オーバーロードは時を超越する   作:むーみん2

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鬱話です。苦手な方は即座にブラウザバックして下さい。
……というか、そうでな人も読まないほうがいいかも……

読まなくても次の話で簡単に書いて、読まなくとも進めるようにします。


14. 絶望の都

覚えておくがいい……

誰しもが魔王になり得ることを……

憎しみがある限り……

 

いつの世も……

 

――魔王オディオ    出典元:LIVE A LIVE

 

 

 国家は人間社会の平和と福祉の向上を目指し、経済の発展を促し続けていた。企業は国家の制定した法を遵守しつつ、利益を得ることを血眼に模索していた。

 

 法に触れない範囲で『自然』より得られた利益で開発を続ける法人がいれば、そうでない法人もいる。そういった法人は国家より咎められ、大抵は潰れていくが、ある一定以上、社会の中で大きくなってしまえば、政治家、マスメディア、警察、誰もが批判しなくなった。

 

 悪貨は良貨を駆逐するように、やがて多くの企業が『自然』を貪り、荒らしていった。

 

 

 ――そうして、2130年、現代

 

 

 地球は既に限界を迎えて、普通には住めない星になっていた。土、水、大気、全てが汚染されていた。食物連鎖における微生物や植物などの底辺が崩れ、上位の野生生物は完全に姿を消し、ついに傲慢な人間へと矛先が向けられていた。

 

人間はまるでチューブに繋がれ無理矢理生かされていた死に体のように、発展した技術でしぶとく生き残っていた。人間社会の極一部の上位たる富裕層は残された資源を啜りながらアーコロジーに住むことで汚染された世界を遮断していた。それ以外の人間はゴーグル、ガスマスク、人工心肺などを装備し、合成食物を摂取することで生存を保っていた。

 

 そして、行政は食品企業関係の人間が送り込まれ、日本――いや、世界中の国が富裕層の富裕層による富裕層のための政治が行われていた。

 

 底辺の人間を食いつぶすことで凌いでいた社会。大抵の富裕層は見て見ぬふりだが、誰もがいずれ破綻することが目に見えていた。

 

 

 そんな中、アーコロジー生まれで容姿、身体、頭脳と天から二物、三物を与えられて育った者がいた。彼はこの恵まれた環境に生まれたことに感謝し、弱者の為に生きることを決意した。

 

 もし、彼が大企業に入りさえすれば、即座にアーコロジーに住まうことができる富裕層となっていただろう。彼は、この世の中を少しでも正すため、親の反対を押し切り、己の正義を信じてキャリア組の警察官となった。

 

 だが、彼の予想以上に現代の警察というものは歪んでいた。

 

 まず、貧民層を助けるなどということは一切しない。アーコロジー外には一部の居住区を除いて警察署どころか交番すらない。スラムと化している所では犯罪が日常的すぎて、もはや相手にすることはできなかった。すでに彼らは国家というものから見放されているのだ。

 次に、あまりにも汚職の具合が酷い。賄賂を貰っていない警察官など、何処にもいなかった。それどころか警察官が積極的にサラ金、裏賭博、覚醒剤、密輸、闇市といった生業をしている裏組織と共に儲けていた。現代では国家権力は衰弱しており、大半の国家公務員はなけ無し給与だった。それ故に暴力団関係からの裏金で荒稼ぎする者が絶えなかった。……国家公務員は安定して給与が正しく支払われているだけ社会的に十分な勝ち組と言えていたのにも関わらず、酷い有様だった。

 最後に、何かを守るという警察の根本的な思想・信念を誰も持っていなかった。これだけ腐敗していれば当然なのかもしれないが……何もせず賄賂を受け取るだけの連中に、この組織の存在意義について問いただしたかったが、キャリア組とは言え、新人の立場でそれができるほど甘くはなかった。

 

