この素晴らしい世界に傭兵を! TSR   作:ボルテス

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やっと、ミツルギさん登場回!
今回の話を読むと、ミツルギさんのイメージがガラッと変わる恐れがあります。

もう、ミツルギさんを◯◯の人としか認識できなくなる危険性を秘めています。
心臓の弱い方、キャラのイメージを大事になさる方は読まない方がいいとも思います。

今回の話を読んで負った不利益については、作者は一切の責任を取りません。
あらかじめご了承下さい。


七話 この精神世界にハンサムを!

 グルグルの精神攻撃を受けた俺の意識が戻って、最初に見た物はどこかの学校だった。

 校庭には大きな桜の木が咲いており、生徒達が歩いている。

 

 …なるほど、これがグルグルの精神攻撃か。

 思ったより、たいした事ないな。

 しかし、桜の木があるって事は日本の学校か…。

 

 いつの間にか、俺の服装は見慣れない黒い学生服になっていた。

 多分だが、この学校の物だろう。

 日本の学校に一種の憧れがあった俺は、期待に胸を膨らませながら、学校の校門を通る。

 

 俺が校門を抜けるとそこはーーー

 

 ーーーハンサムだった。

 

 ……俺も自分で何を言ってるのか分からないが、これはハンサムとしか表現できない。

 何故なら、俺の視界に映る生徒達がどいつもこいつもハンサムだからだ。

 

 俺がその訳のわからない光景に立ち尽くしていると、その中でも一段とハンサムなヤツに声をかけられた。 

「君は新入生かな? 僕はサッカー部のキャプテンの御剣響夜だ。 良かったら見学して行かないか?」

 

 言いながら、ハンサムな笑顔を浮かべる男が差し出したのは一枚の紙。

 そこには、『新入部員募集! 来たれ期待のエース候補達。 これで今日から君もハンサムだ!』と、ツッコミどころが満載な謳い文句が書かれていた。

 

 お前ら、みんなハンサムなのに、それ以上ハンサムになってどうすんだよ。 

 ハンサム王にでもなるつもりなの?

 そのビラのよく分からない謳い文句を見て、俺は若干反応が遅れてしまう。

 

「え、えっと…。俺、他のところも見たいので後で行きます……」 

「…そうかい。 楽しみに待っているよ。僕は部室にいるから、見学する時は声をかけてくれ。 アデュー!」

 

 御剣と名乗ったハンサムな男は、俺にビラを渡すと爽やかな笑顔を浮かべて去って行った。

 さ、去り際もハンサムなヤツだな……。

 

 そんなバカな事を考えながらしばらく歩き、適当な靴箱に靴を入れ、校舎内に入る。  

 どうやら、今は放課後らしい。その証拠に生徒達が教室で駄弁っている。

 

 もちろん生徒達は全員ハンサムだ。

 試しに窓の外を見ても、ハンサムどもしかいない。

 ……どうもこの学校は男子校らしい。

 

 どうせなら共学が良かったなと、窓の外を眺めて項垂れていた俺に、突然背後から声がかかった。

「どうしたのカズマ。 窓の外なんか見て?」

 

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには制服姿のアクアが。

 どうやら、この世界でも面識がある設定らしい。

 無論、アクアもハンサムだ。

 

 だが、アクアの口調は普段通りなものの、アクアにはあるはずの物がなかった。

「ア、アクア。 お、お前…。 胸は、胸はどうしたんだ!?」

 ……そう、この世界のアクアには胸がなかった。

 

「…胸? そんなの男なんだから、あるわけないじゃない」

 

 俺を見て、小首を傾げながら、不思議そうな顔をするアクア。

「なん…だと……!?」

 驚愕する俺にアクアは、心底楽しそうな笑みを浮かべながら。

 

「そんな事より、帰るわよカズマ! 私達の秘密の放課後はこれからなのよ!」

 

 俺はアクアの言葉を聞いた瞬間に走って逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何なんだこの世界は……。 どこに行っても、ハンサムなヤツばかりで頭がどうにかなりそうだ…」

