「そんなやり取りをする暇はないぞ、私たちには時間が無い。
とりあえずやることがあるだろう」
織斑先生は、俺とコスプレうさぎのやり取りに介入し、コスプレうさぎの方を睨む。
「ん?
…………あぁ……まぁ、わかったよ……」
するとコスプレうさぎの雰囲気が明らかにどんよりとする。
が、
「お前は立場をわきまえてるのか?」
またも俺が理解できないことをコスプレうさぎに言う織斑先生。
すると、コスプレうさぎは、
「はいはい、わかりました」
きちんとした顔つきになるコスプレうさぎ。
そして、
「改めて、私は篠ノ之束です。
さっきの反応からして知らないっぽいけど、一応ISを作った張本人です。
で、まぁ世間からはなんやかんや言われてるけども、今はそういう立場とか、関係とかを抜きにして、篠ノ之束として、ここに来た」
さっきとは打って変わった真面目な口調で、自己紹介をしてきた。
「そして、1人の、一個人として、篠ノ之束から、あなたにお願いがあるの」
「私も同じく、立場や関係を抜きにして、織斑千冬、としてあなたに頼みがある」
織斑先生は、コスプレうさぎ……束さんが自己紹介を終えると同時に俺に向かって真面目な表情でこちらを見る。
こうして見ると二人ともなかなか美人である。
束さんは小さいけれど、女性らしさが前面に出ている体をしていて、多分篠ノ之……箒ちゃんよりも幼い顔つきをしている。
それに対して織斑先生は、束さんよりかなり身長的には大きいけど、スラッとしていて、いかにもモデル体型、という感じの体型をしていて、顔つきもキリッとしていて、美人な感じの女の人なんだな。
…………なんてくだらないことを考えている間に、時は刻一刻と過ぎようとしていて、それが余計に場の気まずさを助長している。
だから、俺は思ったままに口にすることにした。
「まず」
「俺はただの一般人です」
「ISだって乗れません」
「権力だってありません」
「地位も」
「名誉も」
「ただの用務員なんですよ?」
つらつらと言葉を連ねていくと、織斑先生と束さんの顔つきは俺を疑わしいものを見る目で見ている。
織斑先生が一緒にいるって事は、おそらく俺がインスタントヒーローを使えるのも知っているのだろう。
だけど、俺は言葉を連ねていく。
「腕だって独学で磨いている剣術しか使えませんし、それだって強いことには強いけど、1回限りの使い捨てみたいな剣術です」
「掃除は結構得意です」
「機械系は苦手ですね」
「趣味は漫画を読むことです」
…………………………
一体どれくらい言葉を連ねただろう。
多分結構支離滅裂になっているに違いない。
しかし、俺は言葉を連ねる。
そして、最後の締めくくりに、
「あなたたちは、そんな俺に頼んでいるのですか?」
そして、一拍置いて、
「それとも、無敵で最強の、ヒーローに頼んでいるんですか?」
言外に力に頼るつもりなら、俺は断るぞ、という意味を含ませる。
危険なのはコリゴリである。
だってきっと始まりはあの力を使った瞬間なのだ。
きっとそのせいでこんな嫌な自体に俺は巻き込まれている。
俺はそう思い、口にした。
俺の真意におそらく二人とも気づいているだろう。
コスプレうさぎは、こちらから目をそらす。
だけど、織斑先生は俺のことをひたすらにまっすぐ見つめ、
「私から見ればそれはどちらもお前だ」
それに、と言葉を付け足し、
「私から見ればどちらも何も無い。
君に、頼んでいる」
だから、と続け、
「話だけでも、聞いてください」
織斑先生は、その頭を深々と下げていた。
……………………………………………………
