この素晴らしい世界に傭兵を! TSR   作:ボルテス

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投稿が遅くなってホントすいません。敢えて言い訳をするなら戦闘シーンって難しいですよね!!


十五話 この怒れる傭兵にチートアイテムを!

「…クソッ。最悪の目覚めだ。 夢の中でぐらいハッピーエンドでもいいだろうが.....」

 悪夢から醒めた俺は馬小屋の天井を睨みながら、開口一番に呟いていた。

 馬小屋で造花を作る内職をしていたらしいアクアが、こちらを向き。

「あ、やっと起きたのねカズマ。 うなされてたけど悪い夢でも見たの?」

 

「…まあ、そんなところ……ってうま!? 何だよこれ! これはもう本物と見分けがつかねえぞ…!」

 悪夢を見た俺の憂鬱な気分は、アクアの造った精巧な造花を見た瞬間に拭き飛んでいた。アクアの作っていた造花は忘れな草のようだった。

 

 淡い水色い色をしたどこか儚げな花。アクアの髪と同じ綺麗な水色だった。ちなみに花言葉は『私を忘れないで』。かまってちゃんなアクアには、ある意味ぴったりな花だ。

「何言ってるの? 本物の訳ないじゃない。 まだ寝ぼけてるの? それとも本物と偽物の見分けもつかないの? バカなの?」

 

 …その言葉にイラッとした俺は、無言でアクアに近づくと、他の造花を仕舞おうと立ち上がっていたアクアの尻を軽く撫でてやる。

「ひゃんっ! …ね、ねえ、今お尻触らなかった!?」

 

「俺はイライラすると、毎回女の子の尻を撫でる事にしてるんだ」

「み、認めた! カズマが認めたわ! これで警察行きね! やーい、前科持ち!」

「そうか、なら後は自分の力だけで生きてくれ。 文無しの女神アクアよ……」

 俺はクールに告げると、馬小屋の入り口へと……。

「ね、ねえ。 諦めた表情でどこに行くの? 何故、覚悟を決めた目でいるの?」

 …向かおうとしたところを、無一文の女神であるアクアに引き留められた。

 そんなアクアに俺は親指を立て、いい笑顔で。

「警察だよ。 だからお前は自分の金だけで生活してくれ。 強く生きろよ」

 

「わあああああああっー ! ご、ごめんなさいー! 私、カズマさん(のお金)なしじゃ生きられないのー! 一回お尻まさぐられるぐらいなら許すから、見捨てないでえええええっ!!」

 アクアが俺に泣きながら縋り、いやいやと首を振る。

「ちょっと待て。 俺は軽く撫でただけだろ! まさぐってた訳じゃねえ!」

 

 俺がアクアの間違いを訂正していたその時だった。

『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ! 特に、冒険者のサトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』

 

 …多分またベルディアだろう。呪いをかけてもう一週間経つのに、俺達が城に遊びにこないので様子を見に来た、と言ったところか。

 俺は、装備を整えながらアクアに言った。

「おい、アクア。お前も準備しろよ」

 

「い、嫌よ! 警察なんかに行かせないわ! カズマさんの財産は私の物よ!」

「違うわ! 俺の財産は俺の物だ! …いや、そうじゃなくて、緊急の呼び出しの方だよ。 一応、行くだけは行っといた方がいいだろ。 何かヤバイのが来たとかなら、さっさと逃げればいいだけだしな」

 

 俺はアクアに言うと、馬小屋の中にあった小さな木箱の中から、ビビ割れた小型の強化プラスチック製のケースを取り出した。その中には、俺がいた傭兵部隊で支給されていたブースタードラッグと呼ばれる薬品が二本入っている。

 

 これは、俺がこの世界に来る前に急な仕事が入ったため、ジャージのポケットに入れっ放しになっていた物だ。

 何でも、度重なる改良を重ね、少量でも十分な効果を得る事に成功し、ポケットに入るようなサイズにまでの小型化に成功したのだとか。

 

