スペイン、ヒホンの町にあるホテルの一室、そこはスイートルームらしく高級感が漂っていた。
そんな部屋の見晴らしの良い窓辺のソファーに座る少年の前で少女が膝を着き頭を垂れる異様な光景が其処にはあった。
「・・・」
「申し訳ございません王よ、知らぬ事とは言え無礼な物言い、何卒その怒りは私の命でお納め下さいませ」
少女、レヴィの懇願に少年、エドは暫し唖然とするも。
「ちょっと待ってくれ、俺は王じゃない!・・・っと思う、多分...仮にそうだとしても命までは取らない!」
「では御許し頂けると?」
「許すも何も俺達は友達だろ?だからその可笑しな敬語も止めてくれ」
それを聞いたレヴィは肩の力を抜いた。
「なら、そうさせて貰うわね、フゥ~慣れない事はするもんじゃないわ」
伸びをしながら身体をほぐすレヴィ、切替の早さにエドもポカーンとするも直ぐに真剣な表情をした。
「それで?説明はしてくれるんだよな?」
「えぇ、そうね~先ずはエド、貴方は何処までご存知?」
レヴィの問い掛けに何も知らない事を伝えるエド、それを聞いたレヴィは最初から全てを説明した。
曰く、この世には魔術なる物が存在し、それを取り扱う者達が集まった魔術結社が存在する事、レヴィもとある結社に属しているらしい。
曰く、この世には形を持った災害、神話より抜け出して神話にまつろわぬゆえに、まつろわぬ神と呼ばれる存在が居て人々が天災になすすべが無い様にまつろわぬ神に対しても通り過ぎるのを待つしかない。
曰く、そんなまつろわぬ神を殺した埒外の存在を神威の簒奪者、羅刹の君、神殺しの魔王、カンピオーネと言う。
「へ~、ん?何処かで聞いたような・・・」
そんなエドの様子に呆れながらもレヴィは告げる。
「カンピオーネとは貴方の様な存在ですよエド、いいえエドワード・ジャクソン様」
それを聞いて『お~』とエドは納得したようにポンと手を重ねるも、次の瞬間には叫んでいた。
「って、なにーーー!!」
◆◆◆◆◆◆
その後、情報を整理するのに暫く時間を要したが、本題に入る。
「それでエド、貴方が倒した神は何?」
新たなカンピオーネの情報は魔術師として入手しておきたいとの下心も有るが、知らなければ始まらない。
「知らね~ぞ」「・・・え?」
「だって覚えてね~し」「あっ!!」
エドは記憶を失っており倒した神は疎か自身の事すら覚えていないのだ。
「なら権能...さっき使った力は?」
レヴィの質問に『あ~』と言いつつ少し考えて説明する。
「何か使い方が頭に入って来てな、まだ霞みが掛かった見たいで良く分かんないが地震を起こせるみたいだ」
【地震?っと言うことは大地に関係の有る神?あれ?なら大砲を防いだのは?】
レヴィはまた思考の海へ沈み掛けるもエドに戻される。
「それで、あいつは何だったんだ?」
「えっ、あぁそうね説明するわ」
そう言ってレヴィは権能についての考察を保留して説明する。
「まつろわぬ神は物語を核に顕現しその物語にそった権能を保持しているわ、ここまでは良い?」
「あぁ」
エドが頷くのを確認して。
「彼はまつろわぬ神としては異例の近代の人物でエル・ドラケ、フランキスクス・ドラコ、呼び名は色々在りますが有名なのがサー・フランシス・ドレークです。」
一拍置いてレヴィは続ける。
「ドレークはエリザベス朝のイングランドの航海者で海賊、海軍提督の任についた時も有り階級はイギリス海軍中将です。」
「イングランド人として初めて世界一周を達成し、アルマダの海戦では艦隊の司令官としてスペインの無敵艦隊を撃破した事も有りますね」
「ドレークはその功績から、イングランド人には英雄とみなされる一方、海賊行為で苦しめられていたスペイン人からは、悪魔の化身であるドラゴンを指す「ドラコ」の呼び名で知られています。」
「こんな処でしょうか?」
一気に説明し終えたレヴィはエドの様子を伺う、『へ~』っと何となく理解は出来て居るようだ。
「それじゃあ、明日の事を話しましょうか?」
「んっ?」( -_・)?
