「………………」
凰さんは迷っている。
そんなふうに俺は感じ取れた。
「凰さん」
俺は首に突きつけた剣を戻し、開始位置に戻った後に言う。
「なに?」
いつもの凰さんからは考えられない、感情のこもっていない声。
俺はその声を聞いて、迷っている、というのが確信に変わっていく。
「どうやったら勝てるか、とか考えてる?」
「………………なによ、悪い」
「凰さん、なんで負けたのかって考えた?」
「そんなもの、自分から攻撃したからでしょ。
私のスタイルはカウンターを狙うもの。
自分から攻撃を仕掛けてしまえば、カウンターへの行動が遅れて、結果的に後手後手になっていって、決定的な隙が生じる」
「それだけで終わった?」
「じゃあ次はどうするつもりなの?」
「そんなもの教えて、何になるのよ。
不利になるだけじゃない」
「そっか、なら俺は教えるよ。
俺はさっきと同じように歩いて近づいて、仕留める」
その瞬間、凰さんからブチッ、という音が聞こえたかと思ったら、
「あんたふざけてんの?!
普通そうそう同じやり方でやられるわけないじゃない!
そんなに私のことを舐めてるの?!」
「いや、舐めてなんかないよ」
俺は、息を大きく吸い込み、
「舐めていないからこそ、君の弱点を喜んで突く」
吐き出し、
「それが君の成長にも役立つと、俺は信じてるよ」
歩を進める。
「ふざけないでよ…………」
ボソリ、と凰さんがつぶやいたのが聞こえる。
あと10歩。
「私は、負けちゃいけないの……」
あと7歩。
「強く、強くならなきゃいけないの」
あと4歩。
「いや、違う」
あと3歩。
「強く、在らなきゃいけないの!」
凰さんは、両手で持っていた昆から、左手を離し、なにやら特殊な構えをする。
その構えは、右手右足を半身になるくらいに思いきり後ろに下げ、
その昆の先端を俺の方に向け、
左手はその先端に添える。
そう、この構えは、
「はぁあぁあぁぁあぁぁぁ!」
牙突、である。
俺は驚くと共に、ふつふつと心の底から湧き上がってくる黒いものを感じていた。
俺は知っている。
この感情を、
これは、
そう、
「ふざけるな!」
怒り、である。
足から腰、肩、腕、と人間の体の部位がそれぞれ出すことのできる最大限の力を出し、それ全てを、両手の小太刀に伝え、振り上げる。
ガァァン
大きな音が響き渡る。
ちょうど、硬いものに硬いものをぶつけた時の感触と同じようなものだ。
「な、んで?」
凰さんの弱々しい声。
呆然としている凰さんのその手には、昆は握られていない。
ではその昆は?
その瞬間、カーン、と耳心地のいい音とともに、昆が凰さんの後ろの地面に落ちる音がする。
「なんで、あんたはそんなに強いのよ」
「自分が強いのは棚に上げるんですね」
「そんなのあんたの強さの前じゃな意味が無い」
「なら、それより強くなればいい」
「ふざけないで!」
凰さんは俺の胸倉を掴む。
「強く、強くなりたいけど!
強く、強く在りたいけど!
私の才能ではここが限界なの…………」
最初は威勢よく言葉を放っていたけど、話していくうちに、言葉が弱くなっていく。
「突然の予想外の行動に、どうしていいかわからない。
機転が利かない。
1度崩してしまえば脆い。
私は、そんな風な人間なの」
俯く凰さん。
俺は、そんな姿を見て、
「なら、技を汚しても構わない、そういうのか?」
「は?」
未だブチ切れていた。
大人気ないです。
分割です。