 アクアは、この世界の持ってこれる物は一つだけだと言ったが、服は持って来れたし、どうやら身に付けていればOKらしい。

 ちなみにブースタードラッグとは、体のリミッターを外す薬だ。

 分かりやすく説明すると、体が発する危険信号である『痛み』を麻痺させ、多少の傷では怯まず、止められず、いつも通りの動きをする事が可能となり。

 狙撃する時に使えば、獲物を狩る猛禽類に匹敵する目と集中力を得る事が出来、白兵戦の真っ最中に投与すれば猛獣ような素早さと反射神経。

 

 そして、人の限界を超える筋力を発揮できる。欠点は闘争本能に思考を奪われる事もある事と使った後、遅れてやって来る全身筋肉痛だ。

 即効作用があり、戦闘能力の大幅な向上が見込めるが、劇薬なのであまり使いたくはない。アクアがブースタードラッグの入った容器を見たまま、険しい顔をした俺を見て不思議そうな顔をした。

 

「何それ?」

「気分が良くなるおくすりだよ。どうだ、お前も一本いるか?」

「……カズマ、前から言動がおかしいとは思ってたけどもしかしてアンタってヤク中なの? いくら自分の顔にコンプレックスを持っているからって、なにも薬に逃げる事はないと思うの」

 

「おし、分かった。 アクアお前、今日の晩飯抜きな」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。 商店街のバイトって日払いじゃないから給料日の週末まで無一文なんですけど! カズマさんお願いよ、週末まででいいから養って! 可哀想な私を養ってよーーー!! 」

 

 俺は泣いて縋るアクアを引きずりながら、ブースタードラッグの容器をズボンのポケットの中に入れる。……本当にアクアといるとシリアスが持続しない。

「ほら、泣いてないで行くぞアクア。 飯なら奢ってやるから機嫌なおせよ」

「…おつまみに枝豆も頼んでいい?」

 

 潤んだ目で俺を見上げるアクア。例えちっとも女神らしくなくとも、今は本当にアクアの存在がありがたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とアクアが正門前に駆けつけると、そこには既にめぐみんと目を輝かせているダクネスがいた。その二人と対峙しているベルディアは、自身の近くに配下を控えさせ、その二、三十メートル背後にも配下を配置している。

 緊張感溢れる場面のはずなのだが、ベルディアはグッタリとし、俺の目にはどこか疲れているように見えた。

 

 めぐみんの隣で、顔を赤くしているポニーテールの変態の様子を見るに、どうやら悪い病気が再発したらしい。き、気の毒に…。

 同情を込めた目でベルディアに視線を送ると、あちらも俺の存在に気づいた。

「こ、紅魔の娘だけでなく、貴様もか!! なぜまだ生きておるのだ!?」

 

「残念でしたー。 めぐみんとカズマの呪いは、この私が解いたわ! 私、この後バイトがあるからさっさと帰って! ほら、構ってちゃんは早く帰って! 忙しいから早くして!」

 アクアが心底迷惑そうな顔で、ベルディアにしっしと手を払った。

 ベルディアはフルフェイスの兜に覆われ、その表情は見えないがプルプルと肩を震わせている様子を見るに激怒しているのだろう。

「めぐみん、頼めるか?」

 その様子を見た俺は、めぐみんに小さな声で囁いた。すると、めぐみんが不敵な顔で。

「ほお…。カズマは面白い事を言いますね。…私が誰だか忘れたのですか?」

「ああ、そうだったな」

 

 俺達にはそのやり取りだけで十分だった。

「何だ? 何の話だ?」

 俺達の会話の意味が理解出来なかったのか、ダクネスが首を傾げた。

「……貴様。 俺が本気を出せば、この街の冒険者など……む?」

 ベルディアがなぜか、めぐみんの方を向いた。

 その次の瞬間。

「『エクスプロージョン』ーーーーーーッ!!』」

 豪砲ロリの必殺の爆裂魔法がベルディアとその配下達の真上で炸裂した。

 ベルディアとその配下達がいた場所には、爆風が吹き荒れており、視界が悪い。

「我が名はめぐみん! アクセル随一の爆裂魔法の使い手にして、魔王軍幹部ベルディアを討ち取りし者! …ふああ、この口上は癖になりそうです……」

 魔力を使い果たしためぐみんが地面に倒れながら、名乗りを上げた。

 

