ハンマー男。ヘイズル・ヨハンソンは沈黙していた。
自身の必殺必勝のオーパーツ、プレッシャープレスが粉微塵。
それもただの拳一つで、まだ頭が追いつかない。そんなことが可能なのかと……まだ、そんな思考が頭を巡る。
他の"ナンバーズ"の中でも素手でオーパーツを壊せるものなどいるのか? と。自分はとんでもない奴を相手にしていたのではないのかと。
「あぁ……本当、悪いな。まぁこれで戦いとは無縁な生活が送れるだろ? サーペント・スレイブなんつう組織抜けて隠居しろよ。……じゃあな」
ヘイズルの自信を破壊しつくした男が離れる。離れ際に言葉を残して。
組織を抜ける? そうだ組織。
「――――……ッッッ!!」
ヘイズルの思考が真っ赤に染まる。ダメだ。そんなこと許されない。何の成果もなく、無残にもオーパーツを潰され、ただおめおめと生き延びたとあっては、"ナンバーズ"は誰も私を許しはしない。
「成果……。何か成果を……」
混乱するヘイズルの目に不図、倒れる洋一が目に入る。
「成果? あれを殺せば許される?」
あそこで倒れている男がいなければ、ヘイズルは容易に原初の種を奪えていた。
それをあの男が邪魔をしした。
許せない……許せない許せない許せない許せない許せない許せないッッッ!
ヘイズルは疾走する。倒れる少年を殺すために。
成果を上げ、生き延びるために。
"ナンバーズ"から殺されないために。
「おい……何してる?」
ヘイズルが伸ばした腕が止まった。少年はまだ先だ。
腕を掴んでいるのは、ハンマーを破壊した男。
「ッ!!」
「これ以上、醜態をさらすのは止せ。男の名が廃る」
「離せッ! 離してくれっ! 俺は、俺はあいつを殺すっ! 殺さなくちゃダメなんだ! 俺は生き延びるためにっ! 殺させ」
ボギッ….
ヘイズルが殴られたと自覚できたのは吹っ飛ばされ転げまわっている最中のこと、
鼻と口からは血が流れ、腫れた頬が痛む。
「頼む……死にたくないんだァァ!!」
これが、ヘイズル・ヨハンソンが残す最後の言葉となった……。
■
唐突に刀を研ぐような音が聞こえた。
ハンマー男は洋一の元へ走り、殴り飛ばされ、立ち上がった。
再び駆けて来ると思われたそれが何故か、前倒しに倒れていっている。
人が走って何かの拍子によってこけるまでの動作に似ている。男はそのまま倒れた。
「……ぁ」
「洋一! 見るなっ!」
「な……んだ?」
男が倒れた。それはいい。そっから先は? また立ちあがって殺そうと駆けてくる?
否。
それとも、零次さんが見えない速度で昏倒させた?
否。
なぜなら、答えは見えているから……。
ハンマー男、ヘイズル・ヨハンソンは倒れたと同時に胴体から首が離れ絶命していたから……。
「……ぅ……うう……うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」
なんだ? 何が起きた?
「クソッ! 洋一しっかりしろ!」
零次さんが、僕の肩を支えて抱きかかえてくれている。大丈夫なのに、身体中痛いけど、そんなに心配されることじゃないよ。そんなことより、あれなんなの? どうして首と胴体が離れて赤い液体が流れてるの?
