とある海上に浮かぶ鉄と木の残骸達、辛うじて元は豪華客船だっただろうと分かるそれらは今では見るも無惨に海上を漂っていた。
「グラララ、まさか俺を倒すとは思わなかったぞ、小僧」
何処か嬉しそうな笑い声を上げたのは辛うじて無事だった船の甲板に神々しい雰囲気の矛で心臓を穿たれ、それを押し込む様な形で圧し掛かる巨大な碇に押し潰された元は神気を纏って居ただろう男だった。
しかし、今の彼には動く力も残っておらず、体も徐々に光輝く粒子になって解け始めて居た。
「まさか叔父様を倒すなんて、今度の子も中々面白にそうね」
虚空より、姿を顕したのは幼いながらも女として蠱惑的な色香を纏う、一柱の女神。
「パンドラか、お前が出て来たってこたぁ」
「えぇ、その通りです叔父様」
二柱の視線が甲板の中央に向う、其処にはボロボロになりながらも辛うじて生きている一人の少年が大の字に倒れていた。
パンドラは慈しむ様に眺め、そして高らかに宣言する。
「さぁ叔父様、祝福と増悪をこの子に、新たに魔王となるこの子に、聖なる言霊を授けて頂戴。」
「グララララ、小僧、お前は海の支配者たる俺を倒した最初の神殺しだ、次に相見えるまで俺の権能背負ってこの大海原を駆け抜けてみな!何者にも屈せず自由であれ!」
その言葉を最後に彼は完全に解け、その一部が少年へと流れみ少年の顔に苦痛が浮ぶ。
「フフ、痛い?でも我慢しなさい、その痛みは転生の新たな誕生の痛み」
暫くして、治まったのか少年の顔が和らいだ。
「おめでとう、君はこの世界で6人目の私の息子、カンピオーネよ」
そう言って少年の頭を一撫でして女神パンドラの姿は顕れた時と同じ様に突然消えた。
【でも海の真ん中で壊れた船の上で大丈夫かしら?、まぁ私の息子なら簡単には死なないでしょう♪】
◆◆◆◆◆◆
とある浜辺を一人の少女が歩いて居た、その少女は白いワンピースにおろした腰まで届く青いロングの髪をした幼さを残す美少女だった。
海から流れて来る風に髪を揺らし、ポカポカと照らす太陽の心地良さに楽しそうに散歩を楽しんでいた。
【んっ!あれは...何でしょう?】
そんな中、偶然にも波打ち際に佇む白い物体を視界の端に捉えた。
特に急ぎの用事が有る訳でも無く、好奇心を刺激された彼女は砂浜に降りて白い物体に向った。
【ん~どこか見覚えの有る様な...!?】
近付くにつれて全体の輪郭が見え初めた時には既に彼女は走り始めていた。
「もし、大丈夫ですか!」
白く見えて居たのは倒れている少年の髪だった。
彼女は急いで少年の容態を診る、着ている服はボロボロだが、不思議な事に外傷は無かった。
それでもかなり衰弱している様でこのままでは危険な事に変わりは無いが。
【どうしましょう?外傷は有りませんが、万が一頭を打っていたら...】
このまま運ぶか、対応について悩んで居ると少年から呻き声が聞えた。
「!?、大丈夫ですか!私の声は聞えていますか?」
「お...な..」
何かを伝え様としているのを感じて意識を集中して耳の感度を上げる。
「お...か...すい...た」
【えっ?おなかすいた?いや、違うかな?】
聞き取りは出来たが、その内容からうまく聞き取れなかったかな?と思い始めた時、少年のお腹から自己主張するように大きな音が鳴り響いた。
「あっ・・・」
◆◆◆◆◆◆
スペイン、ヒホンの町中にあるカフェテリアで二人の男女が向い合う形で席に着いている。
ガツガツ、ガチャン、ガツガツ
「......」
しかし其処には甘いムードなど微塵も存在せず、数人分のピザやパスタ等を一心不乱に口に詰込む少年と、その様子を呆れた眼差しで見守る美少女の可笑しな組合せだった。
そしてサラダを食べ終えて満足したのか、フォークを置いた。約10人分の食料が彼の胃に消えたが...