「ご苦労さん。 いっぱい出したから疲れたろ。 あと、おんぶはいるか?」

「…その言い方を女の子にするのはどうかと思うのですが。 あ、おんぶはお願いします」

 俺達がそんなやりとりをしている内に、爆風が晴れてきた。

 流石に魔王の幹部とはいえ、真正面から爆裂魔法を食らって生きている訳が……。

 

 俺は、そう思い視線を爆心地へと向ける。しかし、そこにはベルディアが若干ふらつきながらも立ち上がろうとしている姿が。

 そして、その背後にはベルディアから遠く離れていたお陰で、難を逃れた約半数の配下達の姿が確認できた。

「わわわわわわ、私の爆裂魔法を受けて無傷っ……!?」

 割とピンピンしているベルディアを見て、めぐみんが何やらショックを受けている。

「…いや、よく見ろめぐみん。 アイツの鎧の胸部に若干ヒビが入ってるぞ」

 僅かにベルディアの鎧が首から胸部にかけてヒビが入っている。

 

「あ、あ…あ……ああああああああああ………」

 俺がそう訂正するもめぐみんは、よほど自分の爆裂魔法に自信があったのか俺の言葉は届いていないようだ。

 しかし、確かにめぐみんの爆裂魔法は直撃したはずなのだが、ほぼ無傷とはどう言う事だろうか。近くにいたアンデッドどもは、みんな仲良く消し炭になったのに…。

「チッ。 まだ生きてやがる」

「ねえ、カズマさん。 私、そのセリフは悪党が言うべきだと思うの」

 微妙そうな顔をしてアクアが言ってきた。それなら、カシラギ達も悪党という事になるのだが。

「…そうだ。そうだよ! カシラギ、カシラギはどこにいるんだ! こんな時こそアイツの出番じゃないか!」

 

 俺は周囲の冒険者達の中から、カシラギの姿を求め視線をくまなく向けるが、一向に見つからない。その様子を見たダクネスは、俺に何かのポーションを差し出しながら。 

「カズマ。アゴの人なら、急に王都から召集がかかったからと言って、あのデュラハンが来る前に街を出て行ったぞ? 軍曹殿によろしく言っておいてくれと、これを渡してきた。 水に触れると爆発するポーションだそうだ。間違って仕入れたから、もし良かったら使ってくれと」

 

「よろしくねええええええっーーー!!」

 その言葉に俺は絶叫しつつも、あまり使えないであろうポーションをダクネスから乱暴に受け取った。せっかく俺が楽するために鍛えたのに、必要な時にいないとか意味ねえじゃん!! 何なのアイツ、間が悪過ぎだろっ!!

 

「き、貴様ら…! ひ、人の話は最後まで聞く物だ! 魔王様から特別に頂いた、一度だけ攻撃を無効化する魔石があったから無事で済んだのだが、 戦闘前の会話は昔からの伝統と……」

 

「『ターンアンデッド』!」

「ぎやああああああああああああああー!!」

 アクアの不意打ちの浄化魔法を受けたベルディアは、鎧のあちこちから黒い煙を出しながら、地面をゴロゴロと転げ回っている。というか攻撃を無力化する魔石とかあるのか。流石異世界、何でもありだな。

「ど、どうしようカズマ! あのデュラハン、私の浄化魔法がちっとも効かないの!」

 いや、だいぶ効いてるみたいだが。

「ば、爆裂魔法が…! わわわわわ、私の爆裂魔法が効かないなんて…。 こ、これは夢。 きっと悪い夢なんですね……!」

 

「め、めぐみん。 今日はそう…。爆裂魔法を撃つタイミングが悪かったんだ。 明日またがんばればいいではないか! カズマもよく言っているだろう。『明日から本気出す』と!」

 ダクネスがめぐみんを慰めているのを眺めていると、ベルディアがゆらりと立ち上がり右手を掲げる。

 

