ダンジョン疑似ナザリック攻略戦   作:小檻つかさ

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一層〈中編〉

 

 

甘かった。

 

完全に甘かったと言わざるを得ない。やはり魔導王のダンジョンに安息の地などなかったのである。築き上げたバリケードはすでに崩壊し、目の前には再びアンデッドが迫ってきていた。

 

「――〈雷撃〉(ライトニング)

 

直線に迸る閃光が迫りくる腐敗した生物の胸を貫き、肉の焦げる嫌な臭いを残して偽りの生命は最後を迎える。下級アンデッドである食屍鬼(グール)程度、第三位階まで使う魔法詠唱者(マジックキャスター)であれば一撃で葬り去るのも容易いことであった。

 

――それが一体だけであったらの話だが。

 

「グァアアアアアアアアア!」

 

叫び声をあげるのは食屍鬼(グール)だけでなく、腐肉漁り(ガスト)骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)といった多種多様のアンデッド集団である。スケルトンや動死体(ゾンビ)といった最下級のアンデッドであれば一掃することも不可能ではないが、一体一体がそこそこの実力をもつ群れになると対処は途端に難しくなる。

 

「おいおい、さっきまでスケルトンと動死体(ゾンビ)だけだっただろ?なんで食屍鬼(グール)腐肉漁り(ガスト)の群れがあんなにいるんだ?というかスケルトンたちはどこ行った!?」

 

バジウッドは目の前に迫る腐肉漁り(ガスト)を上下に両断しながら叫ぶ。当然誰もがその問い答えられず、代わりの返答と言わんばかりに数十体もの骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)から放たれた矢の雨がパーティに降り注いだ。

 

鎧を着ている騎士はともかく、魔法詠唱者(マジックキャスター)や神官の装備では一本の矢ですら命に関わる。バジウッドとニンブルは両者の前に立ちふさがり盾となることでこれを防いだ。

 

すぐに第二射を構える骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)に対し、ニンブルは速攻をかける。遠距離攻撃手段がこの二人しかいない以上、防御に徹していたら敵の数が増える一方になるからだ。その判断は正しく、相手の陣形を切り崩す――

 

「――起動式の罠!」

 

――ことはなく、カチリと嫌な音がするのと同時にニンブルは空中に浮かされていた。かけられた魔法は〈飛行〉(フライ)である。

 

〈飛行〉(フライ)魔法詠唱者(マジックキャスター)でも慣れるのに時間がかかるものであり、戦闘中に使うのには相当の訓練がいる。普段魔法を使わない騎士であれば戸惑うのは必然であり、空中でいい的になったニンブルが骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)に狙らわれるのもまた必然であった。

 

ニンブルは自身のアダマンタイト製の鎧を生かし、体を丸めこむことで矢の嵐を耐え凌ぐ。なんとか無事に着地する事に成功するが、その頃には、おびただしい数のアンデッドに囲まれ、まともに身動きが取れない状況になっていた。

 

「退路を作りますわ。移動の準備を」

 

未だ後衛二人の盾となっていて動けないバジウッドを察し、レイナースがニンブルの救出に走る。自身の攻撃力なら行く手を阻むアンデッドをまとめて蹴散らせると考えたからだ。

 

振るわれた槍は取り巻くアンデッド集団の一角を切り崩し、一本の道を作る。ニンブルはこれ幸いと脱出を図るが、敵はこれに対し予想外の一手を打ってくる。後衛職である骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)の半分が肉弾戦で挑みかかってきたのだ。

 

骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)の前衛としての戦闘能力はスケルトンと大差ない為、次々にニンブルとレイナースに屠られるが、そこまでが敵の狙いであった。足を止めて数を減らしにかかる二人に対して、味方ごと矢の集中砲火を浴びせてきたのである。

 

スケルトン系のアンデッドは刺突耐性を持っているため矢でダメージを負うことはないが、二人はそうはいかない。動きを止めようとしてくる骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)を斬り伏せながら弾雨から逃れようとするが、何本かの直撃を受け、その一本は剥き出しになったレイナースの脚にも突き刺さった。

 

「ぐっ!……ぁあ!」

 

〈軽傷治癒〉(ライト・ヒーリング)

 

彼女は一瞬苦悶の表情を浮かべるが、すぐさま脚から矢を抜き放つ。刺さったままであると治癒魔法の効きを阻害するからだ。最適なタイミングで神官から〈軽傷治癒〉(ライト・ヒーリング)が届いたのと同時に、レイナースは再び行動に移る。ニンブルも一緒だ。

