ダンジョンに浪漫を求めるのは間違っていない 作:マジカル☆八極拳
戦いにくい。
ダンジョン12階層、濃い霧によって視界が悪い中、十匹程のモンスターの群れに囲まれて思った事が戦いにくい事。
アルマジロのような形でなかなか厄介な硬さの外殻を持つ【ハード・アーマード】の突進に合わせて『鉄山靠』を当て、止まった所を鉄槌で叩き割る。
飛び出してきたインプの脛を右足で蹴り砕き、動きが止まった所を返す左足で蹴り上げる。
攻撃の隙をついて
汚らしい胃液を撒き散らしながらドスンと音を立てて倒れ灰になる。
こいつはやり易い。
残るモンスターを片付け終え、丁度良い塩梅に飛び出た岩肌に腰掛けると今までにも感じていた違和感について考える。
まぁ当に答えは出揃っているのだけども。
それは戦い易い、難いモンスターの差、簡単に言えば人型なのか獣型 ー四足歩行型ー なのか、殴り易いか殴り難いのかの違いである。
モンスターの姿は多種多様、それこそ人型もいれば空を飛んだり、怪獣みたいなやつもいる。
人は幾人も打ちのめしては来たものの、獣とやり合うというのは生まれてこのかたこの世界に来て初めての経験である。
あっちの世界にいた頃から甘いものと可愛いものが好きで動物とかも例外なく好きだったから戯れる事はあっても鍛錬の相手や命を奪う対象にはできなかった。特にネコ科はいいぞネコ科。あとキツネ。もふもふがたまらない。
と…話が逸れたが、戦闘全般に於いて『経験』というのは例外なく重要なものだ。
その『経験がない』というのはこのダンジョンで命取りになるのは目に見えている。
(まぁ、だからこそ冒険者の死亡率はばか高いのだが)
ベルの紹介によりアドバイザーとなってくれたハーフエルフのエイナがという娘が『勉強会』で見せた悲しそうな顔が脳裏に過る。
何にせよ彼女を悲しませない為にもベルを護るためにも、俺は色んなモンスターとの戦闘経験が要る。
ベルは英雄になるのだから勿論いずれは『深層』にまで潜るだろう。
その時、ベルを護る盾となり拳となる為にはどう考えても『経験』が足りない。
それを補うにはどうすればいいか……。
『遠征お疲れさーん!』
『ダンジョンは潜れば潜るほど大きく広がってるの。それこそ深層に行くまでには数日分の人手と食料が必要なの。ロキ・ファミリアみたいな大ファミリアでも何処かと協同で攻略する必要が…』
『許してください、何でもしますから!』
ん?団長君今何でもするって言ったよね?
いや、正確にはそれに近い事を言っていたような気がするがこれは丁度いい。
知識が無いなら
そうと決まれば早速一筆書いてもらってロキ・ファミリアの所に向かうとしよう。
あと腕の良い武器屋も紹介して貰うか…流石に飛んでる敵やら燃えてる敵やらと戦うのは骨が折れるしな。
拾い忘れていた魔石をしっかり回収して帰路に着く。こういう時はできるだけ早く事を進めた方がいい。魔石を入れた袋からオークから出た一番大きな魔石を選んで噛み砕いて咀嚼する。
湧き立つ力を感じれば準備良しと二本の尾を振り、風を置き去りにして走り出す。
「っ……?」
「どうしたフィン?」
「いや、何か悪寒が…」
☆
「ほんま、おもろいもん建てたなぁガネーシャは」
馬車に自分の眷属を任せてたまに行われる
このオラリオで数あるファミリアのホームの中で他の追随を許さない程の ーまぁ誰もコレの後を追いたくはないだろうがー 珍妙なホームを持つガネーシャ・ファミリア。
【アイアム・ガネーシャ】
簡単に言えば彼の姿を模した宮殿の様なホーム。
入り口は股間部にある所から正直ガネーシャの所の女性冒険者には同情をしてもしきれない。
まぁそこに自分も今から入るのだが。なんだかなぁと思いながら会場へ入る。今日この宴に参加したのは祭り好きだからという所もあるが一番の目的は自分の天敵とも呼べる神に会うためだ。
ぼちぼち会場歩きながら顔馴染みの神に挨拶したり冷やかしたりしながら目的の
良いもんだすやんけこれ、とか宴に出される料理を摘みながら歩いていると天界に居た時から今に至るまでも仲の良い神を見つける
「おー!ファイたんやんけー!隣に居るのはフレイヤか?珍しいなぁお前がこんなとこ来るやなんて」
女神の中でも背が高く、赤毛に眼帯という目立つ風貌をしている友神とこれまたちょっとした腐れ縁の美の女神に声を掛けて近寄る。
と、彼女らの傍に頬を食事中のリスみたいに膨らませ気配を消していた黒髪の少女が此方を伺っていた。
「それにドチビやんけ!やっとファミリアができたて聞いたけどそーんな惨めな事せんと生きてけへんのか?貧乏は可哀想やなぁ?」
「むぐっ…なんだ壁に話しかけられたと思ったらロキじゃないか、ボクは新手のモンスターが現れたのかと思ってびっくりしたよ」
「お?なんややるんか駄乳?」
「壁よりはまだ駄乳の方が良いと思うけど?