しばらく考え、俺は織斑先生のそのまっすぐな瞳を見て、話だけでも聞いてあげよう、と思った。
きっと、この話さえ聞かなければ、俺は人間としてダメなやつになる。
そう俺が直感したからだ。
それに、話を聞くだけならなんでもないし、最悪ここを力で吹っ飛ばして証拠(2人)を消してから逃げる覚悟だってある。
だから俺は強気に行く。
「それで、話ってのはなに?」
敬語は使わない。
本人達だって地位や身分を関係なく、と言っているのだ、俺だってそレ相応の対応をする。
「まずは結果からいかせてもらうが、私たちからの望みは、織斑一夏、篠ノ之箒の両名のサポートだ」
知ってる名前が出てきたのにも驚きだし、そういえば織斑一夏とはあの男の子のことだったのだ。
まぁそれでも、正直この時点では受けるも何も俺のことを買いかぶりすぎだ、という風になる。
だが、きっと内容は俺の思っているものとは違うのだろうから、
「具体的に」
それだけ言って話を促す。
「具体的には、さっき言った2人が、死にそうな場面に直面したら、助けて欲しい、ということだ」
「まるでその2人が死にそうな目にあうのを確信している風だね」
「確実に2人は死にそうな目にあう」
即答だった。
正直冗談交じりな質問だったにも関わらず、織斑先生の目にも、はたまた束さんの目にも、真剣な色が写っていた。
そこから織斑先生は、ポツポツと話し始める。
まぁ、いろいろ話してたが、要約すると、
・2人は、IS学園に入ってしまった以上、織斑一夏、篠ノ之箒の両名を安全なくらいに強くしたいらしい。
・そのためには、普通のカリキュラムでは足りないので、束さんの力を使って、強くしたいらしい。
・無人機ISは束さんの仕業であり、織斑一夏の育成のためのものらしいのだが、ここで篠ノ之箒が危ない目にあうのが予想外だった。
なので、そのために俺という用心棒を雇い、安全性を確保した上で強くしていきたい、らしい。
ということらしい。
だがここで俺に一つの疑問が浮かぶ。
「なら、織斑くん……一夏くんは大丈夫なのでは?」
箒ちゃんはまだわかる。
専用機を持たない普通の学生。
だがしかし、ISを作った姉を持つ。
だからこそ危険な目にあう。
だから助けて欲しい。
それはわかるが、
たがそれに反して、一夏くんはどうだろうか。
専用機を持ち、男という理由でいくらでも戦いの場はその身に降りかかる。
なのにわざわざ苦難を与える必要があるのか?
それに、なんとなくだけど、
「きっと彼は……普通じゃないナニカを持っていますよ」
いい意味で、とあやふやな確信を下手に期待させないように心の中でだけ付け足しておく。
織斑先生は、俺の言葉を聞いて、理解してくれたのか頷いたあとに、
「だけど、一夏にはそれ以上の不幸を寄せ付ける体質がある。
そしてそれは、IS学園に入って驚異を増した」
「例えばね、さっきの君を確保しようとしたとしたのなんて、本来だったら打鉄1体で君1人のところを捕まえる予定だったんだよ」
「…………それだとまるで一夏くんは俺のところにいない計算になっていますけど?」
まぁ、力のことがあるから保険として全部操れるようにしていたのだろうが、1体で全部やるなど、一夏くんがいたら絶対にできないことではないか。
「…………そう、そうなんだ。
本来だったら、穴を埋めるのは放課後、と話したはずなのだが、あいつはなぜか知らないが、授業が終わったあとだと勘違いしたのだ」
「…………単なる聞き違いでは?」
「その後ほかのものに聞いてみた。
私は一夏になんと言ったのか。