 

選んだのは逃げ一択。相手が策や罠を弄してくる以上、同じ場所に留まるのは危険だと判断したのだ。

 

それを易々と許すアンデッド集団ではなく、食屍鬼(グール)腐肉漁り(ガスト)といった追撃部隊がニンブルたちを追った。しかし簡単に追撃を受けさせるほど、魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女も無能ではない。

 

「――〈火球〉(ファイヤーボール)

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女が放った〈火球〉(ファイヤーボール)は追撃部隊の前方に着弾した。攻撃を外したのかと慌てる騎士たちをよそに、彼女の放った魔法は小さな炎の壁を作り、アンデッドたちの動きを止める。

 

炎は多くのアンデッドの弱点属性であり、それに迷いなく向かっていくのはモンスターの本能的に難しい。彼女はそこまで読んで、わざと前方に着弾させたのだ。

 

アンデッド集団の逡巡は数秒程度であり、すぐに追撃に移ってくる。しかし戦闘において一秒とは貴重なものだ。バジウッドはその躊躇を見逃さず、あえて前に出て及び腰になった追撃部隊を斬り飛ばす。そしてそれに合わせるようにニンブルとレイナースも反撃に転じた。

 

唯一懸念されたのは盾がいないときの骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)による後衛への一斉射撃であったが、炎の壁が目くらましになったおかげで、散開する二人を狙い撃つことは出来なかった。

 

そうして追撃部隊をなんとか壊滅させたバジウッドたちは、後衛との合流を図り、態勢を立て直す。

 

「糞!誰だよスケルトンしかいないとか言ってた奴は!」

 

「バジウッド殿ですね」

 

「ああ、俺が悪かったよ!もう勘弁してくれ!」

 

「……どうやらその頼みは聞いてくれないみたいですよ」

 

ニンブルが指し示すアンデッドたちの足元に魔方陣が広がり、蒼白い光に包まれる。そうして再び姿を現したときには、前衛職は骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)に、後衛職は骸骨魔術師(スケルトン・メイジ)に、それぞれ変化していた。

 

バジウッドたちは、スケルトンや動死体(ゾンビ)たちが姿を消し、急に食屍鬼(グール)腐肉漁り(ガスト)が群れで出てきたのはこれが原因であると当たりを付ける。

 

「……殺しきれなかった奴は時間差で強いアンデッドに切り替わるってか?ほんと悪趣味なダンジョンだぜ」

 

バジウッドの言葉に呼応するように、百体にも上る骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)たちは円形の盾を構え、戦闘に備えてくる。その揃った動きは人間の騎士と何ら遜色のないものであった。

 

――ニンブルは予感する。激戦が始まる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずいでありんすね……」

 

状況はかなり厳しくなっていた。モンスターがPOPする速度に狩り殺すスピードが間に合わなくなっており、アンデッドが増える一方になってしまったのである。神官の治癒も徐々に追いつかなくなってきており、まさにジリ貧といった有様だ。

 

「アウラに〈伝言〉(メッセージ)を!」

 

シャルティアの判断は早かった。自身だけでは浮かばないであろう打開策も、アウラの協力があればなんとかなるかもしれないないという考えである。これは決して消極的な思考によるものではなく、前回の失敗を踏まえた行動であった。シャルティアには記憶はないが、あの時は相談できる相手がいなかったため一人で突っ走り、精神支配を受ける大失態を犯したらしい。

 

仕事の基本は報・連・相である。自分に出来ないことを誰かに相談するというのは恥ではない。むしろ抱え込んで大きなミスに繋がることのほうがよっぽど悪い。そういった意味で、変なプライドに拘らず人に助力が乞えたシャルティアは成長したといえるだろう。

 

周りがそう思ってくれるかは別であるが。

 

「……どうしたのシャルティア?こっちも忙しいんだけど」

 

「アウラ!挑戦者たちが死にそうでありんす!」

 

「えー?なんでよ?あいつらの実力でも十分突破できるくらいにアンデッドのレベルも調整したでしょ」

 

「それがわかったらおんしに連絡なんてしないんす!」

 

予定通りにいかず慌てているだろう同僚にジト目を向けながら――当然その光景はシャルティアには伝わらないが――アウラは答える。

 

「……どーせシャルティアが打ち合わせと違うことしたんでしょ?」

 

