カードローダーに挑んだ青年の記録   作:コリブリ

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第2話

「レヴィちゃんのファンになりました」

「……お前はシュテルのファンではなかったか?」

 

 とある昼下がり、トーマと青い体毛に覆われた一匹の犬がローマのコロッセオさながらの特設ブレイブデュエルステージ、薄暗い観客席片隅にて会話をしていた。

 観客席にはぽつりぽつりと空きがあるもののそれは広さ故の空きでありそれなり以上の賑わいを見せている。2階席まで完備されているその場所が古書店の地下にある事も驚きだ。

 

「だってよ、あんな顔されて「僕の一番(ハジメテ)大切にしてね!」なんて言われた日にはファンになるしかないだろうっ……ないだろうがっ!」

 

 トーマとレヴィと水着SRの一件から1週間が経過していた。彼はレヴィに言われた通り『カードホルダー』の機能を使いロックをかけ絶対にカードを無くさないように大事にしまっている。これがもしシュテルの水着SRだったらなんて何度考えたか分からない程に葛藤を続けた末冒頭の言葉に繋がる。

 

「別にお前が納得しているならいいのだがな。だが一言言わせてもらうとすれば」

 

 トーマへの興味を無くしたようにステージ中央に設置されているブレイブデュエルの遠隔モニタへと視線を移しながら青い犬は言い放った。

 

「お前が普段から言うファン(・・・)とはその程度の事で移り変わる軽い物なのか?」

 

「――――」

 

 その言葉を聞いたトーマは動かない、動けない。言葉は楔となり彼を縫い付けた。自らのアイデンティティですらあったと言えるシュテルへの想いを否定された事と同義なのだ。しかしそれは単純な否定では無い、トーマ自身が自らを裏切ってしまった結果だからだ。それを突きつけられたトーマは、何も言い返せなかった。

 

「私は知っている、お前にとってその言葉がどれほどに重い物なのかを。だからこそ、お前はしなければいけない事がある……そうだな?」

「――ああ、そうだよ。俺はやんなくちゃなんねぇ事がある。サンキューザッフィ、なんでこんな簡単な事に気づけなかったんだ」

 

 答えは得たと言わんばかりに晴れ晴れとした表情を見せるトーマ。それを見たザッフィことザフィーラは流麗な目元を優しく下げながら言葉を続ける。

 

「ならトーマ、お前はレヴィの元に行ってしっかりと誤解を解く――」

「まだシュテるんの水着SRゲットしてねぇじゃねぇかあああああ! ここ1週間毎日ローダー引いてたのに一向に出ないから現実逃避してザッフィーと話してたけどこんな事してる場合じゃねぇ!」

「違うそうじゃない」

 

 トーマが導き出した結論はザフィーラを呆れさせるには十分であった。何故その様な結論に至る事ができるのかザフィーラには理解不能である。しかしこんなのでもそれなりに長い付き合いがある友人なのだ、ならばせめてもう少し真人間にならないかと毎度諫めてはいる彼であるが芳しい結果に導けたことはない。

 

「私はお前の中のファンとはそんなに軽い物なのかと言いたかったのだが伝わらなかったか」

「いや、ザッフィーがそう言ってくれたから気づけたんだよ。レヴィちゃんのファンを名乗るに値する水着SRカードは引いた、だけどシュテるんの水着SRを引いてないのにシュテるんのファンを名乗るとはこれ如何にせん」

 

「――――」

 

 今度はザフィーラが絶句する番であった。

 

「これから厳しい戦いになるな。俺はこの先シュテるんとレヴィちゃんのSRカードを引き続けなきゃいけない定めを背負う。いや、ローダーイベントならまだいい……残弾()がある限り俺は戦える、だがデュエルイベントともなれば全国の猛者達との戦いで負ける事は許されなくなる……それでもザッフィーはついて来てくれるか?」

「ああそうだな」

 

 本音を言えばザフィーラは彼がローダー戦士として生きる彼を止める事を半分諦めている。いつか夢破れた時に横で愚痴を聞いてやるくらいがちょうどいい関係なのだと悟ったが故に。

