ダンジョン疑似ナザリック攻略戦   作:小檻つかさ

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一層〈後編〉

辿り着いたのは大広間。

 

石で出来ているであろう床は縦横五十メートルほどの広さを誇り、敷地に物が一切置かれていないことから、帝国の闘技場のように戦うためだけに作られた場所であることを伝えてきた。もっとも、それを確信させたのはその中央にいる存在によってであるが。

 

古びているが豪華なローブでその骨と皮からなる肢体を包み、捻じれた杖を手に持つアンデッドの魔法詠唱者(マジックキャスター)。それこそ――

 

「――死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)!」

 

――ミスリル級でなければ相手の難しい強大なモンスター、死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)であった。

 

「その通り。第一階層フロアボスのクラルグと申します。どうぞよろしくお願いします」

 

優雅に一礼する姿は様になっていたが、アンデッドが行っていることのちぐはぐさが酷く滑稽に映った。

 

死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)のくせにずいぶん流暢に喋るじゃねえか」

 

バジウッドが怪訝に思うのも当然である。本来、アンデッドは生きる者に敵意を持つため、会話の余地などあるはずもないのだ。極稀に知恵のある個体が現れることがあるが、そんなものに出会うのは一流の冒険者の中でも珍しく、唯の騎士であればなおさらその可能性は低くなる。

 

「私は偉大なる御方によって創造された身ですからね。この程度造作もありません」

 

その言葉にこもる感情は畏敬の念。このアンデッドもまた魔導王に絶大なる忠誠を捧げているという何よりの証拠であった。これだけ言葉を巧みに操れるのであれば、エ・ランテルでは死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)が行政を行っているというのも本当なのかもしれない。

 

なんにせよ、魔導王は知恵のあるアンデッドすら生み出せることが判明したのは大きな収穫であろう。生きて帰ってこの事実を皇帝に伝えなくては、とニンブルは気持ちをまた引き締め――それがジルクニフの胃をさらに痛めるとは知らずに――剣を構える。

 

「貴方を倒せば、次の階層に進めるということですか?」

 

「その通りでございます。戦いの合図はいりませんよ」

 

死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)の態度はまさに強者の余裕といったものであった。強大なアンデッドに相応しいものではあったものの、その傲慢さの隙をつかないほど帝国四騎士は優しくない。

 

「そうですか、ではお言葉に甘えて!〈縮地〉」

 

そう言い切り、ニンブルは〈縮地〉を発動させる。十メートル程度の距離は彼にとって無いに等しく、一瞬のうちにクラルグの眼前に迫った。

 

防御力の低い死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)であれば一撃で屠れると振るわれた〈斬撃〉は相手を脳天から一直線に切り下す――

 

「……血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)ですか」

 

――ことはなく、その攻撃は肉の壁に阻まれた。血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)は防御に特化したアンデッドであり、倒すのに時間がかかることに定評がある。白金級でも十分倒せると言われているが、壁役としては優れているため、遠距離攻撃を有するモンスターと組まれると非常に厄介な存在であった。

 

つまり、今の状況は最悪に近い。

 

「ニンブル!上からもう一体来るぞ!」

 

バジウッドの声に合わせて視線を動かすと、もう一体の血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)がこちらに向かって落下してくるのが見えた。赤黒い肉の塊が自身に降りかかってくる様子はなんともグロテスクな光景であったが、目を逸らすわけにもいかない。ニンブルは先ほどから肉の壁に突き刺さったままに剣を引抜き、大きく後ろに飛び退くことでこれを回避した。

 

クラルグからの魔法による追撃をニンブルは警戒するが、どうやら相手にそのつもりはないらしい。あの速攻を見ても、強者は自分であるという態度を崩さない相手の実力を考えるとこれからの激戦が予想され、全員の気分が重くなった。

 

「レイナース、俺と一緒にあの肉壁を引き付けるぞ。ニンブル、お前はさっきの要領で死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)に接近戦を仕掛けろ。嬢ちゃんと兄ちゃんは適時魔法で支援してくれ」

 

しかし、空気を読まないバジウッドはそんな逆境など気にしない。下を向くパーティーに活を入れる勢いで次々に指示を下していく。

 

「承知しました!」

 

「仕方ありませんわね」

 

「――了解した」

 

そうしたバジウッドの底抜けの明るさは周りをも照らした。神官以外の全員がその意気に呼応し、活力を漲らせる。

 

「じゃあ行くぞ、散開!」

 

