四乃森蒼紫は、小太刀二刀流の俺の師匠であり、目指すべき目標であり、超えるべきものである。
しかし、最初、俺は小太刀二刀流を使うにあたって、参考にするものの少なさに嘆いていた。
牙突の方は、型の少なさや、きちんとした説明、自分なりに勝利の理論を構築できたことができたので、完成させることができた。
しかし、先程も思った通り、小太刀二刀流は、あまりにも現実離れしすぎているのだ。
「はっ!」
再度俺は攻める。
今までは守りに重点を置くあまり、自分から攻める、ということがなくなっていた。
攻めるとしてもカウンターだけであり、自分から攻めることも、ましてや自分から攻める意識、というものもなかった。
当然、先ほどと同じく、箒ちゃんが剣の長さを生かして先に攻撃を仕掛けてくる。
今度は得意の袈裟斬りだ。
左から右へのそれを、俺はさっきみたいに突っ込んでいく。
だがしかし、今度は受け止めるではなく、受け流すように試みる。
それも、二刀を使わずに左手の小太刀のみでで。
当然、今まで二刀を使ってギリギリ防げていた箒ちゃんの剣は、衝撃のあと、防御のための俺の左手の小太刀を押し込んでくる。
俺は、そこで小太刀に角度をつけ、さらに、円の動きを追加して、衝撃を和らげようとする。
角度をつけて右に受け流す。
少し押し込む力がゆるくなり、箒ちゃんの剣は右に動く。
それに追加して、時計回りに回転して、右手の小太刀で箒ちゃんを狙う。
その時の箒ちゃんの顔を、何故か俺はしっかりと見た。
驚愕と、ほんの少しの恐怖を伴った顔。
「っ?!………………はぁ……はぁ…………」
結果から言うと、よけられた。
しかし、箒ちゃんの手には木刀はなく、その顔には、冷や汗を大量にかいていた。
「……………………負けです」
箒ちゃんは、しばらく考えたかと思えば、負けを認めていた。
俺はホッとして構えを解く。
「あなたじゃないですから、素手で武器を持っている人に勝てるなんて思いませんよ」
と、箒ちゃんは額の汗をぬぐいながら、歩いて木刀をとる。
俺はその様子に違和感を感じた。
そして、俺は、
「なんで気づいたんですか?」
箒ちゃんへと剣を向け、その眼前へと切っ先を向ける。
「うーん、違和感を感じた、っていうのが理由だけど、後付けでどんどん思いついてきたよ」
「まず、箒ちゃんの負けを認めます、ってセリフ。
そういえば1回も降参で模擬戦終わったことないなぁ、って思った。
いつもちゃんと三本とってから終わってたのに」
「それと、次のセリフ。
武器がないと勝てない。
それだけならよかったけど、その後何も言わずに武器、取りに行ったよね」
「それと最後」
「まだ諦めてなかった」
俺は箒ちゃんの瞳を見る。
「はぁ、やっぱり大人には叶わないですね、こういうことは」
「でも、その心意気は素晴らしいと思うよ」
俺は素直にそのルールから外れた行動をしよう、という意思に尊敬の念を抱いた。
だって、俺なら真正面から立ち向かうしか能がないから。
「だけどね」
俺は小太刀を引き、小太刀二刀を虚空に放る。
箒ちゃんの目は、小太刀に吸い込まれる。
俺は小太刀を捨てた状態から、流れるように牙突の構えとうつり、
「こんなんで得た勝利に、箒ちゃんは意味があると思う?」
素手で牙突を放ち、その眼前に拳を放つ。
「……………………」
箒ちゃんは、少し黙り、4本目です、といって、武器を取り、下がる。
「意味、ねぇ」
それに対して、凰さんは昆を持ってこちらに歩んでくる。
「恋する少女に意味とかどうとかはちょっと、ねぇ」
凰さんは、開始位置に立つ。
「ま、これで私の一夏とのペアの権限は確定したわけだし、行くよ」
凰さんは構える。
俺は、投げ捨てた小太刀二刀を取り、静かに開始位置に戻り、構える。
「あ、そういえば、疲れてない?」
「いや、大丈夫だよ」
俺は、一度だけ深呼吸をして、先程の戦いを思い出す。
さっきの戦い方が、おそらく、完成とは言わないけど、より完成に近い形の、小太刀二刀流。
その感覚を、休んだせいでつかみ損ねるのは、少し惜しい気がしたから、俺は疲れている体に鞭打って、集中する。
「3」
凰さんはカウントを始める。
「2」
その構えからは、自信と勝気が溢れていて、俺はすごいと思う。
「1」
だけど、
「始め」
今の俺なら負ける気はしない。
分割です