 そんな考えに至った当時の事を思い出していたザフィーラだったがふとトーマの言葉の中で聞き捨てならない言葉が含まれている事に気づく。

 

「待て、トーマ。お前は先の一件から1週間ローダーを引いていたと言ったか?」

「ん? ああ。回し過ぎるとでなくなるって話もあるから1日1万に留めてるけどな。シュテるんの水着SRは……出てたらこんな話してねぇよ」

 

 それはつまり合計すれば7万円もの大金をローダーにつぎ込んでいる事になる。それはあまりにも残酷な仕打ちと言えるのではなかろうか、ザフィーラはここにきてむしろ彼に少し同情する気持ちを憶える。

 ザフィーラはここ『古書店・八神堂』の飼い犬であり、飼い主である八神はやてがブレイブデュエル総本山のグランツ研究所の者達と懇意にしているため、ある程度裏の情報が入ってくるのを漏れ聞いていたりする。その中にはローダーからのレアリティごとの排出率などといった話も出てくる、それと照らし合わせる限りであればお目当てのカードが出ていても不思議ではないはずなのだ。しかしあくまで確率である、運が悪ければそう言った事もあるのかもしれないと考えたザフィーラは問いかける。

 

「それだけの大金をかけているのならばSRが1枚も出ないと言う事はあるまい。出ているのならばローダーのトレード機能を使ってシュテルのSRを……」

「…………俺は別に処女厨って訳でもないしトレードで手に入れられるならそれでもいいとは考えた。だけどな?」

 

 まさか、とザフィーラは戦慄する。それほどの熱意()をかけておきながらレヴィの他には1枚も出ていないと言うのか――そう考えているとトーマはカードホルダーから5枚のカードを取り出しザフィーラに見えるように手を下げた。そこにはレアリティがSRと表記されておりほっと胸をなでおろす。

 

「しっかりと引いているではないか。ならば」

「……よく、見てくれ」

 

 トーマがどこか遠い所を見ているのを怪訝に思うザフィーラはその広げられた5枚のSRに注目する。全てが属性インダストリーのレアリティSRと表記されている。そして全てが同じ格好をしている水着SRカードだった。

 

《キリエ・フローリアン【アクアリゾート!~キリエstyle~】》

 

《キリエ・フローリアン【アクアリゾート!~キリエstyle~】》

 

《キリエ・フローリアン【アクアリゾート!~キリエstyle~】》

 

《キリエ・フローリアン【アクアリゾート!~キリエstyle~】》

 

《キリエ・フローリアン【アクアリゾート!~キリエstyle~】》

 

「…………」

「……勿論トレード申請はもう出してるんだよ、これ5枚と水着シュテるんSR1枚の破格レートで」

 

 ザフィーラは思った。なぜこんなにむごい事が起こってしまったのかと。トーマがもはや怒るに怒れない段階まで来てしまっていたのだと理解した。彼は念願のSRだと歓喜しながらカードをめくったのだろう、最初の1回はきっと悔しがったのだろう、だが2回目、3回目と繰り返すうちに何を思ったのだろうか。そこには想像を絶する何かがあったのではないかとすら伺える。そしてもう一つの意味でもひどい仕打ちだ、ある意味トーマよりもひどいかもしれない。トレードとは行う者にとって等価値以上であるからこそ成立する、そしてキリエのSR5枚に対しシュテルのSR1枚というのはレアリティからしても等価値以上であるはずなのだ、はずなのだが。

 

「……グランツ研究所のショッププレイヤーではキリエとアミティエよりもダークマテリアルズが目立っているから――」

「あ、ああ、全国1位に全国4位、それもロケテストからの有名プレイヤーたちがダークマテリアルズだからな、キリエとかアミタお姉ちゃんは裏方が多かったって聞くし――」

 

 どこまでも虚空な目をしながら本人たちには絶対に聞かせられない慰めを何故か言い合う2人。そんな呟きもステージの熱気によりかき消される。

 

