この素晴らしい世界に傭兵を! TSR   作:ボルテス

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ーーーウィスパード。またの名を『囁かれた者』。

現在の科学水準を遥かに超えた、ブラックテクノロジーと呼ばれる技術を生まれながらに、既に知っている者達の総称である。
ウィスパードの知識は、世界中の国やテロリスト達にとって喉から手が出るほど欲しい物であった。

女神アクアを連れ、カズマが転生する三年前。
カズマが所属する対テロ傭兵部隊に、テロリストに攫われた、あるウィスパードの少女の救出作戦が伝えられたーーー



十四話 この眠れぬ夜に悪夢を!

 俺は雑木林の中で景色の一部に溶け込んでいた。

「ーーーガルム1よりガルム7へ。 目標が見えるか?」

『ガルム7』。それが、アメリカ政府と契約を結んだ対テロ傭兵部隊ヘルハウンド。

 その精鋭部隊のガルム小隊に配属された俺のコールサインだ。

 部隊の人間は、ほとんどの人間が特殊部隊出身だったり、何かしらの武勇伝を持っているので、俺は少しだけ肩身が狭いのだが。

 

 …ちなみにガルムとは北欧神話に出てくる、胸元を血で染めた冥府の番犬の名前らしい。『戦争の犬』などと呼ばれる事の多い俺達傭兵には、皮肉の効いた良い名前だと思う。まあ、今はそんな事はどうでもいい。

 

 今日の任務である人質の救出作戦に集中しなければ。事の発端は今から24時間前。米海軍のとある幹部の娘が学校の帰り道に、重武装のテログループに連れさられてしまった事から始まる。

 当然護衛もいたのだが、SP四人と車の運転手は、5.56mm弾で蜂の巣にされてしまった。

 

 親が米海軍の幹部でその娘が普通の少女だったのなら、誘拐される事はなかったのかもしれない。だが、彼女は俗に言う『天才』だった。

 それもただの天才ではない。世の天才達の存在が霞んでしまうような、天才の中の天才だったのだ。

 

 例えば彼女はホログラム技術の応用で、あらゆるレーダーやセンサーから逃れる事ができる画期的なステルスシステム、通称、ECS(電磁迷彩システム)を開発した。

 更に、一年前に部隊のヘリや戦闘機などに試験的に搭載された、肉眼からも完全に視認できなくなる不可視型ECS。

 

 つまり完全な光学迷彩を完成させたのも彼女だと言う話だ。

 俺はスナイパーライフルのスコープを覗きながら、ガルム1に応答する。

「こちらガルム7。クソ野郎どもの顔が良く見えるよ」

 場所は町外れの廃工場。そこに少女が囚われているとの情報だった。

「もう時間がない。 交渉も既に決裂し、人質の体力も限界だ。 百八十秒後に突入する。ガルム7はバックアップを。 俺と共にガルム3、4、6、8は突入準備。 ガルム2、5、9はポイントΔ(デルタ)から突入しろ。 なお、テログループのリーダー以外は射殺して構わない。 だが、リーダーは間違って殺さないように注意しろよ。ボーナスが減るからな」

 

「ガルム7、了解」

 無線の向こうで、他のメンバーもそれぞれ答えた。

「和真、ヘマするんじゃないぞ」

 

 からかうように、ガルム1が声をかけて来たので、俺は軽い口調で。

「へいへい、分かってるよ。 アンタこそ間違って俺の射線上に立って、ケツに鉛玉ブチ込まれないようにしろよ?」

「おお、怖い怖い…」

 

 おどけたようにガルム1は答えると無線を切った。それから暫くすると、作戦開始の時間になる。まず作戦通り、ガルム1率いる突入班が、C4爆薬でドアを吹き飛ばし、廃工場内部に侵入を開始。

 テロリスト達は、突然の轟音に動揺していたところを、アサルトライフルの銃弾を受けて、次々と倒れていく。

 そして、再び爆発音。

 

 廃工場の壁の一部が吹き飛び、ガルム2、5、9が、別ルートから突入。同時に、狙撃に必要な十分な射界の確保に成功。

 俺は爆破の動揺から立ち直り、遮蔽物の陰に逃げ込んだテロリストを、長距離から狙撃する。

 発射された7.62mm弾は理想的な弾道を描きながら、真っ直ぐに獲物に向かって直進していく。

 その狙いは違わず、反撃に転じようとしていたテロリストの男の脳髄を廃工場の床にぶちまけた。俺はその男には、もう目もくれずに次弾を装填し、次の獲物に照準を合わせ、引き金を引く。