 そんな中、10年以上、彼は堕落への誘惑に惑わされず己の信念を貫き通していった……。そのお陰か彼の周りの者たちは少しずつではあるが『正義』というものを考えるようになり、彼の考えに賛同し始める者たちが現れた。

 

 そして、遂にそれが報われる時が来た。

 

「芥警視、お疲れ様です!!」

 

「村田警部もご苦労様でした。この一件は皆さんのおかげです!!」

 

 捜査一課 芥警視と村田警部 

 

 彼らは同世代で、同じ小学校、中学校、高校に通った幼馴染であった。芥警視は大学院まで出ているキャリア組で村田警部は高卒上がりだった。おかげで村田警部の方が長く勤めているのにも関わらず、階級に差が出ていた。しかし、村田警部は気にしていないようだった。

 

 

 ある非合法組織が貧民街より発展し、警察がまともに機能していなかったために勢力を増していき、ついには貧民街に飽き足らずアーコロジー内に住む富裕層にまで手を出そうとしていた。そんな中、彼の指揮下の元、その組織内の覚醒剤に携わる幹部を捕えることに成功した。

 

「今日はお祝いに飲みましょう!! 私のおごりです!!」

 

「さっすが将来を約束されたエリート警視!! ありがとうございます!!」

 

 部下たちは燥ぎ立てた。それもそうだろう。現代において酒というのは富裕層にしか味わえない高級嗜好品だった。生涯において味わったことがある者など1割に満たない。

 

「すみません、芥警視。俺はちょいと用事があって……行けないわ……」

 

「うーん……それでは村田警部とはまた今度にしますか、さて、今日は早く上がるとしましょう!!」

 

 

 部下の数人を連れてアーコロジー内の高級居酒屋へと足を運んだ。芥警視のおごりで皆が喜々として遠慮なく酒を飲み、つまみを取っていく。少し財布の中が不安になったが、これは芥警視にとって久々の快挙となる出来事で、仲間と共に祝いたい気分で一杯だった。最初は金儲けしか考えていない者たちだったが、少しずつ警察としての誇りを考えるようになり、今では職場で数少ない信頼できる仲間となっていた。

 

 

 居酒屋での飲み会もお開きとなり、アーコロジー外にある自宅のアパートへと向かっていった。駅のプラットフォームに向かうと人身事故のために一時遅れとなっていた。

 

「最近、多いですね……」

 

「そうだな……」

 

 最近、急に台頭してきた企業があった。それが幾つものライバル社を潰していった。中には安定していたインフラ関係や食品関係の企業があり、経済に大きな変動を与えていた。それによって株や投資などをしていた破産者の話が後を絶たない。

 

 まさかとは思うが……この企業の突出に彼らが関与してるのでは?

 

 芥警視は未来を知っている者がいたことを思い出した。かつてのオンラインゲームで未来に起きることの幾つかを予言し、それによって大儲けした者たちがいた。

 

 ……考えても仕方がないことだ。仮にそうだったとして、あまり大きすぎることは自重して欲しいが彼ら自身に罪はない。

 

 暫く待つと電車がプラットフォームで停まった。それに乗ると様々な広告が電車内に展示されていた。中にはDMMO-RPGなどのオンラインゲームなどがあった。隅の方ではあったが、自分のプレイしていた――既に引退した『ユグドラシル』の広告もあった。

 

「彼らは、どうしているのかな……」

 

 かつて自分がワールド・チャンピオンだったゲーム……弱者救済のためにクランを創設し、勢力を伸ばしたらいつの間にか悪名高いギルドになっていた。

 

 最初に目指していたのと大分違ってしまったが、何だかんだ言って楽しかった。彼らは今でも楽しくプレイしているのだろうか、それとも異世界転移のために、あらゆる準備をしているのか……自分のアカウントは消していなかったが、もう長い間ログインしていない。自分はあの子を守っていかなければならない。

 

 そんなことを考えている間に、途中まで一緒に帰っていた部下たちと別れ、バスに乗って自宅まで帰宅していた。

 

