オーバーロードは時を超越する   作:むーみん2

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 今回は少し長いです。前半・後半で分けようとも考えましたが、区切りが見つからなかったので、このようにさせて頂きました。

 追記
 多くの読者に誤解を与える書き方をしていたので、少し書き換えました。


9. ナザリック防衛戦

「まずい、幾らなんでも、これはまずすぎる……さすがに予想外だ……」

 

 モモンガが過去に飛んできて2年と半年がたった今、今の現状に頭を悩ませていた。

 

「これは、流石にまずいとしか言えませんね……」

 

 孔明ことぷにっと萌えをもってしても、今の状況には頭を抱えずにはいられなかった。現在、ナザリック地下大墳墓の周りに3000人のプレイヤーが囲んでおり、襲撃の期を伺っていた。

 

「今までのツケが回ってきたか、PKのみならず、鉱山の独占、ギルドの敵対工作、好き放題にやってきたからな」

 

「面子を見る限り、上位ギルドの連中も参加してやがる……」

 

 多重に防護を施した遠隔視の鏡で観察し、ギルドメンバーは不安を抱えつつも自身の最高の装備でもって備える

 

「皆さん、ここが踏ん張りどきです。この時のために、我々は多くの準備を施してきました。なんとかして耐え抜きましょう!!」

 

 モモンガ達はこの時を想定し、よりトラップを凶悪化、複雑化させていた。モモンガの予言から多額の資産を手に入れた者は、より課金につぎ込んでいた。所持しているリソースのほとんどをつぎ込んでいたと言っても過言ではない。

 

 

「皆、何とか潜り込んできたぞ!!」

 

 そう言ったのはホワイトブリム、変装スキルでもって作戦を立案しているところに潜り込み、情報を得てきた。彼によると、変装、鍵開け、隠密、スパイはメイドの嗜みだそうだ。どんなメイドだ。

 

「アイツ等、最初は2700人の中小ギルドで攻めてきた後、傭兵魔法職ギルド、最後に大手ギルドの200人のガチ構成が攻めて来るみたいだ」

 

「……聞こえちゃいけない傭兵集団が聞こえた気がするんだが……」

 

「傭兵魔法職ギルドの皆さん……100人全員が加わる」

 

 傭兵魔法職ギルド、それは100人で構成されており、その内の50人がワールドディザスターとなっている。その殲滅力は圧倒的であり、彼らを敵にすれば敗北しかないとすら言われている。

 

「とりあえず、最低でも8階層にて最初の2700人を食い止めましょう。地形においては圧倒的にこちらが有利です。1層から、うまくトラップを併用して可能な限り被害を抑えて相手のモチベーションを削りましょう。絶対にHPは0にしてはいけません。HPを少しでも減らしたら撤退、本命は8層です。傭兵魔法職ギルドは8層ならなんとか仕留められるチャンスがあります。逆を言えば、8層を突破されたらナザリックは今日でもって終了です」

 

「……やるしかないか」

 

「それでは、各位!! 持ち場に、散開!!」

 

 

1層

 

 大量のプレイヤーがゾロゾロとナザリックに侵入してくる。中は暗く、迷路状になっていた。

 

「げっ、何だこれ!! ブラッド・オブ・ヨルムンガンドかよ、俺ここで終わったわ!!」

 

「冗談じゃねーぞ!! ここまだ1層だぞ!?」

 

「流石は非公式ラストダンジョン……最初から飛ばしてるな」

 

 以前より凶悪化された罠が蔓延っていた。

 

「さっきからPOPしてる雑魚スケルトンがうざい、多すぎる!!<炎の壁(ファイヤーウォール)>」

 

「馬鹿!! 早まるな!!」

 

 POPしたスケルトンの集団が炎に包まれて消えてい中、姿形が似た一体のスケルトン型ゴーレムが立っていた。

 

「被ダメージヲ認識……次ステート……『自爆』」

 