「まぁ……明日もまた回すさ。そこに水着シュテるんがある限り」

「過ぎたるは及ばざるが如しだ。己を律する事も必要だぞ」

 

 ザフィーラはトーマに会うたびに繰り返す言葉を今日も彼へと送る。この惨状を聞けばそれが聞き入れられてない事が分かるが、それ「俺の生き様なのだ」と数時間懇々と説明された事もあり深くは追及しないようにしている。もう一度同じ説明を繰り返されるのが面倒なだけでもあった。

 

「はいよ。でもザッフィーに言われてから1日3万の限度を1万まで落としたんだぜ?」

「それでも十二分以上だと思うのだがな……」

 

 ザフィーラはトーマが大富豪の息子であるとか宝くじに当たったなどと言う話を聞いた事が無い、故にその金はどこから出てきているのかと問うた事がある、返答は至ってシンプル――「食費」――だった。単純に食費と言ってもそれは一人暮らしであるが故の親からの仕送りや彼が週3程度で行っているバイトから捻出された物である。彼の口から主食は塩とパスタともやしですと言われた日には人型の形態になりゲンコツを落としていた。それ以来少しは自らを省みるようになったのか食生活は改善されているようにうかがえていた。勿論ではあるが絶対に1日1万円を回しているのではなくイベントや給料日の日に回せる上限を決めているだけである。もし毎日回しているのならばザフィーラは例え今までの交友が壊れようとも彼からブレイブデュエルを取り上げる覚悟があった。飼い主が楽しそうにしているゲームで悲しみを生み出してはいけない、彼の為にも、と。そんなザフィーラの想いを露とも知らずに観客席の縁で頬杖をついてステージ中央を眺めるトーマ。

 

「しかし流石に夏休みだな。連日ほぼ満員なんだろ? グランツ研究所の方も人が多すぎてローダーだけ回したらすぐ出ちゃったし」

「うむ、順調に稼働しておるよ。老若男女みなが笑顔で遊べるというのは素晴らしい。主もブレイブデュエルの繋がりでご友人が増え楽しそうにしておられるからな」

 

 ザフィーラの飼い主は飛び級して11歳で大学を卒業し趣味と実益を兼ねた古書店を経営を開始した八神はやてという少女。彼女はその類稀なる人生から同年代の友人と言うのは皆無だったのだ、家族の者達は彼女を愛しており幸せでないと言えば嘘になるが、それでも友人と家族というのは違う物だ。だからこそ憂いていた日もあったがそんな悩みはブレイブデュエルが瞬く間に消し去ってくれた。であるからこそザフィーラもまたブレイブデュエルに感謝している。

 

「せっかくこちらに顔を出したのだ、遊んで行ってはどうだ?」

「んーそうだな、最近ローダー回してばっかりでストック(・・・・)もめちゃんこ溜まってるしちょっと消化しておくか」

 

 わーわーと騒がしい観客席の2階席からブレイブデュエルの本体があるステージ方へと移動をし始めるトーマ。ザフィーラも散歩の時間だと言ってほの暗い廊下を途中まで共に歩く。

 

「トーマ、話は変わるが今晩共に夕食でもどうだ?」

「んあ?」

 

 廊下にカツカツペタペタと足音を反響させながら2人が歩いているとザフィーラが唐突に提案をする。トーマは考える素振りをすると肩をすくめながらやんわりと断りの言葉を入れる。

 

「嬉しいご提案だが遠慮しておこう。きっと俺がお邪魔したらお姫様が騒がしくなるだろうしな」

「ヴィータは別にお前の事を嫌っている訳ではないのだが、むしろ喜ぶだろう」

 

 素直にではないが、と注釈の様に付け足すザフィーラ。トーマは過去にブレイブデュエルでヴィータを瞬殺した事があった。殆ど不意打ちの形ではありそれに納得がいかないヴィータは何かとトーマに突っかかってくる。ブレイブデュエルの中では本気で()りに来るのでいなすのが大変だと頭を抱えるトーマ。戦績は7:3でトーマの負け越しなのだが。

 

