「1年生のクラス対抗戦、ねぇ……」
クラス対抗戦を明日へと控えた今日。
まぁ、新年度初の模擬戦から3日経っただけだが……。
今日は疲れた……。
あれ?このごろこの言葉すごいつかってる気がするけど気のせいかなぁ……。
まぁそれでも疲れたものは疲れたのだ。
理由は仕事のことでも、私情なことでもない。
毎日恒例の訓練のせいだった……
「あ、こんばんは、今日もよろしくお願いします」
そう言ってそろそろ2週間経つのにも関わらず、挨拶を欠かさない篠ノ之さん。
「はいはい、俺こそよろしくお願いします」
それに対して俺も礼を欠かさないようにしている。
なんだかここまで来られると、2人だけだし、誰が攻めるわけでもないのに、なんだか礼を欠かしていると罪悪感が湧き出てくるようになった。
それで今となってはこのまるで初対面化のような挨拶を毎日している。
「それじゃあ、始めましょうか」
篠ノ之さんが、いつものように準備体操を終えてから、俺の元へ来る。
「お、準備できたかい?」
俺が道場の時計を見ると、時刻は8時5分。
いつもと同じ時間だ。
俺らは2人で、中心から2歩ほど下がった位置で相対し、構える。
「3」
俺はいつもの小太刀二刀流。
「2」
篠ノ之さんも剣道の構えをとる。
「1」
お互いに緊張が走る。
「始めっ!」
俺は篠ノ之さんのその言葉とともに姿勢を低くして走り出す。
狙うは先手必勝。
ここで一本とって今日の流れをつかむ。
そう決めた俺は、防御をある程度おろそかにしてもいいから、篠ノ之さんに特攻した。
狙うは足元へのなぎ払い。
そこから後ろに下がり、まだ体勢が整わない篠ノ之さんを攻めて攻めて攻め続ける!
俺は右手で防御できるような状態にしておき、残った左腕で、その足元を小太刀でなぎ払う。
だが篠ノ之さんも馬鹿じゃなかった。
俺の殺気?みたいなものに気づいたのだろう。
篠ノ之さんは木刀を、足の側面にピタッとくっつけたまま、俺に対して近づいてくる。
カンっ
俺の振るった小太刀は、篠ノ之さんの下ろしておいた木刀に当たり、跳ね返される。
そう気づいて後ろに下がろうとするも、もう遅い。
お互いに距離を縮めあった結果、その距離はゼロとなり、俺はいつの間にか、
「うおっ?!」
投げ飛ばされていた。
焦る焦る。
ほんとに焦った。
とりあえずもう無事に着地するために、武器を捨てて、受身を取りながらゴロゴロと着地する。
その後、武器を探そうとするが、見つけた頃には、両方とも篠ノ之さんに蹴られていて、道場の端へと寄せられていた。
「うっわ、最悪だ」
そうつぶやき、降参するか、と思ったその時、
篠ノ之さんがこちらに向かって走ってきた。
ただ走ってくるだけなら良かったのだが、問題は篠ノ之さんがしっかりと木刀を構えて走ってきているから、もう俺は速攻、
「降参降参降参降参!」
ちょっと泣きが入っていたかもしれないが、大人気なく大声でいう。
すると、篠ノ之さんは試合をやめ………………………………わけではなく、突っ込んできた。
「っ?!」
俺は声にならない悲鳴を上げながら、立ち上がり、振り下ろされる木刀を回避する。
木刀は、道場の床にあたり、ミシッ、という音を立てた。
うわっ、あの威力は骨はやられちゃうよ。
俺はちょっとした現実逃避をしながらも、現実でも篠ノ之さんから逃避している。
なんてうまいことを思っている間に、篠ノ之さんは追撃を仕掛けてくる。
俺はなんとか小太刀をとりにいこうとするが、もうほんとにいじめと思いたいくらいに二刀の距離が遠い。
俺はちょっと本気で外に逃げ出した方がいいのでは?と思い始めたとき、視界に篠ノ之さんが持ってきたもう1本の木刀が置いてあったのが目に入った。