それでみんなは口を揃えて放課後、と言ったんだぞ。
いつもならそんなことを聞き違いなんてするようなやつじゃないんだ、一夏は……」
…………なんとなく、一夏くんは大丈夫なのだろうと俺は思った。
むしろ心配なのは織斑先生の方だ。
あまりに心配しすぎて、基本的なことが見えていないようだ。
それに、多分だけど、一夏くんと織斑先生の間には壁みたいなものがあると思う。
その壁のせいで、きっと織斑先生はいらないことをしようとしているのではないか、と俺は思った。
と、考えてみて、一夏くんの方の護衛はあまりいらないのではないかな、と思った。
とか考えている間に、
「私は前の無人機ISの事件で、本来なら生身の人間は攻撃しない設定にしていたはずのISが、なぜか箒ちゃんだけは攻撃できるようになっていた。
私はきちんと最終確認もしたし、運搬は誰にも触れさせなかったし、誰にもハッキングを仕掛けられなかった。
なのにあんなことが起こってしまった」
束さんが自分が頼んだ理由を話す。
「だから、今からがんばって箒ちゃん用のISは作っているんだけど、どうしても完成するまではなにが起こっても箒ちゃんの自衛の手段は少ない。
それに、いっくんには悪いけど、箒ちゃんはいっくんといれば間違いなく争いに巻き込まれる。
それで私は箒ちゃんを失いたくない」
まっすぐな瞳でこちらを見る束さん。
となりにいる織斑先生は、束さんの言葉にうなだれていた。
そりゃ、自分の弟が争いの種だって言われれば、そりゃショックだと思うな。
と、考え始めるが、俺には所詮人の考えはわかんないだろうな、と自嘲して、
「で、まぁ二人とも事情は分かった」
俺はしばし考える。
そして、
「個人的な意見も入るんだけど、条件付きで箒ちゃんの護衛だったら受けてもいい」
その言葉に、織斑先生はピクリとも動かず、束さんは、俺の方を訝しげに見てくる。
「ま、なんで俺が箒ちゃんだけを助けるのか決めたのかというと、個人的に関係があったし、束さんの言ったとおり、彼女はISを扱えれるだろうが、専用機がない限り、ただの女子高生にすぎない。
だから、俺は箒ちゃんに手を貸す」
束さんは俺が言った条件、というのが気になっているのだろう、まだこちらを訝しげに見つめる。
だがその前に、
「一夏くんの護衛をしないのは、俺は彼のことを邪魔してはいけない、と思うからだよ」
「助けることが……邪魔……だと?」
織斑先生が顔をゆっくりと顔を上げる。
その目には、俺に対する殺意、とも取れる感情が見えた。
「いやいや、死んだほうがいいとかそういうことじゃなくて、彼を助けるという事は、すなわち彼は自分自身の運命に立ち向かえない人間、になってしまうのを阻止するためだ」
「運命に立ち向かえない人間?」
「織斑先生だって気づいているでしょ?
彼の進む先は、細く、険しく、辛いものだと」
「だからそれから落ちた時、助けてやって欲しいと……」
「落ちてから這い上がることを考えなかったの?」
「無理だ……そんなこと…………」
「ふざけんなよ」
俺は目の前の織斑先生の胸ぐらをつかむ。
織斑先生の体は意外と軽かった。
そして、俺は顔を上げざる負えない織斑先生の顔を見て、
「誰が、いつ、彼の限界を決めた。
彼が自分の道から落ちたら這い上がれないと言ったのか?
いや違う。
少しの間だけだけど、間近で戦う姿を見て俺でもわかったことがあるよ」
すぅ、と息を吸い、
「彼は決して弱い人間じゃない」
そして俺は織斑先生を離し、最後に一言、
「お前、仮にも姉なんだろ?
大人なんだろ?