エドは何の事か理解していない様だ、レヴィは溜め息を吐いて説明する。
「は~エド、貴方はカンピオーネで相手はまつろわぬ神、この両者は望む、望まざるに関係なく戦う運命に在ります、つまり明日エドは殺し合いをするのですよ?」
「・・・マジで?」
「はい、マジです」
暫し唖然とするも直に元に戻り。
「まぁしゃ~ない、何とかなるか」
楽天的なエドにレヴィは呆れるも、まつろわぬドレイク対策を進める事にした。(ノд`;)
「先ず、海上での戦闘は不利ね、相手は海のスペシャリストよ」
「じゃあ、陸で戦うのか?」
エドの疑問にレヴィは首を振って否定する。
「いいえ、それは無理よ、問題が3つ有るわ」
レヴィの言葉に首を傾げるエド。
「いい、まず相手はフランシス・ドレークよ、大海賊にして海軍提督、自身の得意な戦場は心得ているでしょうね」
レヴィは指を1本立てる、相手もバカでは無い、必要も無いのに誘いに乗るハズも無い、海上からの集中砲火で陸は火の海になる事は容易に想像出来る。
「次に此方には海上で自由に動く術が無いと思われていること、態々有利な条件を棄てるのは策略としてはナンセンスよ」
闘争を先延ばしする為にレヴィが言った口上の件も有るし、そもそも中将までなった男が軍略に精通していないハズが無い。
「最後にエド、貴方の力が問題よ!」
3本目の指を立てて力強く断言するレヴィにエドは疑問を呈した。
「は?、1つ目と2つ目は分かるが3つ目はなんだよ!」
少し不機嫌になるエド、それは誰だって理由も分からず『お前が悪い!』と言われれば不機嫌にもなるだろう。
「エド、貴方の権能は地震を起すって言ったわね?」
「あぁ、それで?」
確認を取った後、問題点の説明を行う。
「ドレークの砲撃を防いだ時、砲弾は空中に有ったわ、それを破壊したって事はエドの権能は空間でも地震を起せる、違う?」
「いや違わねぇ、大地以外にも海や空間を揺らせる・・・気がする。」
レヴィの指摘に同意するエド、感覚的には理解しているがハッキリはまだして居ないようだ。
「つまり、世界そのものを揺さぶる伝承を持った神、まつろわぬポセイドーンから簒奪した可能性が高いわ」
「ん?ポセイドンって海の神様じゃ無かったか?」
「えぇ、そうよ、ゼウス・エナリオスとも呼ばれる程の地位を持ったポセイドーンは海と地震を司る神なの」
「そうなのか?、じゃあ俺も海に関連した力がある訳か?」
勘違いをしたエド、だが直に否定する。
「いいえ、断言は出来ないけど違うと思うわ、カンピオーネが簒奪する権能はそれぞれに合せて最適化されるそうだから、エドの場合は地震に特化しているのでしょう」
レヴィの説明で納得する、実際に地震以外は使える気が全くしていなかったのだ。
「つまり、世界を揺らす規模の地震を町中で使ったら如何なると思う?」
「あ~・・・」
エドも察した、そんな事をすれば大惨事だろう。
「じゃあどうするんだ?」
「敢て、海上で戦って貰うわよ!、幸いにして策も有る...少し恥しいけど、ね」
「えっ?」
最後の呟きが聞き取れなかったエドだが、レヴィは『何でもない』と話しを切った。
その後の話し合いで現地の魔術師に市民の避難を依頼(※既に開始している)し、遮蔽物が無い海上に大量のボートを浮べる事で姿を隠す死角と足場を確保する。
最後にとある魔術でいざと言う時の切札を用意する。
「他に質問は有る?」
「いや、無いが...本当に良いのか?」
エドの確認にレヴィは真っ赤に成りつつも首を縦に振る。
「・・・そうか...」
「その!...エド、私とは嫌かも知れないけど我慢しくれないかな?」
羞恥で頬を染めつつ不安そうな顔で聞いて来るレヴィ、若干瞳も潤んでいて新たな扉を開き掛けるが、レヴィの為に明るく答える。
「レヴィの様な美人が相手なんだ、嫌じゃないさ♪、レヴィこそ本当に俺で良いのか?」
エドの言葉にレヴィは『なっ!?美人だなんて』と照れつつ。
「はい、エドになら私は構いません!では始めます!」
「お、おう、そんな気合い入れなくてもい」
ガチィン!