「でもっ!こんなっ!んでっ!とれるっ!かなっ!」
目に入ったはいいものの、篠ノ之さんの追撃は一向に緩まない。
割と小太刀があった時の経験と、篠ノ之さんとの模擬戦での経験が生きてか、割と今もこうやって避け続けて生きていられてる
………………仕方がない。
「ごめん!」
俺は篠ノ之さんの隙に乗じて、体にタックルを仕掛ける。
ちょっと女子高生の体にタックルとは何事だ、と思うが、今はなんだか篠ノ之さんがおかしいから緊急事態ということで、と自分にそういいきかせ、篠ノ之さんと距離を取り、一気に木刀の元まで駆け寄り、
「よしっ!!」
その木刀を掴み取った。
篠ノ之さんは迫ってくる。
俺は構える。
小太刀二刀流の時のような構えでも、剣道のような構えでもなく、
木刀を水平にし、
切っ先を篠ノ之さんに向け、
体は極端な半身にし、
刀を持っていない方の手を切っ先あたりに添える。
「やぁぁぁぁぁぁ!!」
篠ノ之さんの渾身の攻撃がくる。
今まで受けたことのないくらいの威力だろう。
俺はその攻撃を目の前にして、守るでもなく、退くでもなく、
「牙突」
迎え撃った。
俺の持っていた木刀の切っ先は、振り下ろされた篠ノ之さんの木刀の唾元に当たった。
そして、
ドカァァァン!!
篠ノ之さんの持っていた木刀は弾け飛んだ。
「え……」
篠ノ之さんの表情は、鬼気迫るものから、一気に驚愕の表情へと変わる。
一方俺は、牙突を放った姿勢のまま、残心し、木刀に目をやる。
すると、木刀は柄を残し、ボロボロに崩れ落ちた。
カーン
パラパラと俺の持っている木刀の崩れ落ちる音と、篠ノ之さんの木刀の折れた方が地面に落ちる音が、道場に響く。
「な、なんで……」
ポツリ、篠ノ之さんが呟く。
「用務員さんは強い。
なのに、なんでその強さは今の世の中には不必要なものなんですか?」
「なんで、私は1人の思い人の力になれないんですか?」
「なんで、私はこんなに弱いんですかっ……」
詰まっていく言葉。
俺はそっと後ろを向いた。
「箒さん」
俺は顔を見ないようにしながら、
「俺は箒さんの運命の理不尽さにはなにも言えない。
君がどんなに努力したかも何も言えない」
ただ、と俺は続け、
「今の時期くらい、そんな理不尽に逆らってもいいと思うよ」
「でも、私はもう……」
「だけど!」
俺は篠ノ之さんの反対の言葉を遮り、
「もしそれで辛くなったら、頼りな」
篠ノ之さんは俺が言った超がつくほどの単純なことに、目を丸くしている。
俺はそんな様子にクスッと笑いそうになったが、それをこらえ、
「単純なことだって思えたなら、それをすればいい。
だけど、それが出来ていないって事は、君のなにかに問題があるんじゃないか?」
それに、と最後に俺は、
「そのほかに問題があるなら、俺にでも頼ってくれ。
ま、力になりそうにはないけどね」
ちょっと自分で言ってて情けないな、と思いつつも、ちょっとはかっこつけないと、という気持ちでがんばる。
その後は、俺も篠ノ之さんも一言もしゃべらず、俺はもくもくとゴミを片付け、篠ノ之さんは端の方で体育座りしていた。
しばらくして、時間になったので、帰るように言おうとすると、
「あの」
篠ノ之さんから声をかけられた。
しばしの沈黙。
篠ノ之さんは覚悟を決めたように顔を上げる。
「ありがとうございました!」
そう言って、恥ずかしそうに出ていった。
「青春だなぁ」
俺は日記を書き終え、篠ノ之さんがどうしたのかを思うが、
「いや、それは不用心、ってものだよね」
考えないようにした。
それでも、篠ノ之さんが頼ってくれるなら、
「がんばっちゃおうかな」
まぁ、全力かどうかは別として、ね。