オーバーロードは時を超越する   作:むーみん2

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11. 会談(前編)

 ナザリック防衛戦より2週間後、モモンガたちはアルフヘイムの始まりの都にて、ある催しを開いていた。通常、初心者たちの世話になる都であって、上級プレイヤーならば滅多に来ることはない場所なのだが、今は大いに賑わっていた。

 

「各ギルドマスターは横一列に並んでください。装備品は全ギルドに返品するので待っていてくださいね」

 

 モモンガたちは今何をしているのかというと、2度と敵対行動を取らない条件に、以前の防衛戦にてプレイヤーたちのドロップした装備品を返却しようとしていた。彼らの背後にある袋……3000人分の装備品が各ギルドごとに袋で仕分けされていた。伝説級から神話級、様々であったが、もし、これらの全てをエクスチェンジ・ボックスにいれたら、途方もない額に及んでいただろう。

 

 始まりの都でこれらを返品するのは、窃盗やPKなどの行為が起きないように公式で禁止されているからだ。本来は初心者を守るためのものだったが、ギルド間での大きい取引する際にしばしばこの仕様が使われていた。

 

 ギルドの小さい順に一つ、また一つと袋を渡していく。渡していく袋はだんだんと大きくなっていった。アイテムコレクターであるモモンガにとって、今の目の前の行動は拷問のように思えた。モモンガは「あぁ……勿体無い……」という言葉を何度も吐きかけたが、営業サラリーマンの鋼鉄の精神でもって吐きかけた言葉を飲み込んだ。

 

 もし今後、特に異世界への転移後で、あのような襲撃をされたら耐えられない可能性が高い。少しでもヘイトを下げるためにこの行動を取っていた。

 

 悪態をつきながら袋を受け取る者もいれば、泣きながら感謝してくれている者がいた。大抵は「どういった風の吹き回しだ?」「何か裏があるんじゃないのか?」と疑問を抱かれつつも感謝しながら受け取っていたようだった。

 

「さて、最後になったが……」

 

 袋は残り1つとなったが、今までのどの袋よりも大きいものが渡されようとしていた。渡そうとする相手、それは元アースガルズの天空城のギルドマスターを含めた3人組みであり、彼らの頭上には敗者の烙印が施されていた。

 

「よう、2週間ぶりだな。アインズ・ウール・ゴウン」

 

 どこか恨みを持った声――それもそうだろう、彼らは裏切られ、屈辱の烙印を刻まれていた。彼らが必死になって得たホームは既に存在していないのだ。

 

「……えぇ、そうですね。とりあえず、約束なので全員分の装備品を代表のあなたに返しますね。その後でどうするかは、そちらが決めてください」

 

「装備品は俺ら3人分だけでいい……」

 

「……何でです? こちらとしては、約束通り全部持って行ってもらって後腐れなく終わりたいんですが……」

 

 ここで貰ってもらわないと困るのだ。こういった取引は後々トラブルを招きやすいからだ。

 

 そう言うと、相手のギルドマスターは苦虫を噛み潰したような言い方で語りだした。

 

「もう、俺たち3人しか残っていないんだよ。他の連中はアカウントすら残っていない」

 

「えっ……」

 

 モモンガは信じられなかった。このギルドはかつて、大手の内の一つであり、2週間前には200人いた。それがあっという間に3人を除いてアカウントが消えているというのだ。

 

「……この2週間、あの裏切ったクズを皆で追い詰めて……レベル一桁になるまで追い詰めたら、とうとうアカウント消してこのユグドラシルから完全に逃亡したんだよ。そんな復讐を遂げた後……俺たち3人を除いて皆が辞めちまった……なんていうか……白けたんだろうな。ユグドラシルで何か新しいことをしようっていう気概がなくなっちまった。皆で一所懸命に頑張って、皆で支えたギルド……まだまだ、これからだってのに、たった一人のクズのために一瞬で崩壊した……他の連中は辞めて違うオンラインゲームに去っていったよ」

 

「……そうでしたか……それは……残念でしたね……」

 

 2週間前では打倒すべき敵であったが、今では同じギルドマスターとして居た堪れない気持ちになった。どうしても他人事のように思えなかった。

 

