「ん? どうしたんだ? モモンガさん?」
「皆さん、逢いたかった、ずっと、逢いたかった……」
ギルドメンバーたちはモモンガに視線を集めた。今モモンガが言ったことがよく分からなかったからだ。
「ちょ、いきなりどうした、モモンガさん?」
鳥人が話しかけてくる。シャルティアの創設者で自分と仲が良かった、あのペロロンチーノだ。他の皆もこちらを心配そうに見てくる。全員、見覚えのある異形種だが……
「本当に、お久しぶりです。ペロロンチーノさん。それに、他の皆さんも……本当に、何年ぶりでしょうか……」
一同はそのセリフに疑問を抱く。何言ってるんだこの人は? といった感じだ。
「いや、何年ぶりって……普通にさっき話してたし、昨日も一昨日もお互いにログインして顔を合わせてたじゃん」
そう言って、『(。´・ω・)?』 表情のアイコンが鳥人の横に出てくる。あ、そうか、ここユグドラシルなのか……もしかして、コンソールも出るのか?
ここで、はっ!! と気がつく。ここはもしかして、過去?
そう思い、コンソールを出す仕草をすると、本当に出てきた。ログアウトもできそうだ!! タイムログを見ると、今は……
2132年2月18日――
やはり過去に飛んでいた。ユグドラシルが始まって6年に相当している。
とりあえず、この場をなんとか収集つけようと思い、その場に合わせようとする。
「あ、いや、ハハハ、ごめんなさい。何か寝ぼけてたみたいです」
「モモちゃん、どうしたの? 働き過ぎはよくないよ?」
ピンクの肉棒……ぶくぶく茶釜さんが幼い女の子の口調で話しかけてくる。働く? あっ、そうだよ、俺は社会人として仕事してたんだよ!!
「すみません、なんか、だいぶ疲れてたみたいで……」
「モモンガさん、疲れていたなら休んだ方がいいですよ。無理はよくない」
水死体のタコを乗せ、黒の衣服を着たマインドフレイヤー、クトゥルフ系の異形種、タブラ・スマラグディナが心配そうに話しかけていた。
「あっ、タブラさん!! あの、貴方に謝らなきゃいけないことがありまして……」
「ん? 何かしたんですか?」
「最終日にアルベドの設定書き換えちゃったんですよ、もう、ずっと謝ろうと思っていまして、本当にごめんなさい!!」
モモンガは、タブラに対して申し訳なさそうに、腰を曲げて礼をする。新入社員が上司に対して謝罪しているような感じだ。
「アルベド? アルベドって何です? それに最終日って一体何ですか?」
「えっ、何でタブラさんが分からないんですか? ほら、あの第10層の玉座の間に配置したNPCですよ、最後の一文を書き換えちゃって……」
「いや、ちょっと待って下さい。今のナザリックは9層までで、第10層なんて存在していませんよ? それにNPCって……私はまだニグレドしか作っていないんですが……」
モモンガはハッとした顔をして口元を押さえる。そこで、悪魔系の異形種であるウルベルト・アレイン・オードルがさらに追求する。
「私も今の発言は気になるね。第10層の玉座の間と言ったね? 前々からある程度完成したら言おうかと思っていたんだよ。悪の親玉として堂々と構えるにふさわしい玉座を最深層に作ろうってね。まだ誰にも言っていないんだが……」
……そうだった。まだ、この時はそこまで完成していなかったじゃないか。
気付くのも遅く、一同は不思議そうな目で見てくる。
な、なんて切り返せばいい? デミウルゴス……助けて……あっ、まだこの時は存在していないのか……
そんなことを考えていると、タブラが助け舟のようなものを出した。
「そういえば、逸話でしかないんですが、予知夢というものがありましてね? 有名な話ではタイタニック号の沈没やアブラハム=リンカーンの死などがあるんですよ。もしかして、そういったものを見たんですか?」
あー、なるほど、夢……か、とりあえず、それで誤魔化す方針でいこう。
「あ、いや、あの……その、も、もしかしたら、そーなのかなーって思ってます。なんか夢とごっちゃになっちゃって……」
「えー、まじかよ、モモンガさん、どんな夢みたんだよ」
ペロロンチーノが興味ありげにこちらを見てくる。
「……正直、あり得ない話なんですが、聞きます?」
