ダンジョンに浪漫を求めるのは間違っていない   作:マジカル☆八極拳

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《殺せ!ころせ!!コロセ!!!》


内から湧き叫ぶ怨嗟の叫び、そうあれと作られ生み出された魔物の本能か先程受けた屈辱を晴らす為か、そんな事はどちらでもいい。

袋小路に追い詰め、壁を背にして自分の目の前で震える人間を叩き潰し、引き千切り、すり潰し、撒き散らし、この猛る殺意の炎が治るまで存分に殺せさえできればそんな些細な事などどうでもよいのだ。


赤目で白髪の兎のような人間に見せるよう拳を握り、絶望を表した顔に愉悦を得て口元を歪める。


「ブモォォォォォォォォォ!!!」

これから始まる虐殺への喜びを雄叫びとして挙げ、その丸太の様な腕を振り上げ哀れな人間に振り下ろした。


第3話 兎、燃ゆる

 

ーどうしてこうなったのかー

 

 

 

橙色の狐人、アカツキが僕の仲間となって5日。

今日も共にダンジョンへ行く。彼は濃紺のコートにスラックスと腰に魔石を集める袋、黒のインナーにバックパックを。僕は銀のチェストプレートに黄土のコートを着ていた。

 

改めて自己紹介を交わしたり街を案内したりして1日を終え、翌日からは彼の希望で一緒にダンジョンへ潜った。

というのも、彼が『今の体で何処まで戦えるのか分からないから試してみたい』と言い出したからだ。

 

彼は仲間にはなったもののまだ神様から恩恵を貰ってはいない。これも本人からのお願いで『限界を見たいから』と頑なに拒否した。

勿論僕も神様もー神様はそのツインテールの髪を逆立てー説得したが『ベルが危ないと思ったらそれで帰るさ』と言って神様を説得し、僕もそれならと渋々了承した。

 

僕はこの時、危なくなったら僕が助けてやれば良いか、と思っていたがその考えは打って変わると事となった。

 

彼は恐ろしい程に強かった。

チュウゴクブジュツのハッキョケン?という格闘術を幼い頃から学んでいたと自己紹介の時に言っていたが、その格闘術抜きにしても身体能力の高さも可笑しかった。

 

突撃してくる小鬼《ゴブリン》を最小限の動きで避け、放った拳で頭を吹き飛ばす。

蹴り飛ばした犬顔の鬼《コボルト》が数十M<メドル>吹き飛ぶ。

攻撃の度に踏み出す足は小さな地鳴りの洞窟を揺らすーあとで聞いたが震脚と言う技の一つらしい。

 

結論を言うと、彼は僕よりも圧倒的に強かった。

 

その日からは僕が彼にお願いして、一緒にダンジョンへ潜った。

強くなるために、夢の為に。

彼にサポーターをしながら戦闘指南をしてもらい僕は貪欲に進んでいった。

目の前に道標がある。

後押ししてくれる人がいる。

護ってくれる人がいる。

 

 

だからこそ見落としていたのかもしれない。

 

だからこそ忘れていたのかもしれない。

 

ダンジョンの恐ろしさというものを。

 

此処がバケモノの腹の中だという事を。

 

 

 

ーーーーそれは突然現れたーーーー

 

 

最初に気付いたのはアカツキだった。

ダンジョンの中の些細な異変…モンスターとの遭遇率、何かに怯える逃げて来たかのような怪物。

 

先頭を彼が代わる。

突出した岩の所為で見晴らしの悪い曲がり角進もうとした時、風切り音と共に紅く太い丸太がアカツキを壁へと叩き潰していた。

 

 

『ルグォオオオォォォオァァァ!!!』

 

 

その体は人と呼ぶには些か大きく、筋肉質というにはそれは分厚過ぎた。

そしてその顔は人のものではなく、牛のソレであった。

 

 

 

モンスター 15階層の死の権化

 

 

 

ミノタウロス

 

 

先程殴り潰したそれをこれでもかと何度も何度も殴り踏みつけ痛めつける。

 

逃げなきゃ…逃げなきゃ、逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!!!

コイツが現れる筈なんてないはずだった!!

 

通常、モンスターとは自分の住む階層から動くことはない。たまにその階層から下へ行き強い個体となって一癖も二癖もある凶悪なモンスターになる事はあっても、モンスターが階層を、それも10階層も上がってくる事なんて前例は無かったはずだ。

 

 

だがヤツはそこにいる。

濃厚な死を、恐怖を、捕まった時の最期を、僕の魂に刻み込む。

 

 

動け、動け、動けっ!

