この世界、おばさんにはちょっとキツイです。   作:angle

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以前の同タイトルの時よりはだいぶマシだと思います。あと事件ないです。


FILE.9 女たちは人知れず戦う2 ~新幹線大爆破事件~

4月27日(水)

 

 

この日、いつものように朝風呂に入った私は、下着だけを身に着けていざムダ毛との聖戦に臨んだ。

 

 

まずは軽くすね毛から。

昨日買ってきた脱毛ワックスをはがして、ぺたりとすねに張り付けて、一気に引っ張る。

若返ったことでより頑固になった毛根は、はがしたあとジワリと毛穴からの出血を強いてきて。

毛根様よりよほど根性がない私は、早くも涙目で白旗を上げそうになっていた。

 

 

しっかし、この作業も彼氏がいた20代の頃以来だから、かれこれ15年ぶりくらいかな?

最近では毛根様もすっかり年老いて、細くて短いのがぽつぽつとしか生えてなかったから、生理と並んでこればっかりは若返って損したと思うことだったりする。

(まあそれまであった倦怠感とか老眼とかがなくなったから、若返って得したことの方が多いのは間違いないけど)

 

 

ひざ下が一通り終われば次はわきの下へ。

鏡を見ながら狙いを定めて、容赦なく一気に!

そういえば、痛みの単位で一鼻毛(鼻毛を引き抜くときの痛みを一とした単位)ってのがあったけど、わきの下の脱毛は何鼻毛くらいになるんだろうか?

ていうか、そういうくだらないことでも考えてないとやってられない痛みですよコレ。

 

 

最後に腕にかかり、ようやくすべてを終えた頃には、すでに1時間以上が経過していました。

……世の中には永遠の若さをもてはやす風潮があるけれど、私はこんなのがこれから先何十年も続くのはとうぜん耐えられない、と思ってしまう人種のようです。

ああ、早く45歳に戻りたい……。

(順調にいけば29年後だけど)

 

 

その後、にじんだ血と肌に残った薬剤を洗い流すため、再びお風呂でシャワーを浴びて。

お風呂のあと、オ○ナインを薄くのばして傷ついた毛穴に塗り付ける。

ひとまずこれで一安心、少し休憩する間にメールをチェックしていると、ユキさんからけっこう長文のメールが届いていたんだ。

内容はなんと、明日の午後にヨーさんと会うため、一緒にテレビ局へ行こうというお誘いだった。

 

 

(なんか、どんどん私の日常とかけ離れていくんですけど……)

 

 

―― 黒のパンツスーツとGパンの究極の選択、選ぶとしたらどっちですか??

 

 

そうだ、もしかして明日の午後なら、工藤新一からの衣装が届いてるかもしれない。

(まさか仕事の当日に衣装を届けるとかないだろうし)

でも、指示された仕事より先に私用で着るとなったら、これはもう仕事前に買い取るしかないよね。

 

 

今月の稼ぎが20万円、うち10万円は生活費として、残りの10万円くらいは覚悟しておこう。

足りなかったらまた来月稼げばいいさっ。

……って、安定志向の私はそう軽く思えないのが難点だけど。

 

 

 

ユキさんに返事を返して、メールのやり取りで待ち合わせ場所と時間を決めて。

場所は先日ヨーさんと3人でお茶をした喫茶店の同じ席で、時間は午後1時になった。

どうやらその日、ヨーさんが出演する予定の歌番組の収録があるらしくて、私たちにも観覧席(ひな壇に座って拍手とかするヤツ)を用意してくれるとか!?

(それじゃますます変な服装では行けないよ。黒のスーツもアウトだわ)

観覧後に楽屋で少し話ができるそうなので、その時にお土産を渡せばいいとユキさんはアドバイスしてくれた。

 

 

 

もしも今日衣装の連絡がなかったら、明日の午前中はあきらめて買い物するしかないかな、と思っていたところ。

運がいいことに午後になってから阿笠さんから家に来てほしいと電話があって。

私は10万円を入れた封筒を用意して(籏本家の給料袋から2万円抜いただけだけど)、臨戦態勢で阿笠博士の家に向かったんだ。

 

 

