 嫌がる私に、無理やりしゃぶらせるような男だぞ、カズマは」

 

「お、おい、待て。その言い方だと、あらぬ誤解を生むから本当に止めろ。 飴だよ! 棒状の飴の事だからそんな目で見ないでくれっ!」

 

 ミツルギ達の俺を見る目が本当に痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって路地裏。そこで俺とミツルギは対峙していた。

 周囲は薄暗いものの、俺とミツルギの距離が近い事もあり、はっきりとお互いの姿が見える。

「じゃあ、先に相手を膝を地面に着かせた方が勝ちな」

「ああ、異論はないよ。 それでいい」

 ミツルギは魔剣グラムを構えて、俺に斬りかかるタイミングを窺っていた。

 …ミツルギには悪いが、俺の代わりに魔王を倒してもらおう。本人も乗り気みたいだし。

 ……そのために実力的にも、精神的にも俺には勝てないと教える必要がある。

「…どうした? 剣を抜かないのか?」

 俺が剣を抜かないのを不審に思ったのか、ミツルギが聞いてくる。

 …だが、俺はその問いには答えず、無言でスボンごとパンツを下ろした。

「どうですかー? どうですかー?」

 

「……あ、ああああっーーー!?」

 ミツルギは、自分がいかに小さい人間かを思い知ったのか、その場から動けなくなった。

 俺は素早くズボンを上げると、身体の重心を前方に移動させ、ミツルギに肉薄する。

 これは縮地と呼ばれる特殊な歩行術で、相手に気付かれずに一気に間合いを詰める事ができるのだ。

 

 なのでミツルギには、一瞬俺の姿が消えたように見えた事だろう。視線の先のミツルギは呆然としており、隙だらけだ。

 

 …まあ、どちらにせよ反応できようが、できまいが、勝負は俺の策略にはまった時点で決まっていたのだが。

 ミツルギの懐に潜り込んだ俺は、ミツルギのアゴ目掛けて勢い良く拳を振り抜く。

「漢(おとこ)の一撃だゴルァーーーッ!!」

 

 綺麗に決まった俺のアッパーカットに、ミツルギは声も出せずに地面に膝を着き、顔面から倒れ込んだ。

「…よし、勝った」

 

 地面にキスをしているミツルギを見て、顔面モップとは懐かしいなと、昔を思い出しながら、戦利品の魔剣グラムを片手に俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい戻ったぞー」

 俺はひらひらと手を振りながら、アクア達の下へと歩いて行く。

 

「お帰りカズマー。ねえ、アゴの人は?」

「裏路地で地面に熱いキッスをしてるよ。 ほれ、これ証拠な」

 

 俺はアクア達に、ミツルギから証拠として奪った魔剣グラムを見せた。

「そ、そんな…。 キョウヤが負けるなんて……」

 

「あんた! 何か卑怯な手を使ったんじゃないの!?」

 ミツルギの取り巻きの二人が、よほどミツルギが負けたのが信じられないのか、俺に詰め寄る。

 

「いや、近づいて殴っただけだぞ。ミツルギが起きたら、『強くなりたきゃ俺が鍛えてやるから、明日の朝ギルドまで来い』って伝えてくれ。 ほら、これ返すよ」

 

 俺はそう言うと、盗賊風の少女に魔剣グラムを手渡した。

 不服そうにグラムを受け取った盗賊の少女に、俺はボソっと呟く。

「あー。 目が覚めた時に、可愛い子がそばにいてくれたら、ミツルギも惚れるかもしれないなー」

「「!!」」

 

 ワザとらしく呟いた俺の言葉に、過剰に反応した取り巻きの二人は、お互いを視線で牽制しながら、ミツルギのいる裏路地へと入って行った。

 取り巻きの二人を見送った後、めぐみんはダクネスに得意そうな視線を送り。

「ほら、ダクネス、私の言った通りでしょう? カズマは少なくとも、あのスカした顔のエリートなんかには負けませんよ」

 

