「なぁ、モモンガさんは急にどうしちまったんだ?」
ペロロンチーノが皆に声をかけた。モモンガの急な変容に疑問を投げつけた。
「いやぁ……あれは、流石に驚きましたね……見ててハラハラしましたよ……」
「ねぇ、ギルマス大丈夫かな……辞めたりしない?」
「どうでしょうね……また会うって言ってたから、多分、大丈夫だとは思うけど……」
「俺、新参者だけどさ、前にこんなことあった?」
「るし★ふぁーさん、私と彼の付き合いは4年にもなりますが、こんなことは初めてです」
「なぁ、普通さ、寝ぼけてたにしろ、夢を見てあんなことになるか? 夢を見たっていうより、何かを経験してきたような感じだった」
「ですねぇ……一体なんなんだか……」
「彼の発言を聞くと、夢を見たのではなく、全く関係ない別の何かをした……ということじゃないですか?」
「何かをしたって……何したんだよ?」
「例えば……会社で何か莫大な損害を生んで、今それに気づいたとか……」
「あー、ありそう。吐きたくもなるわな」
「私は、違うと思いますね。……というのも、以前の会話から奇妙でした。まるで、何年も私たちと会っていなかったような発言してましたよね?」
「あぁ、奇妙なのはそれだけじゃない、俺やタブラさんのやろうとしていることを言っていたな。深層の玉座の間……これはまさしく、俺があったらいいと思っていた代物だ」
「それは、偶然、貴方の求めていた物が単にマッチしていただけでしょう」
「たっちさん。確かにそれは一理ある。だが、タブラさんの話はおかしすぎる。……タブラさんよ、もしかしてアルベドと聞いて何か連想する物があるんじゃないか? 例えば、趣味に関することとか……」
「……あります。賢者の石の生成過程における三状態のうちの一つ、アルベド。段階として、ニグレド、アルベド、ルベドがあるのですが、アルベドというのは――」
「その話は長くなりそうだ。タブラさんよ、肝心なのは、そのアルベドと言う固有名詞は普段のモモンガさんが知っているかどうか、それと、タブラさんが将来的に何かの名前……例えば、NPCの名前に採用することがあり得るかどうかだ」
「正直、普段のモモンガさんが知っているような単語ではないですね。それと、NPCとは限りませんが、何かの名前に採用する可能性は高いです」
「なるほどな、そういえば、モモンガさんは設定を変えたとか言ってたな。タブラさんはそれに心当たりはあるか?」
「さすがに、そこまでは……あぁ、でも、もしかしたら……確証はないんですが、それでもいいですか?」
「勿論です」
「私、こと細かに設定をつけるのが好きなんですよ。そのキャラクターを見てどんな感じなのかなーって」
「それは知ってます」
「例えば、私がある優秀なキャラクターを作成するとして……多分、どのように優秀なのかをこと細かに記述すると思うんですよ。ただ、私的には、完璧に優秀な者というのは存在しないので、最後の部分に何かマイナス要素を継ぎ足そうとするかもしれません」
「それを見て不愉快に思ったモモンガさんが書き換えた?」
「あり得ますね……玉座の間にいたってことは、恐らく100レベルの優秀な設定が記述されたNPCだろうから……」
「そういやさ、その時、最終日って言ってたが、何の最終日だ?」
「そりゃ、ユグドラシルの最終日だろうさ」
ウルベルトに対して強く反発する視線が送られる。今やMMO-RPGで最も盛り上がってるユグドラシルは永遠不滅のように思われている。
「ユグドラシル終わるの?」
「そりゃ、客観的に見たらサービスだもの、いつか最後は来るだろ」
「そう終わると思えないんだけど……今めっちゃ新規参入者増えてるって話だし……」
「全ての物には終わりが来るものさ、それこそ平家や江戸幕府のようにな」
「う、うーん……」
多くの者が納得できないという声を挙げた。実際、盛り上がって楽しんでいる中で「どうせいつか終わる」などと言ったら、モチベーションを壊しかねない。失礼にすら値する。だが、ウルベルトは冷酷に判断した。
「そんなわけで、きっとモモンガさんは最後まで居続けて、誰もいなかったから、もしくは誰かと共犯でギルマス特権でタブラさんが作成したNPCの設定を変えてしまったわけだ。これで話がつながるな」
「いくらなんでも強引すぎない?」
「それは、分ってるさ。ただ、あの人の性格を考えるに誤魔化すことはあっても、くだらない嘘は絶対に言わない。そうだろ、たっち?」
「そうですね、それでいて、このギルドに対して強い情熱を持っているからこそ、彼にギルマスの座を譲りました」
普段、喧嘩ばかりしている2人だったが、この時はお互いに納得しあい、追及していた。
「自分たちの決めたルールに関してマジで厳しいよな、あの人。ってか、そもそも、設定を変えただけであんなに真剣に謝ることか? 書き直せばいいじゃんか」
るし★ふぁーがそう言うと、「お前は新参者の癖にひどすぎるがな」という突っ込みが返ってきたが、本人は全く気にしていない。だが、言っていることも、もっともである。書き直せば良いだけだ。
「じゃ、じゃあさ、異世界に転移したっていうのは、嘘じゃないってこと? NPCが自我を持って動いていたって……」
餡ころもっちもちがそう言うと、多くの者が頭を痛めたかのように悩む。
「とりあえず、デタラメや妄言、勘違いではないと言う事を前提に話し合ってみようか」