その言葉に合わせて、帝国四騎士はそれぞれターゲットに迫る。バジウッドとレイナースはすぐに接敵するが、ニンブルはそうはいかない。クラルグがついに魔法を使い始めたからだ。

 

「〈火球(ファイヤーボール)〉」

 

迫りくる火の球は轟々と燃え盛り、ニンブルの脇をかすめていく。一撃で死に至るほどではないが、その威力は強大だ。易々と直撃を受けるわけにはいかない。

 

「〈火球(ファイヤーボール)〉」

 

だが、無慈悲にも攻撃は続けられる。連続で火球(ファイヤーボール)がニンブルに襲い掛かり、その接近を妨げる。なんとかこれも回避に成功するが、距離はまるで縮まっていかない。武技を使って近づこうにも、直線的にしか進めない〈縮地〉では攻撃魔法のいい的になってしまう。

 

「〈火球(ファイヤーボール)〉」

 

三度目の火球(ファイヤーボール)が放たれ、こちらに迫ってきた。淡々と行われる攻撃はまるでを回避する練習でもさせられている気分になってくる。

 

とはいえ、いつまでもこのままでは埒が明かないと、ニンブルは思いきった行動に出る。

 

「〈縮地〉!」

 

ニンブルは自ら燃え盛る炎の中に高速で突っ込んでいったのだ。いくらアダマンタイトの鎧を着ているとはいえ、エネルギーのダメージまでは無効化できない。このままでは生き残れたとしても大きな怪我を負うことになるだろう。

 

だが、そうはならなかった。

 

「――〈火属性防御(プロテクションエナジー・ファイヤー)〉」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女からの防御魔法がニンブルの体を包み込んだからだ。ダメージを無効化することまでは叶わないが、一度の攻撃を耐えるくらいは問題ない。炎が目くらましになったのが再び功を奏し、ニンブルの接近は直前まで気づかれなかった。

 

「ほう!?」

 

ニンブルの剣はクラルグの体を袈裟に斬る。両断まではいかなかったがその傷は深く、致命傷であると思われたが、攻撃の手は緩めずに二度目の攻撃を振り下ろしにかかる。

 

しかし、次の瞬間にはかちりという音とともにクラルグの姿は遠くに消えていた。足元には起動式の罠らしいスイッチが置かれており、転移魔法か何かで移動したことをうかがわせた。

 

距離は再び二十メートル以上離れており、接近は容易ではない。ダメージを与えたとはいえども、同じ手が二度通じる相手ではないことを鑑みると、状況はむしろ悪化したといえるだろう。

 

「……なかなかやりますね。〈火球(ファイヤーボール)〉!」

 

四度目になる火球(ファイヤーボール)がニンブルに迫り、これを横っ飛びで回避する。すかさず〈即応反射〉を使い体勢を立て直すと、二度目の速攻をかける。

 

「もう一度突っ込みます!援護を!」

 

「――了解」

 

「〈縮地〉!」

 

先ほどの奇襲とは違った強行突破を仕掛ける。クラルグレベルの火球(ファイヤーボール)であっても一度なら受け切れるとわかったからだ。

 

「〈雷撃(ライトニング)〉!」

 

クラルグもそれがわかっているので魔法を変える。魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女が使う防御魔法は一属性のみに効果を発揮するものであるからだ。

 

「――〈雷属性防御(プロテクションエナジー・エレクトリシティ)〉」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女もそうなることは予想しており、すかさず雷に耐性を持たせる防御魔法を発動する。

 

クラルグが使った魔法と防御魔法の属性が一致したのは偶然、ではなく、少女が死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)の攻撃パターンを熟知していたから出来たことである。

 

クラルグもすぐに次の別の呪文を唱えようとするが、時すでに遅く、ニンブルは近接を果たす。次々に放たれていく剣撃はすさまじい勢いで相手の体力を減らしていき、じりじりと後退させていった。

 

このまま倒せる、ニンブルがそう確信した瞬間、再びかちりという嫌な音が鳴り響き、クラルグの姿が消えた。足元には先ほどと同じようなスイッチがあり、転移した先にも同様なものが見える。

 

「見事な攻撃ですが、私の体力を削りきるほどではありませんね」

 

クラルグはいまだ楽勝といった態度を崩さず、ニンブルに挑発じみた言葉を送ってくる。

 

その余裕はいつでも転移出来る、といったところから来ているのだろう。改めて辺りを見渡してみると、部屋のあちこちにスイッチらしきものがあり、クラルグはいつでも逃げられるようにそのスイッチを背にして戦っていることが分かる。

 

「ならばもう一度罠を起動すれば追いつけるということですね!」

 

「――待って!」

 