「あー……まぁなんだ、八神家ってザッフィー除けば残りは女性だけだろ? 俺含めて7人中5人が女性の空間で食事ってのは年頃の男の子にはちょっと刺激が強すぎるといいますかね」

「そうか。ならば気が向いた時にお前の方から誘え」

「りょーかい」

 

 彼らの出会いは遡る事3年ほど、ブレイブデュエルが完成するよりも、ロケテストが開始するよりも前だ。ザフィーラが突然の雨に降られ、たまたま雨宿りに決めた木の影に同時に入った相手がトーマでありそれが切っ掛けで交友が始まった。

 3年と言う歳月が過ぎても今まで食事に誘われた事など無かったトーマは驚愕した顔と同時にどこか照れた顔をしている。ザフィーラにとって親愛なる家族が住む家に入る事を認められたからなのか、武骨な友人が食事に誘ってくれた事に対してなのかはトーマも分からなかった。

 

「んじゃステージはこっちだから」

「ああ、楽しんでくるといい」

 

 青年と犬は別々の道を行く。奇妙な友人関係はきっと今後も続いて行くのだろう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

【 HERE COMES NEW DUELIST ! 】

 

 

「うそっ、援軍っ!?」

「アリサちゃん、前!」

「きゃあっ!?」

 

 派手なアナウンスが雲海上空ステージに鳴り響く。オレンジ色のジャケットに身を包んだ少女はその機械質な音声に気を取られて前方より高速で飛来する小さな鉄球に気づかなかった。その危機を救ったのは横に居た青色のジャケットを着ている少女。手を前にかざした瞬間に円状の氷膜が現れ鉄球と相殺したのだ。

 

「ありがとすずか!」

「いいの、これが私の役目だから。それよりもヴィータちゃん一人相手でも厳しいのに援軍だなんて」

 

 攻撃を防いだことにより発生した煙が晴れると対戦相手であるヴィータの横に人影が増えている事を認識したアリサとすずか。現在2人はブレイブデュエルの対戦中であり2対1の戦いを繰り広げていた。多勢に無勢と侮る事なかれ、2人で戦っている少女達は自分が有利であるなどとは微塵も思っていない。なにせ対戦相手はブレイブデュエル内でランキング6位の実力者である『鉄槌の騎士』ヴィータだ。

 

「2人で何か話してるわね」

「なら私達も今のうちに体勢を整えよう!」

 

 ロケテストに参加していなかったアリサとすずかはブレイブデュエルにて新参者ではあるがショッププレイヤーに抜擢されめきめきと実力を伸ばしている新生チーム『T&Hエレメンツ』で活動する注目度トップクラスのプレイヤーである。そんなチームの参謀役であるすずかは情報の無い相手に無策で飛びかかるよりも相手を見定めてから作戦を立てた方が勝率が高いと判断を下したのだ、それでも厳しい戦いなるであろうことに変わりはないのだが。

 

「レーダーモード起動――索敵――トーマ・アヴェニール、さん? アリサちゃん知ってる?」

「ううん、知らないわ」

 

 すずかは手に装着された手袋型の武器(デバイス)であるスノーホワイトを起動し敵の情報を探るレーダーモードに移行させる、すると彼女の目の前に半透明のウィンドウが現れ、そこには様々な情報が所狭しと書かれている。ヴィータの情報は嫌と言うほど知っている為ウィンドウを彼女の隣にいる男性のものへ変えるとそこには名前と所属、使用しているパーソナルカードの情報が記載されておりどのような戦い方をするのかがある程度分かった。

 

「所属はインダストリー、グランツ研究所所属だね。カードのレアリティは『R』……二つ名持ち。『黒騎士』トーマ・アヴェニールさん」

 

 すずかはレーダーモードにより拡大表示されたトーマの映像をアリサに見せる。銀髪に赤い双眸、黒い生地に銀でふちどりされたジャケット、しかしそのジャケットは首から胸にかけてと腰を覆いマントの様にたなびかせているだけだ。腹や肩が露わになっているのだがさらけ出されている肌には赤い紋様の刺青が入っていた。そして片方の手には確実に武器(デバイス)だと分かる大型の剣――持ち手にはトリガーが付いている為銃剣と呼ばれる武器だろう。