 

 家の玄関を開けると妻と娘が出迎えてくれた。

 

「パパーお帰り」

 

 娘――3歳になる沙希は嬉しそうな顔を向けてきた。一方で、妻――かつて幼馴染だった早苗は不機嫌そうな目でこちらを見てきた。

 

「まったく、飲むのもいいけど、この子のことも考えて早く帰ってきてよ」

 

「すまない、列車が遅れていたんだ」

 

「……そう、まぁ仕方ないわね、お帰りなさい」

 

「あぁ、ただいま」

 

 玄関の扉を閉めてスチームバスに入った後、娘の相手をした。

 

 今住んでいるアパートは正圧(内部の気圧を高く)管理できるブロワが設置されており、汚れた外気は入ってこない環境になっていた。これのおかげで健康な子供を育てることができた。

 

 娘と積み木などの玩具で暫く遊ぶと、娘は疲れてぐっすりと眠りだした。眠っている顔は安心しているかのかのように健やかだった。

「将来、どういう風に育てようか? 水泳とかやらせようか?」

 

 彼は子供を撫でながら優しい目を向けつつ考えていた。

 

「あなた、沙希に習い事はまだ早いわ」

 

「そんなことは分かってるよ、ただ考えているだけさ。こんな世の中だけど、この子には色々と学んで欲しいんだ」

 

「私はあんまり無理して欲しくないわ、健康で幸せに居てくれれば、それで十分よ」

 

「たしかに、それもそうだな……」

 

 将来、娘の幸せを考えながら妻と話しをして、寝室へと、また明日に備えた。

 

 

 朝になり、出勤しようと玄関を開けると妻が一言告げてきた。

 

「あなたが早く帰らないとこの子が心配して落ち着かなくなるから、今日は早く帰ってきなさいよ!!」

 

「あぁ、分かったよ」

 

 妻の側にいた娘が寂しそうな顔をしていた。

 

「パパ、行ってらっしゃい」

 

 彼は優しく娘の頭を撫でると、しゃがんで笑顔で返した。

 

「あぁ、行ってくる、いい子にしているんだぞ!!」

 

 そう言って、バス停の方へと向かっていった。この時、これが家族との最後の会話になるなど思いもしなかった……

 

 

 駅からアーコロジーに向かい、職場に着くと騒然としていた。

 

「何があったんだ?」

 

「あ、芥警視!! それが……」

 

 昨晩、アーコロジー外へと捉えた犯人を乗せた護送車がテロに遭遇し、捕まえた犯人が脱走したという話だった。

 

「何ということだ……」

 

 現代の警察はアーコロジー外でテロに遭遇しようが、犯人が脱走しようが緊急連絡で招集しようという発想はなかった。そして、護送車が襲われたということは、間違いなく内通者がいる。そんな事実に誰もが知らぬふり……

 

 仲間と共にせっかく築き上げた成果は一瞬で崩壊してしまった。

 

「とにかく、今日は襲撃された現場の調査と聞き込み調査、終わったらここで方針を建て――」

 

 そう言いかけたとき、別のグループに所属する者から芥警視に声がかかった。

 

「芥警視、至急、佐藤警視正よりお言葉があるようです」

 

「警視正が……? 今すぐに行きます。各自、襲撃時の資料を読んで待機していてくれ」

 

 

 芥警視は佐藤警視正がいる個室の扉をノックして彼の名前を言うと「入りなさい」という言葉が返ってきた。

 

 芥警視は扉をゆっくりと入っていき、ふてぶてしく座った佐藤警視正の前まで来た。

 

「芥君、今回のことは残念だったね」

 

 口ではそう言いつつも、興味なさそうに自分の眼鏡の汚れを拭きながら喋りだした。

 

「はい、ですが次こそ、このようなことは二度と起きないよう――」

 

「あぁ、いいんだ。芥君、私が君を呼んだのはね、今後この件からは外れて欲しいんだ」

 

