この素晴らしい世界に傭兵を! TSR   作:ボルテス

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アクア様ヒロイン化計画始動……!


二話 このしおらしい女神に安眠を!

 俺とアクアがこの世界に来て、二週間が経過。

 露店の店主から巻き上げた金は、俺が少し目を放した隙にアクアのアレな女神パワーにより酒に変えられ、胃袋の中へと消えた。

 

 これでは装備を揃えるどころか、このままでは餓死してしまう。

 当初の俺達は、そんな切迫した理由でギルド内の酒場で働いていた。

 

 しかし、酒場の店主の『裏の畑からサンマを二匹獲ってきてくれ』という不明瞭な指示にパワハラを受けていると確信した俺は、これに毅然とした態度で対応。

 

 しかし、俺の健闘虚しく、酒を水に変換する一発芸を披露していたアクアと共に解雇された。

 解せぬ。これって俺が悪かったのか?

 …いや、悪くないよな。

 

 サンマとは、秋になると脂が乗ってきて大変おいしい、海で穫れる魚のはずだ。

 断じて、そこら辺の畑で穫れる魚ではない。

 そもそも、魚が畑で獲れるとか、その時点でおかしな話だ。

 

 …そう、俺は悪くない。社会が悪いのだ。

 ギルドの酒場を首になった俺達は、次のバイト先の八百屋にて、アクアと売り子をしていた。

 

 だが、客寄せのために、商品を文字通り種も仕掛けもない手品でアクアが消してしまったため、店主にアクアのついでに俺もクビを宣告されてしまう。

 

 俺は何も悪くないだろう、この青いのが勝手にした事だと『パワハラ、ダメ絶対』のスローガンの下。

 俺の首を締めようとするアクアを押さえながら抗議したのだが、憎っくき店主は聞く耳を持たなかった。

 

 そういう訳で、二連続でバイトを首になった俺達は、最終的に街の外壁の拡張工事の仕事をしたり、平原に突然できた謎のクレーターの埋め立て作業をしていた。

 

 勿論、俺はその間、ただ労働だけをしていた訳ではない。

 そう、この世界の情報を集めていたのだ。

 俺も傭兵稼業で食ってきたのだ、情報の大切さは理解している。

 

 まず、この駆け出し冒険者の街アクセル周辺の雑魚モンスターは軒並み駆除されている事。

 冒険者は馬小屋で生活が基本だと言う事やこの街は魔王の城から一番遠いらしい事。

 

 他には、黒目で黒髪の変わった名前を持つ凄腕冒険者がこの国の首都に多くいるという情報があった。

 恐らく、日本から来たチート持ちの転生者だろう。

 

 あと、この街には頭のおかしい子がいるという噂もあった。

 どう頭がおかしいのかはよく分からなかったが、関わり合いになりたくないものだ。

 

 そして当然の事だが、この街周辺のモンスター情報も集めた。

 見覚えのあるメジャーモンスターから、聞いた事もないふざけた名前のモンスターの名前と特徴。

 

 そして弱点などは一通り頭に叩き込んだので、もし予期せず強いモンスターに遭遇しても、落ち着いて適切に対処が出来る自信がある。

 

 そうして、一通りの情報収集が完了したので、明日は討伐クエストを受ける予定だ。

 

 なので、俺達は今日の昼過ぎに武具ショップまで出向き、ショートソードと大型のナイフを購入した。

 財布の中身と相談して、できるだけ丈夫そうな物を選んだので強度は問題ないだろう。

 

 その間、アクアは何をしていたかというと、俺が真剣に武器を吟味している横で、店の中の製品をペタペタと触りまくっていた。 

 

 俺はそんなアクアに声をかけ、装備を揃えなくていいのかと聞いたのだが、

『素手でモンスターをバタバタと倒す美人プリーストって格好良くない? 明日は楽しみにしなさいカズマ! 女神の力を見せてあげるわ!』

 

 と、言っていたので何も買っていない。

 何だか不安なのだが、大丈夫だろうか。

 

 ……まあ大丈夫だよな、アイツ女神だもんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーそう思っていた時期が俺にもありました。

 

 現在、俺は巨大なカエル型のモンスター。

 ジャイアントトードに頭から、食われたアクアを見て唖然としていた。

 