「わざわざ来てもらってすまないのォ。実はさっき新一君から洋服が届いたんじゃ。サイズは合うと思うが念のため試着してもらおうと思っての」

「はい、そうじゃないかと思ったので用意してきました」

「……なにをじゃね?」

 

 

私は無言のまま、笑顔で用意してきた封筒を差し出す。

阿笠さんも笑顔だったけれど、若干頬がひきつっているように見えた。

 

 

「注文から約一日というこの短時間で用意できたのなら、たぶん阿笠さんの家に直接配達されたんですよね。ということは、阿笠さんのクレジットカードから支払ったか、代金引換を利用していると思いました。つまり、阿笠さんは服のお値段をご存知ということですよね?」

 

「……」

 

「ここに10万円用意してきましたので、足りなかったら言ってください。とりあえず試着してみますので、お隣の部屋をお借りしますね」

 

 

そう言ってにっこり笑う。

唖然としていた阿笠さんは、ちょっとため息をついてから言った。

 

 

「……愛夏君」

「はい?」

「……たくましくなったのォ」

「光栄です」

 

 

なにせ私は45歳ですから。

阿笠さんが知ってる15歳までの“高久喜愛夏”とは30年ほど年季が違うんですよ。

 

 

 

用意されていた洋服はTシャツとカーディガンのアンサンブルに、下はロングタイプのスカートだった。

白地に黒と薄い青のラインがランダムに入ったシックな色合いで、身長が高い私にはそれなりに似合ってると思う。

これなら昨日買ったサンダルでもそんなに違和感はないかな?

でも髪型の方はかなり違和感があるから(黒ゴムで一つ縛りだからね、せめて飾りがないとでしょ)、明日の午前中に警察からの呼び出しがなければ美容院で整えてこよう。

 

 

着替えを終えてリビングに顔を出すと、阿笠さんは一目見てにっこり笑ってほめてくれた。

 

 

「見違えたのォ愛夏君。まるでモデルさんのようじゃ」

「身長が高いだけですよ。でも私も気に入りました。ありがとうございます」

「お礼なら新一君に言うんじゃな。察しの通り注文したのはワシじゃが、選んだのは新一君なんじゃ」

「そうでしたか。では工藤さんにもよろしくお伝えください」

 

 

その後はお金の計算で、観念した阿笠さんは代引きの伝票を見せてくれたから、私は端数まで正確に支払うことができた。

消費税込みで約4万8千円。

けっこう高い買い物ではあるけれど(少なくとも高校生が買う服の値段じゃないし)、でも予算の半分で収まってくれてかなりほっとしたよ。

にしてもこれだけの金額を必要経費って……一度工藤新一の経済観念を叩き直す必要があるような気がする。

(私にはムリだけど)

 

 

阿笠さんにはちょっと強引な態度をとってしまったので、お詫びと、なぜそうなったかの理由を話しておいた。

事情を聞いた阿笠さんも苦笑いで許してくれたから、ひとまずこの件でのわだかまりはなくなったと思っていいだろう。

 

 

 

 

帰宅して、確か一つだけ持ってたはずのバレッタ(黒のリボン型)を探しながらテレビを流し見していると。

ニュース速報で新幹線が上下線ともに止まっているとの情報が入り、やがて臨時のニュースで上空からのヘリコプターの映像を交えながら、車内(実際は車外)で爆弾が爆発したらしいという情報も入り始めていた。

どうやらコナン君、無事に事件を解決したようですね。

なにより私がいないところで事件が起こってくれるのが最高にありがたいです。

 

 

 

って、油断ができないところが名探偵コナンの怖いところなんだけど。

 

 

ひとまず今日のところは私の周りは平和です。

 

 

 

 

4月28日(木)

 

 

私がここへ来る前の美容院へ行く頻度は、だいたい半年から1年に一度くらいだった。

美容院で最低限縛れる長さまで短く切ってもらって、そのあとは自分が邪魔だと思うまで放っておいたんだよね。

でも、私ぐらいの年齢の人でそこまで美容院へ行かない人はかなりまれだと思う。

というのも、45歳くらいになると多くの場合、白髪が目立つようになってくるからだ。

 

 

人によっては3週間も放っておいたら気になり始めるから、月に1回くらいはカットとカラーリングが義務のようになってしまったり。

ではなぜ私がそこまで放っておくことができたかというと……。

これは自慢してもいいと思う。

私の髪、45歳になった今でも、白髪が1本も生えてきてなかったんだ。

 

 

ま、自慢できるのは私の努力とか功績じゃなくて、単なる遺伝子なんだけどね。

母方の祖母がそんな感じで、伯母も84歳で亡くなるまでほぼ真っ黒だったから、ほんとにいい遺伝子を授けてもらえたと思う。

(ちなみに母は数年前に白髪染めをやめてほぼ真っ白だった。隔世遺伝万歳!!)

