遊戯王CW   作:ミスタータイムマン

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2話 ファーストイノベイト

 

イノベイトモンスターの発表が終わり、インダストリアルイリュージョン社(I2社)の食堂では祝賀会が開かれていた。

 

「無事、イノベイトモンスターの発表会ができたのはみんなのおかげです。お疲れ様。

カンパーイ」

グラスを片手に挨拶。

 

食堂には30人くらい集まっていた。本当は別の会場で数百人単位の規模のパーティがあるが、開発者本人が行けば質問の嵐になりそうで気疲れしたくなかったので、

こっそりと社員食堂で内輪のパーティを企画してもらっていたのだ。

 

「チーフ代理、お疲れさまでーす」

 

今挨拶したのはイノベイトモンスター開発チームの1人の田崎律(たざき りつ)。主にカードイラストを担当している。普段はカードに合ったイラストを書いてもらうだけだったが今回は召喚モーションについても、自分やチーフと一緒に海馬コーポレーションの

CG部門と最後まで調整をしていた。

 

「田崎さんもね。昨日も夜遅くまで亜依(あい)さん達と調整続けてくれたじゃないですか」

 

「エフェクトのタイミングをこだわりたかったんですよ、若干こだわりすぎちゃいましたけど」

 

 

「この人こだわりすぎなんですよー。遊作さん、大野チーフの爪の垢、今持ってませんか?グラスに突っ込みますので」

 

す、と会話に割り込む1人の女性。

彼女は浅田亜依(あさだー)。海馬コーポレーションのCG部門のリーダーだ。エフェクトの効果的な出し方やタイミングなど、色々とお世話になっている。特に妥協を全くしない彼女のやり方はさすがはKCの若手ホープ。社長にしてこの社員ありだ。

 

「亜依さん・・・、向こうのパーティの方は良いんですか」

 

「大丈夫ですよ。向こうには陽(よう)がいますから。あ、あと陽から伝言で『さっきのデュエル、わざとすぎるじゃねーか』って」

 

陽、憐れな・・・。

イノベイトモンスターのテストプレイヤーとして俺の代わりに質問責めにあってこい。

 

こんな感じでしゃべっていると、急にワッと歓声が上がる。

 

ペガサス・J ・クロフォード会長の姿があった。

デュエルモンスターの創始者にして、レジェンドプレイヤーの1人・・・。

 

「ペガサス会長。はるばるありがとうございます!まさか来ていただけるとは」

 

「ミスター遊作、コングラッチレーション!ユーは本当によく働いてくれました。

今日のMVPはユーですからネ」

 

「大野チーフがいない分、自分達がやらなきゃいけなかったですので」

 

「ミスター大野に関しては、まさにOh no!イッツ ジョーク」

 

この大切な時期に全ての言い出しっぺ、大野千歳チーフ(おおの ちとせ-)が、

自分をチーフ代理とするという書き置きとともに姿を消してしまったのだった。

 

 

そう、イノベイトモンスターの開発は―――、

 

 

昨年の春

新パックのコンペが終わって、一息ついていた頃、大野チーフの一言から始まった。

 

「新しい召喚法を作ってみないか?」

 

ワシャワシャと顎をさすりながらガタイを椅子の背に預け、グラグラ揺らす中年。

 

彼こそは我が開発部Cチームの大野千歳チーフだ。

サムライのように縛った髪がピョコピョコ揺れ、何とも言えない空気を醸し足す。

 

「チーフ、何言ってるんですか?」

 

「今回作ったパックで、俺たちだけのシンクロとエクシーズは作る事ができた。

確かにシンクロやエクシーズは素晴らしいアイデアだ。想像力が掻き立てられる。

シンクロ・エクシーズを知ったからこそ、俺たちにも新しい召喚法が作れるんじゃないか・・・。いや作りたいと思う!」

 

チーフの熱い思い。

俺たちもくすぶっていた思いが沸き上がる。

 

「いいじゃないですか、チーフ。新しい召喚法」

 

 

「僕も興奮してきました。どんな感じのを想像してるんですか」

 

バリッとしたスーツを着こなした青年が椅子から身を乗り出す。

彼は小宮山慶之(こみやま よしゆき)。かつてデュエルモンスターズの大会で実績を挙げた名デッキチューナーでもある。

 