 巨大な爆発がプレイヤー達を巻き込んだ。巻き込まれたプレイヤーは3割の体力を削られた。

 

「この狭い通路で、大量のPOPの中に姿形を似せた高レベルの自爆専用のゴーレムか……考案したヤツは性格最悪だな」

 

 そう言いつつ、通路先を進もうとすると――

 

「まだ終わりじゃないぞ!! 起動!! <爆撃地雷(エクスプロードマイン)>」

 

「うおっ」

 

「さらに追加で<背後の一撃(バックスタブ)>」

 

 不意打ちに現れたチグリス・ユーフラテスとフラットフットが罠直後の隙を突き、また去っていく。前者は盗賊スキル、後者は暗殺者スキルを所持しており、複雑な地形において力を満遍なく振るうことができた。

 

 襲撃者たちは様々な凶悪な罠と不意打ちにストレスが募り、それのせいでさらに罠に掛かるという悪循環に陥っていった。

 

『フラットフットさん、首尾はどうですか?』

 

『罠にかかった直後の隙をついてますが、いかんせん、数が多すぎて……』

 

『1層~3層の目的は精神的にジリジリと追い詰めて相手の判断力を失わせるのが目的です。罠がなくなっていったら、2層、3層に撤退してください』

 

『了解した』

 

 侵入者は数を減らしつつ、深層へと歩み続けた。

 

 

 第1層~第3層 墳墓

 

 数々の凶悪なデストラップと暗殺者、盗賊、ポイズンメーカーを所持したギルドメンバーが対処し、阿鼻叫喚の惨劇を催した。三層の地下聖堂では前衛シャルティア、後衛ペロロンチーノを主軸とした構成で立ちはだかった。何故かNPCが神器級のフル装備をしており、「ありえない」と多くの侵入者が目を疑った。なお、黒棺の間に入ってしまった多くのプレイヤーは一目散に強制ログアウトして、リアルでもトラウマを負ったとかなんとか。

 

 

 第4層 大空洞

 

 課金によって、より空間を大きく作られ、ガルガンチュアが大きく動けるようになった。相対したプレイヤーからは『敵ギルドに潜ったらワールドエネミーのような物と戦っていた』という訳の分からない言い分を残した。

 

 

 第5層 氷結地獄

 

 吹雪が<魂の凍てつき(ソウル・フリーズ)>に変更させられ、冷気耐性、即死耐性を所持したプレイヤーでも動きが鈍くなり、コキュートス、武人建御雷、二式炎雷などが次々と侵入者を狩り殺していった。

 

 

 第6層 ジャングル

 

 襲撃者いわく、ここ以降の階層が苛烈を極めていた言う。

 自然の良さそうなジャングルとは裏腹に、ブルー・プラネットによって凶悪化された『毒吹きアゲハ』、『危険な花びら』、『おばけ大根』、『モルボル』と言った自然系統のモンスターが状態異常をひたすらに振りまいた。それを数百体にも及ぶガチャの当たりドラゴンが状態異常にかかったプレイヤーを駆逐した。闘技場のような所では、マーレによってバフをかけられた膨大な数の魔獣がアウラによって使役され、侵入者は為すすべもなく散っていった。やっとの思いで双子のNPCに攻撃しようとも、ぶくぶく茶釜のせいでほとんど攻撃が通らない。因みに、侵入者達はこの辺りでNPCが神器級のフル装備していることに慣れてきていたらしい。

 

 

 第7層 灼熱地獄

 

足場はほとんど消滅しており、黒い瘴気を帯びた溶岩の海となっていた。おかげで炎耐性を持っていても、そのフィールドにいるだけで、じわじわHPを削られた。飛行状態を維持しなければ、『紅蓮』によって溶岩の中に引き釣り込まれた。赤熱神殿ではデミウルゴス、ウルベルトなどの魔法詠唱者が待ち構えていた。侵入者は重力系統の魔法でハエ叩きのように問答無用で溶岩の底に叩き潰され、何とか這い出ようとしても再び重力魔法を唱えられ、死ぬまで溶岩の海に浸かることになった。