テメェがしなきゃならないことは分かってるはずだろ」
静寂が訪れる。
俺は束さんの方を向き、
「じゃあ、気になっているだろう条件について」
俺は少し考え、簡単に、
「俺がやったことを、誰にも悟られないこと、です」
「…………それは私に協力しろって?」
「そうそう。
例えば、IS学園のカメラをハッキングして、戦闘の映像を残さないようにするとか、俺がちゃんとほかのところにいた記録の偽装とか、だね」
「それはできる……
データ上ならあなたはどこにもいなくすることも、何百人にも増やす事は簡単だよ
でも、なんでそんなことを?」
あなたの力があったらそんな小賢しいことしないでいいじゃない、と言外に言っている。
だから、
「はっきりというよ。
俺は目立ちたくない。
表舞台に立ちたくない
だけど、自分の知り合った子ぐらい、守ってあげたい」
「だから、ね」
束さんはしばらく考えたあと、ポケットに手を突っ込み、ブレスレットをひとつ取り出す。
「それは誰にも通信傍受とかされないもので、多分だけど現存の通信機器では最高峰のものだと思うよ。
私の方でも作って置くから、それで連絡を取り合おう」
「お、ありがとうね」
素直に礼を言って受け取る。
プレートとチェーンでできた簡素な作りのブレスレットだった。
「あ、それと」
うなだれている織斑先生の方を見て、
「仕方ないから、箒ちゃんを助けてあげる時に、余裕があったらなんとかしてみたいと思うよ。
俺の独断と偏見だけどね」
ピクリ、と織斑先生が動いた。
俺はそれを確認し、
「ってことで、今日はこれぐらいにしようか。
多分束さんに時間ないでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「なら早く帰って、人に見つかると全員諸共危ないから」
「だ、だけど…………」
織斑先生のことを見て不安そうにする束さん。
その様子を見て、俺は微笑みながら、
「織斑先生と話があるから、いいかな?」
出ていって欲しい、という意味で言った。
しばらく束さんは考えて、
「うん、わかった」
一言、そう言って出ていこうとするが、俺の隣を通る直前に、
「もしなんかしたら、許さないから」
思わず身震いしてしまうくらいの冷たい声。
頼んでるんじゃないのかよ…………と思うが、とりあえずそんな物騒なことをするつもりはないから、とりあえず肩をすくめておいた。
……………………束さんが去って2分、いや3分が経った。
沈黙が張り巡らされる。
その中、織斑先生はその重く閉じられていた口を、ゆっくりと開き、
「なんで、一夏は助けてくれないんだ」
「私は、見たんだ。
あの暴走した無人機ISに対して、まるで赤子に対するかのように戦っていた姿を」
「私はもし、そんなヒーローがいなかったら、と考えると、いてもたってもいられなくった」
「そして、さっきのことでいてもたってもいられなくなった」
「一夏は、必ず、苦しい道を歩む。
だから、私はそのために、保険を用意してあげないと、と思った」
「ねぇ」
俺は織斑先生の話をさえぎる。
「織斑先生……いや、千冬さんは、一夏くんのために何をしたの?」
「こうやって、一夏に万が一のことがないように……」
「それ以外には?」
「傍に置くことによって、襲われないよう「いや、そういうことを聞いているわけじゃなくて」…………」
千冬さんは俺のことを睨む。
俺は、その眼光に少しビクッとしながらも、
「千冬さんは、一夏くんに、手を差し伸べたの?」
「………………………………………」
黙り込む千冬さん。
「束さんは、直接的に手を差しのべると迷惑になるから頼んでいるんだ、と思うけど、千冬さんはどうなんだい?
俺に頼むのもいいのかもしれない、最善かもしれない。
けどさ、千冬さんだったら、できるんじゃないの?
自らの手を差しのべることが。
束さんがしたかったことが。
あなたにしかできないことが」
「でも、私には一夏だけでなく、他の生徒も……」
「それで言い訳していいのか?」
俺は当然言ってくるであろう言い訳に一喝する。
「ほかの生徒から反感を買われる?
なら買われない範囲でやればいい。
生徒みんなに教えなければならない?
自分の時間をさいて自分の弟に教えるのがダメだというのか?
本人が嫌だと言ったらやめればいい。
だけどね、千冬さんはまだ何もしてない。
してないのに諦めてる。
そんな腑抜けと戦ったつもりは俺はないよ」
と、俺は少々熱くなってしまった、と思い、それだけ、と最後に締めくくり、教室を出ることにした。
扉を開けて出ようとした時、
「一体!」
俺は振り向く。
こちらを見る織斑先生の瞳には、決意が見て取れた。
「お前は何者だ?」
「ただの、用務員ですよ」
それでこそ、俺と戦った人だ。
「それにしても、言った以上、やらなきゃなぁ……」
いくら束さんがサポートしてくれるからと言って、自分が不用意なことをすればバレるし、気を抜いていれば、助けられないかもしれない。
…………と、言っても、そんなそうそうトラブルが起きるわけないか。
俺は別に気を張ることでもないな、と思い、自分の腕につけてある束さんからもらったものを眺める。
そして、こっそりだけど、ひとり決意する。
このブレスレットを使ったときだけでも、誰もを守れるヒーローになろう、と。
ただのひ弱な、1人の用務員が、そう誓った。