カードローダーに挑んだ青年の記録   作:コリブリ

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2本立て。
シリアスはなるべく短めに。


幕間 ザフィーラとキリエ

 (ザフィーラ)(トーマ)の奇縁が始まったのは丁度3年前、トーマがまだ幼さを残す姿をしていた中学2年生の時であった。その日はたまたま家族の都合がつかず一匹で散歩をしていたところ突然の豪雨にみまわれ近くの公園の木の下へと雨宿りに入ったところ、反対側から同時にそこへ到着した影がトーマその人物であった。お互いの存在に気づいた2人は無言のまま会釈をし合って30分ほどを過ごし雨の勢いが弱まって来た空を見上げてこれまた同時に歩き出した、そして帰り道が同じなのか全く同じ道を数歩離れたまま道を行く。ザフィーラがのちの八神堂に相当する家へ到着するとトーマはそのまま素通りしてそのまま直進して行った、特に知り合いでもないたまたま雨宿り先が同じになっただけではそんな事もあるかとその程度で終わってしまっていただろう。ただ2人の関係はそこで終わらなかった。

 

 これまた一人で散歩をしていたザフィーラは雨宿りをした公園を横切ろうとした、すると噴水の横にあるベンチに彼の少年が座っているのを見つけた。この公園は彼のお気に入りなのだろうかと深く考える事もなくその日は噴水の逆を歩き帰宅路につく、だがまた別の日に同じ状況に出会う、その時たまたま見えてしまった顔は何かを悩んでいるのか眉間にしわがよったものだった。思いつめたその顔に声を掛けようか逡巡したザフィーラだったが考えているうちに少年は立ち上がってどこかへと行ってしまった。

 

 ザフィーラはそれから半月ほど経ちまたもや同じようにベンチに座る少年に出会う。悩みはさらに進行していたようで逆にどこか諦めたように微笑を浮かべていた。今度こそはと考える時間は取らずに少年へと近づき声を掛けた。

 

「少年、何か悩み事か?」

「……ザフィーラ、か?」

 

 まさか自分の名前を知っているとは思わなかったザフィーラは驚いた。どこで知ったのかと疑問に思ったがその疑問以上に少年がやつれた顔をしていたためその思念は捨て置き言葉をつづけた。よければ話を聞くなどと声をかけてもだんまりだった少年だが嘆息すると逆にザフィーラへと問いかけをした。

 

「……自分がおとぎ話の世界に来ちゃったとしたらどうする?」

「ふむ」

 

 普通に考えればあまりに突飛な話だ、だがそれが少年にとって大切な問いかけであることを察したザフィーラは考えるがそんな間にも少年は続けた、桃太郎であればおじいさんとおばあさんが住む村の村人、かぐや姫であればかぐや姫が住む町の住人、そんな存在になってしまったとするならばどうすると。――どうしようもない。そうとしか言えない事だった。

 

「自分でも変なこと言ってるのは分かるんだけどさ」

 

 そう言った少年は外見に似合わない大人びた雰囲気を放っていて、それを見たザフィーラはこの年齢で何かを諦めてしまったような表情をしている彼をそのままには出来ないと思った。

 

「月並みな言葉かもしれないが生きていくしかない、たとえどんな世界であろうと自分は自分だろう」

「……まぁ、そうだよな」

「だがな、もし自分がおとぎ話の世界に来てしまったと分かっているならば、間近でそのおとぎ話を見れるチャンスではないか、自分がおとぎ話の登場人物になる事だって出来る。私は何をするべきかよりも何をしたいかで考えるべきだと思うぞ」

「…………」

 

 ザフィーラは少年の意に沿う言葉を言うよりも自分が純粋に思った事を言った。見た目と中身があっていないように感じるこの少年には上辺だけの慰めの言葉をなぞるよりもあれば効果があると思ったからだ。

 

「おとぎ話は読んでいる分にはキレイに終わるかもしれない、だがその世界の住人はその後も生き続けている。長き歴史の一端を切り取って考えると悩んでしまうのかもしれないが……それが自分の人生だと言うのなら、おとぎ話など他人の自慢話に等しいだろう」

 

 少し難しい事を言ってしまったかとも考えたがこの少年にその心配は無用なようだった。しっかりとザフィーラが言いたい事の意図をくみ取ったのか出会ったときよりも幾分すっきりした顔をしていたからだ。

 

「そうだよな……赤ずきんがおばあさんになったところを見れるのは俺だけなんだよな……」

 

 ありがとうザフィーラと一言残して少年は立ち去る。未だ悩みが完全に晴れたわけではなさそうであったが少しでも助けになったのならとザフィーラは誇らしい気持ちになった。

 

