運動神経皆無の俺が運動系の部活に入った件 作:もの凄いきくらげ
職員室から出てきた俺はゆっくりと廊下を歩いていく。先生にこってりしごかれたからか足取りが何となく重かった。
夕日が廊下の窓に反射して俺の顔をオレンジ色の光が照らす。
眩しさのあまり窓のほうを見ると、陸上部が走っている風景や、最近できたという人工芝の上でラグビーの練習に励む生徒がいた。
本当に頑張るな……。
高校生での部活を見ているといつも思うことがある。
なんで部活なんてしているんだろう。大学・社会人になってその部活の成果は発揮されるのか。そりゃ、忍耐力とか達成感があると思うが、そんなのは暖房機能が備わった部屋で勉強をしているほうがよっぽど良い。勉強をしてれば将来絶対に役に立つ。
プロになりたい。と思う人はこの中にいるかもしれない。しかしプロになれる確率なんてほんの一握りのようなものだ。
よって部活は―――ただの娯楽程度に楽しむのが一番良い。
以上。それが俺の結論だ。
そしてまたゆっくりと眩しい廊下を歩きだす。
二年三組。これが俺たちの教室だ。
教室に入ると誰もいない虚しさを感じる教室に俺のカバンがポツリと置いてあった。
今日の一日がとても長く感じた。もう体がヘトヘトだ。帰ったらすぐに布団に飛び込もう……。
カバンを持って教室を出ようと思った時だ。
「誰かああああああああ!」
廊下からなにやら女の声が聞こえてくる。それは徐々にこの教室に近づいてくる。
ガラガラとスライド式のドアを開けると、額から頬を汗が伝い息をきらしている少女がドアの前に立っていた。
「なんだ、姫宮か」
この少女は姫宮唯…たぶんそんな感じの名前だったっけ?全く喋ったことがないので合っているかわからない………。
姫宮は息を整えてロッカーから綺麗に畳んだ体操服を取り出した。
「神谷君……神谷君!」
何故二回も呼ばれるんだ…。
「なんだ?」
「ちょうど良かった。来て!」
ギュッと俺の手をなんの抵抗もなく握り引っ張り、教室を飛び出した。
なにがなんだか全く分からない。ていうかこの年になって異性の腕を握るって抵抗ないのかね…?
そのまま訳が分からないまま姫宮の思うがままに俺は引っ張られていった。
「おい、姫宮。どこまで連れていく気だ?」
「ここ!」
俺らの教室は二階。一階の下駄箱まで猛ダッシュし運動靴に履き替えるとそこからまた走り出し、そして着いた先は―――《陸上部部室》と書かれた部室だった。
「姫宮唯!戻ってきました!」
大きな声で、子供のようになぜか敬礼しながら顧問の先生に報告した。
「ご苦労。姫宮着替えてきていいぞ」
「らっじゃあ!」
姫宮は走って部室の中に入っていった。どんなけ体力あるんだアイツは。
先生はそれを微笑ましそうに見て、姿が消えると普通の表情に戻り、状況の把握ができていない俺のほうに視線を移した。
「……んで、お前は誰だ?」
いや、こっちが聞きてえよ。
顧問って教師がなるもんじゃないのか?ああ、外部コーチってやつか。
ていうか口悪っ。
容姿は別に悪くはない。ピンク色の髪の毛を腰まで伸ばし、ゴムでポニーテールにしており、知的そうな眼鏡を付けていた。座っているからわからないが、身長はでかそうだ。組んでいた足がそれを物語っていた。
口の悪さで容姿が台無しだ。
「俺は、神谷和人です」
「神谷ね…。なんでここに来たんだ?」
何でって…アンタが頼んだんじゃねえのかよ。
「訳が分からないまま、姫宮に連れて来られたんですけど…」
困ったように声を出した。
顧問も「は?」という顔で眉毛をハ文字にして大声を上げた。
「おい!姫宮ッ!」
大声で顧問は姫宮の名前を呼んだ。口悪ッ…。
「はい!はい!」
意味のない二回明るい返事。間違いなく姫宮の声だ。
陸上部部室から出てきた姫宮は体操服の姿で俺と顧問がいるところに走ってきた。
「なんですか?」
陽気な姫宮に対して少し切れ気味な顧問。
第三者の俺はどうでも良さそうにボーっと眺めていた。
「こんなやつ連れてきてどうするつもりだ!?」
「いやー高三年生が引退して人数いなくなるじゃないですか。前々から先生も募集しなくちゃな。って言ってたじゃないですか!」
姫宮よ、人数集めの心がけはとても良いが、人選は気を付けような。俺を選ぶなんて完全に人選ミスだ。
「言ったがな……」
顧問は呆れたように言葉を続けた。
「明らかにこんな奴が走れるわけねえだろ!筋肉が一つもついてなさそうなクソモヤシみたいな体!」
あれ、自覚してることなのになんでだろう。無性にイライラする。
「神谷君はやるときはやります!」
「こんなモヤシッ子、私は育てる気無いねぇ!せめて五十メートルを七秒切れるくらいまでの速さがないと、アイツを教える気にはならないねぇ!」
泣くよ?そろそろ俺泣くよ?
いくらなんでもボロクソに言いすぎだろ。俺の立場はどうなんだよ。
だんだんと肩を狭めて小さくなっていく俺。
「わかりました!じゃあ私が教えて見せます!」
「片腹痛いねえ!本当にできるのか?」
「できます!」
その自信はどこから湧いてくるんだよ……。
「んじゃあ、来週の月曜日までに早くして来い。せいぜい頑張れよ姫宮」
顧問は不気味に笑い座っていた椅子から立ち上がり、どこかに行ってしまった。
やっと話が終わったところで、姫宮が俺のほうに近寄ってきた。
「ってことで―――」
「なんで俺が入る前提なんだよ…」
まずはそこからだ。なんで俺が入る前提で話が進んでいるのだろう。
一言も陸上部に入りたい!なんて言っていない。
勝手に連れて来られたと思ったらなんか口の悪い顧問にモヤシとか散々ディスられて、挙句の果てには一週間後に七秒切れ…無茶苦茶すぎる。
「神谷君は誘われることを知っていてあそこにいたんじゃないの!?」
どんな解釈だ。
「ただ職員室に行ってただけだ。分かったら俺は帰るぞ」
俺は足元に置いていたカバンを持ち上げて、そそくさと歩いて行った。
「私!諦めないから!」
俺は苦笑いしながら帰っていった。
初投稿です。きくらげです。
暇なときに見る小説です。指摘等お願いします。