落ちる。
落ちる。
落ちていく最中、俺は上から福音が止めを刺そうと急降下してくるのがわかった。
これはいわゆるあれだろう、死に際は時間がゆっくり感じてしまう、というやつだろう。
俺はそこで、諦める。
もう、だめだ。
来る、福音が。
来る、
俺は、受け入れようとした。
だが、存外俺にも人望というか、希望はあったようで、
「うおぉぉぉおおおぉぉぉお!」
「間に合えぇぇぇぇえ!!」
「あともう少しぃ!」
「あんたに死なれちゃ困るのよぉ!」
一夏くんは、福音に立ち向かい、
鈴ちゃんも、福音に立ち向かい、
箒ちゃんは、俺が落ちるのを救おうとして、
ボーデヴィッヒちゃんは、俺に対して慣性操作をして、落ちないようにしている。
急に落ちるのをやめる俺の体。
それを拾いにくる箒ちゃん。
目の前では、一夏くんと鈴ちゃんが、代わる代わるに、押されながらも、福音に立ち向かっている。
「だいじょうぶですか?!」
箒ちゃんは、そのISの大きな手のひらに俺をそっと乗せ、聞いてくる。
「うん。
ありがとうね」
俺は、感謝の気持ちを伝えるが、その心の中には、感謝とは別の、まるで心臓を握りつぶすような、そんな感情があった。
きっとそれが表情に出ていたのだろう。
箒ちゃんは、俺の方を優しい表情で見て、
「大丈夫ですよ」
そう、一言告げた。
途端、俺の心の奥底からせき止めることの出来ない感情が、涙と共に溢れ出してくる。
腕で目元を隠しながら、自分の口から、言葉が溢れ出る。
「ごめんっ……」
罪悪感。
「最強なのにっ……」
責任感。
「俺は何も出来なかったっ……」
無力感。
「ほんとうにっ…………ごめんっ……」
そして止まらない、謝罪の言葉。
「いいえ」
そこで聞こえる、箒ちゃんの否定の声。
周りは戦闘の音でうるさいはずなのに、俺にはその声だけしか聞こえなかった。
「あなたは、最強です」
優しく、
「だってあなたはその背中で、みんなを突き動かした」
優しく、
「その背中は、希望を教えてくれた」
優しく、
「だからこそ、あなたがどう思おうが」
優しく、
「あなたは最強です」
いやじゃない厳しさを、俺は教えられた。
「ここで待っていてください」
戦闘に参加出来ない俺は、小島に連れていかれ、そう言葉を受けた。
そこで、ここからでも十分に見える福音に、変化があった。
「~~~~~~♪」
叫び。
至極簡単に表現できるそれは、俺らが思っている叫びというものを、超越したナニカであり、
「♪」
その叫びと共に、福音の手には、真っ白で、どこからが柄で、どこからが刃なのかわからない刀のような何かを持っていた。
「っ?!
武器を持ったところで、俺らは倒されないよ!」
一夏くんが、叫びに似たナニカに警戒した直後、隙を見つけて攻撃を行う。
それに続く鈴ちゃん。
ほかのみんなも、援護をするために射撃を行っていた。
そこで、俺はその後の光景に言葉を失った。
福音は、みんなの攻撃を
後ろから死角のはずの鈴ちゃんからの攻撃をも避け、
刀とともに、体を回す。
その直撃を受けた2人は、衝撃で後ろに下がってしまう。
そして、まるで示し合わせていたかのように、その2人に援護するはずの射撃が降り注ぐ。
フレンドリーファイアを意図的に行わせた福音は、すぐさま一夏くんに近づき、刀を下から上がるギロチンのように振り上げる。
突然の下からの攻撃に何も出来ない一夏くん。
そこから福音は、振り上がった刀を振り下ろし、一夏くんを海へと叩きつけた。
速かった。
肉眼で捕えられたのは奇跡に近いと思う。
だが、そんな奇跡を感じるよりも、俺はもっと別な、大きな感情を抱いていた。
驚き。
そんな感情が、俺の中を支配していた。
それは、福音の強さとか、速さとかに驚いたわけではなく、
「龍巻閃、龍翔閃、龍追閃…………」
あの先読みに長けた動き、そしてかわしてから放たれる技、剣閃。
それら全て、緋村剣心……飛天御剣流のものであった。
最強は、前に進むだけじゃない。
後ろに道も作るのが、最強である。