「はぁ、ついに来たな」
あのトーナメント戦の後処理は、修理だけにはとどまらず、一斉点検、さらには物資確認、搬入、金の計算…………と夏休みまで食いこんだが、それからももう解放されたある日。
俺は目の前の書店を目の前に心高なっている。
ついに今日は楽しみにしていた漫画の発売日。
俺はなんだかんだいいながら結局は漫画大好き少年なのだ。
それがたたって変なことをしているだけで、外見は大人でも、性根はただの漫画好きのただの少年の心を持つ、いわば逆名探偵なのだ。
「やっと買える」
結構待っていた単行本発売日。
IS学園の用務員は、その存在は実はトップシークレットなのだ。
なぜなら、今の時代に力を持たないただの男が、IS学園に就職しているなんて知ってみろ。
か弱い男達というカモがネギ背負っている状態だ。
だから、俺らの存在は極力ばらさないようにするのが鉄則であり、外出する場合には、特別な携帯と、提示連絡を要するのだが、
「やっぱり誘惑には勝てない」
もちろん、単行本なんてネット注文とかで買える。
しかし、書店で買うことこそが大切なのだ、と俺は心の底から思う。
それに今回のに限って言えば、書店購入特典がついてくる。
ならば買うしかない!
だからこそ俺はここにいる。
「ふぅ、あるかなぁ……」
俺は一歩踏み入れる。
俺はもう歓喜に打ち震えてしまっている。
今ハマっているのは、銃を使ったバトルを主眼に置いている漫画。
結構読み応えがあるし、なにより主人公が特にかっこいい。
ヒーローとはまた違った別種のかっこよさ。
あれこそがスタイリッシュ、というやつなのだろう。
…………と思っていると、俺はお目当ての場所にたどり着く。
そして俺は天を仰ぐことになる。
「明日やん……」
そらう、この書店での発売は明日だったのである。
嘘だろ、と思って、店員に話を聞いてみると…………。
「へ?IS学園への大量物資の輸入がげんいん?」
「えぇ、このごろIS学園への物資搬入のためにトラックがバンバン通っているでしょう?
それでここら辺は規定として間違ってIS学園のトラックと混乱したりするのを避けるために、一時的に搬入をストップしていたんですよ」
つまりなんだ、これは、遠回しに俺のせい?
俺はまたも天を仰いだ。
「帰…………ろうかな……………」
俺はもうここでやることのなくなってしまったせい、というか自分のせいでこんなに苦労したのにそれがただの徒労に終わってしまったのが悲しくて仕方がなかった。
と、俺がトボトボ歩いていると、
ちょうどマネキンの陰に隠れていて気づかなかった人にぶつかってしまい、
「わっ?!」
俺は人にぶつかってしまった。
いつもバカみたいなことをしているおかげで、簡単に吹っ飛ばされはしないが、どうもぶつかった相手は小さくてスカートを履いていたのがみえたので、おそらく女の子であろ。
俺は女の子とぶつかってしまい、女の子は吹っ飛んでしまった。
「あ!
だ、だいじょうぶですか?!」
俺は慌ててその女の子に声をかける。
その女の子は俺がいつも見慣れている服装……つまりIS学園の制服を身にまとっていて、1発で素性がわかる。
なかなか外でこの制服着る人いないって聞いたけどなぁ……。
ちなみに、IS学園の制服を来ていると、ここはそうでもないが、一番近いところだと、基本的に割引がつく。
…………と言っても、自分はIS学園の生徒です!と見せびらかしながら歩く人はよほどの金欠かと思われるらしく、あんまりいない、と聞いたのだが、
「いや、だいじょうぶです、そっちこそだいじょうぶ…………で…………す?」
と、女の子はだいじょうぶです、とアピールしながら、俺の手を借りずに立ち上がろうとするが、女の子が俺の顔を見た瞬間、女の子の顔色が変わった。
そして俺もようやっと気づく。
あ、この前のトーナメント戦の子だ。
と同時に、俺の頭の中で閃きが生じた。
"そういえば、あのペアってなんか、男の子の二人ペアみたいだよ"
"え?ISの男性操縦者増えたんですか?"
"そうなんだよ、デュノアくんって言って、世間にはまだ公表されてはいないけど、この学園の人ならみんなしってるよ"
伊坂さんとのこの前の会話。
俺の記憶が正しければ、この子は男の子。
しかし、目の前にいるのはあの時の同じ顔の、
つまり………………。
「あっ」
俺は一つの答えにたどり着いてしまった。
つまり、デュノアくんは割引をしたいがあまり、女の子の制服を着てここに来た、ということか。
デュノアくんはまだ世間には公表されていない人。
つまり男性用に支給された制服を着ていたとしても、割引してくれる可能性は少ない。
だから女装をした、と。
それでいま俺の顔を見て硬直しているのはつまり、バレたくないからであって、
「あ、あの…………」
俺はデュノアくんの戸惑いように、自分も戸惑ってくる。
「えっと、その…………あの…………」
あれ?これやばいんじゃね?
もし俺がうっかり口をすべらせてしまった日には、(将来)世間に公表されて有名になるであろう人物に泥をつけてしまうのではないか?
まずいな、やばいな…………さっきのショックから、意味のわからない妄想まで始まってくるから、俺はもう収拾がつかなくなってきた。
と、そこで目の前のデュノアくんの携帯の着信音。
デュノアくんは、びっくりするなり、通話を始めた。
俺はここで逃げようかと悩む。
しかし、ここで逃げるのは後腐れが悪いし、何よりデュノアくんの立場からしたら、いつばらされるか心配で仕方が無い日常を送るのだろう。
男の子だし、極力手伝ってあげたいのが、同じ男としての感情。
ここはそれに従って、俺はここを去らずに、通話が終わるのを待つ。
「あ、あ、もしもし?」
「やっぱりフィーリングも大事だと思うけど、きちんと最後のやつまで着てよね。
私が選んだ苦労がなくなっちゃうじゃん」
「ほら、きちんと着てみないと、これがラウラ・ボーデヴィッヒ、っていうやつがあるかもしれないじゃん。
ほらほら、まだまだ時間はあるからね」
俺のさっきのショックから立ち上がれない脳(2回目)が、要らぬ妄想を浮かばせてくる。
ここは水着売り場。
しかも季節は夏。
するとここでの着る、というのはやはり試着の……それも水着の試着のことで間違いはないのだろう。
それに私が選んだ苦労がなくなる、ということは、つまり、このデュノアくんが誰かに水着、またはそれ以外の着衣的なものを選んで着せているのであろう。
そしてそれは古来からカップルしかしないと言われている?と思うから、きっと電話の相手は付き合っている女の子なのだろう。
だってこの子はIS学園の2人しか居ない男性。
付き合う女の子のひとりやふたりはいても当然だろう。
だってそういうお年頃なのだからな。
そして、最後のセリフ。
俺はそのセリフを聞いて呆然としてしまい、その状態のまま、デュノアくんに質問をしてしまった。
「なぁ、今話してたのって、ドイツの子で、長くて白い髪で、ちっちゃくて、IS学園にいる、あのラウラ・ボーデヴィッヒ?」
「あ、えぇ、そうですが」
「もしかしてなんだけど」
俺は質問に肯定が返ってくることで、思わずデュノアくんを凝視してしまう。
そして思わず言ってしまったこんな一言。
「もしかしてお前ら、付き合ってんの?」
なんだろう、弟子って心配なんだよ。