オーバーロードは時を超越する   作:むーみん2

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10. バタフライ・エフェクト

 

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 アースガルズの天空城を保有したギルド

 

「はぁ、負けちまったな……」

 

 ギルド長をやっている人物はそう呟いた。ナザリックに襲撃した全員がギルドホームで蘇生して語り合っていた。

 

「絶対に負けない戦いだと思っていたが……あいつら頭おかしくないか? いくつワールドアイテム持ってんだ?」

 

「見た限り最低で21個、最後の間の後ろの玉座もワールドアイテムだったな、ゴーレムや武器に組み込んでいるのを含めると……」

 

「……有りえねーだろ、っていうか何でそんなに持つことが出来るんだよ? ワールドアイテムは200しかないはずだろ?」

 

「噂に聞いた話だけど、幾つかのワールドアイテムは複数個入手可能らしいぞ。多分、何かしらの方法で何個も同じワールドアイテムをたくさん手に入れたのだろうな」

 

「……あいつらの占有している鉱山か」

 

「きっとそうだろう。じゃなきゃ、あれだけのワールドアイテム数は説明がつかん」

 

「……お前ら、あの異常さはワールドアイテムだけじゃないだろう。6層のあのドラゴンの数……あれ当たりガチャのドラゴンだよな? 正直、目を疑ったぞ、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーには石油王でもいるのか?」

 

「……いや、どうにかして繁殖させてるのかもしれん……聞いたこともない話だが……」

 

 アインズ・ウール・ゴウンの異常性を語っている中、とある魔法職風の人物が現れた。

 

「……皆さん、お疲れ様でした。……結果は残念でしたね」

 

「あぁ、参謀さん、悪い、負けちまった。永劫の蛇の指輪(ウロボロス)の使ったタイミングが悪かったのが一番の敗因かな……」

 

「そうですね……ネットの中継見ながら思っていましたが、最深層とわかった時点で使うべきでしたね」

 

「……すまねぇ……永劫の蛇の指輪(ウロボロス)を無駄にしちまったな」

 

「本当ですよ。まったく、勿体無いことを……」

 

「……なぁ、さっきから言ってることが酷くないか? こっちだって必死だったんだぞ!! てめぇは留守番してただけだろうが」

 

「いえいえ、私も色々と必死でしたよ……あなたたちを歓迎するのにね!!」

 

 その発言と共にぞろぞろと後ろの方から見慣れないプレイヤーたちが現れた。

 

「さて、傭兵の皆さん、今ここにいる者たちはアイテムを使い切ってデスペナルティを受けた者たちです。報酬はこのギルドの宝物庫の全てです」

 

「お、おまえ……まさか……裏切って――」

 

「今やネットであなたたちの評価はただの負け犬、そんなギルドにこの私は相応しくない。無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)は有り難く私が頂いていきます。今までお世話になりました」

 

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反省会

 

 永劫の蛇の指輪(ウロボロス)による一時間の拘束が解除された後、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは気分上々で宴をしていた。

 

「皆さん、お疲れ様でした!! おかげでナザリックを守りきれましたよ!!」

 

 モモンガは大はしゃぎでメンバーと和気あいあいとしていた。

 

「あぁ、お疲れ、しんどかったわー」

 

「何とか勝てたな……」

 

「最初は終わったと思ったんだが、なんとかなるもんなんだな」

 

 一方で、メンバーの大半は酷く疲れていた様子だった。だが、その疲労感さえも愛おしいと思える程の高揚感があたりを包んでいた。

 

「もうやりきった感がハンパない。あと人数が少し多かったらヤバかったなー」

 

「……確かに、そうですね。あと数百人多かったら間違いなく二十を投入していましたね」

 

「はぁ、一回くらいはこんな襲撃もあってもいいなって思ってたけど、もうこんなことは二度とゴメンだわ」

 

「そうですね、お疲れ様でしたー」

 

 モモンガは他の皆とも睦まじげに話した。最後の一人を残して。

 