「さすがに、時間の無駄じゃないか? 予知夢はともかく、この件だけは、いくらなんでもあり得ないだろ」
「まぁ、そう言わずにさ、何か掴めるかもしれないよ?」
「じゃあ、その異世界に転移したってのは、いつ?」
「考えるに最終日だな、どうしてかは知らんが、これはモモンガさんも想定外だったに違いない。知っていたのなら、設定は変えない筈だ。……もうユグドラシルは終わりだ。だから最後は玉座の間へ行こう。変な設定のアルベドというNPCがいた。せっかくだから、最後にギルマス特権使って変えちゃえ……みたいな?」
「変なって……ひどいな……ウルさん……」
「ぶっちゃけ、あんたは、色々と変なとこあるだろ!! 俺も人の事言えないけどさ……」
「まったくです。自覚があるとは驚きましたよ、ウルベルトさん。それと推理の話は意外と面白いですよ」
「てめーは、喧嘩を売っているのか褒めているのか、どっちかにしろ」
「一つ思ったんですが、NPCが動いたとして、どのように動くんでしょうか? ゴーレムだったら、AIでしょうが……」
「……それだ、ぬーぼーさん」
「えっ?」
「設定だよ、記述した設定がNPCに強く反映されるのだろう」
「そうか!! それでモモンガさんはタブラさんに謝ったんだ。モモンガさん、ずっと謝りたかったと言ってたよな」
「今までの話から察するに、設定と言うのは重要なファクターだったということだ。だからこそ、責任感の強いモモンガさんはずっと、タブラさんに謝りたかった」
「なるほどねー」
「そういえばさ、設定って……天使系、獣系、アンデッド系、不定形、種族としてもいろんな設定があるけど……もしかして……」
「まさか、プレイヤー自身の性格も変わるとか?」
「ありうるな、モモンガさん自身の設定はオーバーロードでアンデッドだ。なおかつ現在アライメント-500の極悪の設定。勿論、将来的に変わる可能性もあるが、ナザリックのギルマスとして、ロールプレイが好きな事も相まって、ずっとこのままだろう」
「そういや、ユグドラシルでのスケルトンの設定は生前の執着心により得た不死性のアンデッドだったか?」
「あー、また線がつながった」
「何の線が?」
「モモンガさんの最初の唐突に出た言葉を思い出すんだ」
『皆さん、逢いたかった、ずっと、逢いたかった……』
「とにかく、俺たちに逢いたかったんだよ……」
「きっと、ひたすらに孤独だったんだろう。もしかしたら、その異世界とやらへ行って一人でやりくりしていたのかもしれん」
「でも、NPCが自我を持っていたのなら孤独ではないんじゃ……」
「モモンガさん、上位者として振舞うのに苦労したって言ってた。多分、気軽に話せる人が居なかったんだろう」
「……上位者、特に独裁者ともなると悲惨だ。群がるのはあやかる者、企てる者ばかりで疑心暗鬼になって完全に孤独になる」
「そこで、孤独を解消するために、アンデッドの如くすさまじい執念でもって、何かしらの方法で過去に戻った。つまり現在だ。モモンガさんにとって今は過去に相当するんだろうがな」
多くの者がモモンガの異世界へ行ったという予知夢の話を馬鹿にしていた。常識的に有り得ない。だが、モモンガの言動と今までの話は不気味に思えるほど噛み合っていた。
「この話、マジだとしたら……」
「やばいな、あのアライメントに相当する何かを異世界でしたのだろう。NPC達も極悪、モモンガさんはその親玉。そりゃ、上に君臨する者として何か行動しただろうな」
「それで、元の人に戻ってあの嘔吐?」
「かもしれん。文字通り、吐き気を催す邪悪……みたいな感じだったのかねぇ」
「こうしてみると、本当に一本の線につながってますね。前提であるモモンガさんの話しに勘違いが無ければのことですが……、それにしてもウルベルトさん、よくここまで推測できましたね。正直、びっくりしましたよ」
ウルベルトはシルクハットに手を載せて、もう片方の手を素早く横に払い、マントを
「フッ、我を敬い、我を讃え、我を崇めよ!! 我こそはウルベルト・アレイン・オードル。この世で最も邪悪なる最強の魔術師なり。異世界への転移など、想定範囲の出来事……」
……決まったッ もしここに『かっこよさ審査員』という者が10人いたら、全員が『10.0』の数字を掲げ、満点を得ていただろう。そんなことを少し考えた。
だが、無常にもそれはすぐに壊された。
「……中二病は、異世界転移を常日頃から考えているってことですか? 恥ずかしいと思わないんですか?」
「……後でPVPだな、今度こそ確実に始末してやる」
「ウルベルトさん、微力ながらこの大錬金術師も支援しますよ。たっちさん、今の発言は我々にとって重罪だ」
「えっ、ちょっと待っ――」
「で、今の話が当たっていたとして、今後どうすんのよ?」
「明日にでも今の話を聞いてもらって、しばらく様子見だな。あぁ、それとこの話は絶対に他言するなよ。特にるし★ふぁー」
「話しても自分がキチガイ扱いされるだけじゃん……」
「お前は元々キチガイだろ」
「な、なんだとぉ!!」
「さて、俺はとりあえず、やるべきことをやるとしよう」
そう言って、ウルベルトは、たっち・みーに杖を構えながら、あることを考えていた。
異世界……本当にあるとしたら、実に素晴しいことだ。こんな糞みたいな世界からはとっとと、おさらばしたいところだ。それにしても……あの具合はきっと、ただ事じゃないな。一体何をしたのかな……
ちょっと、最近疲れてきたので投稿ペースを遅らせると思います。