走り出す。
俺は走り出し、ボーデヴィッヒちゃんに牙突を放とうとする。
ボーデヴィッヒちゃんは、後ろに退く、という選択肢はないようで、俺から見て右に避けてカウンターでも狙っているようだが、甘い。
今君が相手にしているのは斎藤一だぞ。
俺の今の牙突は、斎藤一のものである。
それはつまり、俺が普段使っている牙突とタイミングとかが違うわけであって、斎藤一の牙突は、
「なっ?!」
チョコマカと避けるような相手と相対するのならば、前方に置かれている右手で、相手の姿を捉え、
「はんげ……」
そのまま牙突を放つことによって、相手の体は崩され、こちらに引っ張られてくることになり、そして相手のこちらに向かってきて、俺の牙突と、
「…………はあっ」
まるで息を止めていたと言わんばかりの大きな呼吸。
崩れたボーデヴィッヒちゃんの眼前には、俺の持っている木刀がその切っ先をボーデヴィッヒちゃんに向けたままでいる。
「どうかな?斎藤一の牙突は」
「どうかなもなにも、一瞬で勝負がついてしまったじゃないですか」
「仕方が無いよ、そういう剣術なんだもの」
「…………そう言われてしまえば何も反論できないのですが」
「ま、まぁ、とりあえず、牙突を使っての戦いはわかってくれたようだけど」
俺はボーデヴィッヒちゃんを離し、剣を引き、
「まず、今見ていた上で、牙突の強さ、だと思うところを上げてみよう」
「牙突の強さ、ですか」
そうそう、と俺はボーデヴィッヒちゃんに言い、ボーデヴィッヒちゃんは俺のその言葉に、しばらく考える。
「おそらくですけど、漫画と今の戦闘を見る限り、牙突は攻めることしか考えられてないのかと思います。
それと、牙突は普通とは考えられない体勢から放たれている、と思ってたけれど、その実、多分慣れれば人間が出せる一番強い威力が出せるんじゃないかな、と思いました。
それと、右手を有効に使うことで、今みたいな回避、という選択肢をとられても、当てることができるのが利点だと思いました」
ボーデヴィッヒちゃんは、粗方話したあたりで、俺の方を見る。
俺はうん、と頷き、
「今の少しの戦闘でよくわかったね。
そう、
俺は左を向き、右手で木刀を持ち、牙突を空に放つ。
ビュン、という耳心地のいい音とともに、俺は牙突は空を切る。
「そして、今ボーデヴィッヒちゃんもやられて「あ、あの!」……ん?なんだい?」
「師匠って……利き腕はどちらでしょうか?」
「ん?あぁ」
ボーデヴィッヒちゃんの驚いたような顔に俺は不思議に思いながらも、その質問の意味を理解する。
「右だけど、さっきのは、ボーデヴィッヒちゃんが言ったように、回避という選択をとった相手を嵌めるために、俺は左手で牙突をしたんだ」
「…………と、いいますと?」
「今の状況だと、威力より当たるかどうかが重要で、俺としては攻めの剣術、ということを理解して欲しかったんだ」
「それと左手で牙突をするのにはどんな関係が?」
「右手の方が相手を捕まえる上で力が出やすいし、捕まえやすい」
左手で捕まえようとすると、強引に振りほどかれる可能性があったからね。
それに俺は、一人で練習してたから、この方法を自分の牙突に取り入れなかったから、あんま掴むのなれてないし……。
「そ、それだけで利き腕じゃない方でやった、というわけじゃないんですか?」
「ん?いや、そうだけど……」
俺はそう答えた後、ボーデヴィッヒちゃんと俺のリアクションの違っている意味に気づき、補足を入れる。
「ちなみに、俺両方の手で牙突できるように練習してるから、どっちでも大丈夫なんだよ」
「あ、そうなんですか」
おそらくボーデヴィッヒちゃんは、俺が思いつきであんなことをやったと思っているのだろう。
そりゃそうだよね。
いきなり利き手と逆の方で箸とか使い始めたら気持ち悪いもんね。
「っとまぁ、ボーデヴィッヒちゃんには、牙突の意味……攻めの剣術、という意味に気づいてもらったけど、ボーデヴィッヒちゃんは、どんな剣術を使いたい?」
「どんな剣術、ですか?」
ボーデヴィッヒちゃんは、不思議そうにこちらを見る。
「そう、ボーデヴィッヒちゃんに、この牙突を完全再現してもらおうとかはサラサラ思っていない。
あくまで基礎とする、ってだけ。
だから、後はボーデヴィッヒちゃんがどんな剣を振るいたいのか。
それを決めて欲しい」
「私の振るいたい剣………………」
俺は、凡人ながらに天才共の首元に…………俺のような圧倒的な力の持ち主の首元に食らいつくために、自分なりの牙突を作るようにしてきた。
そんな思いの中できた剣術だ。
俺以外に使って欲しい人なんていない。
だからこそ、ボーデヴィッヒちゃんにはボーデヴィッヒちゃんなりの剣を磨いて欲しい。
だからこそ、こんな難しい質問をした。
「私は………………」
ボーデヴィッヒちゃんがボソリとつぶやく。
「私は、どんな壁も打ち払う、一撃必殺の、回避不可能の、防御不可能の、そんな、剣を振るいたいです」
「分かった」
ボーデヴィッヒちゃんは、俺が思っている以上に、俺の弟子にふさわしいのかもしれない。
「…………………………ふぅ」
俺は日記を書き終わり、一息つく。
こんな長い日記を書いたことがないから、手が疲れてきた。
俺は手をプラプラさせながら、考える。
実は、左手の牙突は練習していたが、あんなにうまく使えるとは思わなかった。
なんせ一人でしか練習してないのだ。
対人戦でなんて初めて使った。
だけど、上手くいった。
理由は、なんとなく予想はついている。
斎藤一の意思、悪即斬を心に刻んだお陰
寸止めしようという意志はあったが、牙突を本気で放つことに躊躇いがなかった。
つまり、右の牙突も、悪即斬の意志を持ってやれば、もっと完成度が上がるかもしれない。
精神が肉体を凌駕する。
俺にもそんな日が来るのかとウキウキしてしまった。
…………ということで!
長い長い一夜、終了です!!
ここは完全オリジナルエピソードで、結構作るのに苦戦していました。
20話からスタートし、すでに32話……。
一夜ってこんなに時間がかかるんですねぇ
…………なんてことはよして、次は学年トーナメント編です!!!!
多分長い長い一夜よりは短く済む…………かも?
ここまで見てくださったかたがた、本当にありがとうございます!!!!
これからも何卒よろしくお願い致します!!