「すげぇ……」
こんな言葉しか洋一は言えなかった。それほどまでに完成させれているのだ。
洋一はここに来るまで洞窟もしくは地下に、適当に並べられたボロイ木のテーブルに椅子程度のものがあるだけの閑散とした少人数の小さなアジトだと思っていた。
だが、違った。ここは、もはや街と言ってもいい。
渦から抜けた先にまっていたのは、先まで夜であった筈なのに、天井から太陽のような眩い光が降り注ぎ、眼下には広がる畑には様々な食用であろう野菜があり、そこで農業を営む人たちも笑顔に語り合っていた。
さらに目を遠くに向ければ、そこには教会のようなでかい建物、周囲には縦長の民家が立ち並ぶ。
洋一と零次の位置からすれば、まず畑が広がり、次に民家、そして最後に教会といったところだ。
「なんなんすかこれ……」
あまりの予想外の光景も唖然とする。アリサの率いる組織"明けの空"とは一体何なのか?
洋一は今、アリサが遠い存在の人なのではないかと思った。
「ようこそ、風見洋一。ここは明けの空が本拠地ノスタルジアだ」
「ノスタルジア……」
「洋一……ここに来るまでの光景を覚えてるか?」
「ここに来るまでの光景? 廃屋が其処ら中にあって、何かに潰された後みたいだった気が……ッ!」
「察しがいいな。そうだ。此処にいる奴は皆あそこに住んでいた民だ。今はそれだけわかってればいい。行くぞ洋一、目指すはあのでっかい建物だ」
遠くにある教会のような建物を指差し歩きだす零次。洋一は数瞬遅れて続く。
洋一の心は穏やかでなかった。
(壊された? 此処に来るまでの廃屋が全て……。幾つあった? 少なくとも見渡す限り以上に数はあった筈だ。何があったんだ。あの場所でいったい何が……)
それから数十分……。歩く洋一と零次にそれからの会話は無く。遠くに見えていたはずの教会ような建物はすぐ目の前まで来ていた。
「洋一考え込むの勝手だが、付いたぞ。少なくとも女の前でそんな辛気臭い顔はすんな」
「……わかり……ました」
見上げるほどに大きい扉を零次は開く、ゴゴゴと鈍い音を立てながら両サイドにゆっくりと開いてゆく。
一番重厚な正門を開けてすぐ目の前にあった煌びやかな階段を上り二階へと進む。階段を上りきりった後右に曲がり、ちょうど入った扉の真上の位置に一際綺麗な扉があり、それをゆっくりと開ける。
開いてゆく扉の中の空間で待っていた光景は長方形に長くて白いテーブルに腰掛ける4人の男女。
そしてその一人は洋一が命をかけて救い、もっとも会いたかった人物。
「洋一! よかった。よく戻ってきてくれたっ!」
「アリサ!」
テーブルの一番奥、開いた扉からの直線上にアリサは座していた。
アリサは扉から入ってきた洋一の姿を見ると、テーブルに両手を付き勢いよく腰を上げ。、勢いよく立ちあがり笑みを浮かべた。
対する洋一もアリサの声を聞き、その姿を確認すると笑みを浮かべ応じる。
そんな二人の反応を見てニヤニヤと酒瓶片手に嫌らしい笑みを浮かべる美女がアリサの直ぐ右の椅子に腰かけていた。
ニヤニヤと笑みを浮かべる美女の椅子下には大量の酒瓶が転がり、かなりの酒豪であることが窺えた。
「おっ! なんだなんだぁ!? おまえら知り合いどころかもう"できてん"のかぁ~?」
「葵、それは無粋というものだよ。どうやら年も近いようだしね。やることはやってるに決まってるさ。彼らを見習って僕と葵も戯れようじゃない」
「うぜぇ、死ね。ヒック!」
洋一から見てアリサの座る椅子から二つ左の席に座っていた端正な顔立ちの男がテーブルに身を乗り出し、葵と呼ばれた女性に両手を開いて近づくと、女は手に持った酒瓶を頭部に投げつけ、男を沈黙させた。
「でっ? どうなんだ~? お若い御二人さん? ヒック!」
「……私は危ないところを洋一に助けてもらっただけです。それ以外は何もありません。そんなことより、葵さん飲みすぎです」
「仕方ねぇだろ。今の情勢、飲まなきゃやってられねェよ。私の名前は仙道葵(せんどうあおい)だよろしくな風見洋一君」
「あっはい! よろしくお願いします!」
洋一よりも5つは上だろうと思われるが、その美貌からはそれを窺えさせない。長身で、長い黒髪を頭の後ろで結び一本に纏めたポニーテールを腰辺りまで伸ばし、姉御肌といった感じを思わせる風貌。豊満な肢体をカジュアルな服装で比較的露出度の高い服を着ていた。十人いれば十人ともが認める絶世の美女であった。
酒が入っている今現在、葵の頬に赤みが差すも、それがかえって彼女の色気を際立たせ、若い洋一は見ているだけでドギマギしてしまう。
「……私は、坂上ハルキヨだ。葵以外に興味はないが、一応挨拶だけはしておく」
そしてその反対側、アリサの二つ左に座していた男は葵の投げた酒瓶を顔面で受けて転倒。額を擦りながら倒れた椅子と共に復帰、立ち上がった。
彼の顔色は悪く、病弱を思わせるような装いで、服装も至ってシンプル。白のシャツにカーキー色のズボン。あまり喋るのが好きではないのか、目の前でギャアギャアと騒ぐ葵とアリサの会話に参加せず、椅子に腰かけると目を瞑り沈黙した。
今この部屋にいるのはこの5人。
洋一が、騒ぐ二人を余所に部屋の中を視線だけで観察していると、横にいた零次が洋一の肩に肘を置いて顔を近づけた。
「どうよ! 俺の姉さんは別嬪だろう!」
「えぇ、まあ」
美人は美人だとは思うが彼女の席周辺に散らばる酒瓶の数々を見ればそれにも陰りが見えるというものだ。
「いっとくが姉さんを狙っても無駄だからな。俺が予約済みだ」
「大丈夫です。そのつもりはありませんから」
今の言葉が酔っぱらいの葵に聞こえたのかギョロっとアリサから視線が洋一の方を向いた。
ビクッと背筋が凍る。
「ほぉ~、ほぉほぉ。絶世の美女である私よりアリサの方がいいと。ククク……アハハハハッ! よかったなアリサ! やっとオマエ目当ての男が来たぞ! あっ、あと零次。後でオマエしばくから。この私を物扱いしやがって17回もフラれてる癖によッ!」
「それフッた本人が言うんですか!? それに俺は諦めません! 何でも告白しますッ! 好きです結婚してください姉さんッ!!」
「死ねッ!」
床に散らばっている酒瓶の一つを掴んで隣にいる零次さん目掛けて投擲を放った。
チュドーン! とおかしな音をたてながら隣にいた筈の零次さんがその姿を消した……。
(えっ? なに? 見えなかったんですけどォォォ!!)