 俺は連携して叩くぞって言ったのに、勝手に突っ込んで行って『直撃コース、もらったわ!』とか言って、ジャイアントトードに神の力とやらを込めたゴッドブローを叩き込んだ結果がこのザマだ。

 

 俺、ちゃんと言ったじゃん、打撃系の攻撃は効かないって。

 …というか、カエルに食われる神様ってどうなの。

 アイツ一応、女神様なんだよな…。

 

 俺がそれを呆れ顔で見ていると、先ほどまでビクビクと震えていたアクアの足が動かなくなったので、そろそろ助けに行く事にした。

 

 俺はアクアを咥えて、無防備な背中を晒すジャイアントトードの背後に回り込み、まずはショートソードで両足を斬りつける。

 

 すると両足を斬られ、バランスを大きく崩したジャイアントトードがアクアを咥えたまま、地面に倒れた。 

 俺はそのまま、狙いやすい位置に来た頭をショートソードで砕き、トドメを刺す。

 

 そんな回りくどい事をせず、直接頭を狙えば一発だろうが、間違えて食われたアクアごとぶった斬る恐れがあるので、それは止めておいたのだ。

 

「おい、アクア大丈夫か? カエルの舌でエロい事されなかったか?」

 軽口を叩きながら、ジャイアントドードの口からアクアを引っ張り出す。

 

「ぐすっ……、ひっぐ……、ありがど……、ありがどね、かじゅま……! うわああああああああんっ……!」

「あー。 よしよし、もう大丈夫だぞ」

 

 泣きじゃくるアクアを慰めながら、ジャイアントトードについて考察する。

 率直な意見を言えば、想像していた物より遥かに弱かった。

 

 そう、それはいい。弱いのは問題ない。むしろ大歓迎だ。 

 正面から戦うにしても、あの程度のスピードなら余裕で逃げ切れる。

 だが、できれば安全で楽に倒したい。

 

 カエルはアクアを捕食している間は無防備だった。

 ……つまり、アクアを囮にすれば楽に倒せる。

 少し可哀想な気もするが、呑み込まれる前に助ければ問題ないだろう。

 

 そう考えた俺は、アクアに『お前ちょっとカエルに食われてきてくれ』と言う訳にもいかないので、適当に煽る事にした。

 俺はアクアの目を真っ直ぐ見つめ、真剣な表情で。

 

「…アクア、いつまで泣いてるつもりだ。 カエルに食われて泣いている姿を見たら、お前の信者がどう思うかは賢いお前なら分かるだろう? そう! 今こそあのカエルにお前の本気を見せる時だ!」

 

「ぐすっ……。そうね……、そうよね! 女神の本気を見せてやるわ!」

 力強く叫ぶとアクアはゆらりと立ち上がった。

 

 ……カエルの粘液でネチャネチャと音をたてながら。

 どうしよう、この女神、凄く扱いやすいんだけど…。

 いつか、悪い男に騙されそうなんだけど。

 

 俺がそんな事を考えている間に、アクアは離れた場所にいるカエル目掛けて、猛スピードで突撃を開始。

 そのまま一気にカエルとの距離を詰めたアクアは、拳に白い光を纏わせてカエルの腹に殴りかかる。

 

「神に牙を剝いた事、そして私の前に立ち塞がった事! 地獄で懺悔しながら眠るがいい! ゴッドレクイエム! ゴッドレクイエムとは女神の愛と憎しみを乗せた鎮魂歌、相手は死ぬ!」

 

 アクアさん、アクアさん、それって負けフラグなんじゃ……。

 カエルの柔らかい腹にアクアの拳が、ぶよんとめり込んだ。

 

 打撃系統の攻撃が効かないので当然だが、殴られたカエルは何事もなかったかのように堂々としている。 

 …そして、カエルがゆっくりと、その視線をアクアへ向けた。

 

 カエルと見つめ合ったままアクアが呟く。

「…カ、カエルってよく見ると可愛いと思うの」

 そして……。

 

「ひゅぐっ!」

 愚かなカエルは、まんまと俺の術中に嵌り、アクアを咥えたまま動きを止めた。

 

 …うん、知ってた。(呆れ)

 だってそのカエル、打撃系の攻撃効かないからな。

 というか、カエル相手に媚を売る神様ってどうなんだ……。

 