「そんなことありんせん!アウラが相手のレベルを図り間違えたんでありんしょう!」

 

「それこそ無いって。シャルティアじゃあるまいし」

 

「どういう意味でありんすか!」

 

幼い姉妹の喧嘩のような言葉の応酬がしばらく繰り広げられ、時間が刻々と過ぎていった。いつまでもこんなやり取りをしている暇はないと気が付いたアウラは、仕方なく先に折れ、問題の解決策を練ることを提案する。

 

「……やめよう。ここで言い合っても仕方ないし。とりあえず一から何があったか説明してよ」

 

「……そうでありんすね」

 

シャルティアも自身が置かれる状況が差し迫っていることを思い出し、冷静さを取り戻す。そしてアウラとの打ち合わせで決まったことを思い出しながら、一連の流れを説明し始めた。

 

「序盤はスケルトンと動死体(ゾンビ)を中心に攻めさせたでありんす。今回の挑戦者には弱すぎるとはわかっていんしたが、今後のダンジョン運営の手間等々を考慮して、POPする順番はいじらないでおこうとの判断だったはずでありんす」

 

「うん、そうだね」

 

「POPする速度も、前の敵を倒しきるまでにかかった時間の倍の時間が経過するごとに出てくるようにして、一度にPOPする数も徐々に増やしていったでありんす」

 

「余裕をもって倒したら次の敵は早く。手こずるようだったら立て直す時間を与えようって話だったね」

 

「そのあとは食屍鬼(グール)腐肉漁り(ガスト)骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)といった具合に、徐々に強いモンスターに変えていきんした」

 

「うんうん、それも打ち合わせ通り。……うーん、でもそれだったらやられるはずないんだけどなー。ちなみに今はどうなってるの?」

 

アウラは帝国四騎士の実力を思い浮かべながらシャルティアに尋ねる。20レベルそこそこ程度の彼らが食屍鬼(グール)腐肉漁り(ガスト)といった下級アンデッドに手こずるとは思えなかったのだ。

 

シャルティアはその問いに、ありのままの現状を答える。

 

「今は100体くらいの骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)たちに囲まれていんすね」

 

「……はい?」

 

「ん?何かおかしなことを言ったでありんすか?」

 

きょとんと可愛らしく首を傾げていそうなシャルティアを幻視してアウラの怒りが再燃するが、なんとか持ちこたえる。また言い合いになっているほど時間の猶予はないと考えたからだ。

 

「いや、色々聞きたいんだけど。まずなんでそんなに数がいるの?徐々に増やしていったんでしょ?」

 

「もちろん。前回のPOPのときに倒しきった数の倍を次のPOPで出すようにしんした。つまり、1分で1体倒したとしたら2分後に2体出てくるってことでありんすね」

 

得意げに説明してくるシャルティアにアウラは冷静にツッコミを入れる。

 

「いや、倍ってキツイでしょ。8回目のPOPで100体以上でてくることになるじゃん」

 

「た、確かに。よく考えるとそうでありんすね」

 

よく考えなければわからないのか、とアウラは頭を抱えたくなる。

 

「でも、倒すのに時間がかかったら次のPOPは遅くなるのでありんすよ?それにPOPできる数にも限界がありんすから、最大でも百体くらいしか出ないはずでありんす。それだったら問題ないでありんしょう?」

 

シャルティアの言うことも間違いではなかった。彼らの実力であれば、百体のスケルトンは手こずるだろうが時間をかければ倒しきるだろう。そうしたら休む余裕もできるし死ぬ危険などないだろう。

 

となると、この状況を招く原因は限られてくる。

 

「まさかとは思うけど、POPしたモンスターを倒しきる前に次のモンスターをPOPをさせたりしてないよね?」

 

「……いや、前の敵を倒しきった時間の倍の時間が経過したら自動でPOPするようになっていんすね。その場にモンスターが居ようが居まいが」

 

原因はアンデッドの無限湧きが原因だった。これでは挑戦者があんまりだ。

 

「まずPOPを全部カット!これ以上数を増やしたらもうどうしようもなくなるよ」

 

「りょ、了解でありんす!」

 

大急ぎでダンジョンのコンソールを弄っているだろうシャルティアを想像してアウラはため息を吐きたくなった。

 

「それで、もう一つ聞きたいんだけど、なんで骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)がそんなにいるの?」

 

「ん?徐々に強いモンスターに変えていったからでありんすよ?」

 