「……とりあえず、あなた方3人の装備品はお返ししますね」

 

 3人分のドロップした装備品……全てが神話級の装備品。さすがにスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンほどではないが、鉱山を占有していた今のモモンガたちの装備品に決して劣らぬ一品だった。

 

「……ありがとうよ、この俺の剣はな、昔から使っていた思い入れのある物を何度もカスタマイズして作ったんだよ」

 

「……感謝してくれて何よりです。もう敵対しないで下さいね?」

 

「あぁ、勿論だ。約束は守る。……お礼と言っちゃなんだが、情報をくれてやる。聞きたいことがあったら、何でも聞いてくれ。他のギルドの連中に教えないなら特別にタダで教えてやるよ。お前らほどではないが、これでもユグドラシルを廃人と言われるほどにやっているからな、何かしら得られるものはあると思うぞ?」

 

 それは願ってもないことだった。ユグドラシルには未発見の物や隠し要素など、様々な物がある。当然、アインズ・ウール・ゴウンが全てを熟知しているなどということは有り得ない。大きな戦力に繋がる機会がタダで与えられたのだ。

 

「いいんですか? 言質は取りましたからね?」

 

「あぁ、何でも聞いてくれ。本当に装備品をタダで返してくれるなら教えようと、3人でそう決めてたんだ」

 

「……そうですか、では、あなたたちが使用した永劫の蛇の指輪(ウロボロス)の入手法を教えて貰いましょうか」

 

 モモンガは流石にこれは答えられないだろうと、高を括る。この情報だけでリアルマネーが動くからだ。

 

 だが、モモンガの意を嘲笑うかのように淡々と語りだした。

 

永劫の蛇の指輪(ウロボロス)か……いいだろう、教えてやる。あれは使用から3ヶ月後、永劫の導き手……蛇の姿をしているんだが、そいつがムスペルヘイムの隠しダンジョン、『異世界の迷宮』の最深層に現れる。そいつと会話して、指示通りに他の8つの世界の隠しダンジョン、永劫の試練を踏破すれば手に入るぞ」

 

「それ……本当ですか?」

 

「あぁ、俺たちはそうやって手に入れた。だが注意しろ、隠しイベントで使用3ヶ月以内に天に昇った蛇を地に戻すという別の入手経路があるらしい。このイベントに関しては全く知らん。当然、これで先に入手されると『異世界の迷宮』に永劫の導き手は現れない。……他に聞きたいことはあるか?」

 

「……他のワールドアイテムについて教えてくれますか? 例えば、あらゆる者を精神支配するワールドアイテムとか知っていれば教えてくれます?」

 

「あらゆる者を精神支配するワールドアイテムは知らんが、永劫の蛇の指輪(ウロボロス)以外にも無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)というワールド・アイテムを手に入れていた。裏切ったクズが奪って行ったんだが、復讐する頃には既に持っていなかった」

 

無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)ってどんな物ですか?」

 

「あれは魔法の百科事典のようなものでな、ユグドラシルにある全ての魔法が記述されていて、24時間に一度だけ好きな魔法を使用できる代物だ」

 

「なるほど……他には何かご存知ですか?」

 

「分からん……皆が揃っていた状態なら二十とか発見できたかもしれないが……」

 

 その後、様々な有力な情報を得ることができた。モモンガ自身が既に知っていることも多かったが、当然知らなかったことも沢山あった。隠しダンジョン、アイテムの隠し効果、有力なアイテムの合成・錬金、レア素材の在り処、料理のレシピ……ネタは尽きなかった。

 

「……何で、ここまで教えてくれるんです? さすがに教えすぎじゃないですか?」

 

 モモンガは疑問に思う。幾らなんでもやりすぎだと。ここまでくると裏があるのではないかと思えていた。

 

「この剣を返してくれたんだ、そのお礼だよ。お前らにだって、奪われたり、無くしたりしたら発狂しそうな物とかあるんじゃねーのか?」

 

「確かに、それはありますが……」

 