「具体的には考えていないがイメージが1つある。融合やシンクロ、エクシーズは2枚以上のカードが組合わさる事で起きている。

だから、新しい召喚法のカードは1枚のカードからでも何らかの条件で新たな姿に変わるイメージ・・・。

そう『進化』のイメージだ!」

 

 

「進化のイメージですか・・・。おもしろそうな設定ができそうですね」

田崎さんは、『進化』のイメージをどのように絵として表そうかと考えているようだ。

 

「『何らかの条件』をどうするかですね。融合モンスターのような『融合』魔法カードを入れるような感じですか?そうすると《マスクチェンジ》の二番煎じになってしますよね」

 

小宮山は顎に手をあてながら、フム、と考える。

 

「前から思ってたんだが、デュエルモンスターズではプレイヤーが強固な布陣を作り上げると、中々逆転する事が困難でした。対戦相手のプレイングや場の状況などを『進化の条件』とすれば今までにないカードができるんじゃないでしょうか」

 

かつてのデッキビルダーとしての自分の経験から、自分はプレイヤー間のカード資産の差による実力差はプレイングでカバーできず、かなりの問題だと思ってる。

 

「相手の行動を『進化条件』にするというのはおもしろそうですが、それだけだと相手任せで、時としてゲームが停滞して、おもしろくなくなっちゃいそうですね。かといって能動的な条件だと、ループコンボが横行しそうですね」

 

 

「小宮山の言う通りなんですよね。やっぱり、『キー』になるカードが必要何でしょうか」

 

そこへ大野チーフが

「だったらペンデュラム召喚みたいに回数を制限すればいいんじゃないか?」

 

「なるほど確かに・・・!」

 

盲点だった。ペンデュラム召喚は自分のターンのメインフェイズに1度だけ。回数を絞ればループの心配は減る。

そうしてその日は日が暮れるまで多いに語りあってなんとか形にできそうなところまできた。

 

「良い感じにまとまってきたな。このペースなら来週には人にみせれそうだな。次の役員会にもっていっても良さそうだな」

大野チーフの表情は満足そうだ。

 

 

「そうなると名前があった方が良いですよね。モンスターの『進化』ちょっと違いますね。新たな戦術も提供できる。

そうですね、『革新』。『イノベイトモンスター』っていうのはどうですかね」

 

田崎さんの提案で新しい召喚法が形になってきたと実感した。

 

 

一週間後、役員会

 

役員会の会場に入るのは始めてだ。誰も彼もそれぞれの部署を率いる猛者。自分はここにいて良いのか、場違いな感じだ。

 

しかも今回はペガサス会長までテレビ電話で参加するという。

 

自分は出番がくるまで資料を人数分を持って、部屋のすみでぽつねんと待機している。

 

議題はあと1つというところで大野チーフが手をスッと上げる。

 

「開発部Cチーム、チーフの大野です。新しい召喚法についての提案をしたいと思います」

 

ざわめく場内。

チーフの声と共に資料を配布し、会長にはメールで資料を送る。

 

その間にチーフは先日、自分たちにしてくれた話などの開発への経緯を伝えている。

皆は始めはしかめ面だったが、少しずつ、興味や喜色が混じってきつつある。

 

5分いや10分が過ぎただろうか、1人の役員が手を上げる。

 

「イノベイトモンスターですか。確かに興味深いアイデアだと思います。しかし時期早尚ではないでしょうか。我々にはペンデュラムモンスターの実用化とシンクロやエクシーズの更なる開発を優先すべきではないでしょうか」

 

髪をオールバックにした眼鏡をかけた神経質そうな男ー瀬良繁雄(せら しげお)。彼も開発部の1人で自分たちのチームより大きなチームを率いているチーフの1人だ。

今は本国の開発部と連係を取りながらシンクロとエクシーズを組み合わせた新しいテーマの開発を進めている。

 

うちのチーフに引き下がるという言葉はない。

「瀬良チーフのおっしゃりたい事は分かります。AチームやBチームは手一杯だ。だから俺達のCチームが開発を進めていく。そこからペンデュラムを担当しているBチームと協力してやろうと思ってる。それにペンデュラムの実用化は海馬コーポレーション次第だろう。あんまり目処がたってないらしいな」

 

