カードローダーに挑んだ青年の記録   作:コリブリ

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第3話

【 HERE COMES NEW DUELIST ! 】

 

 トーマはゆっくりと目を開く。銀色に縁どられた黒いジャケットに銀髪、赤い刺青。変わり果てた自らの格好をしっかりと確認して眼下に視線を向ける。広がるのは何処までも広がる白、上を見上げればあるのは青。雲海上空ステージに乱入した事を理解した彼は辺りを見渡そうとするとすぐ横にゴシックロリータ風の赤いジャケットに包まれた少女を発見する。

 

「おいーっすヴィータ」

「――どっせいっ!」

 

 およそ小学校3年生が出してよいトーンを越えた低い声と同時にハンマーがトーマに向けて振り下ろされるが横ステップで紙一重避けた。

 

「どわっ!? 危ないだろうが!」

「うるせーうるせー前の試合であんなふざけた勝ち方してここ暫く顔を見せなかったトーマさんなんて知るか」

 

 ヴィータは腕を組んで仁王立ちをし、頬を膨らませそっぽを向いてしまう。その子供っぽい仕草に――事実子供ではあるが――トーマは苦笑しながら肩をすくめ降参のポーズをとった。肩口より少し上に掲げられた両の手を降ろさないまま現状をヴィータに聞く。彼にとってヴィータにいきなり攻撃されるというのは一種のじゃれ合いに過ぎないため気にしていない。

 

「ん、今はアイツら……アリサとすずかさんと戦ってる、トーマさんも名前くらいは聞いた事あんだろ?」

「T&Hのショッププレイヤー、チーム『T&Hエレメンツ』の遊撃手と参謀だな」

 

 トーマは勿論チェックしていると答えた。むしろ現在ブレイブデュエルで遊んでいる初心者でも知っている程の有名プレイヤー達である。ロケテストには参加しておらずある意味ダークホース的な存在として実力を上げている真っ最中だと噂でよく囁かれる。トーマはそんな事を考えながら武器(デバイス)を一機のみ起動させ大剣を出現させた。およそ片手で持ちあげられるような大きさでは無いがそこはゲーム世界、十分に重量はあるものの見た目ほどの重さを感じないそれを肩にトントンと当てる。

 

「書の方は起動しないのか?」

「んー、すずかちゃんは参謀として優秀だって聞くからな。俺の前情報を知ってない限りデバイス見ただけでありとあらゆる対策考えるだろうし、まぁ勘違いしてくれたら儲けものくらいかね。しかしなんで今日は対戦なんてしてんだ? ヴィータはエレメンツの、特にアリサちゃんとはかなり仲が良いって聞いてるけど。最近は3人でフリーデュエルしてるんだろ?」

「また初見殺しで瞬殺とかやめてやれよな……アレ結構心に来るんだぞ。確かにアリサとはマブだけど今日はあたしが宿題たくさん出されちゃったから1戦だけデュエルしようとしてアイツらと当たっただけだ」

 

 なるほどねと一言で返すトーマは大剣を携えていない方の手を水平にしておでこにくっつける。観察するようにアリサとすずかを見るとレーダーモードを起動させているのか半透明のウィンドウを熱心に確認していた。

 

「感心感心、視も知らぬ相手に無策で突っ込む猪じゃない事は確かだな――なぁヴィータ」

「…………」

 

 ぶちりと何かが切れる音が聞こえた。ヴィータはハンマーをぶんぶんと振り回しながらトーマを攻撃する。相変わらず沸点が低いと動物をなだめすかせるようにどうどう言いながらヴィータを落ち着かせようとするトーマ。小学生相手にからかって楽しんでいる高校生も十分子供なのだがそれを指摘する者はここにはいない。

 トーマがヴィータを猪と呼ぶのは2人が初めてデュエルで対戦したロケテストの時に見ない顔だと舐めてデータの確認すらせず突撃してきたヴィータを不意打ちで瞬殺したことが発端となっている。それ以来ヴィータはしっかりと情報を確認するようにはなったのだが悲しいかな慢心癖は治っておらずアリサやすずか達と初めて出会った時は2人の親友であるなのはと呼ばれる少女からかすり傷とはいえ一撃を食らっていた。ロケテスト組が初心者相手に一撃を食らうというのは慢心以外の何物でもない。

 

「あんなんひきょーだろっ! どうせ確認したってトーマさんのジャケットは超ギガレアアバターだからわかるわけねーしっ!」

「種が割れちまえばここまで弱いアバターもないけどな」

 

