牙突は、理論的には素晴らしいが、その実、とても脆い技でもある。
「その技は、簡単に使っていいものじゃないぞ」
牙突を練習する上で、俺はそんな弱点たちをいくつもみつけた。
まず、さっき俺がやったこと。
牙突自体を逸らす。
これは多分誰もが考える牙突への対処法なのでは、と思う。
だって、牙突は、突き、の技だ。
その結果、前に進む力はものすごいが、横からの力に弱い。
だから、俺は剣を持つ力とか剣先の衝撃に耐えることは重点的に練習した。
今回は、昆の長いから衝撃に特に弱いことや、女の子で掴む力が弱いから、その弱点をついたわけだけど、実はあと何個も弱点がある。
それらを克服した上で、俺は牙突を使っているのだ。
それを生半可な練度で、しかも弱点をそのままにして放つなど、
「戦い、というものに対して、凰さん、君は失礼なことをしている」
それに、と俺は付け足し、
「凰さん、君はなんでそこが限界と思っているの?
君はまだ成長できる。
才能がないなら工夫すればいい。
力が足りないなら鍛えればいい。
予想外なことに対応出来ないなら、俺らに予想外のことをやってもらって、対応できるようになればいい」
「君はその強さの伸び悩みを、才能、という言葉で片付けた。
きっと君が趣味の範囲で、それも大人である時に言ったのならば、俺もそれには反対しない」
だけどね、と俺は言い、
「今、君は若い。
そして、頼れる人がいるじゃないか。
仲間、友人、先生、師匠……」
俺は、俺を指さし、
「用務員さんとか、ね」
苦手な作り笑いを浮かべて言う。
「それと、凰さんはいままで意味のある強さをしっかりと積み上げてきたじゃん」
自分で、意味のある強さを積み上げる。
俺みたいな"かっこいいから"みたいなものでもいい。
肝心なのは、その求めている強さに、どんな意味を持つか、だ。
「まだまだ凰さんは強くなれる」
最後には皮肉っぽく。
「だって、10歳も年上の人から、一本取ってるからね」
そう言って、俺は右手の小太刀を振り上げ、凰さんの頭に向けて振るった。
「あぁー、なんでこうなっちゃったのかなぁー」
「まったくです、用務員さんは大人気ないですね」
「はは、それ反論できないなぁ」
模擬戦が終わって、みんなで休憩している。
「それにしても、なんで用務員さんはそんなに強いんですか?」
「あ、そうそう、私もそれ思った」
「いやぁ、そんなつよいとはおもわないけどねぇ」
俺は頭をポリポリかきながら、苦笑いする。
「正直、二人共今回のは弱点突いて、心理戦に勝ったからこそつかめた勝利だと思うからなぁ」
「いやいや、ふつうそれだけでもすごいことでしょ」
「そうですよ、なんで騙し討ちがわかったんですよ」
「凰さんのはただ単に前から思っていたことを実践した。
箒ちゃんはさっきも言ったと思うけど、不自然な点が多かった。
嘘をつくならもっと慎重に、自然体がいいよ」
俺はそう言って、手元のスポーツドリンクを一口飲み、
「それに、2人にはわかって欲しかったんだ」
2人は俺の方を見て、ハテナマークを頭に浮かべていた。
「君たちには、意味ある強さを積み上げる"時間"があるって」
そう、なんやかんや二人には言ってきたが、俺が言った事はそのまま俺に帰ってきているのだ。
俺には、
それは、俺の先程までの言葉を使うなら、積み上げてすらいない、無意味な力、ということになる。
だからこそ俺は、使うのは、他人のために心の底から使いたい時、と決めていた。
そんなことに使わなきゃ、俺の今まで、趣味とはいえ積み上げてきた意味あるものを無下にしてしまうと思ったからだ。
だから、俺はISという、ある程度の訓練で人を殺せるほどの力を得てしまうものを使いながらも、人間本来の強さを追い求める2人には、意味あることを積み上げること、の重要性に気づいて欲しかった。
俺は自分の"力"という点では圧倒的に、何も、まったく積み上げてすらいない。
だって、1日に3分しか練習できなくて、それに、軽く拳を振るっただけで周りが吹っ飛ぶんだよ……
練習することすらできないよ…………。
「まぁ、あんまり難しい事言っても分かんないと思うから、とりあえず、これからも、諦めないで頑張っていこう、ってことだよ」
「「は、はぁ……」」
なかなかに湿っぽい雰囲気だったのを、俺は軽く言い放ち、粉砕する。
思わず2人も返答に困っていたようだった。
「そう、これは厳しかったけど、よかったよなぁ……」
伝わってればいいけど、俺の言った意味。
俺は日記を書き始めて、結構な分量になったことに驚きながらも、
「まだ半分だよぉ…………」
そう、俺の一夜はまだ書き終わらないのである。
まだ終わりません分割です。