「――死んだ?」
そうか。死んだのか……。あれは死だ。死体だ。
「誰が……、」
「我々ですよ」
革靴が大理石を踏みしめるかのような音が遠方から聞こえてきた。カツン、カツンと足音は規則的に流れる。一つではなく二つ。
「クラム・シュナイザーと言います、以後お見知りおきを」
広場に現れた者は漆黒の鎧を全身に纏った男。顔以外、皮膚の色が全く窺えず黒、黒、黒。黒一色。黒い髪を肩まで伸ばし、飲み込まれてしまいそうな暗く深い瞳。 鎧の背には白色の逆十字模様をあしらえたマント。何を考えているまったくわからない表情。それは、どこか空虚な印象を与えた。
「ファティマ、あなたも自己紹介を」
「はっ! 私はファティマ・ローエンクロイツ。サーペント・スレイブNo.6です。……よろしく」
そして、その傍らにもう一人。美しく流麗な銀髪、真紅に染まった赤い瞳。礼節を重んじる騎士を彷彿とさせる黒と白を基本とした装束で彼女の豊満な肢体を包み、クラムと言う男と同じ逆十字のマントを背に背負う。
彼女の美しい容姿をよりも、目を見張る物がある。それは、彼女、ファティマ・ローエンクロイツが手に持つ刀。抜き身の刀。刀身は地面に向けられ、切っ先からは赤い血が滴り落ちている。
「おまえが……やったのか……?」
「――……」
ファティマは答えない。目を瞑り、刀にこびりついた血を服から取り出した布で拭う。
そして、血を拭い終えたのち、刀を一振りし鞘に納める。まったく無駄の動作で行われた行動は、洋一を高ぶった神経をさかなでるには十分だった。
「答えろッ! おまえが! そこのおっさんを殺したのかッ!」
激怒……洋一は怒った。命の危険に晒されたとはいえ、人の命を簡単に奪った目の前で静かに佇む女に。
「……少年。順序を間違えているぞ。我々は名乗った。次は君達が名乗る番だ」
「そんなことはどうでもいいっ!! おまえが殺したのかと聞いているんだ!」
「肯定……すれば納得するのか?」
「ッッ!!」
洋一の背筋に悪寒が走る。
淡々と何も思うことがないようにファティマは洋一に答えた。
頭の思考がうまく機能しない。
混乱する洋一に零次は答える。
「洋一……こいつらは人間じゃない。化け物……そうだ。化け物と思え」
零次が洋一の肩に手を乗せ、耳元でそう告げた。クラム、ファティマの両名の耳にも声が届いたのか、少し瞼が動いた。
「――……」
「……確かに。我々オーパーツ所持者は普通の人間とは違いますが、化け物、というのはい言い過ぎでは?」
零次は洋一の肩から手を離し、相手と向き合う。
「勘違いするな。俺はオーパーツ所持者全員が化け物と言った覚えはねぇ、おまえらサーペント・スレイブが化け物だと言ったんだ」
「……クラム様、許可を」
「ダメだ、ファティマ。あの男との交戦は認められない。あれは強い。それに、これ以上ここに長居しすぎると、サーペント・スレイブ内部でも恐れられる騎士団長殿が来るかもしれない」
「……御意」
ファティマはそういうと一歩後ろに下がり沈黙した。視線だけで人を殺せるかのような鋭い殺気を零次に向けて。
「さて。そこの少年の方は喋れるようにないようですが、あなたは冷静だ。自己紹介してくれませんか?」
「……いいだろう。こいつは風見洋一。俺は鬼藤零次だ。おまえらの敵"明けの空"所属のな」
「あなたが噂の狂犬ですか。なるほど、確かに的を射ているかもしれません。殺気が漏れ出していますよ? 今にも噛み付いてきそうだ」
「お前達を殺したくてしょうがねぇからな。だが、今回は見逃してやってもいい。こいつが心配だからな」
「それはいい。此方としても裏切りの兆候が見られたN0.12、ヘイズル・ヨハンソンを消すことが出来ていますので、それ以上は興味ありません。"種"の回収はもはや困難でしょうからね」
クラムの言葉を最後に両者は沈黙する。それではまた、お会いしましょう。とクラムが言うと黒い靄がどこからともなく発生し、それに乗じる形でクラムとファティマの両名は広場から姿を消した……。
ヘイズル・ヨハンソンと言う死体を残して。
「……洋一。よく耐えた。もういいぞ、奴らはいない」
零次の言を皮切りに、洋一の緊張は無くなる、と同時に強烈な吐き気が襲い、吐いた。
「うおぇぇえぇぇぇええ」
零次さんに背中を摩ってもらいしばらく、吐き気と戦った後、応急処置をしてもらった。
「……すいません。もう大丈夫です」
「……そうか。どうする? アリサに会うか?」
「どこにいるか知ってるんですか?」
「当然。なんたって俺の所属している組織”明けの空”のリーダーは他でもないアリサ本人だからな」
「へっ?」
「どうした? そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇえぇええええええええええええ―――ッッッ!!」
自分で読んでいて不甲斐なさがわかる……。
文才よ! 舞い降りろ!
感想、批評待ってます。