銃“劇”ヒーロー『ハッピートリガー』
それが私の勤めるヒーロー事務所の代表だ。
ヴィランの制圧を活動のメインとする武闘派で、ランキングも30位以内をキープしている。
独特の芝居がかった言動を好むファンも多く、メディアへの露出も少なくない。
そのハッピートリガーを前にして、息子が勢いよく挨拶をする。
『ハッピートリガー
我が子ながら、礼儀正しいものだ。
(母)親の教育が良かったのだな。
だが真問よ、その
『あぁ、真問くん!今日も元気そうでなによりだ!』
どうしてその返答の為だけに大きく左手を後ろに振るのだろう?
子供への返答にしては会釈もえらく大袈裟だ。
長く伸ばした髪が揺れ、なんだか舞台演劇の役者のように思えてきた。
『君に会えて、このハッピートリガー!…実にハッピーな気分だよ!!』
幸せというよりは
ん?
何故に右手の指先を私に向けているんですか、ボス?
危ないでしょう。貴女の『個性』はいつ、如何なる時も武装しているに等しいのだから。
彼女、ハッピートリガーこと
すなわち、オモチャのエアガンを射てばその弾は厚い金属製のドアを貫通し、水鉄砲は樹の幹に穴を穿つ。
指鉄砲ですら、衝撃を放つ近距離用の武器と化すのだ。
今、ヘビー級ボクサーの拳に匹敵する凶器は、何故か私の額に向けられている。
『なぁ、ビルト。…親しい間柄の相手には隠し事のできないって君の性格、私は嫌いじゃない。さっきから、上司に対するにはずいぶんと失礼なことを考えているのが、表情やら何やらでモロばれだとしても、ね。』
嫌いじゃない、と言いつつエイミング。
解せぬ。
『まぁ冗談はともかく。真問くん、今日は楽しんでいってくれたまえよ。地域の皆さん、特に子供たちとの交流はヒーローにとっても大切な仕事だからね。』
手を下ろして、息子に微笑みかけるハッピートリガー。
そう、今日は我々の事務所と地元のデパートが提携してのファン感謝イベントの日。
本物出演のヒーローショー、本日ここだけの限定グッズ販売。
そう、仕事である。
ゆえに、愛する息子の相手もそろそろできなくなる。
『パパは表に出ないお仕事だけ『真問!お待たせ!!』
『ママ!』
…妻が来た。愛する妻だ。息子ともども、私の宝物だ。
だから、ちっとも悔しくないし、寂しくもない。
何ですかボス? なんで優しい顔で肩を叩くんですか?
『吹雪さん、頑張ってくださいねぇ。』
『あぁ、任せたまえよ。盛り上げてみせるとも!何しろ、君の頼もしい夫が支えてくれるのだからな。』
以前に妻はアルバイトでこの事務所に席をおいていたことが有る。
そしてこの一年ほどは、真問の『個性』の件で親子揃って事務所の面々に協力を仰いで来たのだ。
身内も同然の気安さでボスを励ますと、妻は私の前に立ち、にっこりと微笑み、柔らかな舞の如く体を回転させ…
鋭い拳を打ち込んできた。
『気合い入ってる?』
突き上げた拳を受け止めた掌が、ビリビリと軽くしびれる。
ちくしょう、いい女だな。普段は甘ったるい口調のくせして、今の声も目付きもサイコーだ。
『パパもママもかっこいーっ!』
うん、うん。そうとも。君の前ではカッコよく気合いいれるよ。パパもママも。
『一般人詐欺って、うちのサイドキックが呼んでるの知ってるかい?君たち。』
解せぬ。
『さ、パパ達はお仕事だから、真問はママとこっちだよ?』
『うん!お仕事頑張ってね!』
私の宝物が出ていくのを見送りながら、私はハッピートリガーとスケジュールの確認に入る…筈であった。
『ボス、ちょっとめんどくさいことになりそうなンすけど。』
そう言いながら入ってきたサイドキック、ハッピートリガーの片腕を勤めるその名も潜入ヒーロー『アンロック』が、この一言を告げなければ。
『ヴィランからの脅迫メールっす。…このイベント中に、ハッピートリガーの命を貰い受ける、と。』
さて、有給休暇を取って妻と子とドライブにでも行くかな?
冗談ですよ、ボス。
その
あぁ、
何しろ、こちとら一般職だもの。
逸般人夫婦のようです。