「いや~助かったわ、ありがとな♪」
「い、いえ、それは良いのだけど・・・」
少女は目の前に山積みにされたお皿を見て頬を引き攣らせる。
「ん、んん!」
咳払いをして、本題に入る。
「まずは自己紹介からしましょうか?、私はレヴィア・ブルーム、散歩していたら偶々、砂浜で倒れている貴方を見付けたのよ」
「そっか、助けてくれて、飯まで御馳走になって悪いな♪」
レヴィアは『ホントよ』と溜め息を吐く。
「それで貴方は誰?何であんな所で倒れていたの?」
レヴィアの問いに少年は腕を組んでん~と唸る。
少年は白に近い銀髪で幼さが目立つも整った顔立ちをしており、身長が170程で服を着ていたら分らないだろうが、ガッシリと鍛えているのが分る体型をしていた。
ただし、その服装は役割を果しておらず、シャツはボロボロの布切れと化し、ズボンはGパンで在ろうそれは左は太腿から先が無く、右は膝下までは有るものの穴だらけだった。
・・・前衛的ファッションだとしてもコレは無いだろう。
「何だろう?、全然思い出せないや」
掌を上に向けてお手上げ、と示す。
「そうですか...事故か何かのショックでしょうか?」
口元に手を当てて考え事を始めたレヴィアに少年は声を掛ける。
「あっ、でも名前はエドワードだと思う、エドワード・ジャクソンってのが何となく思い浮んだから」
記憶が無いにも関らず能天気に笑う少年、エドワードを見て真剣に悩むのがバカらしくなったレヴィアは溜め息を吐いて考えるのを止めた。
「そう、ならエドって呼ばせて貰うわね?私はレヴィで良いわ」
「おう、よろしくなレヴィ!」
邪気の無い笑顔を見せられたレヴィは少し頬を赤く染めた。
「さて、何時までもそんな格好で居る訳にもいかないわね、服を買いに行きましょう」
「ん、良いのか?飯だけでなく服まで世話になって?」
「流石に騎士として、そんな格好で放り出せないわよ」
【それにさっきから精霊が彼の周りに集って居るのよね・・・】
彼女はとある魔術結社に籍を置く精霊魔術の使い手で、彼、エドの周りに精霊達が集って居る事が気になっていた。
そして彼等が席を立った時。
ヒューーー、ドカァッン!
「!?なっ?」「こりぁ大砲か?」
突然鳴り響いた爆発音、辺りからは『キャー』『逃げろー』等と聞えるが、それらを無視してレヴィは駆け出した、後ではエドが『あっおい!』等と声を掛けるがそれに答える余裕は彼女には無かった、向うは海岸線!
―レヴィside―
ヒホンの町中をレヴィは海岸線へ向って走って居た。
走っている最中も断続的に砲撃は続いているが、依然、警告の意味を込めた威嚇射撃の為、被害は少ないが之が本格的な制圧に変わった時の被害は想像したくも無かった。
【まさかバカンス中に遭遇するなんて、ついて無いわね】
そして、海岸線に着いたレヴィが見た物は、海上に浮ぶ20もの戦艦だった。
「やっぱりか、ハズレてて欲しかったわね」
深い溜め息を吐き出し、気合を入れる。
戦艦はどれも時代錯誤な、帆船のガレオン船だがそのどれからも並みの神獣を凌駕する呪力が感じられた。
「ほ~スゲェ光景だな、一隻貰えないかな?」
そんな中、横から気の抜けた声が聞えてレヴィは一瞬思考が停止した。
「エド!貴方どうやって」
横に居たのはカフェで別れたハズのエドだった。
「ん?どうって、普通に走ってだけど?」
【そんな、魔術で強化した私に追い着けるハズは...】
魔術で強化したレヴィは時速80キロは出ていた為、生身で追い着けるハズは無かったのだ。
「おい、何か来たぞ」「えっ?」
思考の海に沈み始めたレヴィはエドの一言で浮上し、指差された方を見る。
そこには数人の人影が見えるボートが砂浜へ向っていた。
「貴方は出来るだけ遠くに避難して!」
そう言い残してレヴィはボートへと向った。
