オーバーロードは時を超越する   作:むーみん2

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5. 再来

「ふぅ……疲れた……」

 

 鈴木悟は久しぶりの仕事から帰り、スチームバスに入った後、夕飯を食べた。その後、適当な用事など全てを終えるとユグドラシルのコンソールの前に座る。

 

 とりあえず、仕事の方は長いブランクがあったとは言え、綿密なスケジュール帳とメモ帳、さらに昔行ったことだったので何とかなった。

 

 ……問題はこれからだ。

 

 ユグドラシルの電源ボタンに手を乗せて覚悟を決めた。

 

 そうして、機械の起動音と共に仮想世界<<ユグドラシル>>へとダイブした。

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンのメンバーの始まりは決まって9階層の黒曜石の円卓から始まる。

 

「お、モモンガさん、こんばんわ」

 

「あ、こんばんわです。ペロロンチーノさん」

 

 ログインした先にはペロロンチーノがいて、挨拶してきた。

 

「昨日はよく寝れた?」

 

「えぇ、今日のためにもぐっすりと眠りました。もう大丈夫ですよ」

 

「なら良かった」

 

 鳥人から(*´∀`*)の顔文字が現れる。

 

 色々と残念なとこもあるけど、こんな友を持てて本当に良かったと思えた。

 

「あ、あのさ、1つ聞きたいことがあるんだけど……」

 

「ん? どうしました?」

 

 何を聞かれるのだろう? 当然、昨日のことだろうが緊張してくる。

 

「モモンガさん、異世界へ行ったの?」

 

「えっ、あ、あの…………はぃ」

 

 まさか、いきなりストレートに来るとは思わなくてどもってしまった。昨日は予知夢だなんて言って誤魔化してはいたが……

 

「…………マジ?」

 

「…………マジです」

 

 長い沈黙が流れた。昨日、有り得ないって大笑いしてた割に、至って真面目に考えているようだった。

 

「じゃ、じゃぁさ、シャルティアが自我を持って動いてたっていうのは……」

 

「……動いてましたよ」

 

 色々と残念なヤツだったけどな!!

 

「モモンガさん!! 頼む、一生のお願いだ!! 俺を異世界に連れて行ってくれ!!」

 

 そう言って鳥人は土下座ポーズをして頼み込んできた。

 

 ……フールーダー・パラダインに自分の魔力を見せた時を思い出した。今のペロロンチーノからは靴にキスをしてきそうな気迫を感じる。

 

「え、ちょっと、いきなりどうしたんですか? っていうか、昨日有り得ないって言ってたじゃないですか」

 

「いや、あの時は有り得ないと思ったんだけどさ、ウルベルトさんが、モモンガさんは異世界へ行ったんじゃないかって話をしてさ」

 

「……どんな感じです?」

 

「えーっと、モモンガさんの喋ったことから――」

 

 ペロロンチーノは昨日のことを掻い摘みつつ、ウルベルトが推測したことを話した。

 

「……ウルベルトさんは天才ですか? ほぼ合ってるんですが……」

 

 流石、あのデミウルゴスを創造しただけあるな、と感心した。

 

「NPCが自我を持って動いたって聞いたけどさ、シャルティアはどんな感じだった?」

 

 なんと、答えるべきだろうか……性癖のせいで色々と残念なことになっていたが、正直なことを言ったら、悲しむかもしれない。ここは少しオブラートに……

 

「なんというか……えっちな子でした」

 

 間違ってはいない、間違ってはいないが……

 

「え、えっちな子!? …………マジですか?」

 

「…………マジです」

 

 正確には、性癖がおかしすぎて残念な子だが、間違ってはいないはずだ。

 

「お、俺は異世界へ行くぞおおおおおおおおおお、モモンガァー!!」

 

 どこかの時を止めるような吸血鬼の台詞を言い残し、去っていった。多分シャルティアの元へと向かっていったのだろう。

 

 まさか誘おうと思っていたら、あっちから行きたいと言われると思わなかった。だが、これで良かったのだろうか? 色々と警告しようかと思ったけど、今のペロロンチーノの気に水を差すようなことはできなかった。

 

 まぁ、今はこれでいいか……あぁ、そうだ、パンドラの設定変えなくちゃ……

 

 そう考えて、宝物殿へと向かった。

 

 

 宝物庫へ行くと軍服を着たドッペルゲンガーがいた。当初、自分がかっこいいと思って設定してしまった黒歴史だ。

 

「パンドラズ・アクター……」

 

 声をかけると敬礼をしたポーズをとった。わざとらしいオーバーアクションで背筋をピンと立てている。

 

 ……ださい……ださいわぁ……

 

 だが、モモンガは思った。果たして本当に大袈裟で仰々しい態度をする、この設定消していいのだろうか?

