一度投稿した話を、このように変更することがもう2度とないように注意していきたいのでどうか、ご容赦下さい。
1.プロローグ
城塞都市エ・ランテル。かつてはリ・エスティーゼ王国の国王直轄地の城塞都市だった。中央広場では幾つもの露店が店を開いており、家族が皆で食事を楽しんでいたり、冒険者たちが展示品の装備品を眺めていたりと賑わっていた。だが、今日は快晴だというのに昨日までの賑わいは無い。
むしろ、重く暗い雰囲気で、何かに怯えながらやり過ごしているようだった。
それもそうだろう。つい先日、例年の帝国とのカッツェ平野の戦で死傷者10万人超えという歴史上でも見たことがない大虐殺が行われたのだ。
――アインズ・ウール・ゴウン魔導王
その者は突如として現れ、帝国に味方し、瞬時に何万もの命を奪った。それだけでなく、悍ましい魔物を召喚し、戦死者の魂を喰らった。見たもの曰く、その骸骨姿はまさしく死を象徴しており、相対すれば、全てのものが等しく死となるだろうとのことだった。
リ・エスティーゼ王国の貴族と王は早々にエ・ランテルを魔導王に明け渡した。なので、今ここは王国都市ではない。魔導王の都市エ・ランテル……が正しい。
エ・ランテルの住民は、その余りに強大で邪悪な魔導王の下に生きている。多くの者が未来を絶望し、嘆き、悲しむ。
ただし、完全に希望が絶たれた訳ではなかった。
――漆黒の英雄モモン
漆黒の全身鎧と巨大な2つのグレートソードを所持し、美姫ナーベを連れたアダマンタイト冒険者。彼も突如として現れ、魔導王とは対照的に王国の危機を何度も救い、強大な悪魔ヤルダバオトさえも退けた。
その英雄がアインズ・ウール・ゴウン魔導王の監視役として存在している。
それだけが、エ・ランテルに住む者の最後の希望であり、かろうじて城塞都市としての体勢を保っていた。
……もっとも、その希望的存在である「漆黒の英雄」というのもアインズ・ウール・ゴウン本人であるのだが、エ・ランテルの住民は知る由もなかった。
「一応、都市の雰囲気を直に見ておきたい。ナーベ、ハムスケ、ついてこい」
「はっ、畏まりました。モモン……さーん」
「了解したでござるよ、殿!!」
アインズは支配者として、モモンの姿でエ・ランテルの住民の様子などを確認しようとしていた。まず、中央広場に行ってみたものの、察していた通りやはり暗い雰囲気だ。幾つか露店を開いていて人盛りもあるが、いつもの賑わいではなく、下を向き、トボトボと歩いていて死人のような雰囲気を感じさせる。だが、こちらの姿を見ると途端に雰囲気が変わる。
「……モモンさんだ!!」
「あぁ、モモンさんよ!!」
ぞろぞろと住民はモモンの前に集まりだす。
「モモンさん、私たちをお守りください、どうか、どうか……」
「モモンさん、あなたたちだけがエ・ランテルの最後の希望です。何卒、お守りください」
後ろにいるナーベが集まってきた人間たちを不愉快そうに、しかめっ面をして見ている。そんな顔をしていちゃ英雄の仲間として駄目じゃないか、と思いつつ、住民たちに応える。
「大丈夫ですよ、私の目が黒い内は彼らの好き勝手にはさせませんから、ご安心下さい」
それを聞いていた住民たちはその声に安堵する。もし、この英雄がいなかったらエ・ランテルはどうなっていたのか、余りに恐ろしく、想像がつかない。
モモンは適当にその場を適当にやり過ごし、冒険者組合に向かう。
「ナーベよ、演技は重要だと前にも言ったではないか、もう少し表情とか、なんとかならないのか?」
「申し訳ありません、モモン……さん。下等生物の群れが至高の御方にウジャウジャ集まって……実に汚らわしい」
「気持ちは分からなくもないが、今やお前の表情一つだけでも、経済や情勢が変わる可能性があるのだ。なるべく努めるようにせよ。これも強さの内の一つと知れ」
「畏まりました。精進します」
至高の存在からの忠告を心に刻み、アインズに付いて行く。
冒険者組合の扉を開くと、カッツェ平原でのアインズの強さの話で持ち切りだった。「モモンなら魔導王の召喚した魔物倒せるのか?」「モモンと魔導王どっちが強いんだ?」「いや、さすがにモモンでも魔導王には勝てないだろう……」などと言った具合だ。
「多分、勝てなくはないぞ」
モモンがそう言うと組合にいた全員がモモンに目を向ける。
