オーバーロードは時を超越する   作:むーみん2

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今回は短いです。


13. 衰退期

 とある会社の応接室にて

 

 

 今、鈴木悟は会社の重鎮と直属の課長と対談していた。

 

「鈴木君、以前の話は覚えているね?」

 

「はい、覚えています」

 

「喜びたまえ、君を係長に昇格させること正式に決まったよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 正直、鈴木悟にとって全く嬉しくない話だった。

 

「君の先見の明は大変素晴らしい!! 君の進言のおかげで我が社に多大な利益が出たし、君を昇格させることにした。今後とも頑張って欲しい」

 

 鈴木悟は信じられないと言った表情をしていた。小卒を昇格させるなど異例中の異例だろう。

 

「……以前の君は優秀ではあったが、目に覇気がなくてなぁ、心ここにあらずって感じだったんだが、ここ数年の君は、どこかやる気に溢れているような感じがする。何か背負う物が君にできたんだろう?」

 

 そう言って重鎮は小指を立てた。

 

 ちげぇよ!! 未だにこっちは嫉妬マスクを状態だ!! 鈴木悟は心の中で文句を言った。

 

「これから忙しくなるだろうが、勿論、快く引き受けてくれるよね?」

 

 重鎮はジッと鈴木悟に睨みつけてきた。否定はさせない。そういう顔だ。

 

「はい!! 誠心誠意、頑張らせていただきます!!」

 

 ノーとは言えない。言えば明日からどうなるか分からない……

 

 

「……という訳でして、申し訳ありませんが、毎日ログインするのがキツイ状況でして……」

 

 今、モモンガは会社でチームを纏める立場になり、状況が以前と一変していた。給料は大幅に高くなったが、それ以上に会社の拘束時間は伸びていた。

 

「あぁ、大変だよな、分かるよ。自分もきついと思ってた頃合だし」

 

「すみません、これではギルマス失格ですね……」

 

「いや、そんなことないって!! むしろ、よくここまでログインし続けたなって思ったよ」

 

「モモンガさん、提案があるのですがいいですか?」

 

「なんでしょう?」

 

「我々は社会人ギルドですし、そろそろ人によっては結婚や昇格、または転職などしてログインし続けるのはキツイ状況になってきています」

 

 その通りだった。ユグドラシルが続いてもう11年になる。そうすれば、リアルの状況が変わるのは当たり前だ。

 

 死獣天朱雀が引退したのを切っ掛けにギルドメンバーは次々と引退していった。たっち・みーが子供の世話や仕事で忙しくなって引退し、それに続くかのように武人建御雷も引退した。

 

 だが、以前とは異なって独りではなかった。

 

「当番制のようにしてみてはどうかと。無理して毎日ログインするのは辛いですし、今やナザリックは毎日誰か一人でもログインしてれば何とかなります」

 

「あぁ、俺もそうしてくれると助かる」

 

「私も、水曜日と日曜日ならなんとかログインできるけど、それ以外は……」

 

 多数決で決めるまでもなく、皆がその案に乗ろうとしていた。今思えば、自分位の年齢になれば、ログインできなくなってくる位に忙しいのが普通なのだ。以前の自分は仕事は最低限にこなし、それ以外をユグドラシルに費やしてた。それがおかしいことだと今、理解できた。

 

「では、当番制にしますか。私もきついので……」

 

「あぁ、それがいい。無理はよくない」

 

「モモンガさん、これだけは言わしてくれ」

 

「なんでしょう?」

 

「以前はどうだったか、分からないが、今は俺たちがいる。微力かもしれないが、支えてやれるんだ。困ってたら、今回みたいに助けを求めてくれていいんだぜ」

 

「そうだな、モモンガさんは何でも、問題を一人で抱えようとする癖があるからな」

 

「皆さん……ありがとうございます!!」

 

 胸が高鳴った気がした。今回は独りではないと強く実感できた。身体は奮えていた。感動のあまり、涙が出そうになるが、グッとこらえた。

 

『おーい、モモちゃーん、あっそびっまっしょー』

 

 そんな感動を打ち壊すかのようにスルシャーナから<伝言(メッセージ)>が届いた。

 

「……あいつはよく来るな」

 

 彼らと同盟を組んだおかげで目立った襲撃が起きる様子もなく、平穏な日々が続いていた。今では良きパートーナーとして彼らとよく狩りに出ていた。

 

『ちょっと待っててください、今迎えに行きますから』

 

 

 当番制にしたおかげで、ギルドメンバーは無理をせずログインすることができた。ある者は日曜日だけと言った具合だが、誰もさぼらずにいた。そのおかげで、今残っているメンバー誰もが欠けることなくナザリックを維持することができた。

 

 

 

 

 そして、また時は過ぎていき、2138年、ユグドラシル最終日がついに告知され、残り一ヶ月になろうとしていた。

 

 

 モモンガはログアウトする前に宝物庫の方へと永劫の蛇の指輪(ウロボロス)があるかどうか確認をしていた。

 

「やはり無いか……」

 

 以前、自分が異世界に転移する前、災厄の箱(パンドラ・ボックス)の中に眠っていた永劫の蛇の指輪(ウロボロス)は今は見られなかった。

 

 モモンガたちは天空城を保有していたギルドマスターから永劫の蛇の指輪(ウロボロス)の入手法を聞き出し、彼らの情報を元に捜索したが見つけることはできなかった。

 

「仲間が秘密に所持しているか……それとも、他の誰かが先に入手してしまったか……」

 

 きっとモモンガの知る別ルートで誰かが永劫の蛇の指輪(ウロボロス)を入手してしまったのだろうと考えた。

 

 無いものを考えても仕方ないので、モモンガはログアウトした。

 

 

 鈴木悟が寝る準備をしようとしていた頃、一通のメールが届いていたことに気がついた。

 

 それは、既に引退していたギルドメンバー『たっち・みー』からだった。

 

 

 『モモンガさん、どうか私に過去へ戻る方法を教えて頂けませんか』

 




次回、鬱話になります。苦手な方もいると思いますので、読み飛ばしできるようにします。

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