「いくらなんでも溜まるのが早すぎるでしょ。無限湧きするスケルトンに囲まれながら骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)を百体POPさせるペースで倒せるとは思えないんだけど」

 

「徐々に強いモンスターに変えていくのでありんすよね?だからわらわは10POPするのにかかった時間ごとに次のモンスターに交換していったでありんす。転移魔法を使って」

 

「倒しきれなかったモンスターを強いのに変えて、POPする数もリセットしなかったってわけ?」

 

「そういうことになりんしょうえ。いやー、いちいち転移魔法を使うのはさすがに骨が折れたでありんす」

 

「…………」

 

一仕事終えたと胸を張っているであろうシャルティアをイメージしたアウラは、呆れてものが言えないという経験を後何度味わえばいいのだろうか、そんなことを思った。

 

「徐々に、っていうのはダンジョンの奥に進むにつれてって意味に決まってるでしょ!時間経過で切り替わったらスケルトンを一体を倒すようなパーティにも時間がたったら骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)と戦うことになるじゃない!」

 

「そ、そうでありんすが……でも打ち合わせではそんなこと聞いてないでありんす!」

 

「言わなくても普通わかるでしょ!とにかく!アンデッドの指揮を取ってるフロアボスに連絡して攻撃の手を緩めてもらおう。このままじゃ本当に全滅しちゃうよ」

 

「わかったでありんすよ!おいお前!さっさと走って今の話伝えて来い!あと――」

 

シャルティアが再び慌ただしく動き出した――実際に動いているのは配下の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)であるが――のを感じ、アウラは脱力する。しかし、気を抜いている暇はない。今も自分の作ったトブの大森林内部の要塞ではやっかいなことが起こっているのだ。

 

「シャルティア?聞こえてないかもしれないけど、あたしは自分の仕事に取り掛かるからもう切るからねー?」

 

返事がないのを確認してからアウラは〈伝言〉(メッセージ)を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)が振り下ろした剣がニンブルの目の前に迫る。

 

ニンブルはそれを横に回避し、カウンターの要領で反撃を放つことで見事に一体を切り伏せる。しかしすぐさま二体目の攻撃が迫るので休んでいる暇はない。低位のアンデッドの学習能力は低いので同じ要領で倒すことはできるが、問題はこれが無限に続いていることであった。

 

おそらくニンブルが倒したアンデッドはこの数時間で百体を超え、バジウッドとレイナースも同じくらいの数を倒している。

 

どうやら維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)は戦闘の疲労やダメージまでは無効化してくれるわけではないらしい。肝心なことはなにも説明しない管理者に腹が立ったが、そうでなくても精神的な疲労は積み重なっており、限界は近かっただろう。

 

ニンブルたちは必死に群れを食い止めているが、それはいつ崩壊してもおかしくないほど均衡した状態であった。それを鑑みて魔法詠唱者(マジックキャスター)は最後の決断をする。

 

「――撤退を提案する」

 

「そんな!まだ一層ですよ!こんな体たらくで魔導王が納得するとは思えません!」

 

「――命は大事。それに私はあなたたちが死ぬことが無いようにしろという命令を受けている」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女の目には本気の光が灯っている。それは本当にあの管理者からそういった命令を受けていることの証明であろう。ただ、バジウッドには気になることが一つだけあった。

 

「それはこのままだと俺たちは死んじまうってことか?」

 

「――…………」

 

沈黙は肯定の証である。バジウッドはそんな彼女に強い言葉を向ける。

 

「嬢ちゃん、帝国四騎士を甘く見るなよ?」

 

「――えっ?何を!?」

 

その叫びが聞こえるや否や、バジウッドは自ら骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)の群れの中に飛び込んだ。当然餌に群がる蟻のように、獲物に襲い掛かる。一対一であれば彼のほうが強いと言えるが、全方位を敵に囲まれて生き残る術はない。魔法詠唱者(マジックキャスター)は任務の失敗を覚悟した。

 

しかし、バジウッドは――

 

「うじゃうじゃと湧いてきやがって気持ち悪いんだよ!死ね!〈戦気梱封〉〈流水加速〉!」

 

――目にもとまらぬ回転は斬撃の渦を引き起こし、円形の盾を構える骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)を盾ごと両断していった。

 

「もう死んでる者にその罵倒は不適切では?〈縮地〉〈斬撃〉!〈即応反射〉!」

 