 現在俺は、廊下の隅で壁に寄りかかっていた。

 

 …この世界はおかしい、絶対におかしい。

 右を向いてもハンサム。左を向いてもハンサム。

 教師や事務員でさえもハンサムだった。アクアの発言もおかしかったし…。

 何だか、あのロクでもない世界が恋しくなってきた。

「どうした? 具合でも悪いのか?」

 その声に俺は後ろを振り向く。

 

「い、いえ。 少し疲れただけで…」 

 俺に心配そうに声をかけて来たのは、制服姿のダクネスだった。

 …もちろん、ダクネスもハンサムだ。

 無論、胸などと言う軟弱な物はついていない。

「…誰かと思えば、カズマではないか。 これから、生徒会でお茶会を開くのだが、一緒にどうだ? 良い茶葉が手に入ったんだ。 おいしいお菓子もあるぞ」

 ダクネスに言われて初めて、俺は腹が減っているのに気づいた。

 

「じゃあ、俺もお邪魔しようかな…」

「そうか、では行くぞ」

 上機嫌で先頭を歩いて行くダクネスに、置いて行かれないように俺も後を追う。

 

 生徒会室に向かう道中、ダクネスは通りがかる生徒達に挨拶をされていた。

「お疲れ様です生徒会長!」

「お疲れっす! 会長!」

 

「お疲れさんです会長さん!」

 真面目そうな生徒から、お調子者の生徒や世紀末スタイルの不良までその種類は多種多様だ。

 

 ……もはや言うまでもない事だが彼らも、もれなくハンサムだ。

 ダクネスはそんなハンサムな彼らに、律儀にも手を振って対応している。

「…お前、生徒会長だったの?」

 

「何を言っているのだ、カズマは? 知らない訳でもないだろうに…。ほら、着いたぞ」

 どうやら話している内に生徒会室の前まで到着したようだ。

 

 ダクネスがガラッと生徒会室の扉を開ける。

 俺は生徒会室になど入った事がないため、僅かに緊張してしまい、その場から動けなくなってしまう。

  

「どうした。 入らないのか?」

「いや、ちょっと緊張してな…」

 言いながら恐る恐る生徒会室に入った俺を出迎えたのは、生徒会役員と言う名のハンサム達。

 

 ダクネスを含める生徒会のハンサム達は、俺に舐め回すような、ねっとりとした視線を向け。

 

「「「「薔薇色の生徒会へようこそ!」」」」

 

 もちろん俺はダッシュで逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクアだけじゃなく、ダクネスまで…。 もう嫌だ。グルグルの精神攻撃、怖すぎだろ……!」

 場所は誰もいない教室。 

 俺はそこで机に突っ伏し、呟いていた。

 

 今更、分かった事なのだが、この世界では俺の身体能力が大幅に落ちている。

 どういう理屈なのかは分からないが、ここはグルグルが作った世界だ。

 それを考えても仕方がないだろう。

 

 …しかし、精神攻撃と聞いていたから、幻覚を見せる系のモンスターだとは予想できたが、ここまでリアルだとは……。

 このパティーンだと次はめぐみんだろう。

 

「カズマ、何をしているのですか?」

 ほーら来た。

 俺はめぐみんの声がする方向に振り向き、そのまま硬直する。

 

「…どうしたんです。ハトが豆鉄砲をくらったような顔をして」

 ……何故なら、めぐみんが白いハトになっていたからだ。

 こ、こいつ……喋るぞ!