ニンブルはもう一度転移魔法を発動させようとスイッチを踏み抜く。しかし次に発動したのは――

 

火球(ファイヤーボール)!?」

 

――攻撃魔法である火球(ファイヤーボール)であり、ニンブルの体は紅蓮の業火に包まれた。

 

「〈中傷治癒(ミドル・キュアウーンズ)〉」

 

すぐさま神官から治癒魔法がかけられたため、命には別状はないが、ダメージは大きかった。

 

「おい!ニンブル大丈夫か!?」

 

「え、ええ、なんとか……。ただ、一度そちらに退かせてもらいます」

 

ニンブルは後退し、態勢の立て直しに図る。素の状態で火球(ファイヤーボール)の直撃を受けて、生き残ることが出来たのは流石帝国四騎士と言えるだろう。

 

クラルグは、無事に耐えきったのを興味深く思ったのか、不思議そうな眼差しをこちらに向けてくる。その態度は、まるで実験動物に面白い反応があったとでもいうようなもので、ニンブルは気分が悪くなった。

 

ニンブルが元いた位置に戻ると、バジウッドとレイナースも血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)との戦いを中断し、パーティー全員での合流を果たす。この死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)であれば不意を突いて攻撃してくることはないだろうとの判断からだ。

 

そしてその予想通り、クラルグが追撃してくることはなかった。与えたダメージも大きかったので治療に専念しているのだろう。それを見計らって、バジウッドは作戦会議――ニンブルへの詰問会といった方が正しいかもしれない――を試みる。

 

「今後の作戦だが、その前にニンブル、言うことはないか?」

 

「……迂闊な行動をして、申し訳ありませんでした」

 

「未知の罠を自ら踏み抜くなんて自殺行為もいいところですわ」

 

「……おっしゃる通りです」

 

勝機と思い込み勇み足を踏んだ――実際に踏んだのは起動式の罠であるが――ニンブルに厳しい声が寄せられる。自身の命を失いかけたのもそうだし、下手を打てばパーティー全員を危険に曝しかねない行為だったからだ。

 

ニンブルもその危険性を身をもって知ったからこそ、その叱咤を甘んじて受け入れているのだ。二人の言葉に続いて魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女も口を開く。

 

「――でも、生きていてよかった」

 

おもわぬ少女の言葉に一同が呆然とする。

 

が、すぐに全員が破顔する。問いに対する回答以外、ほとんど話すことのなかった彼女が、少しずつではあるが、心を開いてくれていることが感じられたからだ。

 

もちろん、少女には帝国四騎士が死ぬことないように命令を下されているため、任務の成否といった打算的な思惑がないとは言えないだろう。それでもニンブルたちは嬉しかった。

 

「ニンブル、嬢ちゃんが可愛いからって惚れるなよ?」

 

「惚れません!いい加減、真面目に話しましょうよ!」

 

バジウッドの冗談もそこそこに、パーティーはクラルグ討伐の策を練り始める。

 

「さて問題のあいつをどう倒すか、だが、何か意見はあるか?」

 

「方法は二通りあると思います。このまま少しずつ体力を削っていくか、ワンチャンスを作り一撃で倒すか、この二つです」

 

「前者はこちらもジリ貧になる可能性が高いでしょうし、後者を推しますわ。私の武技なら、あの死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)が特別製であろうと一撃で葬れると思いますし」

 

「――後者はそのチャンスをどうやって作るかが問題。先ほど使った手はもう通用しないと考えたほうがいい」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女はそう分析する。クラルグの対応の早さはモンスターとは思えないほど柔軟で早かったからだ。

 

「転移先を予想するというのはいかがですか?今のところ反時計回りに移動している様子ですが」

 

「思い込みは危険ですわよ?」

 

「――その通り。それに起動式の罠がどんな法則で切り替わるのかも気になる」

 

「え?あの死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)以外が乗ったら、火球(ファイヤーボール)が発動するんじゃないんですか?」

 

「――起動式の罠に二種類の魔法を含ませるというのは非常に高度な技術。それに加えて、罠が対象を自動的に選別して発動するというのは考えにくい」

 

「な、なるほど」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女の言は正しく思えたが、ニンブルは、魔導王のダンジョンの罠であればその可能性もあるのではといった不安は拭えなかった。

 

そんなニンブルの葛藤など知らないレイナースは少々強引な手に出る。

 

「とりあえず、試してみるしかありませんわね〈剛腕剛撃〉!」

 

床を抉るように武技を放ち、出来た石の塊をクラルグに向かってゴルフボール――とは比べようもなく大きいが――のように打ち放ったのだ。

 