「「っ!!!!」」
二人して悶える、勢いの余りどうやら歯と歯がぶつかってしまったらしい。
「だから落ち着きなって...大丈夫か?」
「は、はひ、なふとか」
相手はカンピオーネ、レヴィは相当痛かった様で回復に暫く掛かった。
ーレヴィアside ー
「そうか、レヴィは初めてだったのか、無理をさせて悪かったな」
【うぅやってしまいました、穴が有ったら入りたい】
落ち込んでいるとエドの手が頭に触れ優しく撫でる。
「え、エド!」
「レヴィ、状況が状況だから仕方ない部分も有るだろう。それでも一生懸命、レヴィが頑張って居るのは分かっているさ」
【なっ、ななななな何を!?】
突然のエドの行動に処理能力の限界を越えたレヴィはテンパりまくる、だがエドも捲し立てる様に手を頭から頬へと下ろし、レヴィの目を見つめる。
「レヴィ、こんな事を言うのは卑怯かも知れない、だがアイツと戦う為の切り札を俺にくれ!」
「エド・・・」
【そうよね、今は恥ずかしがっている場合じゃない!】
「王よ、王を支えるのは騎士の務め、仰せのままに。」
王として覚悟を決めたエドにレヴィも騎士として答える。
そしてエドの手が頬を一撫でして顎へと移動し軽く持上げる。
「貰うぞ!」「はい、王よ」
目を閉じるレヴィにエドが唇を重ね、啄むような様な軽いキスをする。
そして徐々に時間を長くして行きレヴィが慣れて来た所で一旦離れる。
「あっ...///」
レヴィは自分から出た声を自覚して恥ずかしくなったが、エドの言葉で気を引き締める。
「レヴィ、これで加護は良いのか?」
「い、いいえまだです!もっと深く繋がらなければダメです。」
【そう、これは大事な儀式、しっかりしなきゃ!】
「そうか、行くよレヴィ」
「はい、エド」
再度、キスをした二人、今度は舌を絡ませ、より深く相手を感じる。
そしてレヴィからエドに呪力が流れ込み、とある加護の素を手にした。
◆◆◆◆◆◆
翌日、ヒホンの町は避難が完了して無人と化し、海上には無数の船、やボートが浮べられていた。
そして数刻後、沖合いに艦隊が出現した。
「フン、神殺しめ地上戦に持込むかと思えば、この俺に海上戦を挑むか、舐められたものだ。」
旗艦でもある黄金の鹿号の上でサー・フランシス・ドレークが不機嫌そうに呟く、彼はイギリス海軍の提督にして大海賊、海のスペシャリストだ当然プライドを傷付けられたドレークは。
「全艦砲撃用意!、目標、前方船舶郡、撃て!」
ドレークの指示で、19から成る艦が同時に火を噴く、ただ紐で連なり浮んでいるだけの船に耐えられるハズも無く、次々に砕かれて行く。
◆◆◆◆◆◆
薄暗い空間に光の帯がまるでカーテンの様に揺らめく世界にエド達はいた。
「へ~便利なもんだな魔術って」
関心するエドだが、レヴィは緊張していた。
抱合う体勢なのは勿論気になっているが、絶え間無く響くカルバリン砲の砲撃音、エドとレヴィは水中にいたのだ。
「えぇ、相手が海神や智慧の神で無かったは幸いでした。」
現在、二人はレヴィが展開した精霊魔術によって球体状に作られた水の膜の中にいた。
彼女の立てた作戦は、まず海上で戦う、次に大量の船舶を足場として利用する。
そして、その船舶を囮に海中から接近して確実に1隻沈める。
他にも有るが、基本方針はエドが全力で戦える様に補助することだ。
幸い相手は英雄にして海賊、水中の、ましてや人間のレヴィなど気にもしないだろう。
「エド、目標座標に着きました、準備は良いですか?」
「あぁ、やってくれ」
エドが同意したのを確認してレヴィは一気に浮上していった。
―ドレークside―
砲撃により粉々に砕かれて行く船舶を見詰めながらドレークは違和感を感じていた。
【可笑しい、此処まで一方的にやられて何故反撃しない?】
ドレークの予想では全体は無いにしても一部の砲撃は先日に見た神殺しの力で防がれると踏んでいた。
そしてそれが無いと言うことはあそこに神殺しが居ない事を示唆していた。
つまりあの船舶は囮であると似た戦法を立てていたドレークが気付くが一歩遅かった。
ドーン!バキバキと轟音を響かせた左舷に展開していた艦の1つが半ばから折れ、沈み掛けていたが、ドーン、ビシビシと2回目の衝撃で更に2隻の艦がやられた。
「やはり囮か、だがこれ以上好きにはさせん!」