 

 めぐみんは、やたらと豪華な机の上に止まっていた。 

 その机の上には大量に、カロリー◯イトの箱が置いており、胸にはひらがなで『めぐみん』と書かれたプレートをかけている。

 

 なので、めぐみんで間違いないだろう。

 もう説明する必要もないと思うが、めぐみんもハンサムだ。

 ハトだけど……。

「お、お前はめぐみんなんだよな?」

 

 なんとか言葉を返した俺に、めぐみんは純白の羽をバサッと広げ、

「我が名はめぐみん! 鳥類随一のカ◯リーメイト好きにして、純血種と呼ばれし者……!」

 

 紅いハト目を輝かせながら、名乗りをあげた。 

 お前、純血種なのかよ。

 俺の目にはただのハトと、どう違うのかさっぱり分からん。

 というか、何でハトが喋るんだよ……。

 ……もう帰りたくなってきた。

「お前、オスなんだよな……」

 めぐみんは分かりきった質問をする俺を見て、首を傾げ。

「何を言ってるんです? 当たり前じゃないですか」

「で、ですよねー」

 俺はめぐみんに引きつった笑顔で返し、ため息を吐いた。

 

 …何だろう、無性に本物のめぐみんに会いたくなってきた。 

 あのコンパクトなボディを見て安心したい。

 俺は別にロリコンではないが、あのなだらかな胸を見て精神の安らぎを……。

 

「…そんな事より、お腹が減りました。 カズマ、カ◯リーメイト下さい」

 めぐみんは、物欲しそうなハト目で俺を見つめてきた。

 

 ハトだけに……。

「…何味がいいんだ?」

「チョコ味がいいです」

 

 俺は要望通りに、チョコ味のカロ◯ーメイトの包装を破り、めぐみんに差し出す。

「…カズマ。 こんなに黒くて太い物、口に入りません。 食べやすいように、砕いて下さい」

 

 めぐみんに言われるがままに、カロリーメ◯トを手で細かく砕き、差し出してやる。

 俺は手の平から、カロリ◯メイトを食べるめぐみんを見ながら。

 

「…美味しいか?」

「美味しいです」

 暫くその光景を眺め、複雑な気分になった後。

 

 俺は何となく気になっていた事を、めぐみんに聞く事にした。

「…そう言えば、お前と俺の関係って何なの?」

 その質問にめぐみんは不思議そうに首を傾げ。

 

「今日のカズマは、変な事ばかり言いますね…。 恋人兼ペットですよ」

 

「!?」

 混乱している俺には気づかず、めぐみんは恥ずかしそうにポッと頬を赤く染め。

 

「…告白してくれた時にカズマは、私に言ってくれたじゃないですか。『鳥類でも愛さえあれば関係ないよねっ!』って」

 

 いや、あるだろ。

 …この世界の俺って、そんな設定だったの?

 さ、流石に、鳥類との種族の壁を越えるのは人類には早過ぎるだろ……。

 

 めぐみんはその時の事を思い出したのか、その紅いハト目を輝かせ。

「こうして、カズマと私は種族の壁を越えて恋人となったのです。 それからというもの、私とカズマはスウィートな日々を送り……」

 とても俺の頭では、理解できない事を喋りだした。

 

 ……俺は、何やら自分の世界にトリップしているめぐみんに気づかれない様、立ち上がりそっと教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はサッカー部の部室へと向かっていた。

 このハンサムな世界に来て、最初に会ったのが御剣だ。

 もしかしたら、御剣との出会いは何かのフラグだったのかもしれない。

 …たとえ、フラグではなかったとしてもだ。

 とにかく行動を起こしていけば、元の世界に戻るための手がかりが見つかるかもしれない。

 何にせよ行動あるのみだ。

「ウボァーーーーッ!!」

 

 御剣から貰ったビラを頼りに、部室の前に到着した俺が聞いたのは、そんな誰かの絶叫だった。 

「何だ。今の悲鳴…?」

 

 ウボァーって何だ。そんな悲鳴聞いたことないぞ。

 悲鳴がしたのは、目の前のサッカー部の部室か…。

 俺は足音がしないように、忍び歩きでサッカー部の部室のドアを少し開け、中の様子を覗いた。

 そこで俺が見た物はーーー

 御剣が刃物のように長く鋭利なアゴで、銀髪のサッカー部員を刺している光景だった。

 