クラルグはこれを難なく回避するが、レイナースの狙いは攻撃ではない。飛ばされた石は見事にスイッチに激突し、その姿を消した。転移魔法が発動したのだろう。

 

それを受けたクラルグは徒歩での移動を始める。これは起動式の罠が二度続けて転移することはできないことを証明したと言える。

 

「これであの死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)以外も転移できるとわかりましたわね」

 

したり顔でそう言い放つレイナースに、パーティーの全員が何か言ってやりたい気分になるが結果を出されては何も言えない。仕方なく推理を再開する。

 

「移動先はやはり反時計回りですか。あまり凝った罠にはなっていないのかもしれませんね」

 

「――レイナースさん、もう二回ほど同じ場所に。その後にどこでもいいので別な場所にもう一度」

 

「人使いが荒いですわね。まあ、構いませんけど〈剛腕剛撃〉!」

 

三回ほど起動させられた罠はそれぞれ〈火球〉(ファイヤーボール)、転移魔法、転移魔法の順で発動する。その結果を見た魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女は呟く。

 

「――把握した」

 

「転移魔法の仕様が分かったということですか?」

 

「――確定ではないけど」

 

「何やら、あいつを倒しうる策を思いついたようですわね?」

 

レイナースの質問に、魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女は申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「――ただ、この策を成立させるためには誰か一人が防御魔法なしで火球(ファイヤーボール)を受けきる必要がある」

 

それは帝国四騎士といえども一瞬の躊躇を生むものであった。先ほどのニンブルの惨状を見れば、進んで火球(ファイヤーボール)を受けたいと思うものはいないのも当然だろう。そこで名乗りを上げたのは――

 

「俺がやろう」

 

――バジウッドだ。彼は他の誰にも有無を言わせない強い口調で言い切る。その表情は何かを決意した男のそれであった。

 

「――了解した」

 

その覚悟を受け取り、魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女はクラルグを倒す策を三人に話す。不安そうな雰囲気を漂わせるのはニンブルだ。

 

「……果たしてそこまで上手くいくでしょうか?」

 

「ニンブル、上手くいくかどうかじゃねえ。上手くいかせんだよ。それくらいの気概がなきゃ、あの死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)は倒せねえ」

 

「この策の要は貴方たち二人ですわ。止めを刺す私にいいところを持ってくるよう必死で努力なさい」

 

「……全く、お二人には敵いませんね。よし!行きましょう!」

 

ニンブルの言葉とともに、三人はそれぞれ武器を構え、突撃の態勢を整える。

 

「準備が出来たようですね。こちらも回復が済みましたし、いつでもどうぞ」

 

クラルグの余裕の態度は変わらない。フロアボスに相応しく、堂々と挑戦者を迎え撃つ。バジウッドたちもその心意気に従うかのように正面から突破を図った。

 

「簡単に近寄らせはしませんよ。血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)!」

 

クラルグも容易に接近を果たさせるわけにもいかない。フリーになった血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)を前線に送り、その進行を阻みにかかる。

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女もそうなることはわかっていた。クラルグは、血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)が足止めしている間に、味方ごと火球(ファイヤーボール)で焼き払うつもりなのだろう。当然そんなことはさせない。

 

「――〈集団標的(マス・ターゲティング)〉・〈魔法の矢(マジック・アロー)〉」

 

発動したのは複数を標的に出来る魔法。これで一瞬ではあるが、血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)の動きを止めることに成功し、三人は見事にその脇をすり抜けていく。この階層を突破するにはクラルグだけを倒せばよく、この二体は放置しても問題ないからできる芸当だ。

 

だが、クラルグには接近を防ぐ手段がもう一つある。魔法による攻撃だ。迫ってくるバジウッドたちに向かって勢いよく杖を振るう。

 

「――プロテクションエナジー・エレクトリシティ」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女は声を大にして呪文を叫ぶ。それが罠とも知れずに。

 

「急いたな!〈火球(ファイヤーボール)〉!」

 

そう、クラルグは杖を振るっただけで、魔法は使わなかったのだ。属性が合わなければダメージを負うことは必須、万が一耐えたとしても転移する時間を稼ぐことが出来る、といった判断である。

 

灼熱の炎が先頭を走るバジウッドに迫る。

 

これに対し、バジウッドは――

 

「〈限界突破〉〈巨盾万壁〉!」

 

――武技を使って受けきった。

 

「何だと!?」

 