 

 

とはいえ、白髪染めという理由がなくても、最近の40代は落ち着いた茶髪の人が多かったんだけどね。

(いまどき真っ黒に染める人はあまりいないし)

ものぐさな私は、白髪染めが未だ必要ないことを理由に、カラーリングなどという面倒なことから極力逃げていたんだ。

 

 

 

そんな私が木曜日の午前中に美容院へ行ったのは、突き詰めれば単なる暇つぶしだった。

だって……禁煙がつらかったんだよ!

ふだん暇さえあれば煙草を吸ってた私、暇ができたらもう煙草のことしか考えられなくなっちゃって。

そのくらいなら美容院にでも行ってた方が多少は気がまぎれたんだ。

 

 

個人経営のお店はちょっと敷居が高かったので、選んだのは駅前にある若者向けで明るい雰囲気のところだった。

受付は女性だったけど美容師さんは男性が多いらしい。

指名もなにも初めてなので、そう告げると、そのときたまたま空いていた人が担当についてくれた。

 

 

「今日はどうする?」

「長さはギリギリ縛れるくらいで、あと少し量を減らしてください」

「短いのも似合うと思うけどね」

「ちょっと癖があるんで、できれば縛っておきたいんですよ。なにしろものぐさなもので」

 

 

「まあ、確かに髪質的に短いと朝とかちょっと大変か。了解。こっちの席へどうぞ」

「あ、あと、白髪があったら教えてください」

 

 

いつものセリフを言った私に、担当のお兄さんは明るく笑った。

でもあながち笑い事でもないんだよ。

私、最近じゃぜんぜん見つけられなかったのに、高校生の頃はけっこう何本も見つけてたんだから。

(そこのキミ! 老眼のせいとか言わないっ!)

 

 

 

最初に余分な長さの髪をざっくりと切ったあと(なぜかお兄さんは髪の束をうしろに持っていってた。なにかに使うのか?)、シャンプー台で整髪料なんかを落として。

そのあとうしろで束ねて見せながら長さを確認して、ハサミを入れていく。

こういう単調な作業を見てるのってけっこう好きなんだよね。

(次のバイト、肉体労働系じゃなかったら、工場のベルトコンベアの作業とかでもいいな)

途中、やっぱり何本か白髪は見つかったので、丁寧に根本あたりから切ってくれちゃいました。

 

 

カットが終わったあとは再びシャンプー台で切れた髪の毛なんかを洗い流して。

お兄さんが戻ってくるまでの間に、専門らしいお姉さんが頭皮マッサージと肩もみをしてくれました。

って、16歳の私はまだ肩も凝ってないから、もんだ時のあの気持ちよさは味わえなかったけど。

(いや凝らない方がよほどいいのは間違いないから)

それが終わったあと、戻ってきたお兄さんは私の髪をブローして、きれいに伸ばして整えてくれたんだ。

 

 

「どうだろ。ぎりぎり結べると思うけど」

「はい、ありがとうございました」

「これからお出かけ?」

「はい。午後から友人とテレビ番組の収録を見に行くんですよ」

 

「へえ、すごいね。楽しんできて」

「はい」

「カードに名刺挟んどくからね。よかったら次も指名してね」

「はーい」

 

 

次に来るのは早ければ半年後かな?