 

「うっ……ヴィータの助太刀に入れてRカードの二つ名持ちって事はロケテストに参加してた人でも上位の人って事よね……?」

「だと思う。あのジャケットのアバタータイプは『エクリプスタイプ』だって。見た事も聞いた事もないよ」

 

 ブレイブデュエルにおいて戦うために纏う防護服、通称バリアジャケットはパーソナルカード生成時に完全ランダムで生成される。そのジャケットにはタイプがあり、すずかであれば『プロフェッサータイプ』と呼ばれる援護・索敵を得意としスキルの豊富さでは随一のタイプ。アリサであれば『フェンサータイプ』と呼ばれる中・近距離でのトリッキーな動きで相手を翻弄するタイプだ。ならばトーマが来ている『エクリプスタイプ』とは一体何か、2人は知らない。大剣を携えている事から近距離戦がメインではないかと予測出来る、一応銃剣だと言う事は分かっているが銃の砲身は小さく中距離での牽制としての機能がメインなのだろう。

 

 近距離戦闘が得意なのだとしたらヴィータと合わせて2人で突っ込んでくるか、片方が牽制するか、どちらにせよすずかとアリサでは前線に出れるのがアリサだけのため負担が偏るのは目に見えていた。それをすずかから伝え聞いたアリサは気合いを入れ直すように頬を両の手ではたく。

 

「二つ名持ち、レアアバターがなんぼのものよ! すずか、援護は任せたわよっ!」

「うんっ、全力でサポートするよ」

 

 アリサは持ち前の勝気で仲間を奮い立たせる。チームのムードメーカーであるアリサはいつだって勇気を与えてくれた。だがすずかは参謀だ、気持ちは高ぶっても思考は常に冷静でいて盤面を捉え的確な指示をださなければいけない。そんなすずかは内心冷や汗をかいていた。

 

(嫌な予感がする……)

 

 それはブレイブデュエルで遊んでいる期間がロケテストに参加していた人よりも短かったとしても強敵との戦いにより濃厚な時間を過ごしてきたが故に奔った予感。強敵たちはいつだって自分の予想を上回って魅せつけてきた。ならば今回がそうでないと言い切れるわけない。

 すずかは両の手を前にかざしいつでもスキルを使えるように準備をする。それを見たアリサも剣を前に構え正眼の構えを取る。同時に対戦相手であるヴィータと実力が未知数であるトーマも構える――と思ったのだが声は遠くて聞こえないがなにやら言い争いをしているように見えた。

 

「……攻撃してもいいのかしら」

「えっと……う、うん、デュエル中だし」

 

 仲が悪いのだろうかとも考えたすずかだったがヴィータの援軍として乱入してきた人だ。彼女は基本的に他人の助成を嫌う傾向にある、故にゲーム内の設定でフレンド登録を行っている相手以外の援軍乱入は切っていると聞いた覚えがあった。つまり少なくともフレンド登録は行っているハズで友人と言える相手だと思われるのだが、乱入してきてからずっと言い争いをしていたが為に攻撃の手が休んでいたのだろうか。ならば連携の取れていない所を各個撃破が勝ち筋になると判断しチームにだけに聞こえる指示を飛ばす。

 

『アリサちゃん、まずはヴィータちゃんから狙うよ!』

『分かったわ!』

 

 得体の知れない相手に特攻を仕掛けるよりもまずは見知っているヴィータを狙う。アリサであればヴィータよりも機動性で勝っており咄嗟の事態に陥っても逃げおおせる事が可能だと思われるからだ。始めたばかりの頃は何もできずに倒されてしまう事はざらであったが以前の自分達とは違う、2人であれば対処出来る。

 

「ハアアッ! 『フレイムウィップ』!」

 

 アリサが持ち前の機動性を活かして中距離まで接敵しスキルを放つ。彼女の持つ剣型の武器(デバイス)であるフレイムアイズから炎が噴き出し一本の鞭となり、それを思い切り振るう事でしなった炎がヴィータを襲う。いい位置だ、とすずかは頭の中でアリサを褒めた、その距離ならば自分の援護が届き相手の反撃にも対処しやすいからだ。アリサがスキルを使用したのと同時にすずかもスキルを発動させていた。