初めてクラルグは激しく動揺する。彼の知る限り武技とは力が強くなったり、動きが早くなったりするものであり、魔法を打ち消すようなものはないという認識だったからだ。

 

「くっ、〈火球(ファイヤーボール)〉!、〈火球(ファイヤーボール)〉!、〈火球(ファイヤーボール)〉!」

 

連続で放たれる火球(ファイヤーボール)!をバジウッドとニンブルは次々に回避していくが、接近することはなかなか敵わない。レイナースも一人で二体の血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)抑え込むのに必死だ。

 

「〈巨盾万壁〉!」

 

「〈縮地〉〈斬撃〉!」

 

その均衡はバジウッドが二回目の防御系武技を使ったときに崩れた。彼を盾にすることでニンブルがクラルグに接近を果たしたのだ。

 

この隙を逃すまいとバジウッドとニンブルは攻撃を叩き込む。流石のクラルグも二人の集中攻撃を受けてはまずいと思い、スイッチを踏み込んだ。

 

三度転移魔法が発動し、再び距離を取ることに成功する――

 

「グァァァアアア!馬鹿な!」

 

――ことはなく、クラルグの体は炎に包まれた。

 

「な、何故、火球(ファイヤーボール)が!?だが、もう一度起動すればよい話!」

 

クラルグは残った体力でもう一度罠を起動させ転移を図る。今度は滞りなく成功するが、ダメージは大きく、よろよろと動くことしかできない。

 

「何故だ!?いつ罠を発動させられたのだ?」

 

「――正解はこう」

 

そこには〈透明化(インヴィジビリティ)〉を解除した魔法詠唱者(マジックキャスター)の少女の姿があった。

 

「お前が、姿を消して先に罠を起動させたというのか!?」

 

「――その通り。あとは任せる〈鈍足〉(スロウ)

 

そう言うと同時に、少女は動作を鈍らせる魔法をかけ、さらに自身で転移の罠を起動することで逃げ場をなくした。任せられた追撃に走ってきたのはレイナースである。

 

「〈剛腕剛撃〉!」

 

「……見事!」

 

レイナースの振るった槍はクラルグの脳天に直撃し、その存在を完膚なきまでに叩き潰した。

 

「やりましたわ……やりましたわ!」

 

湧き上がる興奮を抑えきれず、パーティーの全員が歓声を上げる。まだ倒していないはずの血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)もいつの間にか姿を消しており、それがまた一層を突破したことを実感させた。

 

「いやー三回くらいマジで死ぬかと思ったぜ!」

 

「私なんか火球(ファイヤーボール)の直撃受けましたからね!」

 

「それはお前が悪い」

 

「迂闊だったと言わざるを得ませんわ」

 

真面目なトーンで言葉を繰り出す二人にニンブルはたじろぐ。たしかに失敗はしたが、そこまで悪いことをしたのだろうかという疑念は消えない。このままではいつまでたっても責められ続けそうなので、強引に話題の転換を図る。

 

「と、というかバジウッド殿!いつの間にあんな武技を覚えたんですか?」

 

「ああ、あれな、前に”不動”に教えてもらったんだ」

 

その言葉に微妙な雰囲気が場に漂う。

 

「あいつもな、戦いのスタイル的に自分が一番早く死ぬのはわかってたみたいなんだ。それで、もし自分が死んだら陛下たちを守ってくれってさ。勝手な話だよな」

 

どう反応したらいいのかわからず、パーティーの全員が沈黙を守る。それでもバジウッドは気にせず話を続けるのであるが。

 

「でもこの武技を使ったらもうあいつが戻ってこない気がしてな。今まで躊躇ってたんだよ。でも、そのせいでニンブルが死にかけた」

 

「そんな!あれは私のミスで――」

 

「いい。そこで思ったんだ。もう誰も死なせやしないって」

 

その言葉には強い意志が籠っている。普段飄々とする男の胸の内から生まれる真なるものだ。

 

「だけど、俺はこんな大変な目に合うのは金輪際ごめんだ!だから”不動”には生き返ってもらう。俺の代わりに帝国を守ってもらうためにな!」

 

これも彼の本心なのだろう。だからこそ心に響く。

 

「だから、このダンジョン、全員で生きて踏破するぞ!」

 

バジウッドの言葉に全員が頷き、同意を示す。もとよりそのつもりであっても言葉にすることで決意や結束が固まることは多々あるものだ。

 

そうして決意を新たにするパーティーは、

 

 

 

――次の瞬間、転移の光に包まれた。

 

 

 




やっとチュートリアルが終わりました。
次以降の層から、キャラの掘り下げ(捏造)に移っていきます。
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