だがしかし、そんなのは俺の前には通じない。
「そこだ」
俺は一瞬だけ見失ったが、よく見ることで視認することが出来た、こちらにまっすぐ向かってくるボーデヴィッヒちゃんの、振るってくる日本刀の腹を右の拳で殴ろうとする。
それに気づいたのか、ボーデヴィッヒちゃんは振るう直前で、少しスピードを緩め、右へと動く。
俺は目を離さないようにじっと見つめ、攻撃してくるのを狙う。
黒い水によるワイヤーの射出。
視界が黒で埋め尽くされる。
俺はいつもより力を入れて、左手でそれを払う。
ワイヤーの束は俺の視界から消滅したのだが、ボーデヴィッヒちゃんを見失う。
俺はその瞬間、首筋にチリっとした感じを感じ取る。
間に合わないな。
間に合うように速く振り向く。
すると、首に剣がたどり着く前に俺は振り返り終え、さらにはその振るわれた剣を首に到達する前にボーデヴィッヒちゃんを右の裏拳で殴ろうとしている。
俺の方が間に合わない…………ように見えるが、
少しだけ大人気ないが、早めに拳を降るようにする。
「はぁっ!!」
その声とともに、ボーデヴィッヒちゃんはその腹を裏拳で殴られるが、ボーデヴィッヒちゃんも、左手を腹に添え、黒い水を集めることで、会場の壁に叩きつけられるだけで済む。
「まだ…………まだ!!!!」
ボーデヴィッヒちゃんから、ピチョン、と声がした。
そしてその音のあとに出てくるボーデヴィッヒちゃん。
先程より早くなっている。
「速い、な」
俺は少々本気でスピードについて行きながらも、ボーデヴィッヒちゃんの武器破壊を狙う。
対するボーデヴィッヒちゃんは、俺に少しでも攻撃を加えようとするが、ことごくと俺に叩きつぶされる。
その度に、ボーデヴィッヒちゃんのスピードは上がり、
ボーデヴィッヒちゃんに付いている黒い水がポタ、ポタ、と落ちていっている。
攻撃は止んだ。
「師匠、強いんですね、ほんと」
「あぁ、最強だからな」
「私は、考えました」
「なんだ?」
「私だけの牙突」
「おぉ、いいねぇ」
「見ててください、これで師匠に、勝ちます」
「やられる気はサラサラないよ」
「知ってますよ」
あと20秒。
逃げる時間を除外した上で、俺が自由に動ける時間。
ボーデヴィッヒちゃんは構える。
その構えは、牙突、なのだが違う。
その構えは、低く、低く、地を這うように低い。
腰を思い切り下げ、左手は地に手を着いている。
だがしかし、右手にある日本刀は、たしかに俺の方に切っ先を向けている。
「黒兎の牙に貫けぬものなし」
その言葉とともに、ボーデヴィッヒちゃんは
駆ける。
低く低く、地を這うように俺に向かう。
左手も使い、かけてくるその姿は、正に兎。
俺は拳を構え、足元への警戒を強める。
牙突の間合いに入った。
来る。
右拳を下に向けた瞬間、
「はあぁぁぁぁぁぁあぁ!」
跳ねた。
嘘偽りなく、跳ねた。
地を這っていたボーデヴィッヒちゃんは、俺の首に切っ先を向け、向かってくる。
そうか、だから黒兎、ね。
妙に納得しながらも、俺は呑気に考えていた。
あぁ、発想は素晴らしい。
俺も現に危ない目にあっている。
地を警戒すれば、首を貫かれ、
首を警戒すれば、文字通りに足元をすくわれる。
初見なら確かに、相手の思うがままにされる。
素晴らしい。
だからこそ、惜しいと思う。
この技を使うには、練習が足りない、早すぎる。
そして、
「俺が速すぎるから、効かないよ」
俺の本気は、ちょいと速すぎた。
俺は首にその刃が触れる前に、
左の拳を、ボーデヴィッヒちゃんに当たる。
「ふぅ」
俺は日記を書き終わり、一息つく。
あの後、俺は壁に
「決して語られることのない、戦い」
本気を出した。
その事実が、高揚が、まだ胸の中で熱く、色づいている。
最強の本気。
俺は、そんな余韻を楽しみながら、消化していき、忘れ去る。
この力には、意味がない。
積み上げることができない。
最強だから。
こうやって他人の意味を得て、意味ある力にしなければならない。
だから、俺は高揚を忘れる。
力に飲まれないように。
自分の持つ力が、意味あるものだと、胸を張って言えるように。
あと1話でトーナメント戦編は、終了です。
今回は、P&Aさんの感想でのセリフを使わせていただきました、この場を借りて、ありがとうございます!!