『エクリプスタイプ』と呼ばれるトーマが纏うアバターははっきり言ってしまえば弱い。ギガレアアバターと呼ばれた割りになぜそんな事が言い切れるのかと言えば、単純にステータスが低いのだ。現在レアリティ『R』のカードを使っているトーマだが体力(HP)は下手をすればレアリティ『N+』の平均値よりも低く魔力(MP)も多くはない。総合値を見れば全タイプ中最弱と言っても過言ではない数値しかないのだ。だが一つだけ他にはない能力を持っているから戦えている、しかしそれも一発芸に近くブレイブデュエルをやり込んでいる者達からすれば対処は容易い、故にトーマはヴィータに対して3割程度の勝率しか持っていない。

 

 うがーとぶんぶん振り回すハンマーを止めないヴィータは接近に気づけなかった。迫りくる一筋の炎が焦がし尽くさんと振り下ろされる瞬間その熱気でやっと相手の攻撃が開始されている事に気づく。

 

「ぐっ……アアアァアッ!! 舐めるなっ!」

 

 ヴィータは自らのデバイスで炎の鞭を受け止める。酷く不格好ではあったが防御には成功し炎を押し戻す。

 

「――――」

 

 トーマもふざけ合っている場合ではないと行動を開始しようとしたが自らの膝から下が凍っている事に気づいた。この氷を発生させたであろう少女の方を見ればこちらに両手をかざしたまま視線はヴィータに向けていた。なおも続くアリサの猛攻に崩れた体勢のままシールドを張るヴィータ。これでは彼女を笑えないなと、トーマは慢心していた心を切り替える為に一瞬だけ目を閉じてデバイスを握り直すと、アリサが中距離からの隙を与えない高火力スキルを使用、すずかが自分の動きを止め各個撃破していく作戦かと状況判断を行った。

 

「チイッ! トーマさん!」

「ういさ」

 

 ヴィータはたまらずトーマに助けを求めた。このままでは自分も凍らせられ中距離以上からの連撃で削り切られると察したのだろう。

 

(さて、すずかちゃんは俺の事を知っているか、それとも知らないか)

 

 まぁ後者であろうなと苦笑を浮かべながら凍結していない腕の内片方を水平に薙ぎ胸の中心に魔力を篭めるようにしてそれを叫んだ。

 

「起動しろ、銀十字の書」

 

 トーマの目の前に現れたるは彼自身のジャケットによく似た色合いをしている本。名を銀十字の書と呼び彼が担ぐ銃剣ディバイダー996に続く2つ目の武器(デバイス)である。ブレイブデュエルにおいて本や杖と言ったデバイスは得てして魔法重視の能力を持っている、例に漏れず銀十字の書も魔力をふんだんに使うデバイス――であったならどんなに良かったか。

 

 トーマはすずかの反応を見るに予測は出来ていなかったのだろうと思った。それでも咄嗟の判断で対応しようとしている辺り彼女の参謀としての能力の高さが伺える。冷気が手元に収束してきている事を感じ取ったトーマは素早く腕を振るった、同時にすずかも同じ動作で腕を振るっている。

 

「――指先の動きで俺に追いつけると思われるとは心外だ」

 

 その動きは彼が何度も何度も行って来た動き、ローダーから排出されるカードをめくる動きと同じだった。そんなふざけた理由で一瞬の差を埋められなかったとすずかが知れば微妙な笑みを浮かべ渇いた笑いが出る事うけあいだろう。

 トーマは当然問わんばかりに腕を振り切りその手には銀十字の書から破りとられた7ページがありそのまま中空へと投げ捨てる。その瞬間肩から先が凍るが問題はないと捨て置く。ひらひらと舞った紙片は光を放ちながら消え、発生した光がトーマの大剣、ディバイダー996へと吸収されていく。ドクンと鼓動が脈打つように魔力の翻弄を感じるトーマ。

 

「――――『ディバインシュータ―』」

 

 魔力の翻弄を外へ向かうように意識すると一瞬にして形成された魔力弾25個が高速ですずかへと向かって襲い掛かり――見事全弾命中。初歩スキルと言えどもあれだけの数の直撃を食らえば超防御力を誇る『セイクリッドタイプ』と言えどもただでは済まないだろう、ましてやすずかは素の防御能力に乏しい『プロフェッサータイプ』だ、耐えきる事など出来はしない。それを裏付けるようにトーマの動きを阻害していた氷が霧散する。すずかが倒れた事を意味していた。