 

 一発、二発、三発。俺が引き金を引くたびに、男達が倒れる。

 ある者は心臓を撃ち抜かれて、またある者は眉間に風穴を空けられて。

 そして運の悪い者は、一撃で殺してもらえずに苦痛にのたうち回っている。

「少しズレたか…」

 俺は照準誤差を修正し、痛みに苦しむ男の顔を見る。

 そんなに死にたくないのなら、テロリストなんてやらなきゃいいのに…。

 命は大事にするべきだと俺は思う。

 

 冷めた目と心でそんな事を考えながら、他のテロリストにも銃弾をプレゼントしていると、床をのたうち回っていた男が痛みを押し殺し、グレネードを取り出しているのがスコープ越しに見えた。

 

 男の動きは出血の影響か酷く緩慢で、意識を保っているのもやっとに見える。そんな瀕死の男の近くを、ガルム1達突入班が周囲を警戒しながら近付いていく。

 

 自爆をするつもりだろう。男は大型の機械の陰に倒れ、死角になっているので、ガルム1達には男の存在はおろか、男が何をしているのかさえ見えない。

 男がグレネードのピンに手をかけようとした。

 

「…命を大事にしない奴は大嫌いだ。ーーー死ね」

 

 そう小さく呟いて、引き金を引く。殺意を乗せた銃弾は、グレネードの安全ピンが抜かれる前に、瀕死の男の心臓を貫き、その生命活動を永遠に停止させた。

「こちらガルム7。これで貸し一つだな。 今度飯でも奢ってくれ」

 

「助かったよガルム7。 …そうだな。なら、お子様ランチでも奢ってやろう。 なんなら、ミルクもつけるぞ」

「アンタ、ケンカ売ってんのか! あと、俺はもう13だよ! 敢えて高いステーキでも大量に頼んで困らせてやってもいいんだぞ!」

 

「おい、あんまり大きな声を出すなよ…。 俺の耳は生憎、美人の喘ぎ声しか受け付けないんだ。 残念ながらお前の声では興奮」

「はあ…」

 

 ガルム1がアホな事を口走り出したので、俺は途中で無線を切った。

 …まあ何にせよ、これで廃工場は制圧した訳だ。

 こちらの損害もなく、テログループのリーダーも捕らえ、無事任務を終える事ができた。それに人質もガルム2が既に保護し、怪我一つなく万々歳だ。

 人質の少女は、目隠しをしており、その表情を窺い知る事はできない。

 と、そこに子ども好きにして、隊でも珍しい女性隊員のガルム2が、その子の目隠しを外し、笑顔で何やら少女に話しかけているのが見えた。

 目の前で人が殺され、連れ去られたのだ。天才と言えど、怖かったに違いない。そう考えた俺は、スコープの倍率を最大にして、少女の顔を見る。

 少女は、三年後が楽しみな整った顔をしていた。歳は俺と同じぐらいだろう。誰もが羨むような美しい金髪のショートヘアーに、お人形さんのような白い肌。

 

 だが、俺は一つの違和感に気づいた。

「…ない」

 資料で見た時には、あったはずの目の下の泣きぼくろがない。昨日まであったはずのほくろが、突然なくなるなんて事は、まずありえない。

 

 …別人だ。 それはつまり、彼女がテロリストである可能性。

 その可能性に気づいた俺は、その少女から目を離さずに無線機に手を伸ばした。

 ーーーだが、その選択が間違いだった。

 無線を繋ごうとしたその次の瞬間。

 

 スコープの向こうで、パッと赤いものが少女の美しい顔にかかった。

 まるで血のように鮮やかな赤い色。

 ……少女の視線を追うと、そこには頭から血を流しているガルム2の姿が。

 

 ガルム2の表情は、突然の事に驚いたように大きく瞳を見開いている。間違いなく即死だろう。そして、それを成した少女の手には、最もアメリカで人を殺していると言われている22口径の小型の自動拳銃が握られていた。

 

 少女はそのまま倒れ込んでいく、ガルム2の死体を盾にして拳銃を撃とうと引き金に手をかける。

「ーーーーーーッ!!」

 それを見た瞬間に俺は、反射的に引き金を引いていた。

 

