IS学園用務員物語   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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第60話

『じゃあ私が一夏の方に近づくから何とかしてね!』

 

『まっすぐ俺のところに来てくれ』

 

一夏くんは、福音と鈴ちゃんが戦っている位置から少し離れた場所にいる。

 

鈴ちゃんは円の動きで、相手の力を利用することなく、完璧に後ろに逸らす。

 

その瞬間、最大出力であろうスピードで鈴ちゃんは一夏くんに迫る。

 

一夏くんは、さっきまで腕をだらんと下げ、肩幅に足を開き、自然体だったのに、その右腕で腰の刀…………ボーデヴィッヒちゃんから受け取ったのであろう雪片弐型の柄を握り、左手を引く。

 

足は右足を少し前に、左足を下げ、右半身になる。

 

そして、空気が変わった。

 

一夏くんから漏れ出す空気には、覚悟が、見えるんじゃないか、というくらい含まれていた。

 

「用務員さん。

 巻き込まれればダメなので、そばにいますよ」

 

「あ、箒ちゃん。

 一夏くんについていなくてもいいの?」

 

「いえ、いいんです。

 なんたって、私がここにいないと、私達は本来の目的を達成出来なくなるので」

 

その言葉の意味はわからなかったが、一夏くんの雰囲気のせいで俺はそのことから意識をそらしてしまう。

 

一夏くんは、いつのまに覚えてきたのであろう美しい抜刀術の構えを取る。

 

武人でない俺でもわかる。

あの構えからの抜刀術はくらってはいけない。

 

威力が高すぎる。

 

それくらい、その構えは美しかった。

 

 

 

『っ…………。

 あんた!私を切るんじゃないわよ!』

 

 

おそらく鈴ちゃんもあの構えから恐ろしさを感じ取ったのだろう。

一瞬ひるんだように見えたが、後ろから迫る福音にスピードを下げることはしない。

 

『一夏!

 行くわよ!』

 

後少し。

あと一秒もすれば、鈴ちゃんは一夏くんの横を通り過ぎる。

 

俺からは、鈴ちゃんに被っていて福音の姿が見えない。

 

 

一夏くんから感じ取れる空気が、さらに圧力を帯びる。

 

 

そして、

 

鈴ちゃんが一夏くんの横を通り過ぎる。

 

俺はそこで見た。

 

一夏くんと全く同じ構えをしている福音を。

 

福音は、このことを先読みして…………。

 

俺の脳裏によぎるのは、一夏くんの撃墜。

 

その瞬間、

 

「だいじょうぶですよ」

 

箒ちゃんは、そう俺にだけ聞こえるように呟いた。

 

 

そのまま放たれるであろうスピード天翔龍閃。

 

 

俺にはその速さのせいで技を目で捉えることが出来ないが、俺は、彼が技を放つのを見ることが出来た。

 

それは明らかな異常。

 

だが、瞬間的にものを考えることなんか、今の俺にはできるわけがない。

 

俺はただ、見ていた。

 

一夏くんが抜刀術の構えのまま、前進する。

 

抜刀術は待ちの剣術。

 

つまり、同じ構えをしている福音はもちろん、鈴ちゃんを追っていたスピードを殺し、その場で浮遊している。

 

ISだからこそできる技。

 

それを一夏くんはやってのけた。

 

技が放たれる。

 

俺は一夏くんと福音の姿を見失い、そのすぐあとに見たのは、お互いに背を向けた両者の姿。

 

一夏くんの肩のところにあった浮遊している翼の用な部位は地面に落ちていき、

 

福音の2対あった翼のうちの右の一つが根元からなくなっていた。

 

 

被害でいえば、五分五分。

 

しかし、一夏くんは役目を果たしていない。

 

一夏くんは言ったのだ。

 

『羽のない福音を連れてくる』

 

だから、俺は、信じている。

一夏くんは、まだ終わらない。

 

 

 

 

そして俺の願いを聞き入れたかのように、一夏くんは即座に振り返り、左上からの袈裟斬りで、切りかかろうとしていた。

 

 

 

 

…………福音が飛天御剣流を使ったのは、おそらく一夏くんへの憧れからであろう。

一夏くんに倒された福音。

 

福音を倒した一夏くんの姿は、きっと福音からしたら、最強であったのであろう。

 

だから、自分が倒された技を解析し、その元を辿り、飛天御剣流にたどり着いたのであろう。

 

だからこそ、間違っている。

 

 

天翔龍閃は、それ単体では終わらない。

 

 

泥臭くても、生きようとする意思、

 

 

それがあって、初めて真価を発揮するのが、天翔龍閃。

 

 

だが、負けたくないという意思が、福音にないわけではない。

 

そんな意思が、福音をつき動かす。

 

 

 

結果は、これまた五分五分。

 

 

 

一夏くんの刀は、福音の翼を切る。

 

が、その途中で福音の刀に受け止められていた。

 

左の翼は半分位しか切れていない。

 

失敗、のように思えたが、

 

『まだ終わらない!』

 

一夏くんはそんな声とともに、俺らの方に向かって進む。

 

『理解した!