 

(ストックが大分あったから奮発して7枚も使っちまったが……流石に使いすぎたか)

 

 トーマは銀十字の書にストックされたスキルカードを思い浮かべ嘆息する。彼が持つ書は八神はやてが持つ夜天の書やディアーチェが持つ紫天の書と同じくゲーム内に通常持ち込めるカードの保持制限を無視して持ち込むことを可能としている、だが2人の少女が持つ書とは決定的に違う点があった。持ち込んだカードはゲーム内で1度のみ使用でき使えばその試合中には再使用が不可能になるのだが試合をまたげばまた何度でも使用可能だ、それはゲームのシステムとして当たり前の事なのだがトーマが持つ銀十字の書には当てはまらない。

 

(『ディバインシュータ―』のダブりは14枚だったな、半分くらい消費したけど初歩スキルだしまた出るだろ)

 

 銀十字の書は1度スキルカードを使用すれば――2度と同じカードは使えない。トーマが先ほど行った本のページを破り捨てる行為はそのままカードを破り捨てている事とほぼ同義なのだ。一つ何かのスキルを使おうとすれば現実世界のカードが1枚ずつ減っていく、酷く燃費の悪い戦い方しかできない。もし普通にブレイブデュエルを楽しもうとしている子供がこの能力を得たらまともに遊ぶ事など不可能だろう、それを可能にしているのは偏にトーマの課金力が高すぎるが故にだ。

 しかしまともにスキルすら使用することが出来ないデバイスで何故ヴィータに、すずかに勝つことが出来たのか、それは特性のおかげだ。通常の仕様とは違いスキルカードを消費する代わりに重ねて(・・・・)の発動を可能にしていた。それも1度に消費する枚数が多ければ多いほどスキルカードの性能が上がっていくのだ、今回であれば1枚消費で即時発動効果を付与、もう1枚消費で威力増加、残り5枚の消費は弾数増加。それが消費に見合う性能かどうかは使い手次第になるだろう、ローダー戦士のトーマであるからこそ使用できている側面がある事は否めない。

 

「すずかぁーっ! このっ赤い刺青やろー!」

 

 トーマが横を見るとアリサがヴィータを弾き飛ばし炎をこちらに向けていた。すずかがやられたことを悟った彼女のその悔しさに呼応するよう炎がより一層燃え盛り眼前にまで迫っていた。素の能力が低すぎるトーマはこのままでいる限り回避すらできずに退場することになるだろう。だが持ち前の卓越した指さばきでもう一度銀十字の書を瞬時に4枚破く。

 

「『リアクト』ォ!」

 

 咄嗟の判断――ではなく最初から用意していたカードを4枚使用する。不意打ち用として重宝している『ライトニングタイプ』のアバターカード1枚とスキルカード3枚を銀十字の書から破り捨てた。

 そう、銀十字の書が消費出来るのはスキルカードだけではなくキャラクターカードも同様に消費する事が出来る。普通のプレイヤーがゲーム中にキャラクターカードを使用するのは『リライズ』と呼ばれる同じパーソナルカードを掛け合わせる事で劇的なステータスアップを行う時、あるいは『ユニゾン』と呼ばれる自らの分身となるパーソナルカードと他人のカードであるアバターカードを掛け合わせ新たなる特性を得る時だ。ならばトーマが使用した『リアクト』とは一体何か。

 

「へっ?」

 

 リアクトが終わり光に包まれたトーマは途轍もないスピードでアリサの背後へと回り込んだ。

 

「それは『ライトニングタイプ』だけが使える『スプライトムーブ』のスキルじゃ……!」

「今は『ライトニングタイプ』だからな」

 

 トーマは驚愕しているアリサに背後から話しかける。彼の勝ちパターンの一つだ、既に結果は見えていると言わんばかりに幾分の余裕を持ってデバイスを構えた。トーマが行った『リアクト』は自らのパーソナルカードに他のアバターカードを掛け合わせる部分が『ユニゾン』と類似しているが効果は全くの別物、使用したアバターカードが持つジャケットのタイプを自らの『エクリプスタイプ』へと上書きする効果がある。この効果の利点として通常ならばタイプ専用のカードはそのタイプしか使えないのだがトーマは盤面に合わせ『リアクト』することでありとあらゆる状況に対応できる、ある意味ブレイブデュエルのカードをすべて余すところなく使用できるという事だ。今回は『ライトニングタイプ』のアバターカードに加えてそのタイプ専用のスキルカードである『スプライトムーブ』3枚を消費していた。