 その刺された部員は、胸から血を流し、床にドサッと崩れ落ちる。

 もちろん、そのサッカー部員もハンサムなのだろうが、ここからはちょうど死角になっていて、その顔は確認できなかった。

 

 …え。い、意味が分からん。

 な、何故、御剣は急にアゴが鋭くなったんだ。

 最初に会った時は普通だったのに…。

 というか、あの銀髪に見覚えがあるような気が……。

 俺がその訳の分からない現象に混乱していると、御剣がブツブツと呟きながら、こちらに向かってきた。

「つぶあんは死ね。つぶあんは死ね。つぶあんは死ね。つぶあんは死ね……」

 

 俺は音もなくドアの前から移動すると、素早くドアの陰に隠れる。

 そして御剣が戻ってこないのを確認すると、部室に入り、アゴで刺された銀髪のサッカー部員の下へ駆け寄る。

 

 その銀髪のサッカー部員のすぐそばには、つぶあんのあんぱんが落ちていた。 

「おい、大丈夫か! 何があったんだ! 今すぐ、救急車をーーー」

 

 俺はうつ伏せになって、倒れている銀髪のサッカー部員を抱き起こすが、その顔を見て言葉を失う。

 

 ーーーその顔は、俺が女神と崇めるクリス様と同じだった。

 

「く、クリス様!?」 

 驚愕する俺にクリス様は、俺の顔を見て嬉しそうな笑みを浮かべ。

 

「…キミは…。か、カズマくんかあ…。ちょっとお願いがあるんだけどいいかな…?」

「そ、そんな事より早く治療を…!」

 

「…分かるでしょう? もう僕は助からない。キミは最後のお願いを聞いてくれないの?」

 上目遣いで、顔面蒼白の俺を見つめるクリス様。

 

 その平たい胸からは、どくどくと血が流れ、呼吸も次第に弱くなっている。

 …客観的に見ても、クリス様はもう助からないだろう。

「分かり…ました」

 

「…ありがとう。僕のお願いは、キャプテンを止めてくれないかなってことだよ。キャプテンは、世界中のつぶあん信者を抹殺しようとしているんだ。僕のせいで……僕がつぶあんさえ買ってこなかったら、こんな事には……! お願いだよ、キャプテンを止め…て……」

 

「クリス様!? し、しっかりして下さいクリス様!」

 クリス様の目が虚ろになり、命の灯火が消えかかっているのが直に感じられる。

 

「…ああ、もうお迎えが来ちゃったみたい…だね。僕は幸せ者だなあ……。大好きな人の手の中で最後を迎えることができるなんて。…めぐみんに…今度は負けないって……伝えといてよ…」

 

 どこか恍惚とした表情で言ったクリス様。

 俺はそんなクリス様に対して、感情を押し殺した声で。

「…そんなの自分で伝えて下さいよ……」

 

「意地悪…だなあ…。……ああ、最後に丸亀◯麺で、ありとあらゆるトッピングを………」

 クリス様は、それだけ言い残すと動かなくなった。

「……クリス様? クリス様あああああああああああああああああっーーー!!」

 

 ーーー神は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリス様を抱き抱え、ひとしきり声を上げて泣いた後。

 俺は冷たくなったクリス様を部室のベンチに寝かせると、部室を出た。

 

 大泣きした後に気付いたが、この世界のクリス様は、グルグルが作った幻だ。 

 それを頭では分かっていても、クリス様と同じ顔をした人間が死ぬのは気分の良い物ではない。

 

 ……というか、元に世界に帰ってクリス様に会った時に、もし泣いてしまったらどうしよう。 

 俺のクールなイメージが崩れやしないだろうか。

 

 …いや、今はそんな事よりも御剣だ。 

 そもそも、何でアイツのアゴは人を殺せるレベルで鋭いのか。

 

 色々と疑問は尽きないが、アゴで刺し殺されるとか、この世界は絶対におかしい。

 この世界に比べれば、あのロクでもない世界の方が何倍もましだ。

 