「えっ……」

 

「彼らも今回の一件でアーコロジーには手を出さないだろうし、これで今回の件は解決したんだよ」

 

「そんな……一体、何が解決したというのですか!! 彼らがいなくならない限り治安は悪化していくばかりです!!」

 

「……よく考えたまえ、彼らは今や武器を他国から密輸しているというじゃないか。もし、彼らを刺激してこのアーコロジー内に問題が起きたらどう責任を取るつもりだね?」

 

「……」

 

「何事も慎重にならんといかん。とにかく情報を集めてだね、皆でよく話し合ってから解決しないとだね……」

 

 芥警視は目の前の豚を思いっきりぶん殴ってやりたかった。いつも、我々の行動を妨害してくるのだ。

 

「とりあえず、当面の君たちには、これらの書類関係の仕事を頼みたい」

 

 それは山のように束ねられた資料の数々、読むだけでも数日は掛かるであろう量があった。

 

「これらの書類を読んで、まとめて簡潔な報告書を作ってもらいたい。書類と報告書の型式は後で渡す。……返事は?」

 

 それは、お前の仕事だろうと怒鳴ってやりたかった。この豚はいつも座って命令しているだけで何もしない。

 

「……分かりました」

 

 芥警視は敬礼してその場を去ろうとしたとき、最後に一声かけてきた。

 

「……もう少し賢く生きなさい」

 

「……」

 

 芥警視は何も言わずにその場を立ち去った。

 

 

 結局、その一日はただ書類を眺めているだけで終わってしまった。

 

「……それでは、お疲れ様でした」

 

「あぁ、お疲れ」

 

 部下たちは一日中、不満を呟いていた。その度に注意はしたものの、芥警視は賛同していた。

 

「芥警視、今日は飲みませんか?」

 

「村田警部……今日は気分じゃないです」

 

「そう言わずに、パーっとやりましょうよ。飲まないとやってられませんよ」

 

 昨日とは打って変わってやたらと押してくる村田警部だった。

 

「……家族に早く帰って来いって言われてるんですよ、また今度にしてください」

 

「そうですか……仕方ないですね、また今度お願いします」

 

 そうして、いつものように職場を去って駅に向かっていった。今日も人身事故で遅れていた。

 

 これでは、また妻に怒られてしまうな……

 

 駅からバスに乗って自宅に着くと、ある違和感を覚えた。夜だというのに全く電気がついていない。

 

 不審に思いつつ、扉に触れてみると鍵もかかっていなく、ガチャリと簡単に開いてしまった。「鍵をかけないで外に出るなんて無用心だ」と妻に注意しようと考えていると、背後から3人の気配を感じた。

 

 3人は武器を持っており、こちらに声もかけず、密かに背後へと募ってきた。

 

 男の1人が鈍器を振り上げた瞬間に、芥警視は鞄を落として拳を軽く握り、鞭のように裏拳を顎に当てた。その一撃だけで男は脳震盪を起こし、揺らめいて倒れてしまった。この瞬間的な動作に驚いた2人は焦ってナイフなどの武器を構えるが、その動作の前に1人を正拳で思いっきり顔面に叩き込んだ。その後、もう1人のナイフを突き出してきた者の手首を左手で掴みながら、身体を一回転して後頭部に右肘打ちを打ち込んだ。

 

 急いで家族の様子を見に行き、電気をつけると、辺り一面が血だらけだった。そこには2つの死体があった。両方とも首から上がなく、丁寧に隣の机の上に2つが置かれていた。顔は苦悶の表情を浮かべていた。

 

「な、何だこれは……」

 

 ……思考がまとまらない。先にいた3人を確認しにいくと一人だけ気を失っていない者がいた。

 

「これは……お前がやったのか……?」

 

 それを聞いた男はニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「……見せしめだ。お前のような正義ぶった奴へのな……」

 