顔が蒼褪めていく、血の気が引いていく。
「おまえも何か私に興味ない見たいな事言って、私はすんごい傷ついたからオマエも死んどけ」
「へっ?」
疑問を覚えたその時にはすでに目の前に酒瓶は迫り……。
洋一は後ろに真っ直ぐと傾いてゆく。
「洋一? 死んだらだめだからね!? 洋一ィィィ!!」
アリサの声を死ぬ間際に聞けてよかったと思いながら、風見洋一は意識を失った……。
■
零次は吹っ飛んで虚空の彼方に消えさり、洋一はその場で完全に気絶。来訪者二人は沈黙してしまった。そんな彼らを余所に残った三人の会話は続く。第一声は沈黙していたハルキヨだ。
「で……アリサ。そこで気絶している貧弱は本当にオーパーツを所持しているのか?」
ハルキヨは倒れる洋一に指をさして言う。葵とアリサが少し顔をしかめたが、どうやらハルキヨは気付いていないらしい。いや気付いていて無視しているのか。
「あなたにだけは貧弱って洋一も言われたくないと思うけど、そうね、間違いないわ。末端とは言え、相手は装備型オーパーツを所持していた。オーパーツ所持者に普通の人による打撃による攻撃でダメージを与えられると思う?」
「……ふむ。確かにな。打撃による攻撃なら……”鬼”と似たような”能力か?」
「断定はまだ早いけどね。攻撃系の能力であるのは間違いないと思う」
「ウィ~、ヒック。まあ、なんにせよ内包型は確定か。私より強くなるかな?」
それは絶対にない! とアリサとハルキヨは同時に告げた。
「ひでぇ~な、ヒック! まっ、私にタイマンで真っ向勝負して勝てるとしたら知っている前騎士団長様ぐらいかね」
「ヴォルフさん……ですか。アリア……」
「……アリア? 初めて聞く名前だ、誰だそいつは?」
どこか寂しげな表情を浮かべるアリサ。それを見て葵は新たに手に持った酒瓶を傾きクイッと一息に飲み干すと、
「アリサの妹。アリアの傍には近衛隊総員と隊長のヴォルフさんが居てたはずだから、そうそうやられる事は無いと思うけどね。どっかで潜伏してるんじゃないか? 生きているのは間違いないと思う。あんたの妹だ、アリサと同じできっとしぶといよ」
どこか、暗い雰囲気に包まれた部屋。重いムードに包まれたこの部屋の扉の外から何者かの手が掛かる。
「姉さん。痛てェじゃないですか”能力”まで使うなんて。ちょっとは女らしくできないんですか?」
頭に酒瓶の破片が幾つも刺さり血を流している、強面の男、鬼踏零次が虚空より帰ってきた。
「……うるさいのが帰ってきた」
はぁ、と疲れた溜息を洩らすハルキヨに葵が言葉を告げる。
「何言ってんだ。零次と洋一が帰ってくるまで。ハルキヨは全く喋らねぇし。アリサも愛しの洋一君が心配で、心配でソワソワして会話になんねぇしで、つまんなかったんだぞ~私は」
「私とソワソワなんてしてません!」
わかってるわかってる~。と葵は手のひらを左右にブンブンと振る。アリサはそれを見て、もう、と諦めにも似た声をもらし頬を膨らます。
そして唐突に葵がアリサに凶報を告げた。
「零次~。そいつ医務室まで運んでやれ、んで起きたら私を呼べ。……一度殺す」
「なッ! あ、葵さん!? 何言っているんですか!?」
「……了解。それ、俺も参加ですかい? 姉さん」
「オマエはその次だ。殺したあと。そいつを殺すのは私の役目だ」
「ちょ、ちょっと! 何言ってるのよ! 二人とも!」
「すまねぇなアリサ。こいつを仲間にするんだったら。弱すぎる。死線って奴を超えてもらう必要があるのさ」
感想、批評待ってます。