処女作なので暖かく見守っていただければ幸いです。
感想、批評随時募集してます。
“種”を巡る戦争は今、空前絶後の総力戦と化していた。
アンセスタとサーペント・スレイブ、前者は国、後者は組織。
本来であれば戦いにすらならぬ筈の戦力差。
そのはずだった……。
圧倒的物量を誇るアンセスタが、たった、たった十三人の"人間"を止めることができない。
数万の軍勢を率いていたアンセスタはもはや陥落寸前である。
悲鳴と爆音の狂音は絶え間なく、かつ容赦なく鳴り響き、街を人を根こそぎ壊し、殺していく。暴風により吹き飛ばされ壊される。刃のように鋭く尖った水流に貫かれる。あらゆる物を炭化させる光が降り注ぐ。十三人の人間。条理に反する者達。
正義のため、愛のため、悲願のため、金のため、悦楽のため――十三の人間はただ各々が持つ目的を成就させるために集い、全てを皆殺しに、根絶やしにする。
例えば――この場所。異形のなにかが閃光と共に降り立った。次ぎに轟音が鳴り響く。今この瞬間で新たに数人――少なくとも死体として形を残している5人以上が、粉微塵の肉塊となって街路上に散らばっている。
「――っぁ、なんなんだよあいつはッ! クソったれがッ!」
罵声と共に、魔方陣が描かれる。描く男の手には雷を纏った拳。
背後の魔術師団による炎系魔術に援護され、疾走する。
バチバチと迸る音。鉄をも貫く剛拳がこの場に降り立った何者かに容赦なく打ちこまれる。それだけで終わらない。一撃では終わらない。連拳。何度も、何度も、打ち込んでいく。だが――。
「ガハハハ……ハッ? 何やってんだオマエ? 攻撃ってのはよぉ、こうだろうがッ!」
人の身で目の前の化け物は殺せない。格が違う。次元が違う。鉄をも貫く拳が効かない。
化け物による攻勢が始まる。手始めに目の前で意味も無く拳を突き立て続ける男の頭を掴み、凄まじい勢いで放り投げる。男の援護をしていた魔術師団に向けて。着弾に次いでも追うように疾走する。
その場にいた魔術師団に化け物を倒すことはできず、成す術もなく肉塊へとその姿を変えていった……。
このような化け物があと十二。人の理を外れた者が十三人。対抗する魔術師達も王都直属の凄腕揃いの兵達だ、加えて魔術という人間の限界を引き出す加護も得ている。だが、足りない、それだけでは足りない、まだ足りない。奴らを倒すには奴らと同じ物を持っていなければならない、それ無くしては如何に強力な魔術を用いても、いかに鋭い槍を持とうとも倒すことは天地をひっくり返さぬ限り不可能。
奴らに対抗するには奴らと同じ物を、超上の力を所有者に与えるいわれる神の落し物、”オーパーツ”を――。
■
アンセスタの城下街は崩壊。街を見下ろす高い丘の上に設計されたこのフラクシス城も陥落寸前。残すは、この謁見の間のみ。
「逃げよアリサ。ここでシュタットフェルトの名を断つわけにはいかん。お前さえ生きておれば”種”は奴らには渡らん! この戦い、もはやアンセスタに勝ち目はない。
葵! アリサをつれて逃げよ!」
「カーナード様がアリサ嬢をつれてお逃げください。殿は私が努めます」
「ならぬ。それではならぬのだ。たしかに、アンセスタ最強の騎士であるおぬしがこの場に留まり奴らと戦えば、奴らの2、3は道連れにできるかもしれん。だが、それでも道連れだ。我らは一人として残らず全滅。奴らは残る――それではならぬッ! アリサがおればアンセスタは復興できるのだ。今は逃げてくれ。落ち延びてくれっ! 生きてさえおれば、必ず奴らを倒す機会が巡ってくる。だから今は、この地をより逃げ延びてくれ。これはカーナード・シュタットフェルト最後の願いだ!」
私は見る、父様がすぐ傍にいる騎士団長の女性に頭を下げているところを。
女性の顔は驚愕に染まっていた。それもそうだ、娘である私も見たことがないのだ。厳格な父様が、他の誰かに頭を下げるなんて。
「……ッ! わかり……ました。行きましょうアリサ」
女性が私の手を掴む。私は、ここを離れたくなかった。離れてしまれば、もう、父様に会えない気がしたから。
「いやよ! 離して!」
掴む手を振り払おうとしたその時、この場所へと通じる扉が轟音と共に弾け飛んだ。それと共に、この謁見の間に入ってくる数人の男女。その先頭に立つ男が剣を肩に担ぎながら言う、
「貴公がこの国の王か? 我が名はカイザル。カイザル・オーバーロード。この日を持ってこの国アンセスタは我が国エリシュオンが貰い受けるッ!」
ドスの効いた声が部屋に響く。酷く恐ろしいと思った。父様から離れたくないとさっきまで思っていたのに、今はすぐにでもこの場から、カイザルと言う男がいるこの場所から立ち去りたいと思っていた。
「イタッ!」
そのとき突然、私の手を掴んでいた女の力が増した。女の握力で私の手が悲鳴を上げている。この時私は、女の顔を見てここに残るのを諦めた。唇の先から血が流れていたんだ。下唇を強く噛み締めることで、私の父様を助けたい気持ちを抑えているのだとわかったから。悔しさを噛み締める女の目は前髪に隠れて窺うことができない。でも、それでも、悔しがっているのは嫌でもわかった。
そっと、女の手に私の手を添える。私は覚悟した。この人に助けてもらう。この地から逃げる手助けを、いつか奴らに復讐するときの手助けをしてもらう。
「……逃げよう」
私はそう告げると、この人は頷いた。私の手を握りながらその眼にこれより先、敵となる者達の姿を焼きつけていた。私も見習って暴れ狂う悪鬼どもを睨みつける。
私の視界が突如として塞がれた。父様が私を背に隠して立っていたのだ。父様は背中越しに語る。
「アリサ、強く生きよ。これから先、お前は奴らから追われる身となる。そんな道しか作ることのできなかった父を許せとは言わん。だが、これだけは覚えていて欲しい。父は娘を愛していたと」
父様はそう言うと沈黙した。今、暴れ狂う悪鬼を見据えているのだろう。何十もの衛兵が、木の葉が舞うように吹き飛んでいく。そんな鬼を父様はその双眸で見据える。
戦うつもりだとわかった。無謀。勝てるはずもない。今は……。
「父様。私が必ず復讐を遂げ、この地をアンセスタを必ず取り戻すと約束します、ですから父様は立派な最期を……」
目尻に涙が浮かぶ、泣いてはいけない。と思いながらも涙は奥から溢れてくる。父様の背中が余りにも大きかったから、誇れる人だと思ったから、なにより、こんな父様が大好きだったから。
「……頼む。葵よ、万が一娘が間違った道に進んだときは……」
「カーナード様。それはありえません。あなたの娘ですよ」
「そうか……。そうであった。ではな、よろしく頼んだ。時間は稼ぐ、行け!!」
「はっ!! ご武運を……」
謁見の間に設けられた隠し扉から私は手を引かれ離れていく。
父様が腰に差していた剣を抜き、駆ける。眼前の鬼共と戦うために、私は何もできない。この場を離れ父様の意思を受け継ぐことしか。
「さようなら。お父様……」
アリサ・シュタットフェルトは燃え盛るフリクシス城を後にしてこの場を去る。復讐するために、再びこの地に返り咲く時を待つために。