 思い入れのある装備品……例えば自分たちの作成したスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンには相当な思い入れがある。仕事で疲れた体に鞭打って来てくれた人や、家族サービスを切り捨てて、奥さんと喧嘩した人、有給休暇を取った人……様々な要素が絡み合ってできた最高傑作だ。……もし奪われでもしたら発狂で済むのだろうか? 別にギルド武器でなくとも、武人建御雷などは武器に必要以上に拘っていた。確かに、大切な物を返すと言われれば、喜びのあまり何でも喋ってしまうのかもしれない。

 

「今後、あなたたちはどうするんです?」

 

「……装備品が帰ってきたからな、のらりくらりと旅でもしようかと思う……本当は復讐の続きがしたかったんだが、もはや無理だしな」

 

「復讐の続き? 復讐は終わったのでは?」

 

「裏切り者が言ったんだ、クレイン・フォートレスのギルドの連中に俺らのワールドアイテムを強奪するように唆されたんだと。『ワールドアイテムを渡せば幹部格として、採用してやる』とな。そして、持っていったら締め上げられた……実にマヌケな話だが、そんなマヌケを参謀に置いていた俺らはもっとマヌケだ。まぁ、そんな訳で、あのギルドに鉄槌を下してやりたかったんだが……もはや、俺らの戦力では厳しい。仮におまえらとあのギルドが敵対しようが何しようが、もう気にしないことにした。もし……機会があれば絶対にぶちのめしてやろうとは思っているがな」

 

 明らかに根には持ってはいるが、ギルドの(しがらみ)に囚われずに単純にユグドラシルを遊ぶ。そういったスタンスをとる様だった。

 

「そうですか、貴重な情報、色々とありがとうございました」

 

「おぅ、こっちこそ装備品返してくれてありがとうな。……それと、負けちまったけど、あの襲撃はなんだかんだで楽しかった。最深奥とか、あの豪華絢爛な――悔しいが、あまりの壮大さにテンション上がったよ。……本当にお前たちは、いい仲間に恵まれてるな」

 

「……え、えぇ!! そうですとも!! 仲間あってのアインズ・ウール・ゴウンですからね!! ……あの、最後に名前を伺ってもいいですか?」

 

「……ギルガメスだ。……もう2度と会うことはないだろうが、あばよ、アインズ・ウール・ゴウン、いつか仲間に寝首を描かれないように気をつけろよ」

 

「そんな日は来ませんよ、あなたたちこそ、2度と誰かに裏切られないよう、祈ってますよ」

 

 かつて、自分は異世界で『漆黒の剣』という冒険者グループに慰められるようにこう言われた。

 

『いつの日か、またその方々に匹敵する仲間ができますよ』と。

 

 その言葉に対して否定的に答えてしまった自分には今の彼らにそう言う資格はないだろう。……だが、もし彼らが最終日までユグドラシルをプレイし続けて、異世界を旅することになるのならば、それは、いい旅であって欲しい。そして幸せになって欲しいと思った。それが2週間前、土足でナザリックに踏み込み、滅ぼそうとしてきた敵であったにも関わらずだ。……何とも不思議な感覚だった。

 

 

「モモンガさん、この残った装備品どうしよう?」

 

 大きな袋に残った物は神話級と伝説級の装備品がメインになっていた。

 

「せっかくですし、幾つかはNPCたちの強化に使わせてもらいましょう。それでも余っちゃいますが、個人的には全部宝物庫に取っておきたいです」

 

「……そうだな、それがいい」

 

 彼らの装備品がエクスチェンジ・ボックスに放り込まれることはなかった。

 

 モモンガたちは始まりの都で行った全てのやることを終えて、ナザリックに帰還していった。

 

 

 防衛戦から2週間が経ち、破竹の勢いで勢力を伸ばしているギルドがあった。

 

 ギルド:クレイン・フォートレス

 

 このギルドは隠し鉱山を奪還し、あのアインズ・ウール・ゴウンに対して唯一、一矢報いたギルドとして注目を浴びていた。このギルドに入れば、更にアインズ・ウール・ゴウンに対して報復できるかもしれないと、また、希少金属を欲しさに新規参入しているプレイヤーが後を絶たなかった。

 

 

「……厄介ですね」

 

「えぇ、どうしましょう?」

 

 このまま黙って指を咥えて待っていれば、またあの襲撃が繰り返されかねない。今のうちに潰すことができるかもしれないが、これ以上プレイヤーに対してヘイトを稼ぐのも戸惑われた。

