「どうやら気付かれていないようですね……」
黒の鎧を全身に纏った男が呟く。
「……申し訳ございません。主の考えがわかりませんでした」
銀髪の髪をした女が頭を下げる。
「なに構わないさ。あの時、咄嗟に思いついたことだからね。あの状況で気付けというのが無理ってもんさ。で? カイザル様は増援は送ってくれるのかい?」
「報告によれば。ケーニッヒ様から何体かドールを、加えてナンバーズから10が援軍に寄こしてくれるそうです。ただ最後にもう一人……凶の名を持つモノが……」
"凶"という単語を言った当人である銀髪の女もそれを聞いた黒鎧の男も顔をしかめた。
二人にとって"狂"という単語はイレギュラーでありコントロール不可能な存在なのである。
何事もなくうまくいけばいいな。と黒鎧の男は言葉を漏らした。
■
アリサのいるとこは割と近いということで、現在洋一は零次さんについて歩いている。周りは廃屋が至るとこに散乱しているゴーストタウンのような場所。
なるほど、隠れるにはうってつけだと思った。
「あの~、恐縮なのですが質問いいですか?」
下手にでているみたいに見えるかもしれないが、零次の姿をみればそれも納得する。
目の前の男が白いスーツをビシッと決めてガッチリとした身体に黒いサングラス。 身体には、いったいどんなことをすればここまでになるのかと思うくらい、生々しい傷の数々。
洋一は思う、この人は本当にヤクザで、実はアリサは、お嬢! と呼ばれる人なのではないのかと。
「どうした洋一? あとその喋り方やめろ。シメるぞ?」
「ごめんなさい、ごめんなさい! もう言いませんから、手をボキボキ鳴らしながら振り返らないでくださいッ!」
「よし、約束だぞ」
だらりと零次の腕が降りたのを見てほっ、と安堵のため息が漏れる。
寿命が数年分縮んだかもしれない。思いだしたら震えが止まらない。
「はぁ~。洋一よ~。何度言えばわかる。俺は如何わしい奴じゃねぇ! 普通だ普通。ちょっとばかし普通の男どもより喧嘩の数が多かったんだよ」
どんな喧嘩をすればそこまでの勲章が残るんですかね~。などとは本人の前では死んでも言えない心の声である。
「で、質問ってのはなんだ?」
「あのですね。ここは何処ですか? 俺は何なんでしょう?」
「はぁ? 前半はともかく後半はなんだぁ? 俺はなんでしょう? 知るか、んなもん。
自分が何なのかについては本当にわからない。目覚めたら霊体? ってな感じで浮いていたのだから。
(あの時は夢とか思ってたけど、夢の前の記憶もないし、名前は何故か知ってたけど……。もしかして俺って幽霊から人間になったのか?)
洋一は自分の推測とどういった形でここに来たのかを思いきって零次に伝えた。
「なるほど、珍しいなそれは。というか聞いたことがない。もしかして、お前あれか? 自立人形か? 誰かのオーパーツ能力で作られたとか。いや、それだと作った本人が今も出てきていないのはおかしいな……」
零次が歩きながら考え込みながら呟く。
その零れた呟きの中にに洋一にとっては聞き逃せない単語が出た。
……作りだされた? 俺が?
普通の人は唐突に『あなたは誰から作られた物です』と、言われたらどんな反応をするのだろうか。
突然言われて混乱? 人間でないと告げられて絶望?
逆に人間とは違う何かであることに感動? この世界に命を持たしてくれて、作ってくれてありがとうと感謝?