「喧しいわぼけぇぇぇぇぇ!!」
「ふむぐみゅぅぅぅぅぅ!!」
神ヘスティア、無駄にでかい乳をこれでもか!というくらい見せつけてくるけったいな神やけど
この無駄なやり取りも毎回腹立つけど最近じゃウチに立てつこなんてやつおらんからなぁ。
『おい、ロキ無乳とロリ巨乳どっち勝つと思う?』
『そりゃあ0と10じゃあ10が勝つに決まってんだろ?ロリ巨乳に全額プッシュだ』
あいつらは潰す。
と、こんな事をしに来たんやなかったわ。さっさと切り上げて本題入らんと…
「ふん!まぁ今日はこの位にしたろうやないか…それよりドチビ、お前に聞きたい事あるんやけど」
「ふん!それはこっちのセリフだよ!…それにボクもキミに聞きたい事があるし」
ほう?このドチビがウチに聞きたい事?
珍しい事もあったもんやなぁ、明日は溶岩の大雨でも降るんとちゃうか?
「キミはほんっっっと!一言余計だよね。まぁいいや、キミんところのヴァレン何某の事なんだけど誰か特定の相手とかいるの?」
「アホゥ、ウチの大事なアイズたん嫁に出すわけないやろ。あの子に手を出すんやったら玉潰して引き摺り回したるわ」
「ちっ」
「なんでそこで舌打ちするのよ…」
あの白髪のチビっこいのがウチの目の前で告白したからあのチビっこいのの為にこんな事聞いて来たんか?なんにせよウチのアイズたんに手を出すやつは叩き潰すのみやけどな。
何か違う意味で舌打ちをしたようなヘスティアを怪訝に思いながら睨んでいると立ち直ったのか「で、ボクになんのようなんだい?」と聞いてくる。
「それな、お前んとこの狐。あれ何や」
「…アカツキがどうしたの」
あの男の名前が出た瞬間一瞬体が震えてしまい、それを不思議そうな顔をしてヘスティアが伺う。
こいつはまだ何もわかってへんのか…
「ドチビ、お前あの男くれへんか。いや、あの男から手を引いた方がええ。ウチが見たるから改宗させ」
「…」
「ちょっとロキ…どうしたの?女の子ならまだしも男でそんな事…」
「ねぇ、そのアカツキって子はどんなの子なの?」
何かを隠すかのように押し黙るヘスティアにヘファイストスとフレイヤが茶々を入れてくる。いつかは必ず本性を現すのだ、今説明しておいたほうが良いかもしれない。特にフレイヤには。
「あの男に会うたんはこの前豊饒の女主人で宴会した時や。簡単に言うわな、ウチらはあの
此方に来たばかり、それはつまり冒険者としてはまだ駆け出しだという事。その駆け出し冒険者にレベル5が複数人集まった酒場で殺されかけるという事の異常さを。
周りで聞いて居た神やヘファイストスまで『何を言っているんだ?』と言う顔をしている。
だがあの恐ろしさはあの場に居たものしかわかるはずもない。
その道の者は殺気を操るとは聞くが、震え上がるとか、息の詰まるとかそんなチャチなレベルじゃあない、文字通り喰い殺される餌になったと思う程の濃密な殺気。
「ロキ…大丈夫?」
「ん?…ああ、大丈夫やで、大丈夫や」
あの夜の事を思い出すと体の芯から冷えてくる。自分らを問答無用で殺しにくる子など果たして居ただろうか?居たとしてもそれは闇派閥に落ちた者くらいだろう、そしてそれをやれるだけの力とナニカヲ持っている。
一本の尾がいつの間にか増えた時に観たあの狐のような生き物。
あれは天界にいた時ならまだしも、下界に降りた神を文字通りの意味で『殺せる』可能性を持っている。
あの殺気に混ざっていた【神威】。
子が【神威】を、ファルナという恩恵以外の神威を持つはずがない。
ヘスティアがルールを破ったとしてもあの神威はそんなものじゃあないし、ましてやこのドチビがそんな事する筈が無い。
「…すまん、ウチもう帰るわな。さっき食ったのが悪かったんか腹痛なってきたしな」
「え、あぁ、わかったわ。気をつけて帰るのよ?」
「………」
「ほななー」
自分で気付くほど止まらなくなった震えに苦笑いしながら先に帰ろうとするとフレイヤに呼び止められる。
その顔には新しい玩具の話を聞いて欲しがる純粋な子供のような表情で。
「ねぇロキ、その子わ「やめとけ」」
「お前がこん中で一番危ないんや」
あの男の激昂に、怒りに一番触れる可能性があるだろう美の神にクギを刺す。
『死にたくなかったらやめておけ』と。
とりあえず忠告はできたし、ヘスティアでさえ
馬車に戻り【アイアム・ガネーシャ】からマイホームへ戻る途中、胃のあたりに違和感を感じ本当に変なもので食べたかな?と馬車の中で一人呟いた。
丁度その頃、アカツキがエイナ・チュールに代筆して貰ってロキ・ファミリアに手紙を送ろうとしていた。