私は覚えてるかもしれないけど、お兄さんはきっと私のことは忘れてるよ。

 

 

カット代の4千円を払ってカードを受け取ったあと美容院を出る。

髪はボブに近い感じで整えてもらって、服は工藤新一から買い取ったおしゃれ着、足元は先日買ったサンダルだ。

このいでたちで待ち合わせの喫茶店へと向かう。

 

 

やっぱり、服装が変わると気持ちが明るくなるのはいくつになっても変わらないよね。

おしゃれってすごくめんどくさいけど、こういうのがあるから女性はそのめんどくささも乗り越えようって思うんだろうな。

(私はめんどくささに負けるタイプだけどね)

 

 

ユキさんとの待ち合わせは午後1時だったけど、実は今の時刻は昼食にもまだ早い頃だったりする。

待ち合わせの喫茶店に着いた私は、ちょうどよく空いていた奥の4人掛けへと陣取って、始まったばかりのランチメニューの中から昼食を注文して。

って別にほかの店で食べてからこっちへ来てもよかったんだけどね。

どうせだったら一つの店で居座ってた方が時間を気にしなくていいから、ってのがものぐさ女子の思考だったりするんですよ。

 

 

食事が届くまでと、食後の待ち時間、私はずっとケータイで就職情報をあさっていた。

 

 

今まで私が見たのはネットと就職雑誌だったけど、すべて16歳の年齢を条件に探していて。

でも、16歳ができる仕事はものすごく限られてたから、私はある決意をしたんだ。

―― 悪いことだってのは判ってるし、バレたら信用がなくなるってのもよく判ってる。

でももう一度だけ、私は年齢詐称する決心を固めたんだ。

 

 

できるだけ接客がない肉体労働。

その条件でずっとケータイをいじり続けていた私は、ある一つの仕事を見つけた。

 

 

(自転車便か。配達業だから接客はあるけど、でも荷物の受け渡しのときだけなら何とかなるか?)

 

 

年齢制限は18歳以上で、未成年は親の承諾が必要だから、詐称するなら20歳以上。

自転車は持ち込み要のところが多いけど、実は“高久喜愛夏”がもともと持ってたママチャリがあるから、ある程度稼げるまでの間はそれを使えばいい。

ヘルメットは最初に買わなきゃだけど、数日働けば元は取れるかな。

なにより私の最大の長所、体格と運動神経が活かせるし、私は見た目もしゃべりも16歳には見られないから、公的書類の提示を求められない限り年齢詐称がバレる心配はない ――

 

 

とりあえず、比較的近い場所に事務所があった一つの会社のホームページから、スタッフ募集のフォームに入力して反応を待った。

すると、割とすぐに返事が返ってきて、5月2日月曜日の午前10時に面接をするから、履歴書と自転車とヘルメット代を持ってくるようにとメールに書いてあったんだ。

 

 

(よし、第一関門突破! あとは面接で何事もなければ……)

 

 

おそらくサイトにあるような、月25万以上稼げるようなおいしい仕事じゃないと思うけど。

納税の対象になるほどたくさん稼がなければ、会社にも公的機関にもバレることなく続けていけるかもしれない。

 

 

 

 

ユキさんは、待ち合わせの時間よりも10分ほど早くやってきて。

すでに私が席に座ってるのを見てずいぶん新鮮な驚きがあったようだった。

 

 

「いつもは時間に遅れる子とばっかり待ち合わせてるから、待たせるのって実は初体験かも」

「ぜんぜん待たされてないですから。でも、そうなんですか?」

「うん。ほんと、愛夏ちゃんて真面目だよねー」

 

 

真面目というか、社会人にとって時間前行動はあたりまえだったりするんだけど。

すっかり忘れてたけど学生の頃ってかなり緩かったんだなあ。

 

 

「お土産、今渡してもいいですか?」

「うん、ありがとう。でも開けるのはヨーちゃんと一緒にするね。ほら、楽しみは共有したいから」

「そんなたいしたものじゃないですから。期待しないでください」

 

 

喫茶店ではお茶を一杯だけ飲んで、すぐに電車でテレビ局まで向かった。

 

 

「愛夏ちゃんって、すらっとしてるからそういう服が似合うよね。その服どこで買ったの?」

「あ、これは自分で買ったんじゃないので、どこで買ったのかは判らないんですけど」

「へえ、彼氏からのプレゼントかぁ。いいなぁ」

「いませんよ、彼氏なんて」

 

「うそ! ぜったい愛夏ちゃんて彼氏持ちだと思ってた。だってこないだのヨーちゃんのときの発言とか」

 

 