ドレークは中央寄りの艦へ飛び移った神殺し、エドを視界に捉えつつ指示を出した。
―エドワードside―
「ん?」
3隻の戦艦を轟沈させ、無事な艦に移ったエドだが既に周りを如何にも海賊といった風体の男達に囲まれていた。
各々が手にカットラスやアックス、サーベルを握りしめその顔は無表情で統一されていた。
【うわ~幽霊とはいえ、人形相手は殺りにくいな】
実際は下位の神獣モドキだが分かりやすく幽霊の様な物とエドはレヴィより説明されていた。
そして彼らは一斉にエドへと斬り掛かる。
「オラァ!!」
しかし相手は神殺し、神獣モドキにどうこう出来るハズがない、エドは拳に地震のエネルギーを纏い殴る。
それだけで彼等は膨大な震動に粉々に粉砕され呪力へと還って行く。
【ん、あれ?】
全ての神獣モドキを倒したエドだが違和感を覚え、周りを見渡し、自身のミスを悟る。
「おいおい、勘弁してくれ...」(-_-;)
エドの頬を冷や汗が伝う、神獣モドキに足止めされている間に艦隊は陣形を変え、エドが乗る艦を中心にグルリと取囲まれていた。
そして無慈悲な砲撃が開始される。正面からの砲撃だけでも防ごうとしたエドだったが。
「!?しまっ」
空間震を起こすエネルギーを溜めたタイミングで不自然な揺れに集中を乱された。
エドの乗っている艦、それ自体が神獣で、当然まつろわぬドレークの支配下にも有り、神殺しの邪魔をするのは必然。
エドは艦と共にカルバリン砲の砲撃に晒された。
粉塵と水煙で生死の確認は出来ないが無事では無いだろう。
◆◆◆◆◆◆
「ハーハハハ、さすがの神殺しもこれでは助かるまい、久々に愉しい海戦であったぞ!」
フランシス・ドレイクは揚々と笑った後、いざスペインへの侵攻を開始しようとして爆発が起きた。
「なに!?」
それは先程まで神殺しが居た艦で発生し、それによって出来た波に乗って接近する人影、板切れをボード代わりにサーフィンをするエドだった。
「我は大地を揺るがす者にして罰を与える者なり、此処に我が威を示さん!」
聖句を唱え左手に最大まで溜めた地震エネルギーを解放する。大気にパキン、ビキビキと3メートル近い罅を入れ射線(?)上のフランシス・ドレイクの乗る旗艦、黄金の鹿号と数隻の艦を空間震で破壊する。
「ムゥン!」
更に右腕を左の脇下に差し込む様に引き絞り、一気に解放して拳の側面で大気を叩く、それにより罅が入るのはいつも通りだが、今回は海面が不自然に盛り上り暫くして消える。
「おのれぇ神殺しぃ、よくも俺の黄金の鹿号をぉぉぉ」
「あ、やっぱり生きてたか...」
旗艦、黄金の鹿号の残骸の上に左腕を失い全身ボロボロのフランシス・ドレイクが立っており、その右手はカルバリン砲に添えられていた。
「その足場では避ける事も叶うまい、喰らいなぁぁぁ!」
「精霊よ我を助けよ、水の加護を授け給え!」
ドーン!
「!?な、んだと・・・」
カルバリン砲の一撃は横に跳ぶ事で回避された、しかしそれは良い、ドレークも避けられた場合を想定して二撃目で止めと考えていた。
では何故驚愕しているのか?
「ふぅ~危なかった。」
「貴様は魔術が使えたのか?」
エドは膝を着いている、そう沈んでいないのだ。
「いや、俺には使えないな、これは使える者に掛けて貰った。」
レヴィがエドに掛けたのは精霊魔術の1つで水の加護、その効果は水面を地面の様に捉え、水による衝撃を和らげる。
そして他人に掛ける場合は発動キーを設定し、持続時間は約10分、本来は近くに居れば掛けられるが、高い呪力耐性を持つカンピオーネには内側から掛けるしかないが...
「それより、俺の勝ちだ」
エドの宣言に怪訝な顔をするドレークだったが。
ゴゴゴゴゴ!!
「なにぃー!?」
地鳴りと共にそれはやって来たそれを見てしまいドレークは唖然とする、そこには迫り来る巨大な津波があった。
「そして隙有りだ!」「しまっ『オラァ!!』」
轟音と共にエドの地震エネルギーを纏った右ストレートがドレークの胸部に決まり、上半身が粉々に砕かれた。
そして肩に何かが乗り掛かる感覚を覚えるも、それどころでは無い。
「これ如何するかな~」
満身創痍で、もう立っているのも辛い、エドは迫り来る津波に『まぁ何とかなるさ』と考えるのを放棄する。
もう空間断層を作る余力も無く、運に身を任せるしか無かった、しかし視界の端に青を見つけたエドはそこで意識を手放した。