ゆくちーと 作:めざめたいパワー
のんびり更新するのでのんびり楽しんでいただければのんびりだなと思います。
客引きをしていたミミロップ、トレーナーと歩いていたロコン、羽をたたんで休んでいるピジョン。その他にもいろんなポケモンに片っ端から話しかけてユクシーの目撃情報を探してみた。
さすがに伝説のポケモンだけあってユクシーの名前も容姿も誰も知らなかったのだけど、あいつの見た目は割とわかりやすい。『メロンパンとかシュークリームみたいな被り物をしてて、二本の尻尾がある、三〇センチくらいのポケモン』って感じで聞き込みをしている。
ただ、それでも誰もかれも首を横に振るばかりで、少しも情報を得られなかった。
「そっか、ありがとう。邪魔して悪かった」
今もまた、服屋の前で辟易としていたコノハナへの聞き込みが終わったところだ。結局今回も手がかりの一つさえ掴めていない。
ちなみにそのコノハナはこのすぐ後、服屋から出てきた女性に無理矢理中へ連れ去られて行った。おおよそ着せ替え人形にもされているのかもしれない。ちなみに店の中へその姿が完全に消える直前に助けを求めるようにこちらに手を伸ばしていた気がしなくもなかったが、適当に南無三的な感じに両手を合わせておいた。
「そろそろ日が暮れてきたな……」
西の空が赤み始め、西の空から少しずつ藍色が広がっている。空を飛び交う鳥ポケモンの姿も少なくなってきた。
この調子ではどうも、明るいうちにユクシーを見つけ出すという目的は果たせそうにない。
「本当、どこ行ったんだあいつ」
一度湖に帰ってみるか? ユクシーはこれまでの森の探索中に帰る際は迷わず湖の方角を指差してくれたし、この街から帰ることも容易なはずだ。
だけど、あいつの性格的に俺を置いて一人で帰るとはあまり思えない。それにどれだけ急いで湖に戻るとしても数時間はかかる。もしも帰ってもユクシーがいなかったら、また街に戻って来なくちゃいけなくなる。
かと言って、このまま暗くなる街に残って一人で探し続けたところで見つけられる可能性は非常に低い。そうなるとユクシーを見つけるために必要なことは……うーん、すぐには思い浮かばないな。どうしたものか。
「――……ん?」
ふと、視界の端でなにかがぴかっと光ったような気がして、南の空を見上げてみた。しかしなんのへんてつもない靴屋が目の前にあるせいでよく向こう側が見えない。
人間だった頃なら迂回するなりなんなりする必要があったが、今は力にあふれたポケモンの体。少し力を入れてジャンプするだけで容易く靴屋の天井に着地することに成功し、改めて南の空をじっと観察してみた。
さっきの光るもの……なんとなく、電気技のような気がしたけど。
ユクシーは電気タイプじゃないし、レベルアップで電気技を覚えるわけでもないが、なんか気になる。
そのまま十数秒ほど、じっと天井で南の方を見据えていた。それでもなにも起こる気配がなかったため、「見間違いか?」と首を傾げようとしたところで、それは見えた。
炎だ。距離は……ニ〇〇メートルくらいか? そこから上空に向けての、あれは『かえんほうしゃ』か。
「今度はほのお技……他に手がかりもないし、あれが手がかりかもわからないけど……とりあえず行ってみるしかないか」
いちいち下りるのもめんどうなので、このまま天井の上をジャンプで渡っていく。ポケモンの膂力が高いこともあるが、クチートの体は小さくて身軽だ。人間が一直線の距離を走るよりも早く、ひょいひょいと進むことができる。
その途中で、今度は『はっぱカッター』、それから『みずのはどう』のような攻撃が見えたりもして、ますます謎は深まる。ポケモンが複数匹いて、それぞれが空に向けて技を放っていると考えるのが妥当だけれど、どうにもなにか引っかかる。
あと建物を二つほど飛び越えればつくというところで、またしても技が使われたようだった。
そしてその技は――――。