 

 

 そして、第8層…… 荒野

 

 ここは特殊なフィールドになっており、<伝言(メッセージ)>や<転移(テレポーテーション)>の阻害だけでなく、超位魔法が封印されている

 

 数多の犠牲の元に、ここまでたどり着いた襲撃者は2700から800へと激減していた。彼らは、まだ最深層じゃないのかと既に満身創痍だ。荒野を進んでいくと一匹の気持ち悪い赤子の天使がフヨフヨと浮いていた。

 

「気持ち悪い!! 邪魔だ!!」

 

 もはや最初に突撃したプレイヤーは精神的に疲れており、真っ先に攻撃してしまった。……もし、もう少し冷静であれば、躊躇しただろう。

 

 <<天輪陣>>

 

 光の輪が、侵入者全員を締めつけ、束縛する。その直後、8層の上空に控えてたもの――がレーザを放ち、全滅させていた。

 

 

「これで、先行の2700人は全滅ですかね」

 

「意外となんとかなるもんですね」

 

「えぇ、襲撃されること自体は想定していましたからね」

 

「あと300人……おや、傭兵魔法職ギルドの皆さんが来たようですね」

 

「大丈夫かな~?」

 

「大丈夫、切り札はまだあります。こんなところでアインズ・ウール・ゴウンは崩壊しませんよ」

 

 

 広大な荒野の中心、ユグドラシル最強の殲滅部隊とも言える傭兵魔法職ギルドのメンバーがアインズ・ウール・ゴウンに立ちはだかっていた。

 

「さて、アインズ・ウール・ゴウンの諸君、投降したまえ。いかに君たちであろうとも、我々に勝つのは不可能だ」

 

「投降したら何かメリットがあるのか?」

 

「お前たちの所持している全てのワールド・アイテムと引き換えに、後ろで控えている200人のプレイヤーを我々が始末して来よう。さらに、今後アインズ・ウール・ゴウンへの敵対行動は取らないつもりだ」

 

 魅力的な提案だった。だが、当然そのような案は乗らない。

 

「クッククククク、ワールドアイテムを寄越せって? 寝言は寝て言え」

 

 モモンガがそう言った瞬間、傭兵魔法職ギルドは集団で<現断(リアリティ・スラッシュ)>を連発し、上空に控えていたナザリックの最高戦力を持つもの全てが一瞬で地に落ちた。

 

「……もう一度言うよ? 投降したまえ」

 

「聞く耳持たん!! ぷにっと萌えさん、例の作戦でいきます!!」

 

「了解!!」

 

 ぷにっと萌えは角笛を持ち出した。

 

「……超位魔法が封印されているフィールドなら我々に勝てるとでも? 今日がアインズ・ウール・ゴウン最後の日だ!! 殲滅せよ!!」

 

 傭兵魔法職ギルドの詠唱よりも、僅差でぷにっと萌えのアイテムの使用が早かった

 

「さぁ、見せてやる!! ゴブリン地獄をな!! 小鬼将軍の角笛!!」

 

 ぷにっと萌えが角笛を吹くとボォォーという重低音と共に、突然、荒野に5000を超えるゴブリンが現れて埋め尽くされる。その数は膨大で身動きがとれないほどだ。

 

「な、なんだこれは!? このゴブリンの数は異常だ!!」

 

「落ち着け!! なんてことない、全部ただの雑魚だ、俺が一掃してやる!! <炸裂せし惨禍(カラミティ・ブラスト)>」

 

 辺りに散らされる炸裂する獄炎が元々何もなかったかのように、一瞬で全てのゴブリンを消し炭に変えた。

 

「数に驚きはしたものの、所詮は雑魚ゴブリン、大したことは――」

 