そのどれもが洋一には該当しない。なぜなら、人間だという自覚が、確信があったから。なぜかと言われてもわからない。だけどそれは絶対だと洋一は思う。
「俺についてはいいです。じゃあ……って場所を聞いてもわからないか。襲ってきたあいつら、サーペント・スレイブってやつとオーパーツってのいうのを教えてください」
「いいのか? まあ、おまえがいいなら別にいいが。とりあえずオーパーツからな」
コホンと咳を一つして零次が続ける。
「オーパーツについては諸説あるが、有力なのは、なんでもこの世界を創るときに神様が落っことした物質らしい。その物質には何か魂みたいなもんが宿ってて、人間とか生き物をなんらかの方法で識別するんだとさ」
「物質が人間を識別?」
「ああ、何でもオーパーツが決めるらしい。対象が"自分を使いこなせるかどうかを"」
「……それで、その神の落としもとやらに認められた者がオーパーツ所持者となる訳ですか」
「そういうことだ。ただ、そう思うと洋一が作られたっていう線は消えるな」
「どうしてですか?」
「オーパーツは原則として一人一つ、例外はあるがな。オーパーツによって生み出された物にオーパーツは絶対に宿らない。これは確定している。なんせ俺達人間のような高度な自我を持たせることができないからな」
それを聞いて、洋一は自分が人間とわかってはいたけど、零次さんからの口から聞けたことで、さらに安心した。俺はちゃんとした人間。記憶がないのは記憶喪失か何かだと思う事が出来たから。
「零次さんも、オーパーツ使いなんですか?」
「いや、違う。俺は自分のオーパーツなんざ見たこともねぇし感じた事もない」
「じゃあ!? 素であの戦闘力なんですか?!」
「おうよ! ……ただなぁ~、姉さんは違うって言うんだよ。おまえはれっきとしたオーパーツ使いだ! ってな。違うのにな~」
……この時の零次さんは好きな人に思いが伝わらずいじけている子供に見えた。ヤクザじゃないってことをちょっとは信用しようと思う。
これ以上は俺も詳しくは知らない。という零次の言葉でオーパーツの話は終わり、次に敵対? しているサーペントスレイブについて聞いてみた。
「サーペント・スレイブってのは、エリシュオンつう隣国の特殊部隊の名称だ。メンバーは判明している分だとボスのカイザル・オーバーロードと配下の12人」
「12? そんだけ?」
拍子抜けと言うのもおかしいが、先刻零次は敵のサーペント・スレイブを一人倒している。洋一はそのことから案外楽勝なのかと考えてしまった。そして、それが誤りであったとすぐに気付かされる。
「幹部クラスはな。なにせアンセスタに攻めよせた時は万の軍勢はいたらしいからな」
万の軍勢。洋一は相手の大きさに、強大さに一瞬思考が止まってしまった。アリサはそんな連中と戦おうとしているのかとも思った。
「あ、アリサはなんでそんな連中と戦うんですかっ!」
「アリサはなそのサーペントスレイブに滅ぼされたアンセスタの王女なんだ。そしてアリサの親父はアンセスタ陥落とともに死んだ。明けの空を作った理由は……父親の仇だ。アリサ本人はみんなのために故郷を取り戻すと言っているが、あれは……私怨だ」
それを皮切りに洋一は零次から様々な事を教えてもらった。アンセスタ城が奪われるその時、零次は遠征に出ていて参戦できなかったこと。そのことを悔やんで、敵陣に突っ込み死のうと考えた時に葵と言う人から、連絡があり来てくれと頼まれ生き延びたこと。
城から脱出できたのは葵とアリサのたったの二人だけだということ。
脱出したアリサが作った"明けの空"という組織はアンセスタ残党の集まりだということ。その中でも戦える人間は一握りしかいないということ。
「じゃあ! 今から行う戦いは無駄な犠牲を増やすだけじゃないですか!? 戦争は終わったんでしょ?!」
「無駄ではないさ。一応だが勝利の可能性はある。アンセスタと違ってエリシュオンは恐怖政治でな。民は日々不満を募らせつつも無理やりに抑えつけられているんだ。俺達が今やろうとしているのは、アリサ率いる明けの空が立ち上がるとともに守るべき民を決起させ、多大なる犠牲のもとでアンセスタを、故郷を取り戻そうって考えなのさ」