「いやぁ、るし★ふぁーさん、今回は色々と頑張ってくれましたね」

 

「そりゃ、ホームタウンを荒らされたとなったら、僕だって本気出すよ」

 

「本当によく頑張ってくれました。あなたがいなかったら二十は温存できなかったでしょう」

 

「いやぁ、そんな褒めないでくれよー、照れちゃうじゃないか」

 

「……でだ、るし★ふぁー、あれは一体何だ?」

 

 急激にモモンガの声のトーンが下がった。

 

「……あれって何? ギルド長の言ってることが僕分かんないや」

 

「……言わなくても分かるよな?」

 

「な、何を言って――」

 

「正座しろ!!」

 

「えっ!?」

 

「正座だ!!」

 

「……はい」

 

「いいですか!? あなたは、いつもいつも何でそんな勝手に変なことするんですか? 皆で得た財産を勝手にちょろまかすなんて何を考えているんです? だいたいねぇ、ここは社会人ギルドである以上、あなたはもっと調和の取れるように行動できるはずなんです。そうじゃないと、会社で即効でクビですからね。なんでこんなことするの? 何でゴキブリ作っちゃうの? あなたは昔から――(以下ひたすら長いので省略)つまりは、もう少し社会人として常識をもって――」

 

「あぁぁぁぁ!!!! もう分かったよ!! 悪かったよ、勝手に作って!!」

 

「……分かってくれたんならいいです。まぁ、あのゴーレムのおかげで二十を使わずに済みましたし、今回はこの位で許してあげましょう」

 

「うぅ、あんなに頑張ったのにひどいや」

 

「頑張ってたのは分かってますよ。お疲れ様でした、るし★ふぁーさん」

 

「俺から見ても今回は頑張ってたと思うよ、お疲れさん」

 

「ヘロヘロさん……どういたしまして……」

 

 

 魔王ロール

 

「モモンガさんの魔王ロール、良かったと思うぜ!!」

 

「えっ、魔王ロール?」

 

「いやいや、襲撃者達とやり取りしてたじゃん、『我々に殺されるか、自害するか、選ばせて差し上げよう』だっけ、やるじゃん。さすがは我らが魔王」

 

「モモンガさんもその格好良さが分かってきたみたいで嬉しいよ。我が名はウルベルト・アレイン・オードル!! 偉大なる魔王に仕えし邪悪なる魔導師なり!!」

 

「うむ、モモンガさんにならアルベドを譲ってもいい気がしてきました。Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)

 

「ちょっ、黒歴史を掘り返さないで!! おい、ポーズを取るんじゃない!! やめっ、やめろ!! この中二病コンビが!!」

 

 あの発言は素でやっていたことをモモンガは言えなかった。別に演じようだとか、そういう考えは全くなかったのだ。……NPCの前ではどうしても格好をつけてしまう癖がついていたせいだろう。モモンガはこれが更に自分の首を絞める行為だと気づかぬままに行っていた。

 

 

 小鬼(ゴブリン)将軍の角笛

 

「そういや、小鬼《ゴブリン》将軍の角笛にあんな隠し効果があるとはな。あのゴブリンの数は凄かったわ」

 

「私も最初見たときびっくりしましたよ!! モモンガさんに教えてもらったんですよ」

 

「モモンガさん、どこで、どうやってあんな隠し効果に気づいたんだ?」

 

「異世界ですね。騎士に襲われてる村があって、とある村娘に護身用に2つ渡したんですよ。その娘が2つ目を吹いたときに、5000を超える大量のゴブリンが現れたようでして……自分も、まさかあんなことになるとは……」

 

「色々と探ってみると、条件は将軍のクラスに就いている、一定時間以上ゴブリンと共に行動する、自分たちより強大な敵と戦っている最中みたいな感じなんですよ」

 

「それ、よっぽど酔狂なプレイでもしない限り見つからんわ」

 

「ですねー、その村娘なんですが、正直、感謝してもしきれません。普通に戦ったら傭兵魔法職ギルドなんて勝てるわけないですからね」

 

 

 別れ

 