 その挙動に呼応して、アンデッド達がそれぞれの武器を構えた。

「ふ、ふふっ…。ふははははははっ! もうよい、これ以上は我慢の限界だ…。 ーーーこの連中と街の住人を皆殺しにせよ!! 」

 ベルディアはマントをバサッと翻すと、勢い良くその右手を振り下ろした!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルディアが右手を振り下ろすと同時に、無数の矢が俺達冒険者達に襲いかかる。

「『ウインドカーテン』ッ!」

 他のパーティーの魔法使いの女の子が魔法を唱え、アンデッド達が放った矢を風のベールで逸らした。確か、リーンとか呼ばれていた子だ。

 

「おお、あれが本物の魔法使いか」

 俺は感慨深く息を吐きながら、魔力切れで動けなくなっためぐみんを肩に担ぎ、避難していた。まずはめぐみんを安全性な所まで連れて行かねば。戦場で動けない者などいい的だ。

「…おい、どこに偽物がいるのか聞こうじゃないか」

 

 めぐみんが何か言っているが、今は対応する余裕がない。

 後方では、アクアが剣を持ったアンデッド達に追われて涙目で逃げ回っており、それをダクネスが羨ましそうな目で見ている。

 俺の首を絞めようとするめぐみんを大岩の陰へ下ろすと、アンデッドを背後に大量に引き連れたアクアがこちらに向かってきた。

 

 その中には何故か、弓を装備したアンデッド達もいる。

「か、カズマさああああああん!こいつらターンアンデッドを撃っても、撃っても消し去れないのよおおおお!何とかしてえええええっ!!」

 その数、十五体。敵との戦力差を確認した俺は迷う事なく逃走を選択。戦いとはしょせん数なのだ。

 

「お、おい、こっちくんな!セクハラすんぞ!」

「もうセクハラでも何でもしていいから!こいつらを何とかしてよおおおおおっ!!」 

「……ったく。仕方ねぇなーアクアは!!」

 俺は叫ぶと仲間のピンチを救うため、腰のショートソードを引き抜いた。決して、アクアのセクハラでも何でもという言葉に釣られた訳ではない。

 

 …ホ、ホントダヨ?

 ま、まずは数を減らそう、流石に分が悪い。

「『ティンダー』ッ!」

「『ウインド・ブレス』ッ!」

 

 風の初級魔法により、威力が増強された火の初級魔法がアンデッド達に襲いかかった。

 俺は炎と熱風に怯んだアンデッド達の背後に周り込み、関節を狙い剣を振る。

 一体無効化しながら、まとめて二体を切り伏せ、足を止めることなく縦横無尽に戦場となった正門前を駆ける。

 

 弓矢が上から降り注いでくれば回避に専念し、戦況が不利になれば初級魔法のコンボで切り抜ける。  

「『クリエイト・ウォーター』ッ!」

「『フリーズッ!』」

 俺は上手い具合に転倒した三体のアンデッドを、一刀の元に切り捨てた。

 

 その次の瞬間、間髪入れずに左後方から無数の矢が飛来。

 その攻撃を後方に大きく飛ぶ事で回避する。 

 だが、回避と同時にアンデッドが四方から俺に襲いかかってきた。

 …おいおい、アンデッドにモテても、ちっとも嬉しくねーぞ。

 

 既に倒したアンデッドを掴み、真っ先に斬りかかって来たアンデッドに向かって投げ飛ばす。

 そして、アンデッドが体勢を崩した所に、ショートソードで鎧の隙間を狙い串刺しに。

 そのまま動きは止めず、腰から大型のナイフを抜き、もう一体に足払いをかけ、転倒した所を狙い首を掻き切った。

 

 と、そこに俺を挟んだ左右二方向から刺突が迫る。

 ギリギリまで引きつけてから、その場で素早く前転する事で回避。

 アンデッド同士が勢い良くぶつかり、よろめいた。

 二体の内の一体の背後に周り込み、ナイフで首を刺すと、もう一体に素早く接近。

 

 先の一体目と同じように、切っ先を首に押し込んだ。

 これで十体撃破だ。 残るは、五体のみ…!  

