オーバーロードは時を超越する   作:むーみん2

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文章を1000字程度削りました。以前と大まかな流れは変わりません。




12. 会談(後編)

 今、目の前にまるで自分をコピーしたかのようなプレイヤーがいた。種族はオーバーロードで装備も似ている。遠くからではどちらがアインズ・ウール・ゴウンの、若しくはクレイン・フォートレスのギルドマスターか分からない。

 

「初めまして、アインズ・ウール・ゴウンのモモンガです」

 

「こちらこそ初めまして、クレイン・フォートレスのスルシャーナです。ギルド:アインズ・ウール・ゴウン様から、このような会談の場を設けてくれて光栄に思います」

 

「いえいえ、こちらこそ、会談に応じてくれてありがとうございます」

 

 まずは、挨拶をした。礼儀正しいプレイヤーという印象を受けたが、隠し七鉱山や天空城のワールドアイテムの奪取などをやっている油断ならない相手だ。警戒しておくに越したことはない。

 

 それとモモンガは言葉を飾るのは好きではないし、持って回った言い分も好きではない。

 

「……少し堅すぎましたかね? 仕事ではないし、普段の口調で話ししません?」

 

 モモンガにとっては仕事の面談よりも遥かに重要な面談ではあるが、そう言った。その方が話しやすいし、警戒心も解き易いだろうと判断したからだ。

 

「あぁ、それじゃ、そうさせてもらおうかな。僕も堅苦しいのは得意じゃないんだ。……フフフ、モモンガさんと僕は色々と似ているところが多いみたいだね!!」

 

「……そうですね、スルシャーナさんもオーバーロードのようですし、何より私と同じギルドマスターですし……因みにどういったレベル構成しています? 私は今わざとデスペナルティーで90レベルまで下げて、2つの職業(クラス)を取ろうと思ってるんですよ」

 

「エクリプスとワールドディザスターかな?」

 

「……やはりエクリプスはご存知でしたか」

 

 エクリプス、それはモモンガがロールプレイの一環で発見し、習得していた職業(クラス)。95レベル以上で、オーバーロード5レベル、更に死霊系魔法特化という真の意味で死を極めた者がつくことができる。

 

 Wikiにはモモンガのことがびっちりと書かれていて、切り札である『あらゆる生あるものの目指すところは死である』も記載されているものの、どのようにして、そのスキルを修得しているのかまでは書かれていない。

 

 つまり、知っているということは……

 

「ユグドラシルでもごく少数しか知られていないよね。僕が知っているのはモモンガさんと僕だけ、そしてモモンガさんは傭兵魔法職ギルドのワールドディザスターにトドメを刺していたから、きっとワールドディザスターになるんだろうと思ったよ」

 

 傭兵魔法職ギルドの連中はぷにっと萌えが(ひたすら課金ガチャを回したので腐るほど持て余した)小鬼将軍(ゴブリン)の角笛を何度も使用し、MPやアイテムなどのリソースを完全に削った後、拘束して41人全員がトドメを刺した。このシーンはネットで動画としてアップロードされており、視聴者は「酷すぎる」「公開処刑だ」などとコメントをしている。

 

「スルシャーナさんもエクリプスでしたか、それだと私とほとんど一緒ですかね」

 

「そうだね、ただ一点、明確に違うのは、モモンガさんがワールドディザスターを習得しようとしているところかな。僕はエクリプスでワールドガーディアンの職業(クラス)についているよ」

 

 ワールドガーディアン。

 ワールドディザスターが攻撃魔法極限特化型魔法職であり、ワールドガーディアンはそれと完全に対になる防御魔法極限特化型魔法職。一定時間、全ての味方のダメージを0にしたり、魔法反射、物理反射、防御・魔法防御を大幅に向上させたりすることができる、公式において『ワールド』の名を冠する贔屓職の一つ。

 

 

 厄介だ……モモンガはそう思った。もし集団で戦えば、今のアインズ・ウール・ゴウンはデスペナルティなどで弱体化しているため、この存在のために負ける可能性が高い。

 

「そういえば、アインズ・ウール・ゴウンの防衛戦、動画で全編見させて貰ったけど、本当に凄かったよ!! 実に見事な手並みだった」

 

 ナザリックの襲撃者が録画し動画をとっていたものが全編通して10時間に及ぶものがある。なぜ10時間もあるのかというと、例えば1層から最深層まで全ての階層守護者に対面した者はおらず、複数人の録画した者たちが共同で纏め上げて作られた物だからだ。その動画にはナザリックのほぼ全てのギミックなどが網羅されており、他ギルドでも研究の対象になっていた。

 

「それはどうも、正直ヒヤヒヤしましたけどね」

 