 だが、ろくに狙いをつけずに放った銃弾は当然の事ながら、少女には当たらない。少女は銃弾が着弾した直後に地面に何かを投げ、ガルム1が捕縛していたテロリストのリーダーに拳銃を向け素早く発砲。

 

 テロリストのリーダの男は、計三発の銃弾を受け、地面に倒れた。それと同時に、投擲物が地面に当たると、スコープ越しの視界が白く染まる。スモークグレネードだ。

 我に帰ったガルム1達がコンマ数秒遅れて、一斉に銃弾を浴びせるが、的が小さい上に視界が悪いので当たったかどうかも分からない。

 

 俺も回避先を先読みして引き金を引くが、弾が出ない。 弾切れだ。

「クソッたれ!!」

 悪態をつきながら、予備弾倉に交換する。

 弾倉の交換を終え、再びスコープを覗くと、少女が廃工場の裏口から出て行く姿が見えた。

「逃がすか!」

 俺はライフルを抱えて立ち上がり、少女を追いながら、小隊長のガルム1に無線を入れる。

「こちら、ガルム7。 これより、テロリストを追撃する。 あのクソ女にケツから鉛玉ブチ込んでやる……!」

 

「待てガルム7、佐藤和真伍長! 深追いはするな! これは命令だ! 繰り返す、これはーーー」

 …俺は無線を切り、少女を追ってひたすら走る。そうして、雑木林を抜けると、見晴らしの良い場所に出た。

 

 そのすぐ近くには、半壊したコンクリートの建物が建っている。廃墟か何かだろう。  その横に伏せ、腕から血を流しながら未だ逃げる少女の背中に照準を合わせて、引き金に手をかける。と、同時にゾクリとする悪寒を感じた。

 

 俺は自分の勘を信じ、スナイパーライフルから咄嗟に手を放し、遮蔽物へと退避をーーー。

 その次の瞬間、どこからか飛来してきた銃弾が俺を襲った。

「ぐっ!?」

 

 咄嗟に手を放し、回避しようとしたものの、完全には避け切れず、その銃弾はライフルのスコープを破壊し、俺の右肩の肉を僅かに削ぎ取った。

 回避が少しでも遅れていれば、右目をやられていたかもしれない。

 

 俺はその場で素早く地面を転がると、コンクリートの建物を盾にして身を隠す。

 一拍遅れて、さっきまで俺がいた場所に銃弾が着弾。

 試しに地面に落ちていた小石を放り放り投げてみると、間髪入れずに小石目掛けて銃弾が襲い、ついでとばかりに二発目が、俺のスナイパーライフルを遠くに撥ね飛ばした。

 クソッ、きっちり狙われてやがる…!

 どうやら相手は、相当腕の良いスナイパーらしい。その証拠に攻撃を受ける直前まで、全く気配がなかった。

 だが、今はそんな事よりも、何とかこの状況を切り抜けねえと……!

 

 俺は手持ちの武器を確認する。手持ちの武器で使えるのは、サバイバルナイフが一本。

 そして、自動拳銃一丁とその予備弾倉が二つにスモークグレネードが一つ。唯一スナイパーに対抗できそうなスナイパーライフルは、スコープを破壊され、精密射撃はもう無理だ。

 

「あのクソ女を追うのには、あのスナイパーを倒すしかないか…」

 このまま、あの少女を追おうとしても、遮蔽物から出た瞬間に、背後からズドンだろう。

 それに、例えスナイパーの目を掻い潜り、スナイパーを仕留められたとしてもだ。その間に、少女には逃げられてしまう。

 

 ガルム2の仇を撃つのを諦め、スモークグレネードを使えば、この場からの撤退は容易だ。…だが、俺はそんなつもりは毛頭ない。

 実は今回の作戦で狙撃するのは、本来俺ではなくガルム2のはずだった。狙撃に最適なポイントが一つしかないために、ガルム2が俺に安全な役目を譲ってくれたのだ。

 

 つまり、ガルムが死んだのは俺のせい。俺が…俺が殺したような物だ。だから、撤退の二文字は俺の辞書には存在しない。しかし、俺一人の力ではこの状況を打破するのは不可能だ。

 そう判断し、俺は恥を忍んでガルム1に無線を繋いだ。

 