 

「ホワイトブリムさん、音改さん、このギルドについて何か得られたことはありますか?」

 

「あぁ、基本的なことならな」

 

 

ギルド:クレイン・フォートレス

ギルドマスター:スルシャーナ

 

 このギルドは創設者である6人が最高権力を保持しており、誰も逆らうことができない。元々はアインズ・ウール・ゴウンのような少数精鋭のギルドだったが、先の件から勢いを急激に増している。新規参入した下端の者たちは『打倒!! アインズ・ウール・ゴウン!!』などと掲げているが、上層部は乗り気ではないらしい。ネットで検索してみるとチラホラと裏で様々な工作をしているのではないかと、黒い噂がある。

 

 

「因みに、このギルドマスターはモモンガさんと同じオーバーロードらしいぞ」

 

「へぇ……」

 

 別に同種であろうと、鉱山を奪った者に対して思うところは特に無い。

 

「モモンガさん、提案があるんですが、いいですか?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「こちらからトップ会談を設けてみるというのはどうでしょう? 上層部は我々に矛を構える気はないみたいですが、末端の人数が多くなれば、どうなるか分かりません。今のうちに、お互いに不可侵協定を結んでみるのはどうでしょうか?」

 

「不可侵協定ですか……悪くないですね……トップ会談になってしまうと、私に一任してしまうことになってしまいますが……それでもいいですか?」

 

 会談中に仲間と話をして多数決を取るなどということはできない。

 

 仕事であれば、話を持ち帰って懸案を話し合うのが常だが、これはあくまで『ユグドラシル』というゲームであって仕事ではない。モモンガにとって、今や仕事よりも遥かに重要なものではあるが……ゲームなので、多少の齟齬はあっても、会談中にさっさと全て決めてしまうのが好まれた。

 

「あぁ、俺は構わないが……」

 

「とりあえず、この件に関して多数決をとりましょう。旧硬貨が賛成、新硬貨が反対ということでお願いします」

 

 

「おーい、スー坊、アインズ・ウール・ゴウンの連中がお前の目論見通りトップ会談を持ちかけてきたぞ」

 

 戦士風の男は傍にいるルービックキューブをカチャカチャと操作しているオーバーロードに声をかけた。だが、声をかけたにも関わらず、返答が帰ってこない。

 

「おい、スー坊、聞いてんのか!?」

 

「うん、ちゃんと聴いてるよ。……けど、いいとこだからちょっと待って……」

 

 そう言って、5秒くらい経つとルービックキューブは完全な6面の配色体となった。

 

「おぉ、すげぇ!! さすがだな!!」

 

「これには、コツがあってね、それさえ分かれば誰だってできるよ。さて……彼らが会談を持ちかけてきたと言ったね? その会談、乗ろうじゃないか。楽しみだよ」

 

「そうか、お前に任せることになるが、大丈夫か?」

 

「うん、任せて!! ただ、どうなっても知らないからね?」

 

「あぁ、構わんよ」

 

 スルシャーナがそう言いつつも、心配そうに見つめてくる者もあった。

 

「多分、彼らが今、望んでいるのは『安定』だ。『成長』も望んでいるけど、先のほうが強いだろう。ドロップした装備品を返却していることからも、そう窺えるね。多分、会談はスムーズに進むし、それなりの利は得られるよ。だから安心しておくれ」

 

「……なら、心配ない」

 

「セッティングは俺らがやっておくから、メインは任せたぜ」

 

「うん、よろしく頼むよ。引き続き、彼らの行動は注意してね、何をしだすか分からないヤツもいるからね」

 

「了解」

 

 そう言ってスルシャーナ以外の5人は去っていった。

 

 彼らが望んでいるのは、恐らく不可侵だろう……だけど、僕的には……あぁ、会談の日が待ち遠しいよ、モモンガさん。

 

 

 そうして、3日後、2人のオーバーロードが護衛をつけて対談を始めた。

 




Q ギルド:クレイン・フォートレス(要塞:Fortress)ってナザリック地下大墳墓みたいに場所名だよね? ギルド名なの?

A もはや気にしないでください、お願いします……

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