IS学園用務員物語   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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第41話

こち、こち、こち、こち、こち、こち、こち………………

 

時計の針の音がやけに大きく聞こえる。

 

昼頃にいきなり建てられた予定。

 

今はその予定時刻の5分前だ。

 

ちなみに、一夏からの返信は"わかった、遅れないようにするね"と簡素なものだったが、これで私の逃げ場はなくなった。

 

「それにしても、遅い」

 

私は時計の針の音2が聞こえる度にどんどんイライラしてくる。

んで遅れるのだ一夏のやつは…………、と思いながらも、時計を見るとまだ予定の時刻にはなっていない。

 

「遅刻してないのに怒る、というのも嫌な話だな……」

 

私は一度深呼吸しようと息を大きく吸い込み……

 

コンコン

 

私の息は止まった。

絶対止まった。

 

そして私は息を止めたまんまドアに近づき、除き穴から外の様子を見る。

 

一夏だ。

 

ふうぅぅぅ

 

遅れてやってきた深呼吸が私の肺から空気を絞り出す。

 

「あ、あぁ、今開けるぞ」

 

結構防音性が高いIS学園のドアは、開ける前に何を言っても外の人には聞こえず、ただの独り言になってしまうのだが、それも私の今の緊張を一切れでも受け取ってもらえば理解できるであろう。

 

「あ、千冬姉…………じゃなくて織斑先生、だっけ?」

 

「わざわざこんなところに来て2人になる時まで呼び方の矯正はしない」

 

「おっ、ありがと、千冬姉。

 それじゃあ、入らせてもらうけど、最初にきいておくけどさ。

 …………部屋、入っても大丈夫な状態?」

 

「だいじょうぶだぞ」

 

私は一夏いつもと変わらない様子に少し戸惑いながらも、質問に答えておく。

 

私は、家事が苦手である。

 

だから、家にいた時は一夏に大体のことはやってもらったのだが、このIS学園の教師になり、寮長という一人暮らしせざる負えない状況になってしまい、私は当初、悩んでいたのだが、

 

「使わなければ汚れないのだ」

 

そう、私は寝る、ということ以外にこの部屋を使わないようにした。

食事は食堂で、洗濯は中に服を入れてボタンを押して待っているだけでいい、掃除は自立型の掃除機にすべて任せる。

 

「いや、そんな革命みたいに言わなくても……ってあぁ、生活感なさすぎだろ…………」

 

一夏に言われ、私は改めて自分の部屋を見返してみるが、言われたとおり本当に生活感がない。

 

モデルルームみたいなものだな

 

「っとまぁ、千冬姉がきちんと過ごせてるようで安心した。

 それで、話があるんだっけ?」

 

「あ、あぁ、そうだ」

 

私は弟からは心配されたせいで動揺してしまったが、一夏はため息をついてから私のことを見て、安心した顔をすると、話を切り替えた。

 

「でも、俺からも、話があるんだよ、千冬姉」

 

「え?」

 

「ちょうど、千冬姉に話したいことがあって…………」

 

と、1日は頬を掻きながら、言いずらそうな雰囲気を出している。

私は戸惑う。

自分から言うべきなのか、一夏に言わせてからいうべきなのか。

 

…………少し考え、

 

「そっちの話から聞こう」

 

私は弱気になった。

一夏から言ってくれれば、私からの切り出しやすいし、なにより話を聞いてもらった相手からの話をないがしろにしたりするわけがない、という小狡い判断で私は一夏に話の先手を譲った。

 

「率直に言うけどさ」

 

1日は大きく息を吸い込み、

 

「俺を鍛えてくれないか?」

 

真剣な顔で、私の目を見てそう言った。

 

 

 

そして頭が痛くなり、今の現状である、とそういうわけだったのだが、

 

「ち、千冬姉、どうしたの?」

 

対する正面にいる一夏は、私が回想をしていると、不安になってきたのか、焦っている。

私は一気に現実に戻り、

 

「いいぞ」

 

そう一言だけ言った。

 

というか今回の話はその鍛えてあげようか、というのを切り出すためのものだったのに、先に言われて?しまった。

 

「……………………」

 

対する一夏は、少し悲しげな表情をしている。

 

「千冬姉は、優しいな」

 

一夏は俯く。

 

「俺、さ。

 ISが使えるって聞いて、わけわかんないままにこんな学園に入学して、

 

 いきなり専用機で戦わされて、

 

 負けたのにクラス代表になって、

 

 クラス対抗戦に出たと思ったらいきなり無人機ISに襲われて、

 

 それが終わったらと思ったら今度はいきなりよくわかんないけど俺を目の敵にしてる転校生が来て、

 

 その転校生がセシリアと鈴に怪我させて、

 

 トーナメント戦で屈辱晴らしたと思ったらいきなりラウラのISが暴走して、

 

 本当にわけわかんないまま今まで過ごしてきたと思う」

 

「い、一夏………………」

 

私は一夏の独白を聞き、胸を痛める。

私も束も分からなかった一夏がなぜISを使えるのか、ということ。

でも、乗れるなら乗れるで私達で強くしてあげようよ、束と2人で考えてたこと。

 

それは全部、

 

一夏のためだと、私達は勘違い(・・・)していたのか?