 …俺は部室を一度だけ振り返ると、悲鳴のあがる校舎に向かって走りだした。

 クリス様の最後の願いを叶えるためーーー

 

 ーーーアゴ殺人鬼と化した御剣を止めるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は校舎。

 そこで俺が見たものは、胸から血を流して倒れているハンサム達の姿だった。

 

 校舎の壁には鮮血が飛び散り、その光景はまさに地獄絵図と表現する他ない。

 誰かが遠くで叫んだ。

 

「奴は、つぶあんシンドロームになって理性をなくしている。…誰か、誰かアイツを止めてくれえっ!」

 …もう、何も言うまい……。

 俺はアゴで刺し殺されたハンサムな犠牲達のそばを走り抜ける。

 幾度もハンサム達の屍を踏み越えて、被害者達の血痕をたどって行くと、やがて屋上に辿り着いた。

 

 屋上のドアを開けると、御剣が一人のハンサムをフェンスに追い詰めている姿が。

「ま、待ってくれ。 つぶあんにも、つぶあんにも良いところが…!」

 

「…お前も……お前もつぶあん信者かあああああっーーー!!」

「ウボァーーーーッ!!」

 御剣はそのハンサムの言葉に激昂すると、その鋭いアゴでハンサムを刺し殺した。

 

 そして、自身のアゴを引き抜くと、御剣は後ろを振り返り。

「…君もどうせ、つぶあん信者なんだろ?」

 その目に狂気の光を宿した、血まみれの姿で俺に聞いてきた。

 

「…正直どっちでもいい。そんな事より、幻とはいえ、クリス様の仇を討たせてもらうぞ。その腐れアゴに天誅を下してやる……!」 

 

「ーーーなら今から君は、つぶあん信者だな…。つぶあん信者は死ねーーーっ!!」

 御剣が鋭いアゴを振りかざし、襲いかかってきた!

 

 風を切るような音と共に、御剣の鋭いアゴが俺の胸を目掛けて迫る。

 一撃目の攻撃はなんとか避けるが、体の反応が遅い。

 …ヤバイ、この身体は身体能力が落ちてるの忘れてた……!

 

 俺は右に左に、勢い良く繰り出される鋭いアゴの一撃を何度も躱すが、とうとう壁際に追い詰められてしまった。

「つぶあん信者には死を。つぶあん信者には死を。つぶあん信者には死を………」

 

 ブツブツ言いながらの御剣の攻撃は、俺の背後の壁に突き刺さった。

 ーーーチャンスだ!

 クリス様、俺に力を……!

 

「くたばれ! 腐れアゴが! 命を大事にしない奴は嫌いだ! 死ねっ!!」

 俺は御剣がアゴを壁から引き抜こうとしている隙に、みぞうちに拳を全力で叩き込む。

 

 その攻撃に御剣がよろめいた。

 しかし、その拍子に御剣のアゴが壁から抜け、攻撃をした直後で隙だらけだった俺に、再び鋭いアゴが向かってくる。

 

「あ、ヤバ…」

 俺は咄嗟に回避行動を取るが完全には避けきれず、肩に鋭い痛みを感じ、後頭部に衝撃を感じた後、俺の意識は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らない天井だ…」

 意識を取り戻した俺が最初に目にした物は、知らない天井だった。

 

 起き上がり周囲を確認する。

 俺が寝かせられていたのは、保健室のベッドのようだった。

 

 薬品の匂いもするし、間違いないだろう。

 御剣のアゴが刺さった肩は、若干の痛みはあるものの、誰かに治療をされていた。

 他に体に異常がないか確認していると、スッと静かにドアが開く。

 ドアを開けて入ってきたのは、俺をアゴで刺した張本人にしてアゴ殺人鬼の御剣だった。

「気がついたかい?」

 意識を取り戻した俺を見て、心配そうな表情で近づいて来る御剣。

 

「!?」

 俺は慌てて、ハンサムなアゴ殺人鬼から距離を取る。

「ま、待ってくれ! 僕はもう君を襲ったりはしない!」

 