「おぅ、ぜひ聞かせてくれ」
「私も気になりますね」
そう言って、その場にいた全員が耳を傾けようとする。
「えっと、ですね……正直、信じられない話だと思って聞いてほしいんですが、ナザリックが異世界に転移するんですよ。それと同時に、NPCたちが自我を持って動くんですよ……あり得ないですよね」
モモンガの発言を聞いていた者の大半がどっと笑い出す。
「アハハハ、それは有りえねーって、どこのラノベ展開だよ。俺のPCから嫁が出てくる方がまだあり得るって!!」
「モモちゃん……あなたユグドラシルのやり過ぎで疲れているのよ……あと、弟、お前は現実見ろよ」
ですよねー、やっぱり、単なる戯言で終わるよな……
だが、タブラ・スマラグディナ、ウルベルト、たっち・みー、ぷにっと萌え、死獣天朱雀など、むしろ真剣に考え事をしている者もいた。
「で、モモンガさんは異世界でどうしていたんです?」
「主にNPCたちとその世界の情報を集めていました。とにかく苦労したのが、NPCたちの上位者としてふさわしい振舞いを――」
ここでカッツェ平野のことを思い出した。
「ぎゃぁあああああああぁぁ!」
「やめぇええええ!」
「たすけてててえええええええ!」
「いやだああああああ!」
「うわぁあああああああ!」
グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャグチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。
悍しき黒い仔山羊によって、必死に逃げていく人間が無残にも次々と肉塊になっていく。
帝国の兵や隣にいたニンブルたちも恐怖で青ざめていた。
それを分かっていた上で、自分は両腕を広げてこう言ったのだ。
「――喝采せよ」
「うっ、お”え”え” え” え” え” え” え” え”ぇ――」
急に胃の中の物がこみ上げて来て嘔吐した。ゲーム上では何も吐いてはいないが、現実世界での今の自分は嘔吐まみれになっているだろう。
「ちょっ、モモンガさん!?」
ペロロンチーノが驚いて声を掛けてくる。
「お、俺は、な、なんてことを……し、信じられ……うっ、おえ”え” え” え”――」
また嘔吐した。凄惨な状況をより鮮明に思い出した。ただ、2度目の嘔吐なので、きっと先ほど吐いた量よりは少ないだろう。
「い、いや、なんだ、これ……嘘だ……」
ナザリックのためという面目のために様々な事をした。
陽光聖典の連中やクレマンティーヌを殺害したのは、まだ納得がいく行動だ。
だが、シャルティアがワールドアイテムの被害にあった以降……
イグヴァルジ達を邪魔という理由だけで殺した。普通に暮らしていたリザードマンたちを実験のために殺した。村人たちをルプスレギナのテストのために危険な目にあわせた。英雄像を作るためのマッチポンプのために王国民の大勢を犠牲にした。ナザリックに踏み込んだ者共を、より凄惨な目にあわせて殺した。
――果ては、あの大虐殺。
殺した――、ひたすらに殺して殺して殺して殺して殺した。
モモンガは、わなわなと震えた白い骸の両手を見ると、それは……
膨 大 な 怨 嗟 の 声 と 血 の 赤 に 染 ま っ て い る よ う に 見 え た
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
胃が込み上げてくるが、もはや吐く物すらなく、絶叫した。
それを見た、たっち・みーが怒鳴りつける。
「モモンガさん!! 今すぐにログアウトして下さい!! そして休んでください!! 場合によっては病院へ行くべきだ!!」
その迫力に皆が息を呑む。
「す、すみません、そうします。……あの、また会えますかね?」
「……体調をきちんと整えて、またログインして下さい。そうしてから遊びましょう」
「……よく分かんねーけどさ、俺は勝手にはいなくなんねーから、また来てくれよな」
「……それじゃ、お先に落ちます。本当にすみません……」
そう言ってモモンガはログアウトした。
?話から戻って2話にきたそこのあなた、~~さんは天才だと書いてて思いました。