 

そんな思いが胸のそこからドロドロと這い上がってくる。

そして、私の口から、彼から言われた感謝ではなく、謝罪の言葉が出そうになった瞬間。

 

「でも、楽しかった。

 白式を使った時の高揚感。

 みんなと仲良くなってわいわいしてる時。

 IS学園の日常、が」

 

そして、俯いた顔を上げて、私の目を見て、

 

「俺は、IS学園に来れてよかった」

 

一夏は、前を見てる。

それを確信させるような表情で、笑顔で、眩しくて、

 

「だからこそ」

 

一夏は真剣な表情に戻る。

 

「俺は、やらなきゃ……いや、ならなきゃいけないんだ」

 

その次の言葉を私はなんとなく察してしまった。

 

「ヒーローに」

 

気づけば私は拳を強く握っていた。

 

あ。

 

心の中で、気づく。

これは、本来私がやらなきゃいけないことなのだ、と。

 

「千冬姉は知らないと思うけどさ、この前のトーナメント戦のラウラの暴走は、俺らが食い止めたわけじゃない。

 俺はもちろん、あの変わった姿をしたラウラに致命傷を与えた。

 だけど、あれはそれで終わったわけじゃないんだ」

 

一夏は話していく、悔しそうに、辛そうに、

 

「あの後、ラウラはものすごく強くなって、俺らを殺そうとした。

 だけど、そんなとき、現れたんだ。

 生身なのに、俺らの目の前にたって、俺らを守って、逃がしてくれて…………」

 

だけど、それと同時に、嬉しそうで、

 

「あとから聞いたら、ラウラはその人と戦って負けちゃったらしい。

 誰かは教えてくれなかったけど。

 それに、鈴が聞いて、その前のクラス対抗戦の時の無人機ISも、その人が倒した、って教えてくれた。

 鈴からも誰かは教えてくれなかった。

 だけど、俺はその話を聞いて、思ったんだ」

 

一夏の瞳の奥には、子供のような輝きがあって、

 

「あんな誰かを守るヒーローに俺もなりたい、って」

 

私の胸は、チクリと傷んだ。

 

なぜと考える前に答えが頭を通り抜ける。

 

"一夏が私じゃない誰かを見ている"と。

 

「だけど、そんな人になるためには、力がたりない。

 俺は一生かけて、あんな守れるヒーローを目指す。

 それで、力をつけるにはどうしたらいいか、って考えた時、姉さんに頼ることを、思いついた」

 

一夏が私を見る表情には、後悔の念が混ざっていた。

 

「でも、こんなことダメなんだな、って思ってもいる。

 力を得るために汚いことはしちゃいけない。

 俺はそう思っているけど、自分の、この恵まれている環境を使う。

 だから、千冬姉に言う事は、俺の中で、そこまでして、強くなりたい、いや、強くならなきゃいけない、っていう覚悟だと思って欲しい」

 

なぜだか、心の中で謝罪の言葉がふつふつと湧いてくる。

私達は、一夏が汚いと思うことを使って強くさせようとしてしまった。

それに、たくさんの危険な目に遭わせてしまった。

それに、それに、と私の心の中は罪悪感と謝罪の言葉で埋まっていく。

 

「千冬姉は優しいなぁ。

 普通だったら教師の私に頼るなんてダメだ!なんていうだろうけどさ」

 

一夏はこちらを見ながら笑いかけてくる。

罪悪感は溢れ、謝罪の言葉が口から溢れだしそうになる。

 

「ありがとう」

 

「千冬姉がいてくれてよかった」

 

「千冬姉が優しくてよかった」

 

「千冬姉がすごい人でよかった」

 

いつもなら言われないような言葉の数々。

さっきまでの罪悪感が溶けていく。

謝罪の言葉が消えていく。

 

「それで、さ…………。

 IS学園に連れてこさせてくれて、ありがとう」

 

1番、一夏は私が気にかけていた言葉をすんなりと言っていた。

私の最大の過ち。

 

一夏をIS学園に入学させてしまったこと。

 

本当なら、束に手伝ってもらってなにがなんでも事実をもみ消して一夏に普通の生活をしてもらえばよかったのだ。

 

それを、私は一切の反発をせずに、IS学園に入学させてしまい、それにメディアへも公開されてしまい、まるで一夏は珍獣扱い…………。

 

そんな私の根底に燻る罪悪感を一夏は消し去った。

 

私は、そこで思い出す。

 

困った時は、感謝の気持ち。

 

こんなにも私を困らせた一夏は、おそらく世界で一番に私に対して心理戦の面で強いのだろう。

 

だから、私は物理的に私より強いものの言葉を借りて、

 

「ありがとう」

 

そう、返した。




ここで"織斑家の感謝"は終わりです。

この後にどんな会話があったのかは書きませんが、まぁ、一言だけいうとすれば、

普通の家族

というところですね。
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