「つ、疲れた……」
今日は朝から、昨日言っていた一部屋使えるようにしておく仕事がに勤しんでいたが、そんなもので俺が疲れている訳では無い。
俺はシャワーを浴び、日記を書こうとし、あの悪夢を思い出す。
「今日もよろしくお願いします」
今日も今日とて飽きずに漫画技の研究をしていると、道場にノックが聞こえ、ドアを開けると、女の子がいた。
あれ?なんで来たんだこの子、というさらっとした現実逃避は諦めて、目の前の篠ノ之さんに向かって挨拶を返す。
「ま、とりあえず早いとこ上がっちゃって」
なんか自分の家みたいだな、というツッコミを自分にしながら、篠ノ之さんを道場に招き入れる。
篠ノ之さんは昨日と同じく袴姿で、大きなリボンを携えていた。
「あ、はい、それじゃあ早速、今日は模擬戦をしませんか?」
?
俺はいきなりのよくわからないセリフに頭の上にハテナを思い浮かべながら、考えてみると、
「あ、あぁ、そういえば昨日のヤツ、本気でやるのかい?」
「あ、はい。
……もしかして、嫌でしたか?」
悲しそうな顔をする篠ノ之さんに、罪悪感がふつふつと湧き出てくる。
そして、思わず言ってしまった。
「まぁ、寸止めだったらいいよ」
と、
この時の俺はあまりにも目の前の女の子が強いなんて考えられないくらいの子で、昨日のあの美しい剣技のことがすっぽりと頭から抜けていたのだ。
そして、その後篠ノ之さんが準備体操を終えた後、道場の中心で二歩ほどの距離を作り、向かいあった。
「多分この前見た感じから、用務員さんは剣道とかやっていた人ではないですよね」
「あ、あぁ、そうだね」
俺はこの前のしっかりと見られていたのか、と恥ずかしく思い、苦笑いになる。
「じゃあ、あんまりルールとかは気にせず、とりあえず寸止めだけで、負けを認めたら、にしましょうか」
「あー、それでいいけど……大丈夫?」
まだこの時は忘れていたのだ、この時は、
「あ、はい、大丈夫です。
しっかりと手加減はするので」
いや、そっちのほうなんだけど……と俺は今考えるとあまりにも傲慢すぎることを考え、そして、
「じゃあ、3、2、1で始めましょうか」
「あ、はい」
俺は何故か敬語になってしまうが、
「3」
カウントが始まる。
篠ノ之さんが木刀を構える。
綺麗な構えだ。
「2」
それに引き続き俺も構える。
構えはこの頃練習している小太刀二刀流のあの人の構えだ。
「1」
ふたりの間に緊張が流れる。
「始め!」
それと同時に感じる、やばいという感じ。
咄嗟に後ろに引いた俺は正しかった。
気づいた時には、
先程まで俺がいた場所に木刀を振り下ろしている篠ノ之さんの姿があった。
「はっ……」
速いの三文字も言い切る前に、追撃に移る篠ノ之さん。
下からの袈裟斬り。
今度はしっかりと見えていたので、防御にはいる。
小太刀二刀流……それは漫画、るろうに剣心に出てくる四乃森蒼紫の使う剣術だ。
最初、小太刀二刀流のために木刀を少し自分で短くした小太刀を2つ持ってきた時、準備体操中の篠ノ之さんに珍しいものを見る目でジロジロ見られた。
まぁ、女の子だし知らないのも当然だろう。
カーン
右手の小太刀で篠ノ之さんの木刀を受け止めるが、これがとても重かった。
重かったせいで思わず受け流さないといけないくらいに重かった。
だが、二刀流なので、左手の小太刀で篠ノ之さんの胴を狙う。
当然のように後ろに引いてくれたが、篠ノ之さんの目には驚きの色が映っていた。
「いや、結構お強いんですね。
最初はなんでそんな短い刀の二刀流なんだろう、って思ってたけど、そういう使い方なんですね」
「うーん、まぁただの漫画のパクリだし、未完成だからこういう使い方ってわけじゃないけど、これはちょっと防御に重きを置いているから、おいそれと倒されはしないと思うなぁ」
その言葉に篠ノ之さんは目を見開き、少し雰囲気が変わる。
俺もそれに呼応して、集中する。
さっき言ったとおり、小太刀は漫画でも言っていたとおり、防御に重きを置いたものであり、四乃森蒼紫は、小太刀二刀流を拳法と一緒に使うことで、攻撃力をカバーしていた。だけど、俺にはそんな器用なことは出来ないから、小太刀は片方を防御に回し、もう片方で攻撃するというふうに変えて、実用化を目指している。
「はっ!」
篠ノ之さんの掛け声とともに、迫りくる木刀。
今度は上段からの袈裟斬りだ。
俺はそれを今度は左手の小太刀で最初から受け流しにはいる。
さっきは利き腕の右手でとめ、剣の動きすら止めてしまおうとしていたが、あの感じからすると、受け止める事は俺には無理らしい。
……女の子相手にこんな事考える時点でちょっと負けた気もするが、まあま今は割り切ろう……
ということで、左手の小太刀で最初から受け流しの姿勢を作り、右手で反撃するとしようか、と考えていた。
ガン!