 再びボォォーという重低音が鳴り響いた。また荒野がゴブリンで埋め尽くされた。

 

「何度やっても同じことだ!! <炸裂せし惨禍(カラミティ・ブラスト)>!!」

 

 ゴブリンたちは先ほどと同様に全て消滅した。……タイミングを見計らった様に再びボォォーという重低音が鳴り響き、ゴブリンたちが現れた。

 

「ま、まさか……」

 

「……お前たちは確かに強い。ユグドラシルの全組織において間違いなく最強だろう。……だがな、弱点も多い。同じような連中ばかりだから対策が取りやすい、MPが尽きれば雑魚、今までその圧倒的な力で屠ってきた為に予想外の展開に弱い……挙げれば数え切れんが……とりあえず、MPが尽きるまで踊ってもらおうか。なに、安心しろ、トドメは我々41人が刺してやる。傭兵魔法職ギルドの皆さんがゴブリンに殺されたなど、今後の沽券に関わるだろう?」

 

 ……ハッタリである。モモンガはここまでうまく物事が進むとは思っておらず、アインズ・ウール・ゴウンが解散したらどうしようかと、ずっと内心ではビクビクしていた。

 

「<飛行(フライ)> お、俺は逃げるぞ!! 冗談じゃない!!」

 

 <転移(テレポーテーション)>は阻害されており、<飛行(フライ)>で逃げようとする者が現れ、荒野の入口へと向かった。

 

『ペロロンチーノさん、お願いします』

 

『言われずともさ』

 

 遥か上空に飛んでいたペロロンチーノがゲイ・ボウで<飛行(フライ)>で逃げようとしたマジックキャスターを地に落とした。

 

「……知らなかったのか? 我々(アインズ・ウール・ゴウン)からは逃げられないということを……」

 

 

 

「おい、聞いてくれよ、俺ワールドディザスターの職業クラスが取れるようになったぞ!!」

 

「おぅ、俺もだ!!」

 

「えぇー、私もなんだけど!!」

 

「傭兵魔法職ギルドにはワールドディザスターを50人囲っていましたから……ま、まさかとは思うが」

 

 ワールド・ディザスターの職業クラスを得る条件は、ワールド・ディザスター持ちをPKすることである。

 

「今この場にいる……止めを刺した全員がワールドディザスターになれますね」

 

「マジかよ……俺の専売特許が……」

 

「ウルベルトさん、元気出してください。まだまだ敵は控えているんですから」

 

「う、うるせー!! ってか、たっち、もしかしてアレか!? ワールドチャンピオンにしてワールドディザスターになれるのか!?」

 

「……みたいですね。まぁ、私は他の魔法職一切とってないので、メリットがないですが」

 

「なんてこったい……」

 

 

 

「嘘だろ!? 何で傭兵魔法職ギルドの連中が負けるんだ!? 糞ども(アインズ・ウール・ゴウン)と戦わせて疲弊したら傭兵魔法職ギルド共々全員PKする予定だったのに!!」

 

「おい、どうすんだよこれ。最初は3000人もいたのになんで俺らしか残っていないんだ?」

 

 残りの襲撃者たちは焦っていた。傭兵魔法職ギルドがアインズ・ウール・ゴウンを殲滅したのなら、アインズ・ウール・ゴウンの蓄財を分け合い、共倒れすれば、漁夫の利で蓄財を全て奪うつもりだった。

 

 だが、アインズ・ウール・ゴウンは誰一人欠けることなく傭兵魔法職ギルド全員をPKした。

 

「さすがはアインズ・ウール・ゴウン、恐れ入ったよ。俺はデスペナくらいたくないし、これで撤退するわ」

 

「あぁ、俺もそうする。まだまだ切り札とか持ってそうだしな」

 

 襲撃に来た残りのプレイヤーの200人のうち、何人かが去ろうとする。傭兵魔法職ギルドが撃退されて士気はだいぶ落ちていた。

 