 俺は空から降ってくる矢の雨を避けながら、アンデッドを串刺しにしたショートソードを回収。

 

 そして、弓を装備した五体のアンデッドへ姿勢を低くして、矢を避けながら接近し、次々とショートソードで斬り捨てていく。

 最後に残ったアンデッドは、弓を捨て、背中を晒して逃走を選択。

 だが、逃しはしない。

 

 足に力を溜め、勢いをつけて刺突を繰り出し、背後からアンデッド首の辺りにショートソードを突き立てる。アンデッドは、ギギギと背後を振り向きかけ、途中で動かなくなった。

 確実に仕留めた事を確認して、ショートソードを引き抜く。

「カズマ!うし」

 

 俺は背後に気配を感じ、振り返りざまにショートソードを一閃させた。            

 アンデッドの首が地に転がり、背中から地面に倒れる。

 ……どうやら、仕留め損なった個体がいたようだ。

 

 念には念を入れ、周りを見渡して敵がもういないことを確認。

 そして、俺はショートソードを鞘に収めた。

「やっぱし、ナイフの方が使い易いな…」

 

「…カズマさん後ろに目でも付いてるの? 実はキメラだったの?」

「何を言ってるんだお前は…」

 アクアを憐れみを込めた目で眺めていると、ダクネス達がいる方から男の叫び声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リ、リーン! お、おい、リーン起きろよ!なあ起きてくれよっ!!」

 俺達が駆けつけた頃には、仲間に囲まれた魔法使いの女の子が心臓に矢を受け、絶命していた。

 恐らく俺を目掛けて飛んできた弓矢が逸れて、運悪く当たってしまったのだ。 

 …何だよこれ。まさか俺があんな夢を見たからか……?

 

「まさか、駆け出し冒険者に配下を全滅させられるとは……。 ふははははっ! 面白い…面白いぞ! 俺が直々に相手をしてやろう!!」

「……面白い? 面白いだと……!? ふざけやがって…! ぶっ殺してやる!! 」

 戦士風の男が怒りの形相で叫び、ベルディアに向かって行こうとする。だが、それをクルセイダーの男とアーチャーの男が背後から羽交い締めにした。

「待てダスト! 魔王軍の幹部相手に俺達みたいな駆け出しが敵う訳がないだろ!! それにお前、まだ怪我がーーー」

「うるせえ! 怪我なんて知るか! リーンが死んだんだぞ…。黙って見とけってってのか! んなこと出来る訳ねーだろっ!!」

 

 怒りに身を任せ、大声で喚く戦士風の男。

 それを見て、アーチャーの男が怒りを押し殺したような表情で。 

「ダスト、一回落ち着け! リーンが死んでキレてんのは、お前だけじゃねえんだぞ!!」

 

「…そんな事は…そんなことは分かってんだよっ! クソッ、離せテイラー、キース! テメエら邪魔するんじゃねえ!! 俺にアイツをぶっ殺ろさせろよおおおおおおおおぉっーーー!!」

 

 仲間二人に羽交い締めにされ、戦士風の男は絶叫した。……その姿は、女の一人も守れなかった昔の自分を見ているようで胸が痛んだ。

 ……おい、佐藤和真。 またお前の目の前で女がまた死んだぞ?ならば、俺の取るべき行動は一つだ。戻る時が来たのだ。 ガルム7に。 傭兵、佐藤和真に。

 

「…カズマ。 どこに行く気だ」

 無言でベルディアの方へ行こうとした俺に、ダクネスが声をかけ、引き止めた。

「ちょっとアイツぶっ飛ばして来るわ」

 そう、俺は激怒している。何の面識もない少女が死んで、激怒している。俺は、自分の無力を痛感したあの日に誓ったのだ。

 

 せめて、俺の目の前でだけでも女を死なせないようにしようと。あの日あの時、助けられなかった少女とガルム2の分まで、俺が助けてやろうと。

 ……この考えが傲慢だという事は分かっている。だが、それでも俺は。

「何を言ってるんだお前は…。カズマがかなり腕が立つのは、先ほどの戦いを見ていればわかるが…。 こういう言い方はあまり好きではないが、私達駆け出し冒険者は、いわば素人に毛が生えたような物だ。あまり無茶はせず、ここは私を壁としてこき使ってだな…」

