「それじゃあ、1度、私が牙突をしてみればいいんですね」
「そうだね。
最初はゼロからスタートだから、まず0.1からでも、作っておいた方がやりやすい」
「わかりました…………」
ボーデヴィッヒちゃんが、声を出すのをやめ、集中している。
俺にも伝わるくらいだから、大層な集中力だ。
構える。
拙いし、力を最大限に使えそうにない構えだった。
しかし、俺もこんなものからのスタートだったと思うと、少し感慨深く感じてしまう。
だが、牙突を語る上で必要不可欠な、極端な半身と、相手に向けられた切っ先は、足りていた。
後は、放つだけ。
ビュン
その音とともに、剣は風を貫いた。
とりあえず思ったことが、速い。
俺の本気とまでは行かないが、少なくとも俺が牙突を再現し始めた頃より、速かった。
「……………………」
と、考え事をしていると、ボーデヴィッヒちゃんが不安そうな顔でこちらを見てくる。
「どうでしたか?」
「あー、うんと、とりあえず、やってみてどうだった?」
「体の使い方が分からないからとてもやりづらかったです」
「それでそれで?」
「…………正直、使いづらすぎて、これを使って戦っている姿が想像できませんでした。
あー…………師匠は「師匠?!」あれを使ってどのように戦っているのですか?」
俺はボーデヴィッヒちゃんの謎の師匠呼びに戸惑いながら、それを辞めるように言おうとするが、ボーデヴィッヒちゃんの早く答えを知りたそうにしているその目に、俺は言い出すことが出来ず、
「じゃあ、1度ボーデヴィッヒちゃん、戦ってみようか?」
「え?いいんですか?」
「あぁ。
1度でも形作ったものは、消え去ることは無い。
それに、今回俺が使うのは、正式な牙突のほうだから」
「正式な牙突?」
ボーデヴィッヒちゃんは、俺の発言に疑問を浮かべる。
「あぁ。
俺が今使っているのは、この漫画に書かれているものの一部をアレンジして、使いやすくしているものだから、いまのボーデヴィッヒちゃんに見せると、ちょっと今後に支障をきたすかもしれないから、正式な方でやるよ」
「じゃあ今度、師匠オリジナルの牙突とも、一戦交えてみたいです」
ボーデヴィッヒちゃんは、俺の説明を聞くなり、そんなことを言って張り切っていた。
そんな様子に俺は微笑みながら、さっきまで何回も立った道場の開始線に立ち、
「そこら辺の位置からスタートしよう」
俺はボーデヴィッヒちゃんにそちらの方の開始線を伝える。
ボーデヴィッヒちゃんは、それを理解し、開始線あたりに立つ。
「あー、あんまり長引かせるのも宜しくないから、寸止め急所ありの一本勝負にしようか」
「戦闘を生業としていないのに急所ありとは、聞いたことがありませんね」
ボーデヴィッヒちゃんは、不思議そうにしている。
ISを扱う人は、生身での戦闘もやっておかないといけないため、武道の訓練もしているから思っているのだろうが、普通のこういう訓練で急所ありとは珍しいのだ。
ちなみに、箒ちゃんと鈴ちゃんとの模擬戦は言わずもなが、急所ありだ。
「そんな急所なしにしちゃったら、遠慮が出ちゃうし、もしものことがあったらまず狙うのは、急所が一番効果的だから、やっぱり訓練からそういうのは大事にしておかないと。
もちろん寸止めだから当てちゃいけないけどさ」
ボーデヴィッヒちゃんは、それを聞いてなにやら少し感激した様子で、
「そこまで考えているとは、すごいです。
男性はどのような考えを持っているのか、あまりわからないのですけど、世の男性が師匠のような人ばかりだったら、ISが扱えるというだけで誇れないかもしれないです」
ハハハ、とそれはないない、という意味を含ませた笑いをしながら、俺は模擬戦を始めようとする。
「木刀持っている分、不慣れだから、頑張ってまずは俺の一撃をどうにかすることだけに専念してね」
「今度はこの前のように直ぐにやられません」
最初の忠告に、ボーデヴィッヒちゃんは、木刀を片手に持ち、腰を低くして、すぐ移動できる体勢を作る。
それに対して俺は、構える。
いつもしている構えとは違う、本来の構え。
右手は切っ先に添え、
腰を低くする。
「じゃあ、俺が3カウントしたら始めるから」
その言葉に、いつもの開始線の位置より後ろにいるボーデヴィッヒちゃんの集中力が高まるのを感じる。
「3」
俺は息を整え、斎藤一を思い出す。
悪即斬。
その思いを、無礼ながらもその胸に抱いて、
「2」
ボーデヴィッヒちゃんから、痛いほど集中しているのが伝わる。
「1」
静かな、音の聞こえない世界が、辺り一体に広がった。
「始め!」
ほんとに、ボーデヴィッヒちゃん、直ぐにやられないでよ?
分割です。