「…信用できるか」

 俺はいつでも御剣から逃げられるように、窓まで移動すると窓の鍵を外す。

 

「…なら、そのままでいいから聞いてくれ。あの時の僕に理性は無かった。つぶあんをこの世から撲滅したい、それしか考えられない闇のこしあん魔王になっていた……」

 

 真剣な顔で、何をバカな事を言ってるんだろうコイツは…。

 つーか、こしあん魔王て何だ…。凄くショボそうなんだが。

 

 …何だか頭が痛くなって来た……。

 俺がこめかみの辺りを押さえている間にも、御剣の話は続く。

 

「…だが、君にトドメを刺そうとした瞬間、奇跡が起こったんだ。 君のエロい心の光が僕の心に流れこんできた。 そして、君のエロい心の光と共鳴して僕のアゴが光り輝き、僕の心を浄化してくれたんだ」

 

 …御剣の言っていることが理解できない。

 ダメだコイツ、早くなんとかしないと…。

 

 そうだ、ここに病院を建てよう。(名案)

 御剣は俺の顔をジッと見詰めると、憑物が取れたような爽やかな表情で。

 

「それまでの僕はつぶあん信者はこの地球上から、残さず抹殺するべきだと信じていたけど、君に救われた今なら言えるよ。『人それぞれだよね』って」

 

「舐めんな」

 コイツ、一言で片付けやがったぞ…。

「君に頼みがあるんだ…。僕とSEXYしてくれないか?」

 

 御剣は急に覚悟を決めたような表情で俺に言ってきた。

「SEXY?」

 オウム返しで聞き返した俺に、御剣はハンサムな笑顔を浮かべ。

「…ああ、君はまだ新入生だから知らないのか。この学校の生徒はオシャレな人間が多いから、そう呼ぶんだ。 君にも分かりやすく言うと、セッ◯スの事だよ」

 

 …………。 

 俺は素早い動きで窓から校庭に脱出した。

 ーーーアゴ殺人鬼に掘られる前に。 

「ま、待ってくれ! せめて名前だけでも教えてくれ! 僕は君の事が……!」

 

 このあと滅茶苦茶逃走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ズマ。…マ。カズ……。しっかりしなさい、カズマ!」

 その声で意識を取り戻し、ゆっくりと目を開くと、俺の顔を覗き込んでいたアクアと目が合った。

 後頭部には暖かくて、柔らかい物の感触がある。

 どうやら、状況から考えるに、アクアが俺を膝枕をしてくれていたようだ。

 俺は首だけ動かして、周囲を見渡す。

 

 まだ場所は、共同墓地のようだった。

 周囲が暗いままなのと、青白い人魂が宙に浮かんでいるところを見ると、たいして時間も経っていないように見える。

 俺は直前までの状況を思い出し、周囲を警戒するが、辺りには俺を追うハンサムの一人もいない。

 何故か最終的には、御剣だけではなく、アゴに殺されたはずのクリス様を含むハンサム達が俺を掘ろうと追ってきたのだ。

 

 もちろん俺はメロスも真っ青なスピードで逃げるが、地形を把握していなかったために次第に追い詰められてしまう。

 

 だが、俺が半ば諦めかけていた時に、突如空より飛来しためぐみんが俺に、この世界へと続く道を示してくれたのだ。

 

 本当にあの世界のめぐみんには感謝しても、し足りない…。

 …そうだ。いい事を考えついた!

 

 この溢れんばかりの感謝の気持ちを、この世界のめぐみんに伝え、真心を込めてお礼をしよう。

 俺の仲間でいてくれてありがとう。俺の尻を守ってくれてありがとう、と。 

 

 多分だが、めぐみんは自分の胸が小さい事を気にしているので、豊胸マッサージでもしてやる事にしよう。

 きっとめぐみんは、泣いて喜んでくれるに違いない。

 

「……ねえカズマ。逝っちゃった目してるけど大丈夫なの?」

 俺がめぐみん豊胸計画について真剣に考えていると、アクアが失礼な事を言ってきた。

 

 …俺のつぶらな瞳を見て、逝っちゃった目とは失礼な。

 一言…文句を……?