「おぉ、モモンだ……」
「モモンさん……まじか……」
組合の中の一人がモモンに反論する。
「いや、勝てるって言ったが、あの魔導王はまじでやばいぞ、俺はあの時戦場にいて、奇跡的に逃げられたが、あれは人じゃ勝てないぞ」
「やってみなきゃ、分からないじゃないか。まあ、確かに奴は強いがな」
「……あんた、すげーよ、その自信と強さは一体どこから来るんだ?」
「……さぁな、まぁ、俺がいる内は問題ないから安心しろ」
そうモモンが告げると周囲の人間たちは敬服した眼差しを向ける。
今度は組合の受付の女性、イシュペンに尋ねる。
「様子はどうだ?」
「今は大変混乱しておりまして、上層部も様々な対応に切羽詰っている様子です」
「だろうな、依頼どころではないだろう。ここら周辺の様子は?」
「そうですね、治安が悪化しているようです。昼から酒に明け暮れた方が多いそうですよ」
なるほどな、今のままでは経済的によろしくなさそうだ。なんとかしなくてはな……
「そういえば、悪質な詐欺が横行しているようです」
「詐欺? どのような?」
「例えば、アンデッドを寄せ付けないマジックアイテムだとか、アンデッドを振り払う聖水、などです。いずれも効果は無いとのことですが、大変売れているらしいですよ」
俺対策かよ!! そう思いつつ、もう少し周辺を見ようと決める。
「なるほどな、ありがとう」
「とんでもございません。その……モモンさん、ご無理はせず、頑張ってください」
組合の去り際に右手だけを少し上げて合図する。我ながらかっこつけすぎだろうか?
組合を出て、周辺を散策すると、確かに見慣れない怪しい対アンデッドの露店が幾つかあった。どれも意外と賑わっており、飛ぶように売れている。試しに、自分も手に取って見てみるがどれも全く効果がないものだった。
「なんというか、自分の行動を食い扶持にされているようで不愉快だな」
「全くです。実に愚かなことです。潰しますか?」
「馬鹿を言え、嘆かわしいことだが、こういうものは何時の世にもあるものだ。無視しろ」
「畏まりました」
一応、念の為に他の怪しい露天や商人の売り場にも目を通したが、特に自分にダメージを与えるような物はなかった。
「さて、散策もそろそろいいだろう。ナザリックに帰ろうか」
そう言って、誰にも見られないところまで行ってから、<
アルベドの定例報告まで、まだ時間があったので、何をしようかと考えたところ、あることを思いついた。
久々に宝物庫の霊廟へ行こうと思ったのだ。アインズがそこへ行くのはシャルティアの一件以来だが、かつての友の顔を再び見たくなった。そして、ついに自分の都市を手に入れたと報告したくなったのだ。
アインズは下僕たちに見つからぬようパンドラが居ないのを見計らって、一人で宝物庫の最深部まで来て霊廟の通路に立っていた。
「やぁ、皆さん。久しぶりですね」
通路沿いにずらりと並ぶ計37体のアヴァターたち。それはモモンガが作成したかつての友を象ったゴーレムたち。彼らは物言わぬ宝物庫の最後の番人を務めていた。
「聞いてください、私とナザリックの下僕たちで一つの都市を手に入れたんです!!」
ゴーレムたちは何も語らない。
「ここまで来るのに、色々と大変でしたよ。下僕たちは忠誠心が高すぎだし、それに応えなきゃならないしで……」
ゴーレムたちは何も語らない……
「都市に関しても、まだまだ問題は山積みですけど、皆さんに誇れる位にいい都市にしてみるんで、応援しててくださいね!!」
アインズは思った。これは墓参りだなと。ただ、何となくここに来たかったのだ。仲間が本当にいるみたいで心が安らぐように思えた。
せっかく、ここまで来たので、宝物庫の最奥を見てまわろうとした。そこはワールド・アイテムが保管されている場所で、今はほとんどを守護者たちに貸し与えていた。
ここに残されているのは二十と呼ばれる究極のワールド・アイテムのうちの2つであり、<
アインズはきちんと2つのアイテムが保管されているかどうかを確かめたくなり、キーワードを言い当てて蓋を開けた。
輝く2つのアイテムが顔を見せた。問題ないなと思い蓋を再び閉じようと思ったとき、ある違和感に気がついた。
宝箱の底が外見に比べて、やけに浅い。
アインズは疑問に思い、なぜこんなにも中が浅いのかを調べた。よく見ると、<