 

「『アイスバインド』っ……凍って!」

 

 トーマに向けて放たれたスキルは冷気を伴い一瞬で彼の足元を凍らせた。これで接近タイプだと思われる彼がヴィータの助けに入る事が難しくなる、出来て銃による牽制程度だろう。それを片手間で自分が防ぎつつ不意を突いたアリサの動きを支援してやればいい。そう考えたすずかは視線をトーマからヴィータに向けるとやはりワンテンポ動くのが遅れたのが響いているのだろう、アリサの攻撃を自らのハンマー型デバイスで防いだため体勢を崩され攻勢に出る事が出来ない。まだアリサのスキルは続いている、二度目に振るわれる炎の鞭による攻撃がヒットすればHPを大分削れるだろう、後は自分ももう一度バインドを使って動きを止めてやればヴィータを墜とせる――チェスの様に一手一手詰みに行かせる動き。

 

「チイッ! トーマさん!」

「ういさ」

 

 アリサを通じて前線に居る相手2人の声が聞こえる。――やはりくるか。すずかは予想していた通り何かしらの動きを見せるトーマに注視した。無理やりバインドを解除するようなスキルか、その場で何かしらの射撃スキルを使うのか、あるいは以前に使用された事がある凶悪な『アンチスキル』と呼ばれるスキルを無効化するスキルか。今までに戦った強敵たちの多種多様なスキルや技術がすずかの脳内を駆けまわる、同じ理由、同じ状況で2度は負けない、それが参謀として自分に求められている事なのだから。

 

「すずかっ!」

 

 アリサがすずかに注意喚起をする、トーマが動こうとしているのが分かったのだろう。2度目の攻撃をヴィータに仕掛けているアリサは見えていたとしてもトーマの動きに反応する事は出来ない、ならばどうにかするのは、自分だ。

 

「起動しろ、銀十字の書」

 

 トーマは凍結していない片腕を水平に薙いだ、その瞬間彼の前の前に一冊の本が現れる。真っ黒い表紙に銀色の十字架が張り付けられている本だ、それを見た瞬間すずかは戦慄する。

 

「そんなっ、2個目のデバイス!?」

 

 すずかはその本に見覚えがあった。『古書店・八神堂』の主である八神はやてや『グランツ研究所』お抱えの最強チームであるダークマテリアルズの王ディアーチェが使うデバイス(・・・・)。その両者のデバイスにはどちらも共通している点がある、もしトーマが召喚した本も同じ能力を持っているのだとしたら、次に来るのは超範囲の殲滅魔法かトンデモ威力を持った高火力魔法だからだ。

 見誤った。高威力の射撃スキルを使う事くらいならば予想はしていた、だが2個目のデバイス、それもあんなに凶悪なものを使用するなど聞いていない、すずかははしたなく心の中で毒づく。

 

「アリサちゃんっ、すぐ私の傍に――」

 

 来れるわけがない、攻撃中のアリサが動けるわけがないのだ。だから対処は自分がするしかない。だがあの書はいけない、まさかこんな切り札を隠しているとは考え付かなかったのだ。思考をフル回転させる暇もない、咄嗟の判断でしかないがすずかはあの書を使用させないようにと『アイスバインド』をトーマの手元のみに向け放つ。指先を指揮棒に見立てまるで指揮者の様に腕を振るう。その対処は正しかった、トーマが銀十字の書を使用するにはその本のページを破る必要があったからだ。だがトーマはにやりと笑った。

 

「――――」

 

 すずかは驚く暇もない、たった一瞬の差だ。すずかがスキルを発動するために指先を向ける速さとトーマが書のページを破く速さは一瞬の差で、トーマに軍配が上がった。

 

「――指先の動きで俺に追いつけると思われるとは心外だ」

 