 

 アクアに文句を言おうと、視線を少し上げた俺の視界に入ってきたのは、アクアの服を押し上げている二つのたわわな果実。

 

 …そう、おっぱいである。 

「お、お前、その胸は!? まさか本物!? ほ、本物なのか!?」

 

 俺はガバッと起き上がると、アクアの胸を無造作に揉みしだく。 

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

 

 アクアが混乱したような悲鳴をあげるが、俺はそれに構わず揉み続けた。

 不思議とムラムラとした気持ちは湧いてこなかった。

 

 …まあ、それも当然だ。

 俺はアクアの胸が本物かどうか確認しているだけなのだから。 

 

「や、柔らかい!! ほ、本物だ。間違いない……!」

 俺はおっぱいの柔らかさに涙を流し、感動に打ち震えながらも呟いていた。

 

 めぐみんとダクネスはアクアのすぐそばで、そんな俺の行動をポカンとした表情で眺め、ウィズは顔を真っ赤にしてアワアワとしている。

 

 …どうしたんだろう皆は、俺はただアクアの胸が本物かどうか確かめているだけなのに……。

 俺はアクアの胸から手を放すと、あのハンサムな世界から脱出する事ができた喜びのあまり、大声で叫けぶ。

 

「うおおおおおおっーーー! アクセルよ、私は帰って来たああああーーーっ!!」 

 そんな俺を祝ってくれたのか、どこからか声が聞こえてきた。

 

「おめでとう」

「おめでとう」

「おでめとう」

 

「おめでとう」

「おまでとう」

 その声にめぐみんとウィズが、ダクネスに身を寄せて震えている。

 

「…ありがとうみんな」

 ハンサムな世界から抜け出せた、この幸福に感謝を。

 全てのハンサム達に、さようなら。この世界の全ての人にSAHIあれ。

 

 俺はこのハンサムではない世界で、仲間達と共に生きていきます。

 そして最後に、この素晴らしい世界にありがとう……。

 

 俺がこの素晴らしい世界に感謝していると、涙目になったアクアがユラリと立ち上がり、俺に向かってきた。

 きっと、アクアも俺が帰ってきた事を泣いて喜んでくれたに違いない。

 

 …よし、それなら。

「おっ? アクア、お前さては寂しかったんだな! よし、俺がギュッとハグしてやろう!」

 

 満面の笑みを浮かべながら、バッと手を大きく広げる俺に、アクアは無言で拳を引き……。

「ゴッドブローーーーッ!!」

 俺の顔面目掛けて、その拳を勢い良く振り抜いた!

 

「ウボァーーーーーーッ!!」

 

 深夜の共同墓地に、アゴで刺されたような俺の悲鳴がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回は伝説のBLゲー『学園ハンサム』より、アゴ殺人鬼のお話でした。
 その作品に出てくるアゴ殺人鬼の名前が、美剣(ミツルギ)なのでこれはもう書くしかないなと思った訳です。
 
 クリス様の件については、本当にごめんなさい。
 別にクリス様が嫌いとか、そう言う事ではないんです。
 話の都合上仕方がなかったんです。

 普通に登場させたら『クリス様なら男でもいいや』とか、ウチのカズマさんだったら言い出しかねないので、仕方がないだろうとここで言い訳をしておきます。
 
 あと、もう気づかれた方もいるとは思いますが、リメイク後のタイトルは『この素晴らしい世界に傭兵を! TSR』に決定しました。

『TSRとはなんだ! 言え!』と、聞かれても答えられないので意地悪なことは言わないで下さい、お願いします。

 考えるのではなくて、目で見て、口に出して感じて下さい。
 つまり、私が言いたいのはーーー

 ーーー『TSR』って何か言葉の響きが格好良いよね!


 

 

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