「お、おい、ちょっと待てよ!! せっかく、ここまで来たのに諦めんのかよ? こんな機会もう2度とないぞ?」

 

「そうは、言ってもよー、なんか俺らの行動が全部読まれているような気がするんだよな。傭兵魔法職ギルドの連中だって、既に対策されてたかのようだったし」

 

 確かに、あらかじめ準備されているかのように対策されていた。3000人への対策なんて常識的に考えて咄嗟にできるものではない。

 

「これからの俺らの行動も全部対策されてるんじゃないか?」

 

「そ、そんな訳……」

 

 否定することができなかった。

 

「だがよ、これを対策することはできないはずだ」

 

 男はある1つのアイテムを取り出す

 

 永劫の蛇の指輪(ウロボロス)

 

 かつて、使われた対象のギルドのプレイヤーを一時間行動不能にさせたワールド・アイテムがそこにあった。

 

「これは奥の手で使いたくなかったんだがな、場合によっては、あいつらと戦う時はこれを使う事になるだろう」

 

 

 

「さて、次はどうする? あちらさん方は攻めて来るみたいだが。もう小鬼将軍の角笛もそれほど残ってないし……」

 

「……仕方ありませんね、9層を封鎖してそのまま直で10層へ行けるようにしておきましょう。とりあえず、ここにゴブリンを残しておいてプレアデスたちが時間を稼いでる間、我々はレメゲトンと玉座の間で準備して待ち構えるとしましょうか」

 

「玉座で戦う事になるのか」

 

「殺るか殺られるかってとこだな」

 

「遂にあのレメゲトンのゴーレムが役に立つ時が来たか」

 

「これがナザリック……いや、アインズ・ウール・ゴウンの命運を分ける最後の戦いとなるでしょう。相手も本気です。いざという時はワールド・アイテムも出し惜しみなく使いましょう。私は最強のギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを装備して挑もうかと思います。もはや、多数決の時間はありません。異論のある方はお願いします」

 

 少しの沈黙が流れる。

 

「……無いようですね。それでは、準備に取り掛かりましょう」

 

 

「ようこそ、ここはソロモンの小さな鍵、レメゲトンと言う。君たちが察する通りここは最深層だよ」

 

 200人もの侵入者たちをアインズ・ウール・ゴウンの20人のメンバーがレメゲトンの72のゴーレムと共に立ちはだかる。

 

「……他のメンバーはどこだ?」

 

「あの天使と悪魔を象った扉の奥さ、素晴らしいだろう? 僕が作ったんだよ!!」

 

「確かに、素晴らしいな。……だが悲しいな、今日でここを歩けるのが最後だと思うとな」

 

「そう、君たちにとっては最後だ。僕の作ったゴーレム達を堪能しながらゆっくり死んでいってくれ」

 

 72柱のゴーレムが動き出した。これらは、今まで鉱山から採掘してきた超希少金属をふんだんに使用し、今までPKしてきたプレイヤーの伝説級の装備をしていた。天井を見上げると4色のクリスタルが上位エレメンタルを召喚し、魔法を詠唱している。

 

「チッ、厄介だ」

 

 

「グヌヌヌ……やっぱり押されるか」

 

 メンバー20人と強力なゴーレム72体を配置したとは言え、さすがに200人のプレイヤーには圧倒された。襲撃者たちから見れば、半分以下の人数に何故ここまで苦戦しなければならないのかといったところだった。

 

「仕方ない……これだけは、これだけは使わないと決めていたが……やるしかないか!! いでよ!! ブラック・ボディ・オブ・アルティメット・恐怖公!!」

 

 ゲートから一匹の巨大なゴキブリが現れた。黒光りしたそのボディはカサカサと動き、壁を走り回ると辺りを飛び回った!!