震える脚に力を込める、ガチガチとなる歯を噛み締める。

 

だが

 

動けない。動く事など出来なかった。心が折れてしまった。

獰猛な顔を歪ませて新たな獲物を見つけたと喜色の表情を浮かべるヤツに視られて、僕の心が死に絶えーー

 

 

かはっ…。

 

 

壁に凭れかかって座り込んでいるアカツキ。

 

生きていた。

頭から血を流し、時折血を吐き出しながら荒い息で呼吸している。

腕からも血が出ているのか手先まで血が見える。

 

 

助けなきゃいけない。

 

 

この4日間、彼は僕の為に指導してくれたし時に危ない所を助けてくれたりもした。

そして、今も僕を逃す為にワザとミノタウロスを惹きつけるよう咳をし、こっちに薄く目を開いて、逃げろと唇を動かす。

 

 

彼を死なす事は出来ない。

置いていく事など出来ない。

置いていけば僕は死んでしまう。

僕の心が本当に死んでしまう。

 

僕の夢が、僕の願いが。

 

彼との誓いが。

 

彼は僕に誓った、僕はそれを受け入れ誓った。

英雄になるその時まで僕を護ると、僕は英雄になって『君に』見せると。

 

 

ならば此処で彼を置いて逃げることは僕が憧れた英雄のする事だろうか?

 

【否】

 

 

此処で彼を置いて逃げたら、僕は英雄になれるだろうか?

 

【否】

 

 

例えば僕がいつか英雄と呼ばれるようになったとして、僕は英雄として胸を張れるだろうか?

 

 

【否】

 

 

 

 

どんな絶望に陥っても、僕の知ってる英雄達は逃げなかった!

困ってる人を助けたい人を護ってきた!

此処で逃げるのは、僕のなりたい英雄じゃない!!

 

いつの間にか叫んでいたのだろう、僕の方を向いてアカツキは苦痛に顔を歪ませて笑う。

 

 

「来いよ、化け物…僕が…僕が、相手だ!!」

 

 






少年は行ってしまった。

まさか、助けるつもりが助けられるとは思っていなかった。
この5日…たった短い間ではあったがあの小さな可愛らしい兎がいい男になったものだ。

しかし。
あのままではあの牛に殺されてしまう。
今の彼では逃げ切るのは難しいだろう、早く行かねばならない。

彼は俺の為にワザとモンスターを引きつけていった。
彼が俺との『約束を守る為』に行ったのだ。

ならば俺が此処でモタモタしてる暇はない。
が、体が動かんな…内蔵も幾つか持っていかれてる、肺には肋骨が刺さっている。
腕は折れてはいるが何とかなるだろう、問題は脚と頭だ。頭がガンガンして圧迫感がある、頭蓋との間に血が溜まっているんだうか、それと脚だがあのクソ牛念入りに踏み潰しやがって…良くも悪くもこのままじゃあ死ぬか殺されるかだ。

慢心していた。
あっちの世界では『人』の枠を越えていたと自負していた。この世界で人じゃなく狐人になった今、獣人としての身体能力で飛躍的に上がり内には魔力と呼ばれるものも感じ取れもした。素直に嬉しかった、憧れた英雄級の力に近づけた事に。この体に。
だから浮かれていたのだ。そしてこのザマだ。三下相手に何という体たらく。

…あぁ、目が霞んできやがった。
こんな所で約束を違えて死ぬわけにはいかないんだ、こんな所で終わるわけには行かない。
気持ちと裏腹に体の感覚がなくなっていく。

また死ぬのか…俺はまた。


『食べて』


あの時の声だった。俺をこちらに連れてきたあの。
あの時は分からなかったが、その声は女性のもので、今は胸の内側ーー心?の底から聞こえてくるようだった。

何を食べろと言うんだ?

『生命の源を、生命の核を』

…どう意味だ?ここに生命の核?なんてものは…

『腰の』

腰…生命……魔石か?

『そうです』

コレ食えるものなのかよ…いや、疑いはしない。コイツは俺を助けてくれた、そして今回もそうしようと語りかけてくれた。
なら信じるしかない、今はそれしかないのだから。

腰の袋に手をやり、中から一番大きなものを選んで指に引っ掛けて地に落とす。
壁から背を離し倒れるようにして魔石に顔を近付けた。

「頼むぞ」

意を決して魔石を半分口に咥え、嚙み砕く。
咀嚼し、胃に入れる。

んぐっ…

心臓が大きく飛び跳ねた気がした、いや飛び跳ねている。それに呼応して内の魔力が暴れ出す。
大量の血を体に送るように、魔力を隅々まで流すように。


「あ、…がはっ、んんぐあぁぁあぁぁあ!!!!」

背中に焼ごてを押し当てられたように熱を帯びる。
何かが書き込まれていく、そのように熱が走る。

全身から牛から受けた痛みの何倍もの痛みが走る。傷口が熱い、内蔵が焼けるようだ。
体の中がひっくり返って飛び出そうとしているみたいだ。
大量の熱量を体内から出すように咆哮を上げる。


時間にして数十秒。
体の内で暴れていたものが落ち着き痛みも引いていく。

『終わりました、ご主人様《マスター》』

そのようだな。
ありがとう、助かった。

『いえ…今行ったのは元々の回復力にブーストして強制的に完全治癒させました』

立ち上がって肩を回し、身体を確かめる。
問題ない…以前よりずっと良好になったくらいだ。

『治癒で余った魔力の残滓を身体能力に回して上げて居ります、五分程持つはずです』


充分だ。
上げられた身体能力を使ってベルを追った。

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