 人としてそれでいいのか? いや、アイツは人ではないのだが。

 …まあいい、計画通りだ。

「アクアー。今助けるぞー(棒)」

 

 俺はショートソードを引き抜くと、愛する仲間を助けるべく、憎っくきカエルに斬りかかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カエルの口内からアクアを無事救出した俺は、この調子で三匹目も討伐する事にした。

 わあわあと泣きじゃくるアクアに、『次だ、次頑張ればいい。 お前は女神なんだからもっと自信を持て 』と言って鼓舞したのだ。

 

 その結果、再びカエルの餌となった学習能力のないアクアの協力もあり、三匹目の討伐に成功した。

 したのだが……。

「……暗いの怖い、暗いの怖い暗いの怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……」

 

 現在のアクアは、目からハイライトが消え、全身を粘液でテカらせ、膝を抱えて蹲っている。

 まさかここまで追い詰められるとは…。

 俺は楽で安全に倒せる最善の方法を取っただけだ。

 

 ……別に泣きじゃくるアクアが少し可愛く見えたから、三匹目もこの方法で倒そうとしたなんて事は決してない。

 ないったらないのだ。

 

「おい、アクア大丈夫か。今日の討伐は終わりにして、もう帰ろうぜ」

「…怖い怖い暗いの怖い……」

 

 会話が成り立たない様子だったので、アクアの手を引いて歩き出す。 

 そして、俺は後ろを振り返り、遠くで元気に跳ねるカエルを睨み。

 

「この借りは返すぞ……」

 え? お前が犯人だろって? い、いやだなあー。

 お、俺がそんな酷い事する訳ないじゃないですかー。

 

 ……でも、アクアには帰ったら優しくしてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、俺のカエルの唐揚げやるよ」

 街に帰還した俺達は、大衆浴場で体の汚れを落とし、現在冒険者ギルドで食事をしていた。

 

「カエル……粘液……真っ暗……うっ、頭が……」

 俺の言葉を聞いたアクアが、忌まわしき記憶が呼び起こされそうになったのか頭を抱えた。

 

 俺はそんなアクアの目の前で、手を振りながら呼び掛ける。 

「おーい、アクアー」

 

「……はっ! 今、何か思い出しそうだったんけど何だったのかしら?」

「思い出せないって事は、どうでもいい事だろ」

 

「まあ、それもそうね……。 あ、このカエルの唐揚げ意外とおいしいわね…」 

 目を逸しながら言った俺に、アクアも同意した。

 

 俺は視線をアクアに戻すと、唐揚げを口一杯に頬張る姿を見ながら。 

「俺はパーティーメンバーを募集しようと思う」

 

 この先、二人だけで冒険をするのには無理がある。数とは力なのだ。

「…それはいいんだけど、今日は何の討伐クエストを受けたのかしら? なんか、記憶が曖昧で……」

 

 アクアはそう言ったあと、首を捻って考え出す。

「ほーら、俺の唐揚げをもう一つやろう!」

 その様子を見た俺は、記憶が戻るのを阻止するため、自分の皿からカエルの唐揚げを一つ取ってアクアの皿に入れる。

  

「わーい! ありがとねカズマー。今日はいつもより優しい気がするんだけど何かあったの?」

 俺を見て不思議そうな顔をするアクア。

 

 お前に酷い事したから、その罪滅ぼしですなんて言えない。

「い、いや、今日のお前も可愛いからな……」

 適当にごまかした俺の言葉に、アクアはちょっと照れた表情で。

 

「な、何よいきなり…。ま、まあ私は女神様だから当然だけどね!」

 …やめろ、やめてくれ。

 そんな目で俺を見ないでくれ…。

 

 罪悪感で胸が苦しいから、ちょっと恥ずかしそうな顔で、俺をチラチラ見るのは勘弁してくれ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を終え、俺達がギルドから出た直後の事。

 アクアが突然、俺の服のすそを摑んできた。

「ん? どうしたアクア? 服が伸びるから、あんまり引っ張らないでくれよ」

 

 後ろを振り返って言った俺に、アクアはモジモジとしながら上目遣いで。

「えっとね……。その…。このまま帰ったらダメ……?」

 