 破ったページをそのまま空中に放る、その瞬間トーマの指先から肩までが凍り付く。しかし遅かった、スキル行使のトリガーを防げなかったと言う事はすなわち何らかのスキルが発動されるのだろう。すずかはトーマの腕を凍らせる為に使った『アイスバインド』のスキル硬直が解けていない、つまり導き出される結論は一つ。トーマはそれを裏付けるように凍っていない腕にあるデバイスをすずかの方へと向け言い放つ。

 

「――――『ディバインシューター』」

 

 だがすずかの予想に反して発動されたスキルはよく見知ったスキル、友人であるなのはが好んで使う複数の魔力弾を飛ばすという誰にでも扱える初歩スキルだ。しかしそこから予想外だったのはその数と発動の隙の無さ、普通の『ディバインシューター』であれば魔力(MP)を篭める時間を含め発動までに1秒ちょっと、そして発現する魔力の弾の数は多くても5個。対してトーマが放つ『ディバインシュータ―』は――発動の隙がなく、20個超にも及ぶ魔力弾がすずかを襲った。

 

「そんなの聞いてないよーっ!」

 

 すずかは打ち出された弾に飲み込まれ「きゅうー」と可愛い声を上げながら仰向けに倒れた。空に浮かぶステージの為やられてもぷかぷかとその場に浮かぶだけ、ちらりと見えそうになっているスカートの奥は黒タイツに隠れ見えなかった。

 

「すずかぁーっ! このっ赤い刺青やろー!」

 

 後ろですずかの可愛い断末魔を聞いたアリサは激昂しヴィータを弾き飛ばし攻撃の矛先をトーマへと変更した。しかしすずかが倒れた事により彼に掛かっていた凍らせる魔法は既に解けているのだ。彼はアリサが自分に身体を向けた瞬間に先ほどすずか相手に行ったのと同じように本のページを破りながら叫んだ。

 

「『リアクト』ォ!」

 

 その瞬間トーマの身体が光を放つ。アリサはその光を知っている、自分達も行った事がある『リライズ』または『ユニゾン』と呼ばれるキャラクターカードを掛け合わせる事により進化をする時の発光だ。その効果の強力さは身の程をもって知っている、だから不味いと言う事は理解できる。

 

(リライズでもユニゾンでもなく、リアクト……?)

 

 だがトーマが発した言葉は自分の知るどちらの進化方法でもなかった、それでも起こっている事態は進化のそれなのだ、ならばその隙を狙うまで――と攻撃を実行しようとしたがそれは空振りに終わる。

 

「へっ?」

 

 アリサの炎の鞭による攻撃が当たる瞬間、ありえない速度で横ステップを行い回避された。それもまた彼女の見知った動きであったがどうしてそれを行えるのかが分からなかった。

 

「それは『ライトニングタイプ』だけが使える『スプライトムーブ』のスキルじゃ……!」

「今は『ライトニングタイプ』だからな」

 

 アリサは後方から喋りかけられた。スキル『スプライトムーブ』は高速移動を可能にするがそれにしても早すぎる。レヴィが全力で疾走した時の速度に匹敵するのではないかと思われる速さ、そんな速度で背後を取られたのだ、アリサが回避も迎撃も出来るはずが無く――

 

 

【DUEL COMPLETE】

 

 

 デュエルが終了しブザーが鳴り響く。結果は目をぐるぐると回しているアリサとすずかを見れば一目瞭然だ。弾き飛ばされたヴィータが立ち上がり現状を確認し終えるとハァとため息をつきながらデバイスをしまい、後ろ頭をがしがしとかき一言呟く。

 

「ホント、トーマさんの初見殺しはひきょーだと思う」

「相手さんからしたら理不尽に見えるかもしれんが色々と代償はあるんだぜ……まぁ、ゆだんたーてきってな」

 

 トーマとヴィータはブレイブデュエルの設定を行う半透明のウィンドウを開きブレイブデュエルとのリンクを解除するボタンを押す、すると数秒後にまばゆい光が2人を包み消えてゆく。ステージにはぷかぷかと宙に浮かぶ2人の少女だけが残っていた。

 

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