そうなることが分かっていたとでも言わんばかりに、ニンブルは冷静に、かつ素早く、攻撃を免れた獲物を一匹ずつ仕留めていく。〈縮地〉による高速接近と〈斬撃〉のコンボは骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)程度に躱せるものではなく、〈即応反射〉ですぐさま体勢を立て直す彼には反撃される隙もなかった。

 

とはいえまだ敵は何十匹とおり、それが彼らに襲い掛かろうとするが――

 

「お二人とも、少し離れてくれます?〈肉体向上〉〈剛腕剛撃〉!」

 

――レイナースが一度槍を振るうだけで、骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)の前衛は初めからいなかったように木端微塵に消し飛ばされた。後ろに控えていたアンデッドたちもその威力に恐れをなしたのか、攻撃してこようとしてこなかった。

 

まっとうに騎士という職業を鍛え上げた者たちの武技は、なんと出鱈目な力を持つのだろうか。魔法詠唱者(マジックキャスター)がそんなことを思いながら唖然としていると、バジウッドたちに声をかけられる。

 

「嬢ちゃん、俺たちのことももう少し信頼してくれよ。確かに俺たちは冒険者としては初心者もいいところだが、騎士として帝国を守るため常に最前線で戦い、力をつけてきたつもりだ。このダンジョンに入った時から命をかける覚悟はしている。俺たちに気を使って消極策を取る必要はないぜ」

 

「そうです。お互い命をかける以上、遠慮は無用です。無事に踏破して魔導王の鼻を明かしてやりましょう!」

 

「どうでもいいですけど、私の目的のためにあなたも全力を注ぎなさい」

 

「はっはっは!お前さんはそればっかりだなー」

 

バジウッドの笑い声がダンジョンに響き渡る。張りつめていた雰囲気が弛緩していく気配に危機を感じつつも、魔法詠唱者(マジックキャスター)は自身が楽しかったころの冒険を思い出していた。

 

「泣いて、いますの?」

 

気づけば、魔法詠唱者(マジックキャスター)の頬には一筋の涙が流れていた。もう戻れない過去。訪れない未来。彼女が悲壮にくれるのも仕方のないことだと言える。しかし、彼女はそんな現実を変えるために悪魔と契約したのだ。そのためだったらどんな地獄さえ乗り越えてみせる、と。

 

彼女は決意を新たに――この旅限定ではあるが――仲間たちに向き直った。

 

「――申し訳ない。少し臆病になっていた。あなたたちの実力は十分に信じている。……私に、力を貸してほしい!」

 

騎士たちは破顔し、強く頷き返す。彼らとてこのダンジョンを踏破しなければならない理由があるのだ。

 

仲間たちの結束は固まった。こうなったパーティは無類の強さを発揮する。

 

 

 

”不動”がいた時の帝国四騎士のように。

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女の前パーティーのように。

 

そして、魔導王のかつての仲間たちのように。

 

 

 

バジウッドたちは気力を振り絞って反撃に移る。ようやく増える気配がなくなってきたアンデッドを狩り尽くそうという判断だ。心なしか骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)の圧力も減ったような気もしていた。

 

気力は実力に作用する。攻略に真の意味で本気になったバジウッドたちの快進撃を止められる存在は一層にはいなかった。

 

そうして、彼らはついにフロアボスがいるであろう最奥の部屋にたどり着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、ハムスケの奴、こんな忙しいときに問題起こして。あとでお仕置きしてやらないと」

 

当然、アウラには本気のお仕置き――八本指に行ったようなこと――をする気はない。自分たちの主人であるアインズのペットを虐待するわけにはいかないからだ。とはいえ、拳骨くらいはお見舞いしても許されるだろうと、ナーベラルとハムスケの普段のやり取りを思い出しながら、漠然と考えていた。

 

「そういえば確認しなかったけど、フロアボスはちゃんと指示出来てるのかな?」

 

アウラが心配するのも無理はない。蜥蜴人(リザードマン)との戦争時の敗因の一つは指揮官の不在だ。適正レベルを基準にボスの種族を指定したのでその辺りは不安材料だった。シャルティアが個体を選んで連れてきたのもそれを後押しする。

 

そんなアウラの懸念を知る由もないシャルティアは、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)にこんな釘を刺していた。

 

 

 

「――わたしの部下になったとはいえ、アインズ様がお作りになった方に失礼のないようにしろよ!」

 

 

 




次回こそフロアボスと戦います。
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