神の落し物   作:松宗信次

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オーパーツ

洋一は見た。男の振り上げた小槌を。トクンッ!

脈打つ鼓動、それと同時にせり上がってくる怒りの感情を抑えることなどできない。

「やめろぉぉぉぉおおおお!!」

 男の両肩を掴み、女から引き剥がし、動揺浮かべるその頬を右手で殴りつけた。

 ――その手には風を纏われていた。

「グボアァ!」

異常なほどに吹き飛ぶ男。広場に中央から、周囲を囲むように配置されていた。建物の一棟に男は激突した。それとともに崩落する建物。

だがそんな異常の腕力よりも、洋一は殴れた事に疑問を感じていた。

 

「えっ!? ……殴れた?」

 

自然に開閉を繰り返していた手を洋一は見つめる。そこには、先ほどまで無かった肉体が確かにあった。それに加えて、服も着ている。少女が着ていた綺麗なドレスに比べると随分と粗末な服だ。Tシャツの上に灰色のパーカーに下はストレートジーンズ。それ以外は何も持っていない。

「なっ……!?」

近くから戸惑いの声がの耳に届くと、視線を握った拳から、地面に座り込んでいる少女に向けた。

広場に現れた時、着ていた綺麗なドレスは今や、飛んで行った男によってみるも無残に引き裂かれその美しい肢体を隠す事無く少女はあられもない姿を洋一にさらけ出していた。

洋一が少女の顔から視線をさらに下に向け二つの山に差し掛かった瞬間、顔が真っ赤に染まる。即座に着ている上着を脱いで、少女に両手で突き出した。それと同時に顔を逸らす。

 

「と、とりあえずこれを着ててくださいっ!!」

洋一の手から上着が離れると少女から、見てないわよね? と酷く低い恐ろしい声で言われれば、洋一は見てませんと言うしかなかった……。心の中で、すいません見ました。と懺悔しながら。

「……もういいわよ」

片目を瞑りながらゆっくりと少女に視線を向けていく。とりあえず、隠れるべき場所は隠れていた。次いで両目を開く。ただ、美しい……。彼女が美しいのは綺麗なドレスを着ているからでは決してなかった。おもわず見惚れて思考が止まってしまうほどに、

「で、あなた……だれ?」

見惚れる洋一に少女の声は届かない。ただ見据えるだけ。

反応のない目の前の男に対して少女が一つ咳をし、そこでようやく洋一は思考を取り戻しハッと目覚める。

 

「もう一度言うわ。あなただれ?」

その時、洋一の頭にノイズが走る。一瞬のことであまり気にならなかったが、一つだけ頭の中をよぎった。

……自分は、風見洋一とはなんだ?

「……? 風見洋一です」

一瞬だけよぎった。本当に一瞬。

「風見洋一? まあ、いいわ。とりあえず、危ないところ助けてくれてありがとう。

私は、アリサ。アリサ・シュタット……アリサでいいわ」

アリサという名前を頭に記憶したところで、洋一の頭にまたノイズが走る。

(記憶? ここは……どこだ?) 

名前以外、何もわからない。

「……アリサ。とりあえず聞くけど此処どこ? いや、俺はどっから来た?」

何度も頭を走るノイズ。そのたびに次に紡ぐ言葉を選択されているかのように、まるで気付かなければならない事柄を気付かせないようにノイズは走る。

だが、その不可解な現象に不思議と取り乱したりすることはなく、どこか達観した気持ちで洋一は自分を見ることができた。

 

「はぁ!? そんなこと私が知ってる訳な……ッッツ!」

それもそうだ。と思う。

自分ですらわからないのに、俺はどっから来たのか? 

などと、初めて会うアリサが知っている筈もない。

洋一が次の言葉を紡ごうとしたその時だ。アリサの顔色が突然強張った。苦虫を噛み潰したかのような顔になる。

とてつもなく嫌なものを見たかのような表情を。

「どうしたの?」

「……逃げるわよ」

「は? なんで?」

「いいから早く!!」

洋一の手が掴まれアリサに引っ張られた。次いで唐突に走りだす。

「ちょっと、突然走ったら危ないから! 急にどうしたの!?」

「後ろ!!」

後ろ? と洋一が背後を振り返ると、そこには先ほど洋一が殴り飛ばした男が憤怒の表情を浮かべ立ち上がっていた。

「あぁ~。随分とお怒りのようで……、逃げましょうか」

「あんた。絶対、今の状況わかってないでしょ」

「アリサを狙う暴漢を俺が殴って、また襲われてる?」

「まぁ、合ってるのはあってるけど、ただの暴漢じゃないわね。……サーペント・スレイブよ」

「サーペント・スレイブ?」

何それ? と洋一の口から紡がれる事は無かった。背後から無秩序な殺気を感じたと同時、男が持っていた掌サイズの小槌が突如、2メートルはあるハンマーへとその姿を変貌をしたのだ。変貌を遂げた小槌は鉄製。振り回すだけで周囲の全てを薙ぎ倒すのではないかと思うほどの異彩を放っていた。

 

「な、なんだよ。あれ!」

「チッ、やっぱりオーパーツ所持者!」

洋一の言葉はアリサの耳に届かない。いや届いているだろう。だが無視されている。それどころではない。といった感じだ。

洋一はそれでも問う。手のひらサイズだった小槌が人間の身長を上回る巨大な鎚となるという質量法則を無視したそれを許容できるほど洋一はできた人間ではなかった。

「お、おい! あれはいったいなんだ!? どういう仕掛けだあれ!?」

冷静になどいられなかった。洋一は走りながらも捲し立てるように、アリサへ質問する。

「あれあれ、うるさいわね! オーパーツって言ったでしょ!」

「なんだよそれ!!」

「今は説明してる暇はない! とにかくあいつから逃げるのよ!」

アリサの怒号にも似た声を聞いて、洋一は内心しまった。と思った。今、一番怖いのは洋一ではなくアリサだ。あんな凶器を持った男に狙われているのだから。

 

「……ゴメン」

と一言言うと、アリサは、別に気にしてないわ。と返してくれた。

クスッ、とアリサが笑みを浮かべた途端、背後からけたたましい叫び声がした。

「俺のぉぉおお! かえぇぇせえぇぇぇぇえええ!!」

絶叫にも似た咆哮と共に男は2メートルのハンマーを地面に振り降ろした。

地面にハンマーが激突したと同時、洋一とアリサの目掛けて一直線に衝撃波が伸びてきた。地面を抉りながら迫る衝撃波。凄まじい速度で迫る衝撃波を洋一とアリサの二人は回避することができず、繋いだ手を離して互いに吹き飛んだ――。

 




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