そういえば、ヨーさんに「自分も女だから気持ちは判る」的なことを言った覚えがあるな。

あれはさすがに16歳っぽくはなかったか。

 

 

「失恋の経験があるんですよ。だから今は独りです」

「いいなぁ。私なんか、恋愛の経験もないのに。4歳年下の愛夏ちゃんにすら抜かれてるとか……」

「年は関係ないですよ。ユキさんはまだこれからいい出会いがあるんだと思います。だから焦らなくても大丈夫です」

「まあね、焦ってはいないけどね。今はやることいっぱいあるし、正直言って今はあんまり恋愛とかしてる暇ないって思ってるんだ」

 

 

まあ、いわゆる対外的なポーズってやつなんだろうな。

彼氏いらないとか、言う相手によっては引かれそうな内容だし。

ユキさんはそういう、対人関係のバランス感覚っていうのが優れた人なんだろう。

 

 

テレビ局では係りの人に案内されて一度控室に入って。

そこで軽く説明を受けたあと、スタジオのひな壇に座って、どうやら若手芸人らしい人たちにいわゆる前説というもので笑わせてもらった。

トイレ休憩のあとは本番で、私は自分の役目通りに拍手をしたり歓声を上げたり。

やがてヨーさんが歌う順番になったときには、周りの子たちもけっこう興奮状態で、私も巻き込まれるように笑顔で大きな拍手を送った。

 

 

こういうの、元の世界ではぜんぜん経験したことなかったけど。

やってみると思ってた以上に楽しかったんだ。

きっと私、いろいろ面倒くさがって、楽しいと思える経験をずいぶん逃してきたんだろうな。

(たぶんここにいる私たち以外の人たちは、はがきを送って抽選とか、面倒な手順を踏んでるんだろうし)

これもぜんぶユキさんとヨーさんのおかげなんだって、改めてこの二人と友達になれた幸運に感謝したんだ。

 

 

ひとつ驚いたのが、ヨーさんの出番が終わったあと、注目のアーティストのコーナーでレックスの木村達也が出てたこと。

……これ、もしかしなくても「カラオケボックス殺人事件」の被害者だよ。

まあ、今日はコナンもいないし、さすがにここまで違う状況で前倒しで事件が起きることはないだろうと思うけど。

レックスが歌って(例の上着を脱ぐ振り付けでだ!)ステージから引っ込むまでの間、私は少しだけ緊張で手のひらに汗を握ってしまった。

 

 

 

収録が終わったあとは、マネージャーの山岸さんが私たちを迎えに来てくれて。

ヨーさんの楽屋に足を踏み入れると、ヨーさんはすでにステージ衣装を脱いでいて、ふつうのラフな格好になっていた。

 

 

「愛夏ちゃん、今日は来てくれてありがとう。楽しんでくれた?」

「はい。私の方こそ、招待してくれてありがとうございました。こういうの初めてだったんですけど、すごく楽しかったです」

「それはよかった。ユキちゃんもありがとう、忙しいのに愛夏ちゃんを連れてきてくれて」

「ううん、私も楽しかったから。ヨーちゃんの歌も久しぶりに聞けたしね」

 

 

そう、ひとしきり会話に花を咲かせたあと。

私はヨーさんにもお土産の包みを渡した。

 

 

「先日仕事で行った旗本島のお土産です。たいしたものじゃないんですけど、よかったら使ってください」

「ありがとう愛夏ちゃん。さっそく開けてもいい?」

「あ、私も開ける! ヨーちゃんと一緒に開けようと思って楽しみにしてたんだ」

 

 

包みから出てきたのは、私が旗本島のお土産屋さんで見つけた、おそろいの一輪挿しだった。

 

 

「一輪挿しね。変わった形だけど」

「はい。花瓶にしてもいいですし、インテリアとしてただ置いておくんでもいいと思います」

「ありがとう。さっそく部屋に飾るわね」

「私も。愛夏ちゃんありがとう。大切にするね」

 

 

そうして、わずかな間だったけれど、再び私は初友との時間を過ごすことができて。

 

 

 

帰ってきて大きなため息をついてしまったのは ――

 

やっぱり名探偵コナンの世界で、いつの間にか事件への警戒心で緊張してしまってたからなんだろうな。

 

 

 


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