かつての事件の折、ペンデュラムモンスターももたらされたが、ペンデュラムゾーンを新設する問題があった。

シンクロやエクシーズと違い、今までのデュエルディスクでは対応ができず、向こうの世界のディスクがいくつか存在するだけにとどまっている。

 

「そんな一大プロジェクトだからこそです。そのような事は本国や我々のチームで対応する必要があると思います。このイノベイトに取りかかるのは3年後でも良いと思います。いかがでしょうか、ペガサス会長?」

 

これまで穏やかな表情で事態を静観していたペガサス会長が口を開く。

 

「イノベイトモンスターは、実にインタレスティーング!ワンダフルなアイデアデース。バット、カード化できない可能性もあり、ベリーデンジャラス。ミスター瀬良の言うようにシンクロやエクシーズ、ペンデュラムについて進めていかなければならない。安定した道だと分かりマース。デスが、いずれは新しいシステムが作られることになるでショウ。ミスター大野、まずはサンプルを作ってみてはいかがでショウか?」

 

「会長、ありがとうございます」

 

「ただし期限は1ヶ月デース。カード化できなければ、プランは凍結してクダサイ。詳細は追って連絡しマース」

 

こうしてサンプルとなる最初のイノベイト達の開発が始まった。

 

 

「さすがチーフ、何とか進みましたね」

 

役員会を終えてひと安心だ。

 

「一歩前進だな。だが、ここからだ。カード作成機に読み取れるように矛盾なく、仕上げないとな」

 

「あれが一番厄介ですよね」

 

カード作成機、I2社の最奥にして、最大の武器。

海馬コーポレーションにすら複製はできない謎マシーン。

カードの画像やテキストを読み込み、データを統合させ空白カード(ブランクカード)へのICチップへの入力なども行い、カード化していく。1枚だけでもかなりのデータ量があり、モンスターの心すらも入っているのではないかとの噂もある。

 

その仕様上、カードデータが噛み合わないとうまくカード化できないのだ。

作成機が作ったデータは各部署を通して印刷所に送られ、生産ラインにのる。ただし、中には2枚目以降が作れないのもある。例えばかの《青眼の白龍》は5枚目以降が作れなかったとも言われている。

俺も眉唾物だと思っていたが、四神をモチーフにしたカードは2枚しか作れなくなっていてパックの内容を急遽変更する羽目になって、信じざるを得なかった。

 

 

ーCチーム開発室ー

 

「みんな、聞いてくれ。イノベイト試作のゴーサインが出た。だが、期限は1ヶ月で作成機への読み込みは1度だけ。これからは厳しい時間になる」

 

役員会から帰ってきてから、早速イノベイトモンスターの製作がスタートした。

 

「召喚法そのものを記したブランクカードと基準になるモンスター2つの柱で進めていこうと思う。まずはイノベイトモンスターをどういう方向で作るか、具体化していこうと思う」

 

「今までのことをまとめると、2点になります。能動的に召喚できる縛りが緩いカードはあまり強くできないこと。そして不利な状況からの反撃を可能とするですね」

と、小宮山。

 

「あとビートダウン以外のデッキの強化ができるようにしたいですね」

 

デュエルモンスターズはバーンやロックはマイナーでエクストラデッキの恩恵は少なく、強化が必要だという思いがある。もっと多様なデッキを見てみたい。

 

そうして話を煮詰めていくと、それぞれ異なるデッキタイプでエースとして運用できるよう、7種類のイノベイトモンスターを開発していく事になった。

更に田崎さんが、まるでロボットアニメみたいですね。折角ですから開発番号をつけてみては?という事で俺達も多いに盛り上がり、これらの最初のイノベイトー『ファーストイノベイト』に、画像とテキストの間の左のスペースに開発番号が書かれることになった。

 

 

FI-P01HB(ファーストイノベイトープロト01ハイビート)

FI-P02LB(ーロービート)

FI-P03C:P(ーコントロール:パーミッション)

FI-P04C:L(ーコントロール:ロック)

FI-P05BB(ービートバーン)

FI-P06CA (ーカウンターアタック)

FI-P07EW(ーエクストラウィン)

 

 

その後はプロキシを作ってデッキを回してみたり調整したり、イノベイト召喚のシステムを再検討したりしていった。

 