「各階層のデストラップ、極悪モンスターの配置、NPCとのコンビネーション、傭兵魔法職ギルドの封じ方、そして最後のモモンガさんのやり取り、まさしく芸術品と言っていい代物だったよ」

 

 発言からして相手はこちらの行動を全てチェックしているようだった。こちらの隠し鉱山を奪還したほどのギルドだし、当然と言えば当然なのだろうが完全にこちらの動きをマーキングしている。

 

 こちらを褒める発言をしながら間違いなく脅しを掛けてきている。『おまえを見ているぞ』と。戦力ダウンしているこちらのことを考えると絶対に敵対してはならない。

 

「他の皆、仲間がいたからこそできた芸当です」

 

「なるほどねぇ、それがアインズ・ウール・ゴウンの強さという訳か」

 

「まさに、その通りです」

 

 そう、アインズ・ウール・ゴウンに裏切る者などいない。――有り得ない。自分の友はお前に唆されることはない。そう強く心の中で訴えた。

 

「さて、本題に入りたいんですが、いいですか?」

 

「うん、構わないよ」

 

「私たちアインズ・ウール・ゴウンと不可侵協定を結びたいと考えているんです」

 

「うーん、こちらとしてはそれでも構わないけど……こっちも提案したいことがあるんだけど構わないかい?」

 

「いいですよ」

 

「こちらとしては、同盟を組みたいと思っているんだ」

 

「同盟!?」

 

「うん、お互いに困ったときは助け合って、鉱山を共同で採掘していきたいと思ってる。君たちにとっても悪くない話のはずだ。不可侵なんて寂しいこと言わずにさ、一緒に協力していこうよ」

 

「確かに不可侵よりは条件がいいですが……」

 

 ネットの情報でスルシャーナは他者を唆したり、工作をするような手段を用いると言われていた。実際モモンガ自身もそう思っていたし、信用ならない相手だと判断していた。

 

「言いたいことは分かる。僕たちの信用がないということだろう? でもね、僕は何としても君たちと同盟を組みたいと思っている。組んでくれるのなら、担保としてこれを譲ろう」

 

 そう言って渡してきたのは一冊の分厚い本。タイトルは何も書かれていない。

 

「これは……」

 

「鑑定してごらん? 大丈夫、罠とか仕掛けてないよ」

 

 スルシャーナはモモンガの反応を楽しむかのようだった。モモンガは道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)で鑑定を終えるとハッと息を飲んだ。

 

無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)!! ワールドアイテムじゃないですか!!」

 

 それはアースガルズの天空城のギルドが所持していたワールドアイテムだった。

 

「どう? 組むこと考えてくれた?」

 

「……アースガルズの天空城を保有してたギルドのメンバーを唆して手に入れたと聞きましたが……」

 

「あぁ、裏切り者の彼ね。僕は彼にこう言ったんだ。『レアアイテムを渡すなら、それに応じて優遇してこのギルドに採用します』とね。そう言って今はメンバーを募っている。別に特別、彼に『裏切ってワールドアイテムを持って来い』なんて誰も言ってないよ。だいたい、そんなすぐ裏切るヤツなんて使える訳ないだろう?」

 

 3日前に装備品を返した彼らの言い分はだいぶ異なっていた。彼らは裏切り者が唆されて吊るし上げられたと言っていた。……もう裏切り者はユグドラシルのアカウントを削除しているから真相を探ることはできない。

 

 ただ、モモンガは仮にスルシャーナたちが唆したとしても、警戒すべきギルドと認識するだけであって『悪』だとは思わない。彼らが『悪』だと言うならば、幾つものギルドを抗争で潰し、攻め滅ぼしたこともあるギルド:アインズ・ウール・ゴウンは『極悪の中の極悪』と言えるだろう。

 

「それは、そうですが……あなた方の新参者はどうするんです? 納得しないのでは?」

 

 クレイン・フォートレスの新参者はアインズ・ウール・ゴウン打倒に熱を上げていると事前情報を得ていた。

 

「気にしないさ、僕にとって本当に重要なのはここにいる5人であって、利を求めてきただけの連中なんて関係ないよ。自分らの方針に納得できないなら辞めてもらうという条件で加入を認めているからね」

 

 モモンガは考える。現段階で相手は信用できる訳ではないが、転移後のことを考えるとワールドアイテムは欲しい。あれば、あるほど良い。悩んでいるとスルシャーナから手を伸ばしてきた。

 

「さぁ、僕の手をとって!! 共に歩もうじゃないか!!」

 

 モモンガは思わず、手を取って握手した。……ギルドの安定のために。

 

 

 モモンガはどのように同盟を組むかスルシャーナと話し合った。話は想定以上にトントン拍子に進み、結局、アインズ・ウール・ゴウンに相当に有利なものになった。例えば鉱山の分け前はクレイン・フォートレス側の方が人数が多いにも関わらず半々で分けることになった。