「…こちら、ガルム7。 ガルム1、聞こえるか?」

 無線を繋ぐとガルム1は、珍しく焦ったような声で。

「こちらガルム1。少しマズイ事になった。 見た事もない妙なASが一機、こちらに接近中だ。 現在、ASチームが交戦中だが、押されている。…もう二機も喰われたそうだ。お前は、速やかに合流ポイントまで後退しろ」

 

「…なっ! 作戦エリアの近くはECSを搭載したヘリと、ASで監視してたんじゃねえのかよ! 何で気付かなかったんだ! そのための最新装備じゃねえのか…! それに、もう二機もやられたってどう言う事だよ!」

 

 俺達の部隊は世界の十年先を行く装備を持ち、凄腕の人員を揃えているのが自慢だった。欠点らしい欠点と言えば、厳しい採用条件を満たす人間しか雇わないため、時折深刻な人手不足に陥る事がある事ぐらいか。

 

 テロ抑止のため、『神出鬼没の世界最強の傭兵部隊が存在する』と、情報部の人間がわざと噂を流したぐらいだ。

 何もかもがそこそこの俺と比べると、皆凄い連中ばかり。あんな殺しても死なないような連中が殺られた。

 

 いや、まだ生死は不明だが、例え生きているとしてもだ。そんな事は、到底俺には信じられない。柄にもなく、大声で捲し立てた俺の声を聞き、ガルム1は静かに答える。

 

「ECSだ。 それも不可視型の。しかも、一切の攻撃手段が通用しなかったそうだ。報告では、40mm弾が装甲に直撃する前に消し飛んだと。まるでSFだがな…」

 

「…ちょっ、ちょっと待てよ。 不可視型ECSは、まだ俺らの部隊でしか実用化できてないんじゃないって話じゃ……! それに、一切の攻撃手段が通じないとか冗談にしても笑えねえ…。そんな馬鹿げた手品みたいな代物なんて、存在する訳が……!」

 

「話は後だ。 その場から離脱してポイントAー4で合流しろ。いいな?」 

 有無を言わせないガルム1の声。ガルム2の仇を撃つ事を諦める。それはガルム2。いや、『ーーー』が俺にしてくれた事に対する裏切りではないか…。

 

『…ああ、貴方が新人君ね! 私はーーーよ。コールサインはガルム2。こんなでもスナイパーをやってるわ。よろしくね!』

『今日から私がカズマの教官よ! ビシバシ鍛えるから覚悟なさい!』

 

『もう、何で私がお風呂に入るたびに覗こうとするの? そんな子に育てたつもりはありません! …ちょっとカズマ、耳を塞いで聞こえないフリしないのっ!!』

『ーーー』との懐かしい記憶が蘇り、俺は強く唇を噛んだ。

 噛んだ唇からは、血が流れ、やがて口内に侵入してくる。

 

 俺にとって、『ーーー』は狙撃の師であり、母のようでもあり、姉のようでもあり……。

 ……そして、同時に俺の初恋の相手だった。

「……了…解」

 

 苦渋の末に、『嫌だ』という言葉と共に呑み込んだ己の血はーーー

 

 ーーー敗北の味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前回の大敗を期した救出作戦から二ヶ月後。

 12月24日のクリスマスイブに、人質の少女の二度目の救出作戦が発動された。

 ガルム1が捕縛したテロリストのリーダの男が、あの少女の銃弾を受けて重症だったために、喋れるようになるまで時間がかかったのだ。

 そして、男の吐いた情報を元に作戦を組み、念入りな情報収集をした後に、作戦を決行し、俺達はテログループの壊滅に成功。

 勿論俺は、あの時のスナイパーにきっちりと借りを返し、その間に仲間があの少女の捕縛に成功した。

 

 ーーーだが

 

 どうやら、少女はその言動から、洗脳されていた可能性があるらしく、当分の間は保護観察処分となるらしい。…個人的な感情は複雑だが、上官がその判断をしたのだ。俺がどうこう言っても、その決定は覆せない。

 

 そう自分を偽りながら、俺と仲間達は地下室に囚われている人質の少女の救出へ向かった。地下室には、大きなカプセルのような装置が中央に置かれており、近くには見た事もない機材と兵器の設計図らしき紙が散乱していた。

 

 その周囲には、何に使うのかよく分からない薬品がところ狭しと棚に並んでいる。

 ……そして部屋の隅っこには、人質の少女が変わり果てた姿で冷たい床の上に倒れていた。

 

「遅かったか…」

「なんてことだ……」

「あのテロ屋ども……!」

 