 

「おい、糞ゴーレムクラフター、あれはなんだ!?」

 

「フフフ、よくぞ聞いてくれたヘロヘロさん、ブラック・ボディ・オブ・アルティメット・恐怖公、レベル100、熱素石(カロリックストーン)と今までちょろまかして貯めてきた超希少金属をふんだんに組み込んだ僕の最高傑作さ」

 

熱素石(カロリックストーン)を……組み込んだ!? ワールドアイテムをそのゴキブリに!?」

 

「そう!! モモンガさんに見つかったら怒られること間違いなしの一品さ!!」

 

「お、お、お、お、おおお前、頭おかしいんじゃないのか!!!!!? ワールドアイテムをゴキブリに組み込むとか、まじで、なにやってんの!? 」

 

 そのセリフは襲撃者側からの声だった。側にいたヘロヘロは敵のセリフであったが全面同意した。

 

「製造した熱素石(カロリックストーン)が1つ足りないって揉めてたけど、やはり犯人はお前だったか……」

 

「フハハハ!! さぁ、ゆけぃ!! 我が最強のゴーレムよ!! 奴らにトラウマを植え付けるのだ!!」

 

 

 

「く、糞が……予想以上に手こずらせやがって……」

 

 ゴーレムは既に全て破壊され、その場にいたメンバーの体力も尽きていた。最後に残っていた、るし★ふぁーの残りMPは尽き、HPも尽きかけていた。

 

「まぁ、僕にしては頑張った方かな。後はモモンガさん達に任せるとしよう」

 

「消えろ!! このクズが!!」

 

 襲撃者の一撃がるしふぁーを貫き、その場から消えた。

 

「あああああ、思い出しただけで腹が立ってくる!! なんなんだあのゴーレム!!」

 

 ブラック・ボディ・オブ・アルティメット・恐怖公 尋常ではない素早さ、耐久力、防御力を持っていた。攻撃手段はタックルのみだが、異常な素早さのせいで威力が大きい。そして、攻撃が全くと言っていいほど当たらない。黒を基調としていることもあり、すぐに見失ってしまうその様は、人間に忌み嫌われ、過酷な環境である現実世界でも強く生き残っている様を思い起こさせた。

 

 おかげで襲撃者たちは数々の魔法を無駄打ちにし、必中攻撃と広範囲魔法を何度も打たせることによって、ようやく撃退することができた。

 

「もうMPが残ってない……」

 

「鍛えに鍛えた俺の武器もヘロヘロのせいで劣化しやがった……」

 

「だが、あの扉をくぐれば終わりだ。永劫の蛇の指輪(ウロボロス)でじっくりと痛めつけてやる」

 

 特に罠がないことを確認し、恐る恐る扉に手を触れた。重圧な扉に相応しいだけの遅さで、ゆっくりと扉は開いていった。

 

 

 ――圧巻だった。言葉が出ないというのはこのことだろうか? 見上げるような高さにある天井。壁の基調は白で、金を基本とした細工が施されていた。

 天井から吊り下げられた複数の豪華なシャンデリアは七色の宝石で作り出され、幻想的な輝きを放っていた。壁にはそれぞれ違った紋様を描いた大旗が計41枚垂れ下がっている。

 

 金と銀をふんだんに使った部屋の奥には3体のNPCが、最奥には尋常ではない魔力を誇るスタッフを装備したオーバーロードを守るかのようにアインズ・ウール・ゴウンのメンバーで囲っていた。

 

 

「我らがナザリックの、玉座の間にようこそ、愚かなる訪問者たちよ。我々に殺されるか、自害するか、この場で選ばせて差し上げよう」

 

「クックックッ、アーハッハッハッハ」

 

「何がおかしい?」

 

「素晴らしい、素晴らしすぎるぞ、アインズ・ウール・ゴウン!! ここまで、壮大で強大だとは思っていなかった」

 

「そうか、ならば死の餞にこの光景を胸に刻んでおけ」

 