「死獣天朱雀さん、今まで頑張ってもらって感謝の言葉もありません」

 

「こちらこそありがとう。いい思い出になったよ」

 

「それに、これらのテキストのデータ量……本当に頂いていいんですか?」

 

「あぁ、前に言った、この老いぼれからのプレゼントだ。9層にある図書館の叡智の間にでも置いておいてくといいだろう」

 

 それは現実世界の自然科学、医学、工学、哲学、文学、美術、楽譜、料理本などの膨大な量のデータだった。

 

「全て半世紀ほど前のデータだから、大したものではないが、きっと異世界で役に立つだろう。暇でもあればでも読んでみるといい」

 

「そうさせてもらいます。ありがとうございました」

 

 古いデータだから大したものではないと言っているが、これだけの量となれば膨大な金が掛かっているように思えた。受け取れません、と言おうと思ったが、この好意を無下にすることはできなかった。

 

「……生きていくということは、出会いと別れの繰り返しだ。出会った数だけ別れが来る。だがね、私はそこでできた縁こそが生きたということの証だと思う。いい思い出をありがとう。それでは皆さん、今後のアインズ・ウール・ゴウンの健闘を祈ります」

 

 モモンガは死獣天朱雀の最後の言葉を胸に刻み、送別した。

 

 

 今後の方針

 

 死獣天朱雀の送別会も終えて、モモンガたちは玉座の間にて今回の防衛戦の損失を計算していた。

 

「使用した経費……全階層のトラップの起動、ゴーレムの起動、設備の修繕費、NPCの修復……仕方ないとは言え損失がでかすぎる」

 

「今回のドロップ品を全部換金すれば、プラスに浮くんじゃないか?」

 

「……後で多数決で決めるつもりなんですが、個人的にはドロップ品は返却したいと思っています」

 

「えっ!? 何でさ?」

 

「他のプレイヤーに対してこれ以上ヘイトを稼ぎたくないんですよ。ドロップ品は返却して代わりに同盟みたいなのを築くのもいいかなと思ってます」

 

「それは異世界転移後も想定しているのかな?」

 

「えぇ、そうです。転移後にこんな襲撃されたら耐えられませんので……」

 

「転移後か……大抵は弱いけど、全てを精神支配するワールドアイテムを持った敵がいるんだっけ?」

 

「えぇ……探してはいるんですが、なかなか見つからないですね……」

 

 今の発言はモモンガが発したとは思えない程に低くドス黒い何かを感じさせる様子だった。その場にいた者は別人が乗り移った様に思えた。

 

「お、おぅ、何にせよ、当面はナザリックの立て直しと資金繰りだな」

 

「そうですね、やることはまだまだ多いです」

 

 

 隠し七鉱山

 

「鉱山、ナザリックの防衛している間に奪還されちゃったね」

 

「正直、悔しいですね。クレイン・フォートレスとかいうギルドでしたっけ? あちらも、このタイミングを伺っていたんでしょうね」

 

「まぁ、何もかも上手くは行かないよな」

 

「正直、欲張りすぎましたね。奪われて独占される前に、もっと早く公開すべきでした」

 

 

 バタフライ・エフェクト

 

「モモンガさん、聞きたいことがあるんですが、構わないですか?」

 

「おや、数百体のドラゴンを6層に配置して最近、石油王と呼ばれ始めたタブラさん、一体何でしょう?」

 

「石油王じゃないです、錬金術師です。まぁ、その話は置いておいて、この襲撃はモモンガさんの主観で以前にも起きたことなんですよね?」

 

「……えぇ、そうです。最初の時は1500人のプレイヤーに襲撃されました」

 

「……それが、鉱山の独占が続いて3000人に襲撃されたということですかね?」

 

「恐らく、そんな感じでしょう。鉱山が奪還された件を除けば、ナザリックはだいぶ強化できたので、現状かなりいい感じだと思っています」

 

「……なるほど、ところでモモンガさん、バタフライ・エフェクトというのをご存知ですか?」

 