 めぐみんが当然のように、うれしい事を言ってくれる。

 単純にミツルギが気に入らなかったのか、それともいつの間にかめぐみんにフラグが立ったのか、判断に困るところだ。

「……カズマ、いったいどんな卑怯な手を使ったんだ?」

 俺がいったいどちらなのかを考えていると、ダクネスが小さい子に言い聞かせるような口調で聞いてきた。

 

「…そうだな。精神的なダメージを与えてから、全力のグーでアゴを殴っただけだぞ」

 流石に俺のエクスカリバーを見せて、心を折ったとか言う訳にもいかない。

 

 でも言ってる事は、間違ってないので問題ないはずだ。

 アクアが褒めているのか、貶しているのか、判断に困る事を口にする。

 

「汚い! 流石カズマさん汚い!」

 

 こ、こいつら…!

 俺はめぐみんをビシッと指差しながら、声を荒げた。

「…お前ら、少しはめぐみんを見習えよ! めぐみんはヒロインらしく俺をヨイショしてくれたよ! ほら、お前らも俺を素直に褒めてみろよ! M・M・T!!」

 

「だ、だれがヒロインですか! それに、M・M・Tって何ですかっ!?」

 顔を真っ赤にしためぐみんが、身を乗り出して俺に抗議してくる。俺はそんなめぐみんに、キメ顔をして言った。

「めぐみんマジ天使の略」

 

「……ま、またそうやって、そう言う事を…! 大体カズマはですね、いつも軽い調子でさらっと恥ずかしい事を! 何です!? 口説いてるんですか!?」

 

 そう言って真っ赤な顔で、ガルルと番犬のように唸るめぐみん。

「そうだけど」

 

「ーーーッ!!」

 めぐみんは、トマトのように顔を真っ赤して、その場に立ち尽くした。

 恥じらう女の子って、やっぱいいよな…。何つーか、こう抱きしめたくなる。 …まあ、それをした瞬間に俺は捕まるという確信がある。

 事案発生である。警察、親しみを込めて、さっちゃんに捕まる未来が俺には見える。

 俺はめぐみんに通報されない奇跡と、豚箱にブチ込まれかねない無謀を履き違えるつもりはない。

 

 ーーーだが、それでも。

 

 ガイアは言っている。触らなければセーフだと。

 ガイアは言っている。めぐみんを愛でろと。

 ガイアは言っている。もっとめぐみんを恥じらいさせろと……!

「…ああ、もうっ! めぐみんは可愛いなあっ!!」

 俺は自分の中のガイアに抗えず、全力でめぐみんを愛でる事にした。

 

「めぐみん可愛いよ! めぐみん!!」

 

「く、黒より黒く闇より……」

 羞恥心が限界に達したのか、爆裂魔法の詠唱を始めるめぐみん。

「照れ隠しに爆裂魔法!? 待て、落ち着け! ここは街中だぞ! めぐみんスティ!」

 慌ててめぐみんの口を手で塞ごうとする俺を見て、アクアがぽつりと呟く。

「…私、何だかラブコメの波動を感じるんですけど……」




という訳で、カズマさんの戦闘能力を強化するついでに、下半身も強化しときました!
…久しぶりに見たトリックの映画に影響されたとか、そんな事実はこれぽっちもありません。ええ、勿論ありませんとも。

さて、次回はカズマがミツルギを鍛えるお話になります。
オリジナルのロクでもないモンスターが登場する予定ですので、ご期待下さい。

※ちなみに本編に出てくる『ガイア』とは、ギリシア神話に登場する大地の女神の名前です。
それに大地だけではなく、世界そのものを象徴する言葉として使われるそうです。

せっかくなので最後は、某兄貴系ファッション紙で有名な一言で締めようと思います。

ーーーガイアが俺にもっと輝けと囁いている!!(錯乱)
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