 のどの辺りを赤黒く固まった血で汚し、動かなくなった少女を見て、無念そうに部隊の皆が口々にそう呟いた。少女の手には血塗れのボールペンが握られていた。監禁される内に気でも狂い、自ら命を絶ったのだろう。

 

「間に合わなかったのか…」

 死に顔が安らかだったのが、少女にとってのせめてもの救いだ。

 …違うな、俺にとっての救いか……。

 あの時、俺が引き金を引けていれば、ガルム2は死なずに済んだかもしれない。

 あの時、俺が人質に扮したテロリストを逃がしていなければ、この少女をもっと早くに助けに行けていたかもしれない。

 …だが、後悔をしても二人が生き返る訳ではない。俺はそう言い訳して、頭を振り、少女の周囲を見渡す。

 

 すると、近くのテーブルの上に一冊のノートを発見した。

「これは…」

 俺はノートを手に取り、中身を見る。そこには、ここの施設に囚われてからの記録が記されていた。どうやらこれは少女の日記のようだ。

『早く家に帰りたい。ママのミートパイが恋しい。家族に会いたい』

『12月24日は私の誕生日だ。今年の誕生日プレゼントは何だろう? パパは私の予想を超える物を、毎年用意してくれるので凄く楽しみだ』

『最近あの囁き声が強くなった。少しでも油断すると、意識を乗っ取られそうになる。…もう私はダメかもしれない』

 一部、俺には理解できない事も書いてあったが、そんな事が丁寧な字でつらつらと綴られていた。

 俺はそのままページをめくり続けていたが、あるページを見て、その場から動けなくなってしまう。

「…どうした? 顔色が悪いぞ。どうし」

 

 亡くなったガルム2の代わりに補充兵として来た男が、横から少女の日記を覗き込み、言葉を詰まらせた。…そこには、滅茶苦茶な字でこう書かれていた。

『どうしてどうしてどうしてどうしてどうして何で何で何で何で何で何で何で何で何でどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして何で何で何で何で何で何で何で何で何でどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして何で何で何で何で何で何で何で何で何でどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして………』

 

 狂気なまでにひたすら、この世の全てを憎むように、あるいは怨み節のように。

 ……そして呪いのように。

 そのページには、『何で』と『どうして』という単語だけが書かれており、後のページにも黒いページかと間違えるほどにびっしりと書かれていた。

 そして、最後のページの最後の行には、たった一言だけ。

 ーーー 『ねえ、どうして』。

 

 その『どうして』の後にも、何か書いてあったようだったが、黒く塗りつぶされていて読むのは不可能だった。よほど聡明な子だったのだろう。

 狂ったとはいえ、その消された箇所が人目に触れるのをよしとしなかった。もしくは、一瞬だけでも正気に戻ったのか。

 どちらにせよ、人を思いやれるとても優しい子だったのだろう。だが、同時に俺にとっては残酷でもある。

 ……きっと、黒く塗りつぶされた部分を合わせると、こんな言葉になるに違いない。

 

『 ーーーねえ、どうして私を助けに来てくれなかったの……?』と。

 

 …そして、この作戦が決行された数時間後。

 奇しくも、少女の誕生日である12月24日の雪が降り積もる中。

 

 ーーー少女のECS技術のデータを流用したと思われる、一発のステルス核弾頭がとある米軍基地の上空で炸裂した。




※今回の次回予告は若干のネタバレを含みます。ネタバレ嫌いな人は見ないことを推奨します。

 グリザイアとフルメタ要素をぶっこんだら全く救いがなくなった件について。
 今回は私も『ちょっとシリアスにし過ぎたかなー』と、少々反省しております。ですが、最終的にはコメディ路線に戻るのでご安心を!

 だって、このすばワールドですからね!鬱な空気でも、シリアスブレーカーのアクア様が全部ぶっ壊してくれますから!
 後書き冒頭にも書きましたが、次回予告には若干のネタバレを含みますのでご注意ください。






















次回予告

 自分の判断ミスで死んだ女がいた。
 救出が遅れたせいで狂気に呑まれ、自ら命を絶った少女がいた。
 そして、また…。とある少女の命が失われた時、傭兵は武器を手に立ち上がる。

『俺は素人じゃないーーー』
『………す』

 次回、『この怒れる傭兵に○○○アイテムを!』

 もう、これ以上女を死なせるわけにはいかない。
 ーーーだから。

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