だが、そんなことはお見通しだ、というふうに、左手の小太刀に衝撃が走る。
そのせいで左手はしびれてしまった。
一瞬なんだこの馬鹿力は、と悪態をついてしまったが、とりあえず左手の小太刀の事は諦め、攻撃にはいる。
右手の小太刀はまだ手にあるから、下からの袈裟斬りをかけてみる。
それに対して少し体を後ろに下げる篠ノ之さん。
そして空を切る俺の小太刀。
やっぱりかぁ、と俺はため息をつきたくなるのをおさえ、篠ノ之さんからの追撃を防ごうとする。
そう、俺のやり方だと、小太刀の短さ故に、少し後ろに引くだけでかわされてしまうのだ。
まぁそれでもあんな簡単にかわされると流石に俺も傷ついてしまいそうだ。
「あ、いいですよ、落ちたのとっても」
篠ノ之さんからの追撃に備えていると、そんな声が聞こえる。
「いや、でもそれじゃあなんかねぇ……」
なんか素直に取りに行くと負けた気がするから、渋ってしまう自分に、心の中で嘲笑する。
「いえいえ、私も用務員さんの実力を見て、全力でやりたい、って思ったんで、お気になさらないで」
「いやいや、高1でそんなに強いとか結構凹みますよ。
こっちだってそっちの10歳上なのにねぇ」
現在25歳が15歳の女の子にやられるって……だいぶ悲しいなぁ……
おっと、いけない。
こんな事考えているとお相手に失礼だからなぁ、と考え、素直に小太刀を拾いに行く俺。
そして、木立を拾ってみると、案の定、一回取りこぼしてしまう。
さっきの衝撃で手がしびれてしまったのだ。
それをみた篠ノ之さんはどうしたのだろう、という顔になり、こちらを見てくるが、俺は何でもないというような様子で、もう一回拾いあげる。
今度は掴めたが、それだけだ。
掴むことしか出来ない。
振るのさえ難しいんじゃないか、ということを考えていると、篠ノ之さんから、
「じゃあ、もう一回行きましょうか」
と、声がかけられる。
「あ、あぁ、いつでもいいぞ」
左手どうしよう、と考えながら、もう一度構える。
なんとか今は動かせるようにまでなったが、やっぱり攻撃にも防御にも使えないようだ。
そんなことを考えている間に、篠ノ之さんはこちらに向かってくる。
仕方がない、誤魔化すか。
そう心に決め、俺は小太刀を二刀揃えて構える。
そこからはほんとにきつかった。
二刀揃えることによって、最初は無理だったが、威力が分散できるようになり、うまい具合にノーダメージで、受け流しができるようになった。
さすが剣の盾と呼ばれる小太刀、と考えているが、そんなことをしていると、当然攻撃にまで手が回らなくなるのである。
だから相手からの攻撃がドンドン激しくなってくる。
途中から防御が間に合わなくなりそうなシーンもあってヒヤヒヤしたが、二刀流にしたおかげで、なんとか防げている現状である。
これからは拳法も使えるようにならないとなぁ、と考えているうちに、30分も経っていて、
「1度休憩しようか」
となった。
分割です