◆◆◆◆◆◆
ボートは砂浜に到着し、そこから一人の男が降りて来た。
「ハーハハハ、久々の上陸だ、例えそれが忌わしきスペインでも感慨深い!」
その男は顔の中心に右上から左の頬に掛けて斜めに傷のがあり、昔の海軍提督の様な衣装に身を包み頭には海賊帽が乗っている明かに海賊といった出で立ちだが、その身に纏う呪力は並みの魔術師を凌駕していた。
「お待ちください!」
「あん?なんだ穣ちゃん、見た所スパニッシュじゃ無さそうだが」
レヴィは男の前で膝を着き進言する。
「畏れながら申し上げます。貴方様のお怒りは存じ上げておりますが、何卒無辜の民に対する暴挙をお辞めくださいませ!」
男は其れを見て高らかに笑い始めた。
「ハーハハハ、俺を知っていて尚、その態度なのには好感が持てるな、それが威を借る狐でも」
そう言って男は腰にある二挺の拳銃から一挺を抜き、素早く発砲する。
パン!と乾いた音だが、その銃弾は大砲以上の威力が有った。
「うお!?あぶね~」「えっ?」
その銃口の先には咄嗟に避けた為だろう地面に手を着くエドが居た。
だが、避けなければ地面を抉る様な銃弾の餌食になっていたのは間違いなかった。
「おい!おっさんイキナリ危ないだろうが、何しやがる!!」
「エ、エドッ!」
レヴィは内心かなり焦っていた、相手は海賊とは言えまつろわぬ神、ただの魔術師でしかない自分は絶対に敵わない相手、ましては一般人では比べるまでもないのだ。
そう、ただの一般人なら。
「フン、俺の首でも取りに来たか、神殺し!」
「えっ!?」
【エドが神殺し?、つまりカンピオーネ!!】
「あん?何訳の分からん事言ってやがる、兎に角謝れ!!」
【つか、何だコレ?さっきから力が湧いてきやがる】
「フム、ではこんなのはいかがかな?」
そう言って男は指をパチンと鳴らした、その直後、背後のガレオン船に積まれていたカルバリン砲から数発の砲弾が吐き出されてエドへ向う。
【!?おいおい、あんなのどうしろってんだ!】
どうするか考えていた時、まるで歯車が噛み合う様に『それ』の使い方が頭に浮んだ。
【考えてる余裕はねぇな!!】
理由は分からないが、有るなら使う。エドの口端が釣り上がる。
右手を引いて力を溜める、ブゥオンと何かが纏われるのを感じて砲弾に向って拳を振り抜いた。
「ウオラッ!」
ドーン、ビシビシ、バキン...ドカーン!
空間に罅が入り、一拍遅れて砲弾が爆発した。
「なっ!?」「ほーう、あれを防ぐか・・・」
レヴィは驚愕し、男は関心したように見ている。
「おい、おっさん!さっきから何だよ」
「フン、神殺し!俺とお前は殺し合う運命だ、なら思いっきり愉しもうではないか!」
男が手を揚げる、そして振り下ろそうとした時。
「お待ちください!」
「あん?何だ魔術師、これから心躍る開戦だ、邪魔をするなら貴様から始末するぞ」
「っ!?」
男からの威圧に息の詰るレヴィだが、気力を振絞って進言する。
「畏れながら心躍る物にはならないかと」
「なに?、どう言うことだ!」
男の気を引く事に成功したレヴィは言葉を続ける。
「其れには2つの理由があります。1つ、彼は今全力を出せません、お互いに全力をぶつけてこそ心躍ると言う物」
「ほ~う、それで?」
「ハッ、もう1つが貴方様が神殺しの存在を今知った事です、戦は戦略を駆使してこそ、そこで1日猶予を設けてはどうでしょう」
「......」
暫しの沈黙が流れる、そして。
「ハーハハハ、良いだろう面白い!、派手に遣り合う為の準備期間、良いね愉しくなりそうだ」
そう言って男はボートへの乗込み、船へと戻る。
「おいレヴィありゃ何だ?」
「待って、後で説明するから今は大人しくしていて!」
レヴィの懇願に、渋々ながらも引下るエド、何とか休戦に持込んで時間を稼ぐ事に成功したのだった。