「あぁ……そういうことか」
どがぁんっ、と耳どころか空気さえ震わせる爆弾が破裂したような音。そして巻き上がった砂埃。
今までの違和感の正体にほぼ確信の答えを得つつも、その音と砂埃の発生源に到着したので、すたりとその近くに着地した。どうやらここは公園の一角、ポケモンバトルを行う広いスペースのようだ。
目の前には表面が軽く抉れた大地、そして天高くのぼっていく灰色の煙が存在している。特に火薬みたいなにおいがするわけでもないので、この爆発はポケモンの技によるものだと思われた。だとすればそれはきっと『じばく』か『だいばくはつ』。
「これまでのも今のも『ゆびをふる』か。また無茶なことを……」
『ゆびをふる』。それはポケモン史上最高のロマン技だ。
ロマン。その三文字はあらゆるゲームにおける
実際のバトルで使える実戦的なものもあれば、理論上可能だが条件がバカみたいに厳しいものもあるし、あるいはそもそも常人では実行しようとすらしないことも存在する。物理ゲンガーとかこだわりハチマキきあいパンチとか。
そしてそんなロマンの塊たる『ゆびをふる』の効果は『この世に存在するほぼすべての技の中からランダムに一つ選び取り、発動する』。その気になれば……その気というか、運がよければ伝説のポケモンの専用技だってお手のものな凄まじい性能の技だ。ただ当然のごとく大抵はまったく役に立たない技とかその時点で必要のない技しか出ないため、実戦ではなんの役にも立たない完全なるネタ技とされている。
そして最高に運が悪いと今回みたいに『じばく』か『だいばくはつ』なんかで自滅する。というか日常茶飯事だ。『ゆびをふる』使いは技を使う時、必ず瀕死になる技が出ないよう祈り、恐怖しながらボタンを押しているとか。でも心の底では本当は自爆技が出ることを望んでいるとかなんとか。
「あー、中にいる誰か、大丈夫かー」
これが他人に危害を加えられたとかなら多少心配はするが、完全に自業自得なので、口から出たのは呆れ混じりの声音の言葉だった。
返事はなかったが、そろそろ土埃が晴れかけて、その中に人影が見えかけてきた頃、そこからそれとは別の一つの小さな影がこちらに飛び込んできたのがわかった。
反射的に横に躱すと、べたーんっ、とその影が近くの地面へ無様に衝突した。顔から。
その影の正体がこの世界でずいぶんと見慣れてきた姿だったことにほっと息を吐きつつも、あいかわらずのアホさ加減に肩をすくめてしまう。
俺が避けたせいで土の中に顔を埋めることになった当人は、がばぁっ、と勢いよく頭を上げると、『なんで避けるのぉー! ずっとずっと探してたのにー!』と言わんばかりに恨めしげなしぐさを取ってきた。
「悪かった悪かった。でもいきなり飛びかかってきたら普通避けるって。っていうかお前浮けるのになんで落ちてるんだよ」
土でいろんなところが汚れているユクシーに近づいて、ほい、と大顎の先端を向けた。ユクシーは『むぅー、べ、別にさっきのこと許したわけじゃないんだからね』って感じにぷくーっと頬を膨らませつつも、いつも通り大顎をよじ登って定位置に収まってきた。
そうしてユクシーと戯れている間に、土煙もなくなっている。改めて振り返ってみれば、その爆心地の中心に一人の少女とポケモンがいることが見て取れた。
ユクシーに『ゆびをふる』は使えない。おそらく、あの一人と一匹がユクシーが困っているのを見て、俺を探すことを手伝ってくれていたのだろう。
ああして空に技を打ち込んでいたのは、俺が街のどこにいてもそれが見えるようにするため。何度も繰り返すことで、それがバトルなどの類ではなく、別の意図があるのだとと知らせるため。
だとすれば『ゆびをふる』で自爆技が出てしまったことは俺たちにも少し責任があるかもしれない。なにせこれはユクシーを助けるために行ってくれただろうことなのだから。