 

(これもまた使いにくいんだよなぁ……スキルカードと違ってキャラクターカードは排出率低く設定してあるから集めるの大変なんだよ……)

 

【DUEL COMPLETE】

 

 既に攻撃を終えたトーマはひとりごちる。横でぷかぷかと浮かぶアリサをよそに試合終了のブザーを聞き届けヴィータのもとへと向かっている。『ライトニングタイプ』特有のマントを雲間でたなびかせながらヴィータの愚痴ともつかぬ言葉に返事をし、手元のウィンドウを操作してブレイブデュエルから姿を消した。

 

 

 ◆

 

 

 場所は変わり八神堂・古書店の読書スペースでスマートフォンをいじるトーマ。ブレイブデュエル界のホープである『T&Hエレメンツ』の両名を全く寄せ付けずに勝利を得た事は凄い事であるのだがもう一度やれば対策され、もう二度三度と繰り返せば勝率は落ちていくだろう。それもいつもの事なのでトーマは慣れっこだと気にした様子もない。『エクリプスタイプ』は結果と結論から言えばただただ奇襲に特化したタイプと言えるだろう、身も蓋もないが特殊な性能は活かせる環境が限られて当然なのだ。一番苦手なタイプは『セイクリッドタイプ』、いくら奇襲を行おうとも一撃で体力をゼロにできない堅牢さを持つ彼のタイプとだけはいくらやろうが初心者相手でもない限り勝利はない。

 

 トーマはそんな事を考えながらぽちぽちとスマートフォンを見ているとアプリ経由でヴィータからメッセージが飛んでくる。

 

『トーマさんどこにいるんだ? 八神堂からブレイブデュエルやってたならこれからうちで昼ご飯だから一緒に食べようぜ』

 

 どうやら今日は八神家と縁があるらしい。ザフィーラからも誘われたが断ってしまった手前ヴィータの誘いに乗るのも憚られた。トーマは『もう食べてしまった』とやんわり断りの返信を送り再び携帯いじりにせいをだす。

 画面をタッチし一つのアプリを起動させるとマイページと書かれたタブを押しトレード状況の欄を確認する。トーマが開いているアプリはブレイブデュエルと連動し自らのアカウントの勝率や直近の対戦相手のデータを確認できるものだった。カードをトレードに出していればその状況を見る事が出来る。

 

『出品:《キリエ・フローリアン【アクアリゾート!~キリエstyle~】》×5』

『要求:《シュテル・スタークス【アクアリゾート!~シュテルstyle~】》』

『トレード状況:出品中』

『コメント:お願いしますキリエが何でもしますから』

 

「…………」

 

 状況は今朝確認した時と変わらず入札ゼロ。もとよりキリエ3枚でのトレード要求を出してから追加のキリエを投入するまで入札が一件もなかった時点で察してはいたことである。それでもトーマは目を覆いたくなる衝動に駆られる。しかしまだ水着SRが排出される期間はたっぷりひと月以上はある、夏休みいっぱいはチャンスがあるのだ、根気よく引き続ければ他のSRも出るであろうことを考えればそう壁は高くないと思える。何とか気持ちを抑えたトーマはブレイブデュエルのアプリを閉じてすぐさまインターネット掲示板を開く。

 

【トレード】ブレイブデュエルトレードヲチ【監視】part427

 215.名無しのデュエリスト

  水着キリエSR5枚と水着シュテルSR1枚のトレード誰か交換してやれよ……

 

 216.名無しのデュエリスト

  1日ごとに追加されるから逆にどこまで行くのか毎日楽しみにしてる俺がいる

 

 217.名無しのデュエリスト

  現在のレート:水着シュテル1枚=5キリエ

 

 218.名無しのデュエリスト

  シュテル高なのかキリエ安なのかが気になるところ

  ちな1シュテるん=1レヴィちゃん、1なのちゃん、2王様、2お姉ちゃん、な模様

 

「………………」

 