いずれはこれらをテストプレイヤーに預けたいな、と考えたりしていた。

 

 

ーI2社本社カード作成室ー

あっという間に期日になって今、カード作成機の部屋の前までペガサス会長とチーフときていた。

 

大きな真っ白な部屋には大きな白い機械が中央に鎮座している。まるで神を降ろす神殿のようだ。

 

ここまでくるとプレゼンは意味を持たない。カードの画像とテキストデータを見てもらうのみ。

 

「マーベラス!素晴らしい。これならマシーンも読み取ってくれるでショウ」

 

微笑む会長に安堵する。

 

「やったな、八重樫!」

 

「はい、でもまだ喜ばないですよ。召喚システムを読み取ってからです」

 

イノベイト召喚のシステムを機械に読み込ませる。緊張の一瞬だ。

CLEARの文字と共に、カードデータの読み込み要求の画面が表示される。

 

1番目のカードを読み込ませようとする。

 

そこへ1枚の紙を持った会長が割り込む。

 

「実はワタシも1枚、イラストを描いてきたのデース」

 

それには2又の尾をもつ灰色のドラゴンが描かれていた。今にも動きそうな迫力がある。

 

「会長、自らですか・・・!?」

 

会長が描いたイラストはテキストを読み込ませなくともカード化できると言われている。

まさか、その伝説の光景をみられようとは。

 

チーフはイノベイトのブランクカードを渡す。

枠だけのカードでイノベイト召喚のシステムが埋め込まれているカードだ。

記念に取っておこうと思っていたのだか。

FI-P00αの開発番号が書かれたブランクカードを機械にセットし、イラストを読み込ませる。

 

 

ギュアアアァ

 

 

機械が凄まじい音をたて、イラストを読み込んでいく。

CLEARの文字が表示される。

 

「キタ!」

 

成功だ。興奮のままに出力ボタンを押す。

 

するとブランクカードにイラストだけでなく、名前やテキストも表示されていく。

 

「グレイステイル・イノベイト・ドラゴン・・・!」

 

この瞬間、最初のイノベイトモンスターは産声を上げた。

 

 

「何だ、こりゃ!?」

 

カードを取り出そうとしていたチーフからだ。

 

カードが下から光の粒子となって姿を消していくところだった。

 

一体、どういうことなんだ。まさか、ここまできて失敗・・・。

 

「ノープロブレム。今のは失敗ではありまセーン。やはり、イノベイトモンスターは次の時代を作るモンスターなんデスネ」

 

「失敗じゃないって、どういう事ですか!?」

 

「恐らくアレは、別の世界に飛ばされたのでショウ。最初に作った融合モンスターの時もそうデシタ」

 

前にも同じ事が!?

 

「実は、今のドラゴンはワタシの夢に出てきたモンスターだったのデース」

 

独白は続く。

 

「その夢を最初に見たのは、デュエリストキングダムの数週間前の頃デース。その頃のワタシは希望がなく、デュエルモンスターズの発展の限界を感じていマシタ」

 

「その夢はドラゴン達が次々と現れる夢デシタ」

 

2つの渦が重なりあって出てくる、毒々しい紫色のドラゴン。

 

星が一列に並びそれを取り囲むように輪がいくつも並び、閃光とともに表れる透き通った翼をもつ白いドラゴン。

 

2つの光が銀河に吸い込まれ、闇から表れる刺々しい黒のドラゴン。

 

「融合、シンクロ、エクシーズ!」

 

「イエス。今にして思えばそうだったのでショウ。目が覚めた後、ワタシはフュージョンの名をもつドラゴンと《融合》のカードを作りマシタ。

ドラゴンの方は今のように消えてしまったのデース。後にワタシはそのカードの存在を知る別世界のデュエリストにも会いました。恐らく消えてないと思いマース」

 

「その後も度々、同じ夢を見マシタが、2年前から灰色のドラゴンだけが出るようになったのデース」

 

「まさか」

 

「イノベイトモンスターは生まれるべくして生まれたと、思いマース」

 

予想外の驚くべき話だった。

 

ショックで感覚は麻痺していたが、7枚のファーストイノベイト達は欠けることなく、カード化に成功した。

ちなみに2枚目以降は作り出せないと判断され、どのように販売用のイノベイトモンスターを作っていくか、頭を抱えることとなった。

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