なっ!? 洋一は口を開いて硬直してしまった。零次の顔色から見て本心ではそんなことやりたくないと言うのは嫌と言うほどわかる。だが、それでもやらなければならない。
洋一はそのことに理解はしても納得はできなかった。ただでさえ戦争で多大な犠牲が出た筈なのに、さらに犠牲を積み上げるなんて……。
「納得できないだろ。そうさ納得なんてできない。犠牲を増やすことなんて絶対に阻止しなくてはならない。だからな洋一、俺達明けの空は全員が一国を相手取れるようにまで強くならなくちゃいけねぇんだ」
自分が強くなることで少しでも犠牲を減らす。洋一は目の前の男の背中がこの時途轍もなく大きく見えた。暗い話で、二人の沈黙が辛くなってきたその時。零次が声をあげた。
「おっ! 着いた着いた」
「へっ?」
洋一の目の前には、一面だけゴソリと抜け落ちた廃屋、抜けた箇所には何もない。
「何もないじゃないですか!?」
「大丈夫。合ってる合ってる。お~い。開けてくれ~」
辺りにも廃屋しかない見当たらない場所で零次の声は響く。
風が通り過ぎる。静寂。何も聞こえない。
……反応なし。
「ん? おかしいな。お~い。早く開けてくれ~」
……誰もいる気配なし。
「…………零次さん。道を間違えた。もしくは迷ったなら早く言ってください。別に怒りませんから」
俺が道を知らないのに怒るのもおかしい。だけど、迷ったとか、間違えたとかなら言ってほしい。
「いや! あってんだよここで!」
「何もないじゃないですか……、意地張らないでください」
「ッ! わかった! そこまで俺様が信用できないんだな。見てろよ。ここであってるってことを見せてやる」
「どうやって?」
「少々荒っぽいが、こうやって……だッ!」
大砲から発射された砲弾が近くに落ちて来たのではないかと思うくらいの衝撃と轟 音が洋一を襲った。零次が拳を地面に叩きつけたのだ。それだけでこの衝撃。
「オラァァァァ!! 坂上ィィィ!! 聞こえてんだろ! 早く開けろやァァァァアアア!!」
(これで、生身とか絶対に嘘だ)
鼓膜が破れるんじゃないかと思った。隣で急に叫ばれた物だからキーンと耳鳴りが鳴ってる。だけど、変化は起きた。
『……うるさいぞ殺すつもりか、静かにしろ鬼』
どこからともかなく声が聞こえた。辺りを見渡しても誰もいない。何もない。
「えっ?! ど、どこから!?」
「早く開けろ坂上ハルキヨ(さかづき・きょうへい)!」
『なぜ、この僕が、おまえの言うことを聞かねばならん。葵と俺の愛の巣に貴様は必要ない。貴様は邪魔だ。帰れ、鬼』
「葵ねぇさんはテメエのもんじゃねぇよっ! 俺の妻だッ!!」
どうやら零次と謎の声恭平は葵という人物を巡って争っているようだ。しかし、開けろとは何のことなののだろう? 辺りは見渡す限り廃屋しかない。地下にでもアジトがあるのだろうか?
洋一が考えているなか先ほどからどこからともなく声を発していたハルキヨ? という人物とは違う女性の透き通った声が聞こえた。
『てめぇのもんでもねェよこら! さっさと開けてやれハル』
『いくら葵でもそれは』
『はやく開けろ。ヒック』
『……わかった。わかったから手に持った酒瓶を置いてくれ。僕はキミとは違って頑丈にできてないのだ』
どうやら一悶着があったようだが、開けてくれるらしい。しかし扉みたいなものは、本当に何処にもないが。
そう思った時だ。突如、目の前の空間に人一人を容易に呑みこめる渦のような物が現れた。
「わっ!? 何これ! これなんですか?」
「入口だ。ったく。ハルキヨの野郎、会ったら一発殴ってやる。いくぞ洋一チンタラすんな」
そう言うと零次は頭を乱暴に掻きながら先の見えない渦のなかに入って行った。入ると同時に姿が消える。
……大丈夫なのか? と洋一はビビりながら片腕だけを伸ばす。
「さっさと来い!」
先に入って行った零次? の腕が渦の中から伸びてきて伸ばされた洋一の腕を掴んで引き寄せた。二人が渦の中に入ると同時に渦は消失。
辺りはなにもない廃屋の集まりに戻っていた。
遅くなった……。
毎日、更新以外にしんどいですね……
感想、批評待ってます。