これまで街を歩いて人間を観察してきて、俺の言葉があちらに通じないことは理解していたが、それでも謝罪とお礼を言うために少女の方へ足を進めた。
「いてて……あはは、まさか『じばく』が出ちゃうなんてびっくりだねぇ。でもすごいよププリン! もっと頑張って『ゆびをふる』を使いこなせるようになれば、きっと『だいばくはつ』も『いやしのねがい』だって思うがままだよ!」
「
体や服のあちこちが煤けつつも、両手で抱えたププリンに輝かせた目を向ける少女。そして微妙な表情ながら妙にテンションの高いププリン。
ププリンの言葉はやはり聞こえていないのだろう。ププリンのつっこみに、少女は「だよね! ププリンもそう思うよね! わーい、いしんでんしんーっ!」とププリンを抱きしめていた。まったくこれっぽっちも全然伝心してないが。
「あー……なぁ、二人とも大丈夫か?」
ぶっちゃけ『あ、この二人絶対変な性格してる。できるだけお近寄りになりたくないタイプだ』なんて思ったりもしたが、やっぱりお礼とかはきちんと言わないと失礼だと判断して、勇気を出して声をかけてみる。
少女とププリンはそこで俺の存在に気がついたらしく、一緒に顔を向けてきた。
「あ、メロンパンちゃん、探してた人見つかったんだね!」
メロンパンちゃんってなんだよ。いやわかるけどさ。
少女はすぐに俺のそばに寄ってくると、目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「探してたのってトレーナーさんじゃなくて、おんなじポケモンの子だったんだ。この子も可愛い! 特にこの後ろにあるおっきい口みたいなとこ!」
「ここ可愛いか?」
「体の方も袴みたいでいいなー、かあいーなぁー」
ものすごい朗らかな笑顔で俺の頭を撫でてくる。避けたかったが、ユクシーを手伝ってくれた恩もあるのでおとなしくしておいた。
「あ、そうだ! あなたにもご挨拶しないといけないね。えっと、私はイリアって言うの。いーちゃんって呼んでいいからね?」
「じゃあイリアって呼ぶ」
「それからこっちは私の家族のププリンだよ。ほら、ププリンも挨拶してー」
「ププリンなのです! よろしくなのです! ププちゃんって呼んでもいいのですよ!」
「じゃあププリンで」
よろしくねー、とイリアが手を差し出してきたので、俺も同じようにする。自分の手が赤子のそれのようにすっぽりと包まれるのは妙な気分ではあったが、それは俺がまだクチートの体に完全には慣れていないということなのだろう。
同じようにププリンとも握手をした。こちらもこちらで、人と握手をするのとはまた別の感触だ。
「俺は……クチート。うん、クチート、だ」
ただ単に言葉だけでなく、鳴き声でも同じような発音になるように意識して、声を発した。人間である少女にもわかるようにするためだ。
「うえーろ?」
「クチート」
「けろーと?」
「く、ち、い、と」
「ケチート! わかったケチートだね!」
「けちじゃない」
「わかってるよケチート!」
お前はいったいなにをわかってるというんだ。
「あ、そういえばケチートとメロンパンちゃんってトレーナーの人とかはいないの? もうこんな時間帯だけど……」
「俺の名前はケチートで決定なのか? いいけどさ……問題ないよ。俺ら野生のポケモンだし」
「トレーナーの人とはぐれちゃったの? それとも、もしかして捨てられちゃったとか!?」
「違うが」
「それならなおさらほっとけないよ! 二人とも私のうちにおいで! その傷ついた心を私がせいいっぱい癒せるようがんばるからっ!」
「……言葉が通じないって、不便だよな……」
『そうだねー』とどことなく真面目そうに頷くユクシー。同意するならお前は鳴き声の一つでも上げてくれ。
どうやら、もうイリアの中では俺たちをお持ち帰りすることは決定事項になってしまっているようだった。一人で「今日はみんなで一緒に寝ようねー」といろいろと妄想までしている。