 

熱素石(カロリックストーン)はもうほとんど手に入りませんよ?」

 

 熱素石(カロリックストーン)は補正がかけられていたのか、採掘した金属を最初よりも比較にならないほど大量に消費しなければ入手できない仕様になっていた。これはアインズ・ウール・ゴウンが溜め込んでいるせいだろう。

 

「構わないよ、今後、製造した熱素石(カロリックストーン)を1つ貰えて鉱山のレアメタルが安定に供給できるだけでも十分、僕らにはメリットがある」

 

 話は筋が通ってはいるが、モモンガは腑に落ちないことがあった。

 

「……スルシャーナさん、私たちを信用しすぎじゃないですか? 私たちの悪評を知らないわけではないでしょう? 私たちにワールドアイテムを譲って本当に良かったんですか?」

 

「君たちは確かに悪名高いギルドだけど、社会人ギルドだ。約束は守ってくれると信じているよ」

 

「……そうですか」

 

 それを言われてモモンガは悪い気はしなかった。ペロロンチーノがよく言う『好感度ゲージ』が少しスルシャーナに対して増加した。

 

「そういえば、ワールドアイテムで思い出したんですが、他者を精神支配することができるワールドアイテムというものをご存知ないですか? スルシャーナさんは他ギルドに対しても交流しているようなので、もし知っているのなら教えて頂けませんか?」

 

「……他者を精神支配できるワールドアイテムですか……それを何処で聞きました?」

 

「噂でそう言ったワールドアイテムがあると聞いたことがあるんです」

 

 これは嘘だ。異世界へ行ってNPCがそれの被害にあったなんて言えるわけがなかった。

 

「へぇ……そんなアイテムが……分かりました。モモンガさんに言えることがあれば言いますよ」

 

「そうですか、そう言ってくれると助かります」

 

「さて……せっかくだし、皆で写真をとって締めよう!! 今後共よろしくお願いしますね」

 

「えぇ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 そう言って、その場にいた全員の集合写真をとって会談は終了した。

 

 

「なぁ、モモンガの言っていた『他者を精神支配できるワールドアイテム』って『傾城傾国』のことだよな? 何でアイツ等は知ってんだ?」

 

 

『傾城傾国』

 それはモモンガが言ったようにワールドエネミーなどの例外を除いてあらゆる存在を精神支配する驚異的なワールドアイテム。ギルドを結成した当初に入手したワールドアイテムでクレイン・フォートレスでもこの場にいる六人しか存在を知らない。

 

 

「あの発言には驚かせられたね……どこでどうやって知ったんだろうね? 足はつかないようにしていたのにね……」

 

「アインズ・ウール・ゴウンは運営と繋がっているとか? 若しくは自分たちの誰かが裏切り……」

 

 その発言を元にその場の6人が各位を見渡した。

 

「裏切りね……正直、その線は薄い気がする。この中に裏切り者がいたらそもそも鉱山の独占には成功していなかっただろう。運営と繋がっているというのも考えにくい。それにしては彼らの知っている情報が曖昧すぎる。本当に繋がっていたら自分らが所持していることもバレているだろう。……どこかで彼らに二次被害が及んだんだろう」

 

「どこかって、どこ? ここ数年、あのワールドアイテム使ってないよね?」

 

「分からないな……以前の襲撃戦だって準備が整いすぎてるように感じたし……とにかく、約束を果たす上で引き続き彼らの行動は注意して見ていこう。何か秘密があるのかもしれない」

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンはギルド:クレイン・フォートレスと協力しあうことで鉱山の採掘を続けることができ、再び襲撃が起きても対処できる状態を整えることができた。

 

 この会談に「納得できない」と多くのクレイン・フォートレスの新参の者たちが続出し、抜けていったが、それでも結構な人数が居残り、ギルドの名を落とすほどには至らなかった。

 

 

 ギルドの間でお互いに底を見せることはしなかったが、それほどギルド間で揉めることはなく、良きパートナーとしてお互いに利益が得られた関係を構築し続けていた。

 

 

 そうして時はユグドラシルの最盛期から衰退期、徐々に最終日へと向かっていった。

 




 異世界転移後、八欲王が存在しないため『五行相克』が使われないから異世界で位階魔法
が使えない旨を感想欄にてコメントしましたが、やはりそうであっても位階魔法は使えると判断しました。

 解釈を変えた理由ですが
・スルシャーナは六大神最強
・(書籍7巻 P279、9巻 P31、原作者様の外伝)より始原の魔法は強力であること

 当初はスルシャーナが『星に願いを』によりンフィーレアのようなタレントを奪うことによって魔法を行使したという設定で考えていましたが、自然な流れとは言いにくいので、普通に位階魔法は使えるものとしました。

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