 お前が何を考えているのか!

 だけどそれに俺は納得はできない!

 だからこそ!だからこそ!

 理解出来た俺だから!

 その翼は俺ら(・・)が貰う!』

 

 

一夏くんはこちらに福音を押し込みながら向かってくる。

福音は飛行能力の低下によりなすがままにされている。

 

俺にぶつかる。

 

まだ力を使えない俺がぶつかったら確実に死ぬ。

 

俺は目をつぶり、ぶつかるその時に恐怖していると、

 

「大丈夫ですよ。

 このために、私がいますから」

 

箒ちゃんは、いつものように剣道の構えで刀を持ち、俺の前に立つ。

 

箒ちゃんは、そのいつもの美しい構えから、刀をゆっくりと振り上げ、

 

福音が目の前に来たその瞬間。

 

 

振り下ろした。

 

 

ギィィィィィン

 

 

刀どうしのぶつかりあいの音が聞こえる。

俺はつぶっていた目を開けると、そこには鍔迫り合いをしている箒ちゃんと一夏くんの姿があった。

 

「一夏、やったぞ」

 

「…………」

 

一夏くんは箒ちゃんの呼びかけに応答しない。

下を俯いたまま動かない。

 

「……悪い、休む」

 

その後、一夏くんはだらんと体の力を抜き、箒ちゃんにもたれかかる。

 

「おっと」

 

箒ちゃんはもたれかかってきた一夏くんを受け止め、地面に下ろす。

 

一夏くんはISの起動をやめ、地面に座り込む。

 

「一夏くん」

 

俺は疲れきった表情の一夏くんに近づき、声をかける。

一夏くんは返事はしないものの、こちらを見ている。

そんな一夏くんに俺は、最高の笑顔で、

 

「ありがとう」

 

そう、声をかけた。

 

「福音が、起き上がりました」

 

俺はすぐに福音の方を向く。

そのため、一夏くんの顔は見えなかった。

一夏くんは、どんな顔をしているのだろう。

少し、振り向きたくなったが、今はそんな暇はない。

 

俺は、目の前の相手に意識を集中する。

 

 

福音は、一夏くんと箒ちゃんの激突による衝撃で、吹き飛ばされていた。

 

福音は、ゆっくりと立ち上がり、こちらを向く。

 

 

 

だが、その背には、翼はない。

 

 

 

「ーーーーーー」

 

怒り。

それだけだった。

耳を塞ぎたくなるその音は、怒りだった。

 

そして、こちらに向かってくる福音。

 

もちろん自分の足で向かってくる。

 

狙いは一夏くんだろう。

 

福音の目には俺が写っていない。

 

福音は、俺を踏みつけて行こうとしているのか、真っ直ぐに俺の方に来る。

 

あと2m。

 

そして、ちょうどその時、

 

日付が変わる。

 

 

「無視しないでくれるかな」

 

 

俺はすぐさま力を使い、福音の目の前に現れ、その顔面に無手(・・)の牙突を食らわせる。

 

福音はいきなりで反応が遅れてはいたが、防御は間に合っていた。

 

軽く吹き飛ばされる福音。

 

「箒ちゃん」

 

俺はその場に降り立ち、箒ちゃんから武器を受け取る。

 

それは二振りの刀。

 

俺はその刀たちを持ち、福音と戦いを始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力を使った俺は最強だ。

それは紛うことなき事実であり、真実だ。

 

だがしかし、あの時の福音は、限りなく最強に近づいていた。

 

だから俺は3分という時間で倒しきれなかった。

 

 

だけど、あの時は違った。

 

 

俺自体は、そんなに変わっていない。

だけど、みんながいた。

 

 

戦いの場を作ってくれて、

 

時間を稼いで、

 

羽を奪ってくれた。

 

 

だから俺は、誰になんと言われようと、自分で気づいていようと、こう言う。

 

 

『みんなのおかげで、より強くなれた』

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