 ザフィーラがそれからまた別の日に公園へ向かうと――また以前と同じ顔をしていた少年がそこにいた。あれだけの会話ではまだ少年が抱える何かを払拭することは出来なかったかと不安になり四本足ですぐさま近寄り話を聞いた。

 

「……自分が狙ったSSRが出なかったとしたらどうする?」

「ふむ…………は?」

 

 ソーシャルゲームと呼ばれる携帯のゲームでくじを引いたら狙ったものが出なかった、たったそれだけの話であった。価値観は人それぞれであるし馬鹿にする心づもりはない、だが一瞬でも心配してしまった自分の時間を返せと言わんばかりにザフィーラは少年の頬へと無言で尻尾を叩きつける。

 

 数分して姿勢を正した2人はあれからの事を話した。元々あった悩み事は彼の友人にも察されてそのことで喧嘩になってしまっていたらしい、どことなく気まずい空気だった友人との関係だが少年が謝りしっかりと話をして解決することが出来たと報告を受けたザフィーラは胸をなでおろす。

 

「全部が全部納得出来たわけじゃない。それでもザフィーラが言ってくれたように俺が今生きてるのはここだから……ありがとう」

 

 それからはお互いの名前を教え合って他愛のない話をする程度の仲に落ち着いた。ザフィーラは少年(トーマ)が未だ何かを抱えている事を知っている、だがそれを聞くことはなかった。なぜ自分の名前を知っていたのかとか、おとぎ話の例えは何を指していたのかとか、聞けるならば聞きたいことはたくさんあった、だがそれを知らないからこそ付き合える関係があってもいいんじゃないかとザフィーラは思っている。連絡先すら知らずたまたま会えばどうでもいいことを話し合える距離感はザフィーラにとっても新鮮で、居心地のいいものであったからだ。

 

「ザッフィー聞いてくれよ……コンプガチャは天井がある分有情だと思うんだ……」

「お前はそろそろ顧みる事をおぼえろ」

 

 いつの間にかついていた自分のあだ名に戸惑い、彼の治らない課金癖をどうするかと考える日々。いつか遠い未来、彼が抱えている悩みを聞ける日があればいいとこの奇縁を続けている。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「おっはよーお姉ちゃん」

「何時だと思っているんですか、遅いですよキリエ!」

 

 キリエの朝は遅い。グランツ研究所では世間の学生たちが夏休みに入ったことで稼働率が上がる事が予想される――事実そうなった――ブレイブデュエルへの対応で研究者やスタッフの人がせわしなく働いていた。そんな中キリエが悠長に惰眠をむさぼっているのは何事か、彼女の言では「あたしも学生だしちょっとくらい休ませてよね」との事だがいくら連日父親であるグランツ・フローリアンを手伝ってるとはいえAMがPMに変わってから1時間後に起床は遅すぎるだろう。

 

(んー……日曜ならいくらでも早起きできるのよねぇ)

 

 変身ヒロイン物が好きなキリエは日曜だけはいやに早起きだった。毎週楽しみにしているニチアサを見逃すわけにはいかないのだ。ちなみに姉であるアミティエ・フローリアンはキリエとは違い特撮ヒーロー物が大好きである。変身ヒロインに特撮ヒーロー、クールに熱血、まるで逆な姉妹であったがむしろバランスが取れているとブレイブデュエル界隈ではもっぱらの評判である。

 

「全く。まぁ最近は忙しかったですから少し遅れるくらいはいいですけどね、せめて午前中には起きなさい」

「はいはーい。んもう、お姉ちゃんは逆に働きすぎなのよー、だから私が代わりに休んで帳尻合わせてるってわけ」

「はいは一回、あと私はしっかりと休憩は取っています。ふざけた事言っていないで歯を磨いて顔を洗って寝癖なおして着替えて――」

「わあ! 分かった分かったわよ」

 

 これ以上ここにいても長ったらしいお説教が続くだろうと逃げるように返事をして部屋を出たキリエはそそくさとお風呂場の方へと向かう。研究所内にある居住スペースのお風呂場横にある洗面台の前で家族以外には見せられないぼさぼさの頭とねむけまなこが鏡に映る、ヘアケア用のブラシと化粧水、ドライヤーでぱぱっと寝癖を直して顔を洗い歯磨きを済ませた。テキトーにあしらった姉の言葉であったが言われたことはしっかりとやるあたり姉への敬意はしっかり持ち合わせているようだ、とはいっても女の子として最低限やらなければいけないことではあるのだが。

 

(さて、今日の予定はーっと)

 