 隣で気絶していた男がナイフを持っていたことを思い出して手に取った。……それを無意識に男の目の先にナイフを突きつけた。

 

「お、おい、や……やめろよ、お前警察だろ? 何考えてるんだよ」

 

「……俺の家族を殺しといて命乞いか? ふざけるなよクズが!! 殺してやる!!」

 

「お、俺を殺せば他のヤツが黙っちゃねーぜ、完全に俺らを敵に回せばお前はもう終わりだ」

 

 怒りを覚えつつも、僅かに残ってた理性でもってワナワナと震えて持っていたナイフを捨てた。

 

「…………お前たちは司法で裁いてもらうことにする。……現行犯逮捕だ」

 

 早苗、沙希……すまない……

 

 家族への通夜、葬式、告別式を終えて、何をすることもなく数日間の休みを取った。親戚からは励ましなど言葉を貰ったが、何も響いて来ない。世界がより色褪せて見えていた。

 

 

 そうして、暫くして職場に復帰した。

 

 数日間の特別休暇を終えたということで、佐藤警視正に呼ばれ、挨拶をしに行った。

 

「芥君、大丈夫かね?」

 

「……はい」

 

 珍しく佐藤警視正は神妙な面持ちで語りかけてきた。

 

「……今の君に参考になるかは分からんが私の昔の話をしよう。今じゃ考えられないと思うかもしれないが、私も君のように弱者を助けようと奔走していた時期があったよ」

 

 無意識で芥警視は信じられないと言った顔をしていた。

 

「……フフ、想像もつかないと言った顔だな。私も実を言うと既婚者なんだ。もう既に家族は全員他界してしまったがね……だいたい君と似たような具合で、報復されて失ったよ……結局、世の中は弱肉強食であって、そこに善悪などない。今の世の中、国家権力など地に落ちているからな。私は自殺するかどうか悩んだりもしたが、図々しく生きることにしたよ。そうやって今も死んだように生きている」

 

「そうですか……」

 

「……今後、どういう風に生きるかよく考えなさい。私はそれに対して何も言わないよ。いや、言う権利がないと言った方が正しいか」

 

「……参考になりました。ありがとうございます」

 

 

 そう多くない書類仕事を終えて、一日の仕事を終えて帰ろうとしたとき村田警部に声をかけられた。

 

「芥警視、今日飲みましょう……」

 

「すまないが、気分じゃない」

 

「そんなこと言わずに……」

 

 芥警視は村田警部に対して少し気になっていることがあった。最近、変に絡んでくることが多かった。

 

 少し話してみるのも悪くないか……

 

「分かりました。いいでしょう」

 

 

 以前、部下たちと共に行った居酒屋へと着いた。

 

 お互いに飲んでいる間、適当に身の回りの話をしていた。区切りがいいところで、確かめたいことがあったので、それを聞くことにした。

 

「そういば、村田警部は最近何か忙しかったりしますか?」

 

「最近は暇ですよ、嫁には逃げられちゃったんで、パチンコぐらいしかすることないですね」

 

「この前、私たちがここで飲み明かしたとき、村田警部は用事で抜けたんで珍しいなと思いまして」

 

「私だって用事の一つや二つくらいありますよ。芥警視だって病院行ったり色々あるでしょう?」

 

「まぁ、そうだが……」

 

「それより、もっと飲みましょうよ。辛いことは酒でガンガン流しましょう!!」

 

「いや、飛ばしすぎ……まぁ、今日ぐらいは……いいか」

 

 そう言って、途中でトイレに何度か赴いたほどにひたすら飲んでいった。

 

 暫くして、急激な眠気が彼を襲った。

 

 

 目を覚ますと、どこかの裏路地で人気のない所にいた。

 

「ここは……一体……」

 

「おぅ、ようやく起きたかよ」

 

「村田警部……か。私は一体……」

 

 意識が朦朧としていた。記憶がない。確かに自棄酒だったが、そこまで飲んでいただろうか?