なんと、その<
アインズはきっと友のうちの誰かが残したイタズラだろうと思い、どんなものが入っているのか見てやろうと思った。
二重底を開けると、ある指輪と書置きがあった。
「えっ!? こ、これは……」
アインズはこの指輪を見た瞬間、すぐに沈静化はされたものの、驚いて声を上げてしまった。アインズさえも昔ネットでアップされた画像でしか見たことがなかった。
それは無理もない話だった。その指輪の名は――
<
アインズは即座に魔法で本物かどうかを確認した。
「……本物だ」
アインズは何度も精神が沈静化され、書き置きがあったのに気がついて、それを読んでみた。
『これをみつけた人に、この指輪を譲ります。 引退したギルドメンバーより』
アインズは再び驚きを隠せなかった。
「いったい誰がここに隠したんだ!? いや、そもそも、どうやって<
ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの掟に、『完全に個人の手で入手した物は、その当人の物にしてもよい』というルールがあった。
アインズが知らなかったということは、間違いなくこの<
アインズさえも具体的に<
若しくは、隠しで別の入手法があったのかもしれない。実際、運営はそういうことをやらかす。だが、それでも入手は困難を極めるだろう。
『引退したギルドメンバー』それは、もはや自分以外の40人全員に言い当て嵌る。
果たして、こんなことができる友が本当にいたのかと疑わしくなってきた。
後ろを見返して、自分が作ったアヴァターたちを見渡した。
ユグドラシルの中で3本の指の中に入るワールド・チャンピオン
それに匹敵する強さを持つワールド・ディザスター
有益なアイテムを自在に作り出す大錬金術師
たった一人でナザリックを発見した忍者
まるで孔明のように戦術や作戦を展開する指揮官
敵モンスターの内部データを計算して的確に行動するタンク
性格が腐ってるが天才的なゴーレムクラフター
……今思えば、友は皆いい意味で頭のおかしいプレイヤーたちだった。
そう考えていると、自分の友の中に一人くらい二十を独力で得た者がいてもおかしくないのではないかと思えてきた。
アヴァターたちを見ながらアインズは考えた。
あぁ……会いたい、かつての仲間たち……楽しかった、あの頃に……
<
もしかしたら、この指輪で過去に戻れるのではないだろうか?
アインズから見て、<
誰かは分からないが、譲るというのならば使っても構わないのではないだろうか?
アインズは震えた手で指輪を指に通して、手を掲げた。
「<
指輪の蛇は輝き、咥えていた自らの尾を離し、天井を突き抜けて天へと昇っていった。
そうすると、急に微睡み、辺りが真っ暗になりだした。
この時、アインズは知らなかった。神話上において<
「七大罪の魔王ってどっかのギルドが攻略してなかった?」
「傲慢は退治されたらしい。ネットにもアップされてた」
声が聞こえる、とても懐かしい声だ。ゆっくり目を開けると、そこにはかつての懐かしい仲間たちがいた。意識がはっきりしてくる。あれ、俺はどうしていたんだっけ?
「七大罪全部倒したら、確実に世界級アイテム手に入りそうですよねー。世界級エネミーですもん」
まるで、長い夢をみていたようだ。何故こんなに懐かしいんだ?
「世界級アイテムといえばさ、熱素石をメインコアにした最強のゴーレムを作りましょうよ」
あれ、俺泣いてる? 涙がとまらない……涙? 泣いたのなんて何年ぶりだ? なんで涙が出るんだ? だって、俺はオーバーロードなのに……
「ぬーぼーさん。それよりは武器の方に埋め込んだ方がいいと思いますけど?」
おかしい、こんなにも考えがまとまらないのに、思考がグチャグチャなのに、精神安定化の作用が効かない。
「個人的には鎧も悪くないと思いますがねー」
「うぅ、うわああぁ……」
涙が止まらない!! 色んな感情ではち切れそうになる!!
「ん? どうしたんだ? モモンガさん?」
「皆さん、逢いたかった、ずっと、逢いたかった……」
モモンガは両手に顔をおおい、骸骨が泣いているしぐさをしていた。その姿はあまりにも滑稽で、一大のギルドマスターにふさわしい物ではなかった。……ただの少年が泣きじゃくっているようだった。
とある謎を一つ置いて修正させて頂きました。