 トーマはすぐさま掲示板を閉じ両腕を机の上においてその上に顔を乗せ不貞寝の構えを取る。世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだった。冷房から流れる微弱な冷気がそよそよと首筋を撫でトーマの身体を冷やす、もういっそ本当に寝てしまおうとする彼にそれを邪魔するが如く携帯が短く震えアプリにメッセージが届いた事を知らせる。恨めしい思いを抱きながら頭だけを上にあげ腕に顎を乗せたまま片手でメッセージを開く。

 

『やっほーん、最近ブレイブデュエルしてるぅ~? 家でずっとゴロゴロしてばっかりのあなたに一陣の癒しの風、キリエちゃんよん』

「――――」

 

 ピシリと固まったトーマ。手に持つそれをぶん投げたい衝動を何とか抑える様子が涙ぐましい。もしこのメッセージがヴィータとのやり取りの後すぐであればここまで彼の背中をすすけさせることはなかっただろう。しかしあまりにもタイミングが悪すぎた。口元を「ω」字にしながらにやけ顔でこの文章を送ってきたであろうピンク髪のヤツ(・・)をこのままのさばらせていいものか。いやよくない。たった五文字、トーマはメッセージを送り返した。

 

『5キリエ』

 

 意味が通じる事を一切期待していないが確実に馬鹿にしている事が分かるその文章はそのままアプリ上に反映された。

 

『えっ、なになに5キリエってどういうこと? 5人揃ってキリエンジャー、モモキリ推参! ってそれじゃあチヴィズとキャラ被ってるし。あ、それとなんだけど――』

 

 トーマはそっと携帯を胸ポケットにしまう。彼女に何を言っても超ポジティブな反応しか返ってこないことは元々知っていたし、定期的に送られてくるキリエのメッセージは大概ぞんざいな扱いであった。

 たった1年間ではあったがトーマはキリエと同じ中学校で先輩後輩として過ごしていた時期があった。繋がりは当時同じクラスだったキリエの姉、アミティエと交流があったからだ。ことあるごとにいじりいじられしているキリエとトーマの関係としては後輩や妹よりも悪友と言った方が適切であろう。故にローダーからキリエのSRが出るたびに憎たらしい顔が思い起こされぐぬぬとなっているわけだが。

 

(キリエに頼めば友人のよしみでシュテるんのカード1枚くらい融通してくれたり……いやアイツに頭下げるのも癪だな。と言うかお姉ちゃんにバレたら大目玉だろうし)

 

 トーマの頭の中で『不正はお姉ちゃんが許しません!』と仁王立ちするアミティエの姿見える。いくらか話の通るキリエと違い熱血漢という言葉がこれほど似合う女性もいないだろう姉に見つかれば説教1時間では済まない事は明白だ。

 くわばらくわばらと身を縮こませ、そのまま寝る姿勢を取るトーマだが30秒おきの間隔で振動し続ける携帯に苛立ちを覚えいっそ電源を消そうとポケットから取り出す。

 

『おーい』『ねえ』『かわいいかわいいキリエちゃんを無視しないでよ』『泣いちゃうわよぉ~』『課金厨』『童貞』『ハゲ』『……むう』『ごめんて』『既読くらい付けてよ』『ゆるちて』『お願いだから反応してぇ』

 

 キリエの扱いは大分悪いがその関係性がどこか心地良く感じているのもトーマにとってはまた事実だった。この世界において一番感謝しているのは誰かと聞かれれば即座にキリエと答えるほどには彼女の事を気にかけている。しかしそれはそれ、これはこれ、ロック画面に表示されるメッセージを全てスルーしたトーマは電源ボタンを長押ししようとして再び震えたそれにたまたま目をやるとキリエとは別の人物からメッセージが飛んできていた。

 

『トーマさぁん、ドクターが用事があるって呼んでるわよぉ』

(あん……?)

 

 ドクターからの呼び出し。それはとある理由から無視することのできない事であった。差出人である四菜・スカリエッティに『今から向かう』と返信しながら席を立ち八神堂を後にする。外に出るとむわりとした熱気がトーマを容赦なく蒸した。目的地はここからでは町一つ分越えなければいけないが相手が相手だけにまた明日とは言えない。ドクターとはトーマにとってそれほどの重要性を担う人物だ、キリエと違うのは精神的な事柄で大事なのではなく生活に直結するが故にだが。

 

『トーマのいけずううううう』

 

 呼ばれた先へ向かう間も携帯は振動し続けていた。




今更ですが世界観はゲームと漫画が混ざってます。
ストーリー軸は漫画、ブレイブデュエルはゲームをオミット。
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