「ハッハッハッ、これを見てもそこまで強気でいられるか?」

 

 男は手を翳し、一つの指輪を注目させる。

 

「むっ、その指輪は……」

 

「そうだ、この指輪こそがかのワールドアイテム<永劫の蛇の指輪(ウロボロス)>だ!! 本当は使いたくなかったんだが、ここで使うとしよう!!」

 

 輪を作っている永劫の蛇は、輝きだして輪を解くと天に昇っていった。

 

「さぁ、運営よ!! 我が願いを叶えろ!! 我が願いはギルド:アインズ・ウール・ゴウンのプレイヤーの行動停止だ!!」

 

 

『その願いは了承されました。これより一時間ほどギルド:アインズ・ウール・ゴウンのプレイヤーの行動を停止します』

 

 

 この運営からのアナウンサーが起きたとき、その場にいたアインズ・ウール・ゴウンの全プレイヤーがピクリとも動かなくなった。

 

「これで終わりだ!! 皆、ヤツの手にしているギルド武器を破壊し、戦利品を得ようじゃないか!! 今日は宴だ!!」

 

「……もう勝った気でいるのか?」

 

その声はアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスター、モモンガからだった。

 

「……聞いたことがあるぞ、ワールドアイテム保持者はワールドアイテムの効果を受けないんだったな」

 

「そういう訳だ、今すぐ死ね!! <|あらゆる生あるものの目指すところは死である《The・goal・of・all・life・is・death》」

 

 モモンガの背後に十二の時を示す時計が浮かび上がった!!

 

「<魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)嘆きの妖精の絶叫(クライ・オブ・ザ・バンシー)>」

 

「突撃しろ!! 発動を阻止しろ!!」

 

「させるか!! 我を護れ!! <(オール)根源の精霊召喚(サモン・プライマル・エレメンタル)>」

 

 スタッフの蛇が咥えている全ての宝珠が全て輝き出した。土・水・風・火・闇・光・星の根源の精霊7体が現れた。

 

 アルベド、ニグレド、パンドラズ・アクターの3体のNPCが襲撃者の行動を必死に阻害した。

 

 一部の侵入者は暗殺スキルや盗賊スキルを使用してギルド武器を攻撃するが、スタッフの自動迎撃システムのせいで容易に攻撃ができなかった。

 

 そうしている間に12秒が経過し、モモンガのスキルが発動する。

 

 瞬間、全てが死に包まれた――

 

 

「流石だな、あのwikiがなかったら全滅していたぞ」

 

「まぁ、そうだよな、当然対策はしているだろうと思ってたさ」

 

「まったく、厄介なスキルだよ。200人分の蘇生アイテムを確保するのがどれだけ大変だったことか……」

 

 侵入者の誰も欠けてはいなかった。モモンガはユグドラシルの中では有名人であり、wikiには対策がびっちりと書かれていた。

 

「さて、そのスキルさえなければ、正直、お前は大したことはない。後は力押しすればいいだけだ」

 

「そうだな、流石に私と精霊とそこのNPC三体だけではどうあがいても、消耗しているとは言え、お前たち200人には勝てないな」

 

「そういうことだ。さぁ、今まで鉱山から発掘した装備品やらアイテム、全て頂くぞ!!」

 

「フフフ、アハハハハハハハ」

 

「今まで頑張ってきたギルドが壊れるのがショックでおかしくなったか?」

 

「いや? ここまで順調だと笑いがこみ上げてくるのさ」

 

「何を言っている?」

 

「疑問に思わなかったのか? 常識的に考えて、3000人のプレイヤーに攻め込まれば、どんなギルドだって、壊滅は免れない。もはや我々はとっくに潰されている」

 

「それは単純にお前たちが用意周到で……」

 

「いくら用意周到だとしても、全階層にあれだけの罠と設備、トラップの起動をしていれば資金はいくらあっても足りん。まして、普通に傭兵魔法職ギルドと敵対すれば敗北は必至だ」