 

 …ダクネスは勘違いをしている。だが、それは当然のことだ。ダクネスは冒険者としてのサトウカズマしか知らないのだから。

 ーーー目を閉じ、軽く深呼吸。思考はクールに、心は熱く。土と草、血の匂いに混じって硝煙の匂いを嗅いだ気がした。

 

 …戦闘用に思考が最適化されていく。皆が知っているサトウカズマから『暴力装置』としての自分へとスイッチを切り替える。

 三秒ほど瞑目した後、目を静かに開け、俺は真面目な顔でバカな事を言い出したダクネスに、きっぱりと事実を告げた。

 

「ーーー俺は素人じゃない。専門家(スペシャリスト)だ」

 

「……えっ」

 俺の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、ダクネスが息を呑み目をぱちくりとさせた後、一泊遅れて疑問の声を上げた。あっけに取られているダクネスから視線を外し、俺はポケットからブースタードラッグが二つ入ったケースを取り出す。

 

 その中からブースタードラッグを一つ手に取り、残りの一本が入ったケースを無造作に地面に放る。そして、専用の注射器を首筋に当て、横についたトリガーを一気に押し込んだ。

 プシューという気が抜けるような音がし、シリンダーから高圧射出されたブースターが、血中に流れ込んでいくのを感じる。

 

「…ウ……グッ……!」

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 ーーー全身が痛い。

 体中の筋肉がギリギリと締め付けるように悲鳴を上げている。心臓の鼓動は破裂するんじゃないかと思うぐらいうるさいし、体中の血液は沸騰しているように、燃えるように熱い。延々と続く痛みで眼球が飛び出してしまいそうな気さえする。

 

 まるで自分の体の中で恐ろしい猛獣が好き放題に暴れ回っているようだ。

「お、おい、ーーー。 だ、ーーーか!?」

 ダクネスが何か言っているが、痛み耐える俺の耳にはその内容の半分も届かない。

 ベルディアが首を片手に抱えたふざけた格好で、剣を抜いてゆっくりとこちらに向かってくる。

 

 こちらをバカにするように、余裕たっぷりに歩いてくる姿に心底腹が立つ。

 …アイツは敵だ。 俺の目の前で女を殺し、俺を無能だと嘲笑っているに違いない。アイツがこれから手にかけるのは、アクアかダクネスかめぐみんか?

 

 それとも、俺にネロイドという飲み物があると教えてくれたあの子だろうか?

 それとも、妹達の事を楽しそうに話してくれたあの子だろうか?

 これ以上、女を死なせる訳にはいかない。

 

 ーーーだから。

「ガアアアアアアアアアアアッッッーーー!!」

 バキッという何かが壊れたような嫌な音を俺は確かに聞いた。それは俺の心のタガが外れた音だったのか。それとも単純に俺の空耳か。

 …だが、そんな事はどうでも良い。今俺がすべきことはただ一つ。

 

「な、何だ貴様…! 何を…何をしたのだ……」

 

 …………ろす。

「ーーーお前は………殺すっ!!」

 俺はドス黒い殺意を胸に抱き、ベルディア目掛けて全てを貫く銃弾のように身体を射出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リーン好きの皆さんごめんなさい。あと、めぐみんの爆裂魔法を防いだアイテムは劣化版のアレです。何の事か分からない方はフルメタル・パニック!の原作小説を買いましょう。(宣伝)


次回予告

 ブースターで身体能力を大幅に強化し、ベルディアと激戦を繰り広げるカズマ。その勢いは凄まじく、このままベルディアを圧倒するかに見えた。
 しかし、現実は甘くはなく、次第にカズマは窮地に追いやられてしまう。そして、そんなカズマを援護に来たアクアに、ベルディアの凶刃が迫り……。

『ーーーさらばだ、おかしなプリーストよ!』
『ーーーアクア、逃げろ!』

 次回、『この首無し騎士に鉄槌を!』こうご期待。
 

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