 

 パンドラズ・アクターの顔を見た。つるりとしたまん丸卵に黒穴が3つ空いているだけなので、表情は読み取れない。

 

 もしかしたら、消さないで欲しいと訴えているのかもしれない。

 

 モモンガはかつてのパンドラズ・アクターを思い出した。

 

「ん~~~~~~~~(溜め約2秒)アインズ様ッ!!!!」

「いぃかぁが↑ なさいましたか、お嬢様方!!」

「Wenn es meines Gottes Wille」

 

 うん、早く消そう。

 

 

「……これで、良しと」

 

 今思えば、あの振る舞いさえなければ、かなりまともだったと思う。軍服は、まぁ、いいとしてパンドラの仰々しい動作を修正すべく設定を見直した。

 

 その後円卓の大広間へと再び赴いた。

 

 すると、時間がやや経ったためか、多勢のギルメンが居合わせていた。ペロロンチーノを中心にざわざわと話をしているようだった。

 

 ペロロンチーノ、たっち・みー、ヘロヘロ、ウルベルト・アレイン・オードル、タブラ・スマラグディナ、餡ころもっちもち、死獣天朱雀、ぶくぶく茶釜、やまいこ、武人建御雷、ホワイトブリム……

 

 

 自分を含めて、かつての41人が集結していた。

 

 

「やぁ、モモンガさん。こんばんわ。落ち着いたようで何よりだよ」

 

「こんばんわです。ウルベルトさん、それに皆さんも」

 

「モモンガさん、早速で悪いけど、昨日の異世界へ行った話、聞かせてもらってもいいかな」

 

「ウルベルトさん!! モモンガさんのことも考えて……」

 

「たっちさん、私はもう大丈夫ですよ。昨日のように取り乱したりはしません」

 

 手を軽く振りかざして、たっち・みーの心遣いに軽く応える。

 

「さて、どこから話したものか……」

 

 40人の視線がこちらを一様に向けていた。だが、モモンガにとって、過去の経験から割と慣れていた状況だったのでどうとも思わない。軽く掻い摘んで異世界の環境と行動、判明したこと等を話した。人殺しや虐殺の部分は勿論、省いた。

 

 話しているうちに色んな質問が飛んでくる

 

「強い奴はいた?」「環境は?」「エルフとかいた?」「俺の作ったNPCどんな感じ?」「なんで骸骨なのに喋れるの?」「これから成長する企業教えて、株買うから」……

 

 中には関係ない、どうでもいいことも含まれていたが概ね話した。

 

 異世界の話のことをして、予想以上に盛り上がった。……それも無理はないはずだ。NPCが実際に動く、魔法が使えるなどの実現しないはずの夢が叶うのだから

 

「これ、最高やないか、ヘロヘロ、ク・ドゥ・グラース、俺はメイドの服をもっと精巧に作り上げるぞ!! お前らも協力しろ!!」

 

「え、ホワイトブリムさん、マジで言ってるんですか? ヘロヘロさんがリアルヘロヘロさんになっちゃいますよ?」

 

「お前は、ヘロヘロとメイド、どっちが大事なんだ?」

 

「え、そりゃメイドだけど……」

 

「いや、ちょっと、待ってください。そこはヘロヘロって言ってくださいよ。っていうかこれ以上精巧にするって何を考えているんですか? 今の時点でもう限界なんですよ!?」

 

「その限界を超えた先に光があるのだ!!」

 

 

「お、俺も作るぞ!! シャルティアだけじゃなく……ハーレムを作るんだ!!」

 

「おい、愚弟、それはやめろ!!」

 

「なんでだよ、姉ちゃん!?」

 

「聞いた話だと、NPCは苛烈な性格が多いから……下手するとNPC同士で殺し合いとか……」

 

「いや、俺の選択肢テクでそんなバッドエンドは回避……」

 

「あん? お前が持ってるその嫉妬マスクは何だってんだ?」

 

「グヌヌヌ……言ってはいけないことを……」

 

 

 そんなこんなで、楽しそうな雰囲気で、これからどうするか、どんなNPC作ろうか、わいわい、がやがやと盛り上がっていた。

 

「あ、あの、盛り上がっているとこ悪いんですけど、また今度、本当に異世界に行けるとは限りませんからね? そもそも行ったということ自体が変なことなんですから」

 

「それは分かってるよ。だけどさ、可能性があるってだけで、喜ぶに決まっているだろう?」

 

 それもそうかもしれない。もし自分が彼らと同じく新たに今の情報を聞いたら、きっと喜ぶだろう。

 

 

 

「モモンガさん、聞きたいことがあるんですが」

 

「なんでしょう? たっちさん」

 

「モモンガさんみたいに異世界から現実に帰ってこられるのでしょうか?」

 

 その質問が投げられて、突如、静かになる。

 

「それは……難しいです。自分以外のプレイヤーも転移したみたいなんですが、帰ってきたのは自分だけだと思います」

 

「モモンガさんはどのようにして帰ってきたのです?」

 

「それは……ごめんなさい。秘匿とさせて下さい」

 

 モモンガは誰かが持っていた<永劫の蛇の指輪(ウロボロス)>で帰ってきたと正直に言えなかった。というのは、今後その持ち主が異世界へ行く可能性があることと、仲間内で<永劫の蛇の指輪(ウロボロス)>の奪い合いになることが予想付いたからだ。

 

「……異世界からの帰還は、普通は無理だと思ってください」

 