 自室へと戻りいつもの服に着替えてピンクブロンドの髪の毛を整えたら本日の予定を確認し始める。長期のイベントは水着ローダーイベントだけであり1日限定のイベントも夏休み後半にいくつか入っているのみ、ならば父親に指示を仰ごうとスマートフォンを取り出してチャットアプリを開きメッセージを送信しておく。その際アプリ上でIDを登録してある(トーマ)の名前がちらりと見えた。

 

(最近忙しくて会えてないのよねぇ)

 

 イベントが無いとはいえ単純に遊びに来る人数が増えるのでその対応に追われていたキリエ以下スタッフたちは連日おおわらわだった。水着ローダーの対応も地味にこなしていかなければならないためちょっとした休憩時間は食事だけで終わってしまう日が殆どなのだ。そんな中で外に遊びに行くことも出来ず研究所内にすし詰め状態だった彼女は朝の時間はせめて穏やかな時間を過ごしたいと誰かにちょっかいをかけるのが日課になっていた、今日の標的はトーマであるらしい。

 

『やっほーん、最近ブレイブデュエルしてるぅ~? 家でずっとゴロゴロしてばっかりのあなたに一陣の癒しの風、キリエちゃんよん』

 

 キリエはもしこの文章が自分に送られて来たらイラッとするであろうことを理解していた、していながらも送り付けるのは相手がそれなりに親しい人物であるが故、2年ほどではあるが同じ中学校に通っていた友人であるしこれくらい軽い挨拶の方が相手をしてくれるだろうと思っている。ぼふんと音を立てながらベッドにダイブして枕にスマートフォンを置きうつ伏せのままでいるとすぐさま返信が来た事をしらせる電子音が鳴り響いた、枕の下あたりに肘をついて両手で携帯を持つとメッセージを確認する。

 

『5キリエ』

「…………は?」

 

 送られてきたメッセージを見てその文章の意味を考察する。自分の名前が入っている事から他者への送り間違いではないと思うが文頭についている5という数字はなんのか、また5キリエとは何を指しているのだろうか、「5人のキリエがいてくれればうれしいよ」の略なのかあるいは「5分後キリエに会いに行きます」の略なのか、後者であれば付き合う事はやぶさかではないがそうではないだろう。とりあえず前者である可能性を――ありえないが――加味して特に考える事もなくメッセージを送り返す。特に内容の無いやり取りであろうともキリエはいいのだ、仕事が始まるまでの暇つぶしが出来ればいいのだから。だがそんなキリエの思いを打ち破るが如くそれ以降メッセージに既読という文字がつくことはなかった。

 

(ちょっとお、せっかく可愛い後輩が構ってオーラを出してるんだから反応くらいしてくれたっていいじゃない)

 

 無視されている事を確信したキリエはその後20分はメッセージを送り続けた。もはや嫌がらせの域に達しているがおまけとばかりにスタンプを連打してログを流すとアプリを強制終了させてポケットへと突っ込んだ。

 

 トーマはここ最近ブレイブデュエルをプレイしていないのかいわゆる晒し台と呼ばれるデュエルの試合内容が大型モニターに映される事もなかったのでひと月ほど顔すら見ていない、いっそこっちから会いに行ってやろうかと向こうから連絡一つよこさない相手に対して悪態をつく。いい加減のんびりとしている時間も無くなって来たため軽く朝食を取ろうと研究所の方へ向かう途中リビングに立ち寄る、するとそこには4人の少女が歓談をしていた。

 

「あら、みんなそろってなにをしてるのかしらん」

「キリエか……おぬし流石に起床が遅すぎるのではないか?」

 

 真っ先に反応したのはディアーチェ・(キングス)・クローディア。毛先が黒くグラデーションされているシルバーブロンドの髪をした少女、その横を順にレヴィ・ラッセル、シュテル・スタークス、ユーリ・エーベルヴァインと並んで食事をしているらしい。みなこのグランツ研究所にホームステイをしにきている留学生でなんと驚いた事に全員が全員飛び級で中学生なのだ、本来であれば小学生と言う年齢だ、その中でもユーリだけは既に教育課程を終わらせて学校に通う必要すらないと来た、まさしく天才少女たちの集まりなのである。

 

「もう、お姉ちゃんと一緒の事言ってるわよ。口うるさくならない様に気を付けてね」

「2時になってやっとリビングに降りてくる方がどうかと思いますが」

「シュテルちゃん辛辣。あ、私にも朝食ちょうだい?」

 

 大皿に積まれたフレンチトーストを1個つまみあげあむあむと食べるキリエ。彼女達は幼いながらに思った、このような大人にはなるまいと。ぺろりと唇をひと舐めしたキリエは何の話をしていたのかと彼女たちの輪に混ざった。

 

「ダークマテリアルズのファンの話?」

「うんっ、そーだよ!」

 

 元気いっぱいに答えたレヴィは鼻息荒く勝ち誇ったような顔でふんぞり返っている。

 