「いえ、知りませんが……」

 

「『ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こすか』という言葉が元ネタになっていまして、要は些細なことが徐々にとんでもないことを引き起こすという現象を指しているんです」

 

「……今回の我々が行ったことが、大きく未来を変える可能性があるということですか?」

 

「そうです。モモンガさんが異世界へ行った話をした。鉱山の奪還を回避して先の話に信用が深まった。鉱山の独占を最近までし続けた。モモンガさんの予言から多額の財産を得た。そして、今回の防衛戦にて勝利した。これらの行動は我々にとってプラスに見えますが、もしかしたら、そうではない可能性があるということです。我々も想定していないような……厄介な出来事に遭遇するかもしれません」

 

「……たしかに、有り得なくはないですが……」

 

 はたして、どうなのだろうか? 現状はモモンガから見て理想形に近い。最後まで付いて来るといった友がいるし、魔法職を取っている多くのメンバーはワールドディザスターになろうとしている。個人だけでなく、ナザリック自体も想定以上に強化されている。今やアインズ・ウール・ゴウンは最強のギルドだといっても過言ではないとすら思える。実際、今回の防衛戦をネットの動画で見たプレイヤーの多くはアインズ・ウール・ゴウンは最強だと捉えたようだ。少なくとも、以前一人でやりくりしていた時よりもずっといいはずだ。

 

「それほどの脅威は無いと思いますが――」

 

 そう発言した時に、ペロロンチーノから一通の<伝言(メッセージ)>が届いた。

 

『モモンガさん、ビッグニュースだ!! つい先ほどの防衛戦に襲撃してきたギルドの一角、どうやらアースガルズの天空城を保有したギルドだったみたいだけど、たった今崩壊したみたいだ!!』

 

「えっ……まだ数時間しか経ってないですよ? どういうことです?」

 

『詳しくは分からないけど、ホームに留まっていたヤツがギルドホームに傭兵を呼んでおいて弱っているところを襲撃したんだとさ』

 

「……何ですかそれ、酷すぎですね」

 

 よくそんな簡単に仲間を裏切れるなと思った。もし、自分が同じ立場だったら、絶対に許すことはできないだろう。

 

『この裏切った奴はどこかのギルドと計画を立てていたらしい。もしかしたら、防衛している間に鉱山を奪還したギルドと関係があるのかもしれない』

 

「分かりました……そのギルド、クレイン・フォートレスでしたっけ? 警戒した方がいいですね……」

 

 どこぞのギルドがナザリックから漁夫の利を得ている。許しがたいことだった。

 

「モモンガさん、私も<伝言(メッセージ)>が届いたのですが、今回のことは以前にもあったんですか?」

 

「いえ、初めてです。……バタフライ・エフェクトでしたっけ? 今後の方針に気を付けないとマズイことになるかもしれませんね」

 

「えぇ、気を付けた方がいいです。……もはや戻ることはできないのですが、最近、私自身もここまでうまく事が進みすぎて怖いとすら感じていました」

 

 そう言ってタブラは去っていった。

 

 アースガルズの天空城のギルドの崩壊……これを聞いたとき、モモンガは嫌な予感がした。

 

 かつて異世界で八欲王と呼ばれた者たち。恐らくは自分と同じプレイヤーで、砂漠の上に浮遊する城を拠点としていたギルド。

 

 もし、八欲王とアースガルズの天空城が同じであるあらば、崩壊してしまったが故に異世界の状態が激変するのではないか?

 

 モモンガにはもはや、八欲王とアースガルズの天空城のギルドが同じものなのか確認する術は無かった。

 

 

 モモンガは知らない。彼らが具体的に何をして、どのような影響を与えたのかを。

 モモンガは知らない。彼らによって、位階魔法が広まったことを。

 

 

 もはや、モモンガは後戻りができない。

 

 かつて、アインズが開けた災厄の箱(パンドラ・ボックス)の奥底にあった永劫の蛇の指輪(ウロボロス)は果たして希望か絶望か、この時点で誰にも知る由などなかった。

 


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