 その答えに全員がだんまりとした。

 

「モモンガ君がそのアバターで異世界へ言ってる間、君自身の体はどうなっていたのか分からないということでもあるのかな?」

 

教授職である死獣天朱雀が聞いてきた。

 

「……分かりません。確認のしようがありませんでした」

 

「も、もしかして、昔のラノベみたいにリアルの自分は死んでいるという可能性もあるの?」

 

「そ、それは……」

 

 モモンガは完全に否定することができなかった。

 

 死獣天朱雀はわざとらしく咳をつき、話し続ける。

 

「とりあえず、通常は、行ったら二度とリアルに帰ってこれないわけだね?」

 

「……そういうことです」

 

 モモンガの異世界の話はまるで夢のようだった。環境が良くて、魔法が使えて、自分のしたいことがなんでも出来そうな、そんな世界。だが、行ったらもう帰れない。

 

「モモンガ君は、またその異世界へ行くのか?」

 

「……もし、この話を聞いて行きたい人が1人でもいるなら、行こうかと思っています。誰も行かなくても自分は……」

 

 リアルは環境破壊が続き、人工心肺が必要になるほどの廃れた世界。もし、異世界に行けるなら誰だって行きたいだろう。しかし、普通はそんな世界でも20,30年の生きていれば何かしらの大切なものがある。しんと静まり返り、先ほど賑やかさは、どこか遠くへ行ってしまったようだった。

 

 この沈黙の中、1人手を挙げたものがいた。

 

「それなら、俺が行こうじゃないか」

 

「ウルベルトさん!! ……いいんですか? 行ったらもうリアルに帰ってこれないんですよ?」

 

「俺はさ、何度も何度もこのユグドラシルが現実だったら良いのにって考えていた。大の大人の癖に、普段から異世界なんてあったらいいのにな、って考えるほどにリアルが嫌いだ。今のモモンガさんの話を聞けば、この腐ったリアルに帰れなくなるだけの話じゃないか。むしろ望むところだよ。俺にはもう家族もいないし、恋人もいないしな」

 

「そうですか……ただ、今もう決めるのは早計だと思います。何年も先の話ですし、もっとゆっくりと考えられたほうがいいと思います」

 

「……それもそうだな」

 

 

「とりあえずさ、今日何するのか決めようよ!!」

 

「せやな、難しいことはじっくり考えてからでいい、今日は何するかだ」

 

「俺は鉱山行ってくるわ、<熱素石(カロリック・ストーン)>まだまだ欲しいし、発掘してくる」

 

「俺も武器作り直したいし、手伝うわ」

 

「んー、じゃぁ私は……」

 

 そう言って何人かは次々と自分のやることを決めて去っていく。

 

 さて、自分はどうするかなと思っていた矢先――

 

「おや?」

 

「どうしました、ぬーぼーさん?」

 

「グレンデラ沼地にて敵感知を知らせるスクロールが発動しました。……侵入者のようです」

 

「へぇ、何人くらいか分かった?」

 

「7人ですね、ばかだなぁ」

 

 途端に全員で笑い声を挙げる。

 

「アハハハハ、7人か、それはいい、ドロップ狩りに行きますか」

 

「いいねいいね、俺も手伝うぜ」

 

「たった7人で何しに来たんだか……まぁ、何ですし、私も行きますか」

 

「私も出るよぉ」

 

「一応、沼を超えてきたプレイヤーなわけだから、ドロップは期待していいのかな?」

 

「モモンガさんも、ほら、PKに行きましょうよ」

 

 たっち・みーが優しく手を差し出してきた。モモンガは迷うことなく、その手を掴む。そして――友たちの輪の中に引っ張りこまれた。

 

「え、えぇ!! そうですね、このナザリックに足を踏み入れることがどういうことなのか、愚か者に知らしめなければなりませんね!!」

 

 そう言って、モモンガは傍にあったレプリカのスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取り、たっち・みー、ウルベルト、タブラ・スマラグディナ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、武人建御雷と共に指輪の力で第1層へと転移する。

 

 

 転移前の世界とは違って、侵入者はなかなかのパーティーだった。挨拶がわりのPOPした大量のアンデッドを次々と蹴散らし、デスナイトが一瞬にして葬られていく。

 

 ナザリックの門に立ちはだかる我々を見て、リーダーと思しき赤い鎧を着た者が襲ってきた。

 

 久々のPKだ、多人数vs多人数なんて何年ぶりだろうか。せめて、相手が強く、少しでもこの楽しい時間が長く続きますように――

 

 

 

 結果的に、こちらの圧勝だった。誰も落ちることなく、簡単に勝てた。異世界とは異なり、いちいち、コンソールで詠唱する呪文を選択しなければならない面倒臭さはあるものの、仲間と共に闘う至福の時間が得られた。

 

「フフフフフフ、フハハハハハハハ……」

 

これから仲間と長く遊べると思うと、つい、笑みがこぼれてしまった。

 

 




最後らへんの戦闘はアニメ1話冒頭のつもりでした。

プロローグにて、以前に投稿したものと、過去に転移した経緯が変わっているので注意して下さい。

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