 

「俺がここまで連れてきた。代金も支払ってな……」

 

「それは……すまないことをした。後で払おう。私は少し休んでから帰る」

 

「いや、謝る必要はない。俺が意図的に眠らせたからな」

 

「……は?」

 

「裏組織に護送車の出発時間、お前の住所などの情報を売ったのも俺がやった!!」

 

「な……馬鹿な……」

 

「ヒ、ヒヒヒ、ヒャーハッハッハッハッ!!」

 

 突然、村田警部は狂ったかのような笑い声をあげた

 

「おもしれぇほどにお前を簡単に潰せたぜ!! 小学校時代から、ずっとお前のことが憎かった!! この糞みたいな社会で上から目線で正義ヅラしやがってよぉ!! お前は俺がどれだけ努力しようとも、いっつも俺の上を行きやがる!! だからなぁ、情報を売ってやったんだ!! お前の成果だけでなく、全てを壊し、俺の借金の肩にするためになぁ!!」

 

「ふ……ふざけるなよお前!!」

 

「お前はキャリア組だから知らねぇだろうが、高卒上がりの国家公務員は雀の目の涙でしかない……補うために株で儲けていたら、破産して……嫁と子供は逃げて……博打には失敗し……少し前まではサラ金に手を出していた……それがお前を売ったことで借金は帳消しよ、笑いがこみ上げて来るってもんだ!!」

 

 芥警視は目の前の相手を殺してやりたい気分になった。

 

「だがよ、最近、お前の部下と佐藤警視正が俺のことを密かに探っていてよ……足がつくまで時間の問題だ。だから……」

 

 村田警部は手袋した手で拳銃を取り出した。

 

「お前が眠っている間に、お前の指紋をびっちりと、この拳銃に付けさせてもらった」

 

「お、お前、何を……」

 

「地獄からお前の生き地獄を眺めさせてもらう……あばよ」

 

 そう言って村田警部は自分の額に銃を突きつけて、トリガーを引いた。

 

 

 これは一躍、大事件になった。芥警視は否認していたが、拳銃に芥警視の指紋が付着していたために、芥警視は無実であるにも関わらず、逮捕された。

 

 裁判所にて傍受席でニタニタと笑う出世欲の激しい警視の者たちがいた。

 

 意外にも佐藤警視正が参考人として芥警視のことを弁護し、村田警部殺害を情状酌量の余地ありとした。刑期は2年6月ですんだ。後の調査により、村田警部が犯人脱走の手引きをしたことを警視庁が判明したこともある。芥警視は職すらも失い、完全に失墜した。

 

 刑期後、実家からも「犯罪者など我が家にはいない」と絶縁された。

 

 人を信じた結果がこれ、より良い社会を作るために警察になった結果がこれ、自分の……正義を目指した、これがなんと愚かなことだったか……

 

 そんな彼には、もはや一つしか残されていなかった……

 

 

「そんなことが……」

 

 モモンガはたっち・みーの話を聴いて悲しくなった。

 

「分かりました。私がどうやって戻ったかを話しましょう」

 

 モモンガはたっち・みーに永劫の蛇の指輪(ウロボロス)の話をした。

 

「では、異世界へ行く誰かが密かに所持しているかもしれないということですね?」

 

「えぇ……その可能性は高いです。もちろん、無いかもしれませんよ?」

 

「……どちらにせよ、私には、もうこの世界に居場所はないです。……一度、引退した身ですが、もう一度参入していいですか?」

 

「えぇ、勿論です」

 

 あの世界にあった厄介な物は例のワールドアイテムのみだ。それさえ手に入れてしまえば、永劫の蛇の指輪(ウロボロス)が必要になる事態はそうそう無いだろう。事情を話せばプレイヤーによっては譲ってくれるかも知れない。

 

 モモンガはそう考えていた。

 




この話はライブアライブ○○編、007消されたライセンスを参考に書きました。

次回、ようやくユグドラシルの最終日です。

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