「え? 何だって?」

 アクアの恥ずかしがる姿をもっと見たくなった俺は、もう一度聞き返していた。

 

 そんな態度を取る俺に対して、アクアは不安そうに俺を上目遣いで見上げ、ボソボソとか細い声で。 

「その……暗いのが怖いから、掴んでちゃダメかなって……」

 

「お好きなだけ掴んで下さい」

 そのアクアのお願いに俺は、罪悪感から敬語で答えていた。 

「…? 何で敬語なの?」

「…いいんだ。気にしないでくれ」

 

 俺は不思議そうな顔をするアクアに、服のすそを掴まれながら馬小屋への帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寄り道もせず、馬小屋へ真っ直ぐ帰った俺達は、特にする事もないのでもう寝る事にした。

「おやすみアクア」

 

「うん…おやすみ…」

 そう言ったアクアがモゾモゾとこちらに寄ってくる。

「…なんだ夜這いか?」

 

 冗談めかした俺の言葉に、アクアは少し言いずらそうにしながら。

「そうじゃないけど……。暗いのが怖いから、一緒に寝てほしいなって…」

 

「喜んで」

 ……何なのコイツ。

 アクアってこんなに可愛いかったっけ。

 

 今日は特に可愛く見えるんだが。

 俺がアクアの弱っている姿に不謹慎にも悶えていると、更にアクアが俺に身を寄せてきた。

 

 すると当然、アクアの立派な双球が俺に当たる訳で、それはもう……ありがとうございます、ありがとうございます。 

「アクア、お前いい匂いするな…」

 

 俺はそんな言葉が自然と口から洩れていた。

「……変態」

「じゃあ、一人で寝るか?」

 

「……嫌よ。カズマが怖くて一人で寝られないだろうから、私が一緒に寝てあげてるの」

 ツンデレのような事を言うアクアの言葉には、いつものキレがない。

 

「……ねえ、カズマさん。何か当たってるんですけど……」

 アクアの言葉通り、自己主張の激しい俺の息子の先端には、アクアの太ももらしき部分に当たっている感触がある。

 

「俺の息子は正直者なんだよ……」 

 バツが悪そうに答えた俺は悪くないと思う。

 この状況で興奮しないヤツは絶対に男じゃない。

 

 そんな俺にアクアは、少し怯えたような声色でおずおずと。

「…私に酷い事しない?」

「酷い事しないよ」

 

「…胸も触ったりしない?」

「触ったりしないよ」

「…えっちなイタズラとかしない?」

 

「イタズラもしないよ」

 確かに興奮はするが、弱っている女の子相手に手を出すほど、俺も落ちぶれちゃいない。

 

 ……それに、触ったら捕まるし。

 そう、何と言っても触ったら捕まるのだ。

 

 触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる、触ったら捕まる……。

 

 頭の中でその言葉を呪文のように繰り返し、荒ぶる息子を落ち着かせようとしたが、一向に効果がなかった。 

「こんなに大きくしてる人に言われても、説得力ないんですけど……」

 

 アクアが俺を非難するような口調で言ってくる。

「…まあ、それはそうだが……。そこは俺を信じてくれよ 」

「カズマだから、余計に信じられないんですけど…」

 

「…ほら、もう寝ようぜ。本当に何もしないって」

 アクアは少しの間黙り込むと、小さな声で。

 

「今日だけは信じてあげる……」

「…おう、ありがとなアクア」

 そのままお互いに黙り込み無言になる。

 

 そうして、暫くするとアクアは、すうすうと安らかな寝息をたて始めた。 

「今日は眠れそうにないな……」

 

 俺はアクアの寝息を間近で聞きながら、馬小屋の天井を見つめ、そう小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 




次回予告

寝不足のカズマはギルドにて、一人の紅魔族の少女と出会った。
その少女に一目惚れをしたカズマは、勢いでプロポーズをし、少女から無事OKを貰う。

これからのハートフルな日々を想像し、ニヤけるカズマ。
しかし、その背後には、目からハイライトが消えたアクアが、カズマを能面のような顔でじっと見ていたのだった。

ーーー次回『アクア覚醒』。
ヤンデレ女神に愛され過ぎて眠れない、カズマの物語が今、始まる!







…あ、勿論嘘です。ではまた!

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