これどうしようか……と悩んでいると、ププリンが少女の腕から飛び出てきて、俺の前にとてとて歩いてきた。
「まぁまぁケチートさん! ずっととは言いませんけど、今日くらい泊まっていったらどうですか? 無理にとは言いませんが、主の言う通りもうこんな時間なのですし!」
「……そうだな。確かに今から帰るとなると夜の森の中を進むことになりそうだし……俺もなんだかんだ疲れてるしな。あと俺はクチートだ」
「決まりですね! 主も喜びます! 私も嬉しいのです!」
「悪いな。ユクシーが迷惑かけてただろうに、また頼る形になって」
「いえいえ、これくらいお安いご用なのですよ! 困ってるなら助け合うのは当たり前なのです! 主もきっとそう思ってるのです!」
「なら助かるよ。ユクシー、お前もそれでいいか?」
ユクシーが『いいよー』と再び首を縦に振ったのを確認すると、ププリンは少女の方に戻って行った。
「ププリン、三人でなに話してたのかな」
「ちゃんと話し合って、主の早とちりを早とちりじゃなくしてました!」
「そっか、仲良くなれたみたいでよかったね!」
「主、絶対勘違いしてますよね今の!」
……やっぱり断っておいた方がよかったかな。なんか今日、騒がしくて眠れる気がしない……。
でも、木に寄りかかって寝るよりは、久しぶりに布団とかなにかに包まって寝てみたい。元は人間だっただけに余計にそう思う。
それにいい加減木の実にも飽き飽きとしてきていたし、なにより、このイリアという少女は悪人じゃない。きっとユクシーの正体を知ったとしても、守ろうとしてくれる側の人間だ。安心してユクシーも一緒に休める場所というのは貴重だろう。
「それじゃあ暗くなってきたし、もう行こっか。 ほら、ケチートにメロンパンちゃん、私の家はこっちだよー」
「こっちなのですー! ケチート、メロンパンー!」
「……はぁ」
あれだ。この二人っていい人ではあるんだろうけど、間違いなく人の話を聞かないタイプだ。トレーナーとポケモンは似てくるとかアニメかなにかで聞いた気がしたが、まさかここまでとは……。
ぽんぽん、とユクシーがそんな俺の頭を撫でてくれる。『メロンパンは美味しいよ?』。なんのフォローだよ。
「俺はシュークリームの方が好きだ」
なぜかがーんっと擬音がつきそうな感じでショックを受けているユクシーを連れて、俺は妙に騒がしい二人を追って歩き出した。
イリアは俺たちの歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれて、俺は今度こそユクシーがどこにも行かないように定期的に頭上を確認しながら街の中を進んでいく。
すでに空にはいくつもの星が見え、街中もずいぶんと暗くなっていた。
一〇分ほど歩き続けただろうか。そうしてやがてたどりついたのは、さしもの俺も目を見開いて驚愕せざるを得ない、ポケモンというゲームにとってひどく特別な場所だった。
「あれ? ケチート、どうしたの?」
――ポケモンジム。ゲームでもアニメでも必ず通わなければならない、ポケモンの強さを競い合うための施設。
「……いや」
イリアがジムリーダーなのか? それとも家族の誰かが?
なんでもいいか。ここがポケモンジムで、俺はそこに入れる。重要なことはそれだけだ。
――森と違ってここでなら、間違いなく俺が全力を出せるような相手がいる。
戦ってもらえるかどうかはわからない。それでも、どうしてもわずかに口の端がつり上がってしまう。
イリアとププリン、果てはユクシーにも不思議そうな目を向けられつつも、俺はゆっくりと立ち止まってしまっていた足を前に踏み出した。
書き終わってしばらくしてから普通のププリンは『ゆびをふる』を覚えないことに気づきましたが、書き直すのもめんどうなので、とりあえずこのププリンは『ゆびをふる』を使える特別な個体ということでお願いします。
作中でものちに言及させておきます。