 

「……何が言いたいんだ?」

 

「まだ分からないのか? 全ては想定済みだったということだ!! 我々が鉱山で採掘したものを奪うため、お前たちが期を伺い、このタイミングで攻めてくることも!! この戦力で攻めてくることも!! 傭兵魔法職ギルドの連中を連れてきたことも全て……いや、あのバカ野郎が変なゴーレムを作っていたことは想定外だったから全てではなかったな。おかげで二十を使わないで済んだから嬉しい誤算だ」

 

 本当は大嘘である。永劫の蛇の指輪(ウロボロス)がアインズ・ウール・ゴウンに使われる可能性は示唆していたものの、ここまで大人数で攻めて来るとは思わなかった。傭兵魔法職ギルドの連中が来ることも予想外だった。……ただのハッタリだったが、相手が動揺しているのは明らかだった。

 

「だが、お前たちはもう詰んでいる!! 永劫の蛇の指輪(ウロボロス)の効果時間はまだ50分以上ある!! このまま終わりだ!!」

 

「アハハハ、そうだったな。……皆さん、もう固まったフリするのはやめて大丈夫ですよ」

 

 その発言とともに、その場にいたギルドメンバーが動き出した。

 

「はぁ、笑いこらえるまま何もしないってのは、意外と難しいもんだ」

 

「全くだ、何度不意打ちしてやろうと思ったことか」

 

「「「「「!!!!????」」」」」

 

「な、何故動ける!? GMコールだ!! アインズ・ウール・ゴウンは不正をしている!!」

 

 襲撃者はGMコールを呼びかけるも、特に目立った反応はないようだった。

 

「人聞きの悪いことを……」

 

「ま、まさか……お前ら」

 

「そう、ここにいる全員がワールド・アイテム保持者だ。素晴らしいだろう?」

 

 有り得ない、そう言いたげな沈黙が漂っていた。だが、実際にその場のギルドメンバーが行動していることが本当だと裏付けていた。

 

「何故、動けないフリをしていた?」

 

「そんなの、お前たちを油断させるため以外にないだろ? もし、私以外のメンバー全員が動けると知っていたら、必死にアイテムとかを使って私のスキルを封じていたんじゃないのか? 実際、あのスキルを除けば、私なんて大して強くないからな!!」

 

「こ、こんなことが……」

 

 もはや蘇生アイテムは持っていない、MPもそれほど残ってはいない。数はこちらが200人と有利だが、相手は万全の態勢だ。

 

「――さぁ、行くぞ!! 鏖殺だ!!」

 

 様々な強力なスキルや魔法、課金アイテム、武器攻撃が飛び交う。

 

「次元断切!!」「グランド・カタストロフ!!」「ギンヌンガカプ!!」「ゲイ・ボウ!!」「不動明王撃!!」「ウォールズ・オブ・ジェリコ!!」「素戔鳴!!」「全知全能の神罰!!」「ネイチャーズ・シェルター!!」

 

 激しい戦いだった。双方ともHP,MPがどんどん尽きていき、一人、また一人とHPを0にしていく。召喚した精霊やパンドラズ・アクター、アルベド、ニグレドと言ったNPC達も活躍するものの、ギルドメンバーを庇い、消滅していった。

 

 

 全員のHPが尽きてきた頃、モモンガは防御に徹していたのを攻勢に回る。

 

「さて、そろそろお開きと行こうか!!」

 

 モモンガの腹部にある赤い宝玉が輝き出す。それは、経験値500%(5レベル分)を消費して絶大なる破壊をもたらした。

 

 侵入者たちは、ドロップ品を残し姿を跡形もなく消滅していった。

 

 

 この戦いは、アインズ・ウール・ゴウンの辛勝で幕を閉じた。

 




 ワールドアイテムは41個持っている訳ではなく、最低でも玉座の間にいた人数分、21個所持していたということです。

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