「レヴィが言うにはどうやら水着ローダーが開催されてから朝一で並んで全デュエリスト中最速で水着SRを手に入れた方がいるらしいのですが、その方がダークマテリアルズのファンだったみたいで」

「うわあ、それは……なんというか、凄まじいわね」

 

 長期で開催されるイベントのためそこまで急いで手に入れようとする必要はないはずなのだ。早く手に入れたいという思いを持つ人がいるであろうことは運営側も理解しており朝早くから整列を行っていたスタッフの話を先ほどたまたま聞いたシュテルがその話題を上げるとレヴィがその人と会話をしていたらしく詳しい事を聞いるという状況らしい。

 

「ふふ、そこまで熱心なファンの方がいるなんて凄いですね」

「ユーリも心はチームの一員であるぞ! しかしなんとも複雑な気分であるな。盛り上げるためとはいえ自らの水着姿がばらまかれるというのは」

「安心してよ王様! その人王様のファンはやめるって言ってたから!」

「!?」

 

 笑顔で言い放つレヴィの言葉に驚愕するディアーチェ。かける言葉が無いのかシュテルとユーリは笑顔のまま汗を垂らしていた。

 

「ま、待て!? そやつはなぜ我のファンだけやめると言ったのだ!?」

「え……? なんでだろう……ダークマテリアルズのファンだって言ってたけど、特にファンなのは……えへ」

 

 言葉の途中でにへらと表情を崩すレヴィをよそにディアーチェはぷるぷると震えながらユーリを呼んで少し離れた場所で何やら会話をし始めた。

 

『のうユーリ、もうちょっとふりふりのバリアジャケットに改造したりは……』

『えっ、あの、ディアーチェは今のままでの十分に可愛いと思いますけど』

 

 彼女はプライドを刺激されたのだろう。そこでふりふりの服を着ればいいという思考にたどり着くのは男性受けを狙っているのだろう、先ほど複雑な気分であると言った割りにはなかなか勇気のある挑戦ではないだろうか。

 

「まあ水着イベントを楽しんでくれているみたいで良かったわ。バトル的な方向に需要のあるカードじゃないしデュエリストさんたちの反応は気になってたのよね

「むしろもっと色々な服装が見たいとの意見が殺到しまして今後も季節ごとの衣装でローダーイベントを開催する方向にまとまりつつあるようですよ、インターネットの掲示板でもおおむね好評なようです」

 

 シュテルは食事を終えていて空いている椅子にノートPCを置いて掲示板を閲覧していた。ローダーから特殊なカードが排出されるイベントは今回が第1回であり研究者たちは反応を見て今後のイベントの参考にしようとしていた。今後も定期的に開催されるであろうローダーイベントは一部の者達にとっては地獄の期間となりえるのだがそれはそれ、楽しみ方は人それぞれであろう。

 

「ところで話は変わるんだけどね、『5キリエ』って何のことだと思う?」

「ごふっ!?」

「しゅ、シュテるん?」

「大丈夫です、あの、キリエはその言葉はどこで?」

 

 キリエにとっては何でもない話題でただ疑問に思っていたことを聞いただけなのだが何故か唐突にむせたシュテルを不思議に思いつつ彼女は答える。

 

「ちょっと友人と話していたらそんな事を言われたのよねぇ、意味が分からなかったからあたしもテキトーに返事しておいたけれど。シュテルは意味を知ってるの?」

「……いえ、私には皆目見当もつきません」

「5人揃ってキリエレンジャーって事だよね」

 

 思考がレヴィと同じだった事に多少の嘆きを感じつつキリエはシュテルの言葉を信じた。もちろんシュテルはその言葉の意味を知っている、だがキリエに伝えるわけにはいかなかった。それが自分のカードとキリエのカードの現在の交換(トレード)レートであることなど、本人の口から伝えられるわけがなかったのだ。別に確立をいじっている訳ではないため全てのSRカードは均等な確率で出る、しかしそこに需要と言う要素を加えたときに発生する付加価値はそれすなわち人気の指標ともなりえるからだ。お前より私の方が人気があるぞなどと本人の目の前で言える者はほとんどいないだろう。

 

「それじゃあ今度本人に聞いてみるわねー意味が分かったら教えてあげる」

「い、いえ、大丈夫です、特に意味の無い言葉でしょうし忘れた方がいいでしょう」

 

 キリエは「そう?」と言いながらスマートフォンの時計を見て急いでリビングを出て行く。シュテルは彼女が言葉の意味を知る日が来ない事を祈りながらノートPCの電源を落とした。

 

 

 どっとはらい。

 




昨今